The Endless Journey
-第二十四話 上位、下位、そして緊急-
部屋に入ってジョバンニは、宿屋の窓から下の通りを見下ろしてみる。
既に夜は更け、通りを走る馬車はそれほど多くない。
木枯らしが唸り、月光を遮って時折雲が天を走る。
風に吹かれた木々は、黄色く色づいた葉を舞い落とし始めている。
実り多い収穫期が過ぎ、寒い寒冷期に季節が移り変わろうとしているのだ。
少々寒くなってきたので、ジョバンニは窓を閉め、改めて自分が今夜泊まる部屋を眺めてみる。
自分のお小遣いを捻出出来るぐらいの比較的安価な宿泊費であったが、室内はそれなりに充実した設備を備えていた。
さすがに部屋はそれほど広くないが、家具や寝具など、生活に必要な最低限の物は一通り揃っている。
ペンを持って机に向かい、ジョバンニは今日の出費を計算しだす。
今回めぐり合った太刀、鉄刀は、初心者が最初に扱うのに相応しい安定した性能を持つという。
結構値段が張ると思っていたが、そのような心配はいらなかったようだ。
今までこつこつと貯金してきた成果なのかもしれないと思いながら、彼は寝巻きに着替え、ベッドに潜り込んだ。
翌日、朝日が昇り始めると共に、ジョバンニの部屋のドアがノックされる。
眠い目を擦りながらドアを開けると、そこには屈強な体格の用心棒が立っていた。
普段は令嬢の傍に控えていて、昨日自分にカジキマグロのムニエルをご馳走してくれた人だ。
「お坊ちゃま、具合はいかがですか?お嬢様はこの街の集会所でお待ちです。
身支度が終わったら、お送り致しますよ。」
相手の好意に感謝しながら、ジョバンニは頷く。
「本当に?わざわざありがとう。
こんなに朝早く起きるなんて、大変だったでしょ?」
照れくさそうに微笑みながら、用心棒は頭に手をやる。
「滅相もございません。お礼はお嬢様にどうぞ。
私はただお迎えに上がっただけで、お嬢様が提案なさったものですから。」
20分後、ジョバンニは手っ取り早く身支度を整え、1晩世話になった宿を後にした。
村の物よりも遥かに立派な集会所の前に着き、ジョバンニは用心棒にお礼を言い、ドアを開けて中に入って行く。
入り口近くの一角に、1軒の喫茶店が暖簾を出しているのが見えた。
太刀を背負った初心者は、ある席に令嬢が座って紅茶を飲んでいるのを見つけ、手を振りながら近づいていく。
「お早うジャネット、今日も元気そうだね。
あ、そうそう。用心棒のおじさんが迎えに来てくれたんだ。わざわざありがとう。」
満更でもなさそうな笑みを浮かべながら、令嬢は紅茶の入ったカップを皿に置く。
「礼には及ばん。でも、何かに感謝するということは大切だからな。
さて、ここからが本題だ。今日はここから狩りに出発することになる。
あの日からまだそれほど経ってないが、お前はどのような依頼が受けたいのだ?」
群れのリーダー格のボスの狩猟は一通りこなしたジョバンニであったが、1種だけ受けていないボスの依頼があった。
それは、砂竜のボス、ドスガレオスである。
砂の中を自由自在に泳ぎ、砂中から砂を吐いて獲物に当てて攻撃し、最終的には弱った相手を砂に引きずりこんで捕食するという、手ごわい相手だ。
飛竜では弱い方なのだが、狩猟の困難さも手伝い、初心者にとっては1つの壁とも言えるモンスターである。
希望を相手に伝えると、案の定ジャネットは難色を示した。
「お前はまだ大怪鳥さえも狩れていないであろう?
それなのにいきなり砂竜に挑むとは、少し無茶ではないか?
ここは密林で、無難にキノコ狩りから始めた方が…。」
予めその答えを予測しておいたのであろう、ジョバンニは最後まで聞かずにポーチから何かを取り出し、相手に見せる。
「彼って、これが苦手なんだよね。大きい音が。」
ジョバンニの手には、幾つかの音爆弾が握られていた。
投げると高周波の音を出す手投げ玉で、音に敏感な相手に使うと、一定時間相手の動きを封じることが出来るのだ。
「あ、そうそう。昼の砂漠は暑いからね。よかったら、これあげるよ。」
クーラードリンクを差し出し、ジョバンニはにっこりと微笑む。
相手の準備の良さとマイペースに押され、遂に令嬢が折れた。
「良かろう。そうと決まれば、早速出発するか。
全く、お前は頭が良いのか悪いのか、良く分からぬ。」
続く