2話。
【ディーン】お~い ぐずぐずしてっと置いていっちまうぞォ
…はぁ…
疑問は数あれど、少なくともディーンだけは俺を必要とする。もしディーンが居なかったら俺はこの世界で一人のたれ死んでいたであろう。
…前にディーンと話した。
【吉田】君たちの人間離れした戦いを見て思い知った…自分は無能だと。どうして俺のような人間がこの世界に来てしまったのか日に日に分からなくなる一方だ。
【ディーン】吉田が闇の空間から俺達の前に落ちてきた時はビックリしたよ…
【吉田】あの時の記憶はほとんど覚えていないんだ でもこれだけは言える…ディーン達と出会いこの世界に来た事で「何か新しい事が始まる」という高揚感を…
【ディーン】俺達がああして出会ったからには何か理由がある筈だ。その答えが出るまで俺はとことんお前に付き合うぜ…!!俺達は仲間だろう?
【バージネル】私はこんな下等生物を仲間とは認めません…
【ディーン】バージネル…
愚図で馬鹿で何の力も持たない弱者は嫌いです。死ねば良いと思います。
【ディーン】お前は相変わらず口が悪いな…
『死ねば良いと思います』
~吉田回想~
バイトォッ!おいバイトォッ!
何でさっき出した商品にまで半額のシール貼ってやがんだ!シールは昼に出した売れ残りに貼れって言っただろ!何て使えねェバイトなんだ!もう帰れ!タイムカード押して帰れよ!っていうか死ねよ!今すぐバイト辞めてすぐに死ねよ!死ねェ!死ねば良いんだよオメーは!!
【吉田】………………死ねはナイんじゃないの?やぶからぼうに生きてる人に向かって…
【バージネル】下僕の癖に口答えですか。そんな生意気な馬鹿にはお仕置きです…
【吉田】…ッ
【ディーン】やめろよバージネル。不器用だなお前は。口は悪いけど本心じゃないんだろう?お前がホントは良いやつだって俺が一番知ってるんだから…ケンカするなよ なっ…
【バージネル】…ハイ…
【吉田】いや…おしとやかになっても俺は納得しませんよ…あ…謝って下さいよ…
【ヒース】剣王さま~♪ヒースが作ったクッキーだよ~♪
【ディーン】おお…この焼き具合…流石ヒースだ。
【ヒース】エヘヘー♪バージネルも食べて食べてー
………………………………おい…
俺の意見なんてどこ吹く風…ただただ己に突き刺さるもの…究極の疎外感……
この疎外感は元居た世界とまるで変わらない。
スーパーで散々射抜かれたレジの女子達のあの眼…
アベシリアやフィオリーナ達も同様…あの眼は俺という男の位の低さを決定的にする…
どっちの世界もミジメである。自分という人間のちっぽけさに嫌気が差す。
~朝~
【吉田】隣がうるさい…チッ…ディーンの女達との目覚めは毎度の事だろう…
おぞましい事に仲間達である5人の女全員とディーンは肉体関係があるのだ。
仲間とか絆とかほざいてる割には、身体の関係はすっかりふしだらになっている。
ディーンは良いやつだ。女達から愛されるのも理解できる。…が…世間から勇者と讃えられる程の器なのか疑問だ。…連中に疑問あれどそれでも受け入れようとする自分が居る。
基本宿屋は素泊まりであり宿屋の厨房を借りて俺が連中の食事を用意する。バイトで培った経験をここで発揮する。俺が出来ることはこのくらいしかない。
一緒に旅を続ける以上この位のことは当然の…
女共「不味い」
【ヒース】…ヒースのクッキーのあまりならあるよ?
【アベシリア】そうね…まだコレの方がマシよ。
………先っぽから芯まで腸が煮えくり帰る女共だ。
人の心を突き刺す言葉を平気でうち放ちやがる。
箸もロクに持てないコイツらに食べ物のありがたみはほとんど無い。連中の感覚は俺が住んでいた世界とは違う。どこまで天然でどこまで馬鹿でどこまで本音なのか………燃え上がる…この世界に来てから蓄積してきた何かが俺の中で激しく燃え上がる。
まるで地獄の魔王から燃え上がる炎のような…
【アベシリア】ところでフィオリーナとバイオレット。今朝はどちらでおやすみだったのかしら?
…先に言うか。
【吉田】朝からディーンの部屋から響きわたる卑猥なあえぎ声にすっかり目が覚めたよ。
【アベシリア】やっぱりあンのやろお~~…
【吉田】いやいや「あンのやろお~~」じゃないでしょアベシリアさん…ディーンとアナタが恋人ならともかく…嫉妬するならば愛しのディーンと正式に付き合えばいいものを。
{バンッ}
【フィオリーナ】何てこと言うの!?アベシリアに謝りなさい!!
謝る?なんで俺が…
【バイオレット】フィオリーナさんの意見に賛成です…今の発言はアベシリアさんの気持ちを踏みにじりました。
【吉田】どの口が言ってんだアンタ…気持ちを踏みにじってるのはアンタら二人だろう。
【フィオリーナ】貴様…
フィオリーナの正拳突きの構え…
【吉田】隣室にまで聞こえる卑猥な声の説明…アベシリアさんに出来るのかよ…
バイオレットから焦げた臭いがするのは火の術を俺に放つ兆候…
【吉田】アンタらは何がやりたい…世界を守りたいのか…それとも…ディーンと寝たいだけなのか!
………止まらない…………
アベシリアのブレイブスラッシュを放つ空気…
生きていくものを慈しむ心もなくただ惨殺し相手の気持ちを察することも出来ない…
バージネルのまごうことなき殺意…
【吉田】殺れるもんなら殺ってみろ!
…何が「仲間」や「絆」だ!!
お前らは世界を守る器じゃねェ!!
死ぬ…
ほれ見ろ…戦士と讃えられた者達が血に飢えているとは…ちゃんちゃらおかしいぜ…
【ディーン】吉田!!
良かった…気がついたか…
お前達!何故こんなヒドイ事を………!?
吉田が半殺しにされるような事を何かしたのか!?
吉田は皆の為に食事を作ったりしてくれているのに…こんな仕打ちは許されないぞ!
俺達が互いに傷つけ合ってどうするんだ!
「仲間」だろう…!? 俺達の仲間としての絆を忘れたのか!?その絆を忘れたらこの美しい世界を守ることは出来ないんだ!
………
六人の戦士はまだ気づかない…
吉田の中の劣等感…怒りは…地獄の底から燃え上がる炎と化し…やがて…
魔王という大きな驚異となる事を。
続く…