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PARTY・PLAN〜小部隊計画〜第58話「ある女の日記」
XXXX年 〇月△日
・・・初めて完膚なきまでに負けた。このアタシが、あんなガキに?慢心していなかったと言えば嘘になるが、実力差は歴然だったはず。だが、アタシが持ってない、あるいは忘れてしまっている物をあのガキは持っているという事なのだろう。
さて、これからどうしようか?もうあんな組織に未練など無い。また放浪の旅にでも出るか・・・。
XXXX年 〇月◇日
組織が解散したらしい。予想通りあのガキだそうだ。さながら、突然現れた赤き英雄といったところか。
でも、それはもうどうでもいい。今、アタシはある目的のためにジョウトにいる。しかし、今回も目的は達成できそうにない。しょうがない事だ、アタシはそれだけの事をしでかしたのだ。思い出すのは、かつて周囲の人々が自分に惜しみない愛情を注いでくれていた、もう戻れない日々。
XXXX年 △月×日
『世の中、金が全て』、これ以上この黒い街を形容する言葉は他にないだろう。それ故、アタシの様な人間でも堂々と行動できる。ここでは賭けバトルを申し込んで断る奴はいない。おかげで楽して大金が稼げるという寸法だ。
だが、先日変な奴に会った。シンオウ地方から来たというその女は、アタシに気軽に接してきた。嫌ではないが、アタシには分かる。お前は光、アタシは影。近くにいるが合わさる事は無い。
XXXX年 △月〇日
初めて弟子をとる事になった。いや、なってしまった。この寒い季節にろくに休みもせずにアタシを追ってきた一人のガキ。なんの力もない小さな存在だ。ほっておいても良かったが、万一死なれて警察沙汰になったら、それはそれで面倒だ。
とりあえず春までは世話をする事にしよう。・・・分かっている、情など移してはいけない。アタシにはそれすら持つ資格は無いのだから。
XXXX年 ◇月〇日
ここの所、アタシはおかしくなっている。孤独に生きよう、そう思っていた筈なのに、気がつけばアタシの周りには弟子達、かつての敵、旅の途中で出会った者達・・・多くの人々に囲まれている。違う、アタシにふさわしい生き方はこれじゃ無い。アタシが幸せなど・・・。
気分を変える為に古い物を整理していると、組織に入っていた頃のノートが出てきた。・・・そうか、それでいいのだ。ノートを読み、アタシの迷いは希望に変わった。幸い金も充分にある。早速始める事にしよう。
XXXX年 ▲月×日
いよいよ明日だ。明日からアタシの計画が始まる。この為に自分が生かされていると思えた時、なんと心強かった事だろう。それなら全ての事に合点がいく。
ただ、心残りなのはアタシの事を信じている連中の事だ。連中はきっと・・・、いや、良心など捨ててしまえ。心を悪に染め、万人が口を揃えて『悪人』というものになりきれ。それがアタシにとっての希望となる。
XXXX年 ▲月◇日
弟子達を攻撃した。計画の為、仕方ない事とは言え、心が、僅かに残る良心が咎める。いや、そんな物はまやかしだ。アタシ一人の心の痛みが、アタシが苦しめてきた者達の痛みと比べて、どれほどの価値があろうというのか。それにどうせこれから、もっと多くの者達を苦しませるのだ。気にしていてはキリが無い。自分を責め、懺悔するのは死んでからでいい。
XXXX年 ▲月〇日
カントー、ホウエン、シンオウ、イッシュの総攻撃が成功した。機械人形のからくりがバレた以外は、想像以上の成果だ。オウリュウも機械人形の指示をよく聞いてくれた。正直暴走しやしないか不安だったゼティスも戦いの事となると素直になってくれた。
だが、アタシの行為に問いを投げかける者達の顔、アタシに恐怖する者達の顔が頭から離れない。
・・・でも、もう全てが遅い。アタシにも世界にも道は無い。どちらかが生き、どちらかが死ぬ、生死を分けた戦いをする他ないのだ。
XXXX年 ▲月◆日
子機の反応が、ホムンクルスのレーダーにキャッチされた。間もなく弟子達、遅れてアタシを倒そうと各地方から集まった猛者達が踏み込んでくるだろう。これがアタシにとって最後の戦いになるだろう。
ここまで共に戦ってくれたポケモン達に謝罪と感謝の意を伝えたい。アタシのわがままに付き合ってくれて、本当にありがとう。
この戦いが終わった時、アタシの使命が達成される事を柄にも無く神に祈る。そして、信じている—濃い影がある時には、必ずそれを打ち負かせる光が、希望が現れる事を。
最後に、この残酷で暖かい世界に幸あらん事を・・・
そこまで書いて、女はペンを置いた。
—続く—
ポケモソ、MH好きのどこにでもいるゲーム好きです
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PARTY・PLAN〜小部隊計画〜第59話「終焉へ」
「ふぅ・・・これで粗方片付いたか?」
「そうですね、もう襲ってくる気配は無い。」
一方、イヅチ達が基地内で戦っている間、変化の洞窟でシェイラのポケモン達と交戦していたワタル、ミクリ、クロツグ、アデクの4人はポケモン達とポーンを全て倒してしまっていた。
「遅いかもしれないが、中に踏み込もう!」
クロツグの言葉に他の3人が頷いた瞬間—
—ゴゴゴゴ・・・
突然洞窟全体が揺れ始めた。
「いかん!早く洞窟から出よう!」
洞窟が崩壊し始めた為、ワタル達は洞窟から急いで脱出した。そして、洞窟の外に出た事で、揺れの正体に気付いた。
「基地が・・・、飛んでいる・・・!」
そう、洞窟が揺れ始めたのは、変化の洞窟に食い込むように乗っていた基地が浮き上がろうとしていたからだった。
「中には、まだジュン達がいっ・・・?」
基地を追おうとモンスターボールに手を掛けたクロツグの真上から、突然、チェレン達が降ってきた。
「いたたた・・・」
「ふえ〜・・・」
「おお!お前達、無事であったか!」
チェレンとベルの姿を見て、アデクが駆け寄ってくる。
「ここは・・・、洞窟の外ですね?僕達は、梯子の先の倉庫にいたんですけど、さっきケーシィが現れて、テレポートで飛ばされたんです。」
「シィ・・・」
チェレンの説明通り、彼らの傍に一匹のケーシィがいる。
「なるほど。それで彼らは?」
「イヅチの兄弟子達だそうです。シェイラに負けたようで、倒れていました。」
「そうか・・・、トウコ達はどうしたのだ?」
アデクの問いかけにチェレンは首を振った。
「僕達は彼らを看るために倉庫に残る事になって、トウコ達はシェイラの元へ向かいました。」
アデクとチェレンが会話していると、苦しそうな声が聞こえてきた。
「・・・それより、どいてくれないか・・・?」
「「「あ。」」」
完全に下敷きにされたクロツグを忘れていた3人は口を揃えて言った。
「ててて・・・、なんだかなーっ!」
「すいませんでした・・・。」
「気にすんな、不可抗力だ。それより、早くジュン達と合流せんとな。」
謝るチェレンに気にするなと笑いながら、クロツグがカイリューを繰り出した時—
「わぁ・・・」
「どうしたんだい、ベル?」
「チェレン、見て〜。フワンテだよ、かわい〜!」
確かにベルの言うとおり、フワンテがベルの傍にいる。と、突然フワンテが膨らみ始めた。
「ベルッ!」
とっさにチェレンはベルを引っ張ってフワンテから離れた、すると直後にフワンテが爆発を起こしたのだ。
「「!」」
「大丈夫か、2人とも!」
駆け寄るアデク、そしてミクリが呟いた。
「どうやら、私達には基地に来てもらいたくないみたいですね。」
そう言ったミクリの視線の先には、フワンテとフワライドの大群がいた。そう、ワタル達はフワンテとフワライドに包囲されていたのだ。
「うかつに包囲網を抜けようとすると、爆発するって寸法か、念の入った事だな!」
ワタルが空を飛ぶ基地を見ながら、悔しそうに言った。
「・・・やっと倒せたッす。皆のおかげッす!」
化石ポケモン達を無事に制したイヅチは、振り向いてお礼を言った。
そこには、他の部屋から来たハルカ達とコウキ達がいた。
「どういたしまして!でも、化石ポケモンがこんなにいるなんて、思ってなかったよ。」
イヅチの礼に対して、コウキは照れながら言った。
「おっしゃー!この調子でガンガン行くぜ!俺に続け〜!」
ジュンが調子よく言い、その様子に苦笑しながら、イヅチ達は先を急いだ。
「やっとお出ましか。ずいぶんと苦戦してたじゃねぇか。」
コントロールルームでシェイラはそう言った。彼女の目線の先には、バンギラスとミカルゲを倒したダイゴと、リトル・ゼティスを全滅させたシロナがいた。
「・・・さぁ、教えてくれるかしら?あなたがこんな事をしている理由を。」
「少なくとも、これ以上の破壊行動はさせないよ。」
シロナとダイゴの言葉に対し、シェイラは鼻で笑って答えた。
「自分の力がどこまで通用するか試す事がそんなに悪い事か?アタシがやってる事もそれと同じさ。おめーらがアタシより強いなら考えてやってもいいけどな!」
そう言うと、シェイラはライボルトのライガーと、オウリュウを繰り出した。
「・・・バトルに勝てば、本当の理由を教えてくれるのね?あの金庫の事も。」
「それはどうかな。アタシはきまぐれだからな。」
シロナの追及を軽くかわして、シェイラは不敵に笑う。
「それより、場所を変えようぜ。今、この基地は飛んでいる。迂闊にここで暴れりゃ墜落して全員死ぬぜ。」
「・・・いいわ。そうしましょう。」
「ああ。」
シェイラの言葉にシロナとダイゴは頷いた。
—続く—
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PARTY・PLAN〜小部隊計画〜第60話「狂戦士」
「シャギャアア・・・」
最後まで強力な攻撃を繰り返していたサザンドラが、スイクンとカメックスの吹雪を受けて氷漬けとなって戦闘不能になった。2体のボーマンダもソウルとグリーンが倒したようだ。
「助かりました、ありがとうございます!」
「・・・ヒビキ達だけでも大丈夫だったんじゃない?」
礼を言われたレッドは、カメックスを戻しながらそう言った。
「だったら、でしゃばるな!」
「何言ってんだ、こいつらを倒すのが目的じゃねぇだろ。」
ソウルの言葉にグリーンが苦笑しながら言った。その時—
「レッドさん!?」
ヒビキの声に振り向くと、レッドが植えられている木の根元に座り込んでいた。
「レッド!お前、さっきの怪我が・・・」
グリーンが駆け寄ると、レッドは目をつぶって言った。
「ちょっとだけ休んでく。先に行ってて。」
「そんな・・・、どこから敵が出てくるか分からないんですよ?ねぇ、グリーンさん!」
「・・・ちゃんと来るんだろうな?」
「・・・うん。」
「・・・分かった。行くぞ、お前ら。」
レッドと言葉を交わして頷いたグリーンは、先に進もうとする。
「グリーンさん!?どうしてですか?」
ヒビキはグリーンの後を追いながら尋ねると、グリーンは答えた。
「俺達の付き合いの長さをなめるな。あいつはな、俺がどんなに先を行ってもすぐに追い付いてくる。いつもだ。先を行ったと思ったら、追いつかれて抜かれる。あいつはそういう奴だ。だから、必ず追いついてくる。」
「・・・・・・」
グリーンの言葉にヒビキは考え、頷いた。
「レッドさん、ちゃんと来てくださいね!」
「先に行きます!」
ヒビキ達はレッドに一言かけると、グリーンと次の部屋へと向かった。
「「リューッ!!」」
2体のカイリューが吹雪と竜の波動を同時に巨大ガブリアスに命中させる。冷気と竜のエネルギーが部屋中を駆け巡る。
「グカカカカッ!」
しかし、巨大ガブリアス—ゼティスは何事もなかったように、その内の一体に喰らい付き、地面に叩きつけた。いつしか、最初は11体いたカイリューもリーダー格の個体も含めて2体となっていた。残ったカイリューが竜の波動を連射して攻撃するが、ゼティスはびくともしない。疲れ果てたカイリューは、ゼティスが放った岩雪崩をかわしきれず倒れた。
Nはうずくまって震えていた。あのガブリアスが言っていた言葉が恐ろしくて、信じられなくて、目の前で次々と倒れていくカイリュー達を見るのも嫌で・・・。
「リューッ!!」
仲間達の仇と言わんばかりに、リーダー格のカイリューが凄まじい瓦割りの連打を浴びせるが、ゼティスに殴り飛ばされる。それでも、すぐに起き上がり、攻撃を続けるリーダー格のカイリュー。しかし、いい加減に煩わしくなったのか、ゼティスは噛み砕こうと迫る。しかし、その時—
「レシラム、竜の波動!」
「クォーッ!」
レシラムが放った竜の波動がゼティスに直撃し、ゼティスは吹き飛ばされた。
「・・・N?」
さっきまでうずくまって震えていたNが突然攻撃したので、トウコは驚いて声をかける。すると、Nは震える声で言った。
「自分と異なる存在を否定するだけじゃいけない・・・、君に教わった事だ!カイリュー、ボクも戦うよ!」
トウコはNの言葉を聞くと、彼の手を握って言った。
「じゃあ、私も一緒に戦ってあげる!ね、ゼクロム!」
「ヴォーッ!」
「トウコが戦うなら、俺も!敵はとりあえずガブリアスだよな?」
そこへトウヤもダイケンキと共に駆け寄る。
「子供達が戦うのに私が休んでいる訳にはいかないな。な、ルカリオ。」
「ワゥッ!」
様子を見ていたゲンとルカリオも彼らに加わる。最後にハンサムが溜め息をつきながら言った。
「それを言われちゃ戦わない訳にはいかないな。」
その場の全員がNの傍に集まると、ゼティスを睨みつけた。
「グカカカカカ・・・」
しかし、それでもゼティスは臆することなく笑い声をあげた。
「奴の攻撃力は異常だ。一発もくらわないようにしよう!」
「「「「はい!」」」」
ハンサムの言葉に全員が応えを返し、戦いを続ける。全員でゼティスを包囲し、つける隙を全てついて攻撃しているのだ。
「グガァッ!」
あちこちから攻撃され、苛立ち正確さを失った攻撃ならかわす事も難しくは無い。それが証拠にハンサムのグレッグルが隙をついて懐に飛び込めたのだ。
「今だ、瓦割り!足を狙え!」
「グレッグ!」
強烈な打撃を巨体を支える脚に受けたゼティスは体勢を崩した。
「今だ、一斉攻撃!!」
ハンサムの声と同時にトウコ達は一斉に大技をゼティスにくらわせる。凄まじいエネルギーが炸裂し、部屋中を爆煙が駆け巡る。
「・・・やったの?」
トウコの言葉を裏切るように、健在だったゼティスは突然岩雪崩を放ってきた。大技の直後の隙を突かれ、すぐに動けない。
「「トウコ!」」
Nとトウヤが、トウコを庇うように前に立つ。そこへ無情にも岩雪崩が襲いかかる。
「「「・・・?」」」
おかしい、岩雪崩が当たった音はしたが痛みは感じない。ゆっくり目を開けたトウコは驚き、叫んだ。
「カイリュー!?」
なんとリーダー格のカイリューが間に割って入り、トウコ達を庇ったのだ。岩雪崩の直撃を受け、リーダー格のカイリューは崩れ落ちた。
「しっかりして!」
「どうして、ボク達を・・・」
カイリューに駆け寄るトウコとN、カイリューは薄く目を開けると、Nに何かを話した。すると、Nは静かに頷くと立ち上がって、トウコに話しかけた。
「敵味方関係なく、あいつに好き勝手やらせてはいけない—カイリューはそう言ってる。」
「カイリューが・・・」
話した後、気絶したカイリューを見ながら、トウコは呟いた。その時—
「グォガガガガガガッ!!!」
怒りに燃えるゼティスが床を踏み鳴らしながら、エネルギーを帯びる。そして、そのエネルギーが口元に収束されていく。
「トウコ・・・?」
カイリューの元で固まっているトウコにトウヤが声をかけるが、反応は無い。そこにゼティスが驚異の技—逆鱗砲を撃ち出した。
「クッ!レシラム、竜の波動!」
「クォーッ!」
逆鱗砲と逆鱗砲が激突する。しかし、威力に差がありすぎる為か、徐々に押し返されている。トウヤやハンサム達が援護攻撃をするが、威力が足りない。すると・・・、
「許さない・・・許さないよ!ゼクロム、雷撃!」
立ち上がったトウコがゼクロムに指示を出し、強烈な雷撃を放った。レシラムの放った竜の波動と、トウヤ達の援護攻撃、そしてゼクロムの雷撃が合わさり、逆鱗砲を押し返し始めた。
「「「「「行けェェェェェ!!!」」」」」
5人の声が重なり、勢いを増した技が逆鱗砲に打ち勝ち、暴発した逆鱗砲ごとゼティスに命中した。
—続く—
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PARTY・PLAN〜小部隊計画〜第61話「最終決戦」
トウコ達の攻撃と逆鱗砲の暴発、その全てのエネルギーはゼティスに叩きつけられた。
「グゴァァァァァァ・・・!」
爆発の轟音に、ゼティスの悲鳴すらも掻き消されていく。
「・・・やった・・・のか?」
爆煙が収まり始めた頃にトウヤが呟いた。あれほどの爆発を受けて無事なはずはない。見ると、壁に大穴があいている。しかし—
「グガ・・・ガ・・・ゴッ・・・」
「ウソでしょ・・・?」
それでもゼティスは立っていた。さすがに深いダメージを負い、よろめいているが、耐えしのいだのだ。さらにゆっくりとトウコ達に歩み寄ってくる。
その時—トウコとNの頬を風が撫ぜた。
「リューッ!」
「グガァッ!?」
起き上がったリーダー格のカイリューが、ゼティスに組み付いたのだ。ゼティスは振りほどこうとするが、ダメージのせいか、うまくいかない。そして、最後の力を振り絞り、羽ばたくと大穴から外へ落ちるように飛びだした。そして、滞空もままならずゼティスもろとも落ちていった。
「「「「「!!!!」」」」」
あまりの出来事に言葉を失うトウコ達。しばらく経って、トウコが呟いた。
「やっぱり許せないよ、こんな戦い!早く止めさせないと!」
「トウコ・・・」
トウコの言葉に、全員静かに頷いた。
「えーっと・・・」
「あれ〜?」
「なんだってんだよ、どーなってんだよ!」
「つーか、どこのアトラクションだ?」
その場に居合わせた者達は思い思いの言葉を口にした。なぜなら、グリーン率いるジョウト・カントー組、イヅチと行動していたホウエン・シンオウ組、ようやくゼティスを倒したトウコ達がそれぞれの部屋の扉を開けた所、ばったりと出くわしたのだ。最初に謎の光で別々の部屋に飛ばされたとはいえ、基地の構造がどうなっているのか嫌でも気になる。
「・・・グリーン、そこ邪魔。」
「レッド!もういいのか?」
「うん、平気。」
そこに体を休めていたレッドが合流した。募る話もあるが、今はそれどころではない。
一行がいるのは、長い廊下だ。所々に扉があり、別の部屋に通じているようだ。そして、廊下の奥に一際立派な扉がある。
「普通に考えるなら、あの扉だよな。」
グリーンが奥の扉を指さして言うと、全員が頷く。そして、扉に向かおうとした瞬間—
—ズドオオオン・・・
突然、凄まじい振動と共に扉が内側から吹き飛び、イヅチ達を掠めて飛んでいった。
「「「「「!!」」」」」
「まさか、戦い?」
「急ごうぜ!」
とりあえず中で尋常でない事が起こっているのは確かだ。イヅチ達は奥の扉があった部屋へと向かった。
「シロナさん!」
「ダイゴさん!」
部屋に入ったコウキ達とハルカ達は叫んで駆け寄った。部屋の入口のすぐ傍で、シロナとダイゴが膝をついていたのだ。
「ごめんなさい・・・。2人がかりでも手持ちポケモンを倒しきれなかったわ・・・。あとはオウリュウだけなのに・・・。」
「それに対し、僕達はどちらも残りは一体だけ・・・。まさかこれほどとはね・・・。」
2人は息は切らせているが、とりあえずは無事なようだ。そして、部屋の奥には・・・
「師匠!」
そう、そこにはシェイラがオウリュウと共にいた。直接会うのは、ロイヤルカップの会場を攻撃された時以来だ。
「師匠!どうして、こんな事をするんッすか?やめてください!」
イヅチの言葉を聞いて、師匠は鼻で笑いながら言った。
「理由なんざ一つよ。くだらねぇ世界をぶっ壊して、自分の望む世界にするだけだ。邪魔される筋合いはねぇな。」
「師匠・・・」
シェイラの言葉に絶句するイヅチ、するとシロナが立ちあがって言った。
「それが本当なら、出来たはずよね?各地方の襲撃だって、最終的には中途半端に終わっているわ!何を考えているの?」
「本当でなかったとしても、それを敵に教えるもんかな?良い子の良い子のシロナちゃん♪皆の事を守れるかな?オウリュウ、ドラゴンクロー—天斬り。」
「いけない!皆、さがって!」
「来るぞ!」
シェイラの指示を聞いたシロナとダイゴがイヅチ達の前に立ち、ガブリアスとメタグロスを出す。そこへゆっくりと部屋で飛んでいたオウリュウが、高速で螺旋飛行しながらイヅチ達目掛け、ドラゴンクローの斬撃を飛ばした。
「ガブリアス、ドラゴンダイブ!」
「メタグロス、コメットパンチ!」
シロナとダイゴは、直接攻撃で斬撃を受け止めるが、勢いに押され弾き飛ばされてしまった。しかし、なんとか軌道を逸らすことには成功し、標的を見失った斬撃は、いとも容易く天井部分を吹き飛ばした。
「やっぱり軌道を逸らせるので精一杯ね・・・。よく頑張ったわ、ガブリアス。」
「ここまでか・・・、すまない。後は頼む・・・。」
弾き飛ばされて際に、ダメージが蓄積していたガブリアスとメタグロスは戦闘不能になってしまっていた。
「シェイラ・・・、本気なんだね。だったら何で、まだウソをついてるの?」
レッドがシェイラに問いかけるが、シェイラはせせら笑った。
「力を示してないくせに、全てを知ることができると思うなよ?お前らは、アタシの指示を受けてないポケモン達に苦戦したんだぜ。」
シェイラはそう言うと、オウリュウをけしかけた。イヅチ達に向かって襲いかかるオウリュウに対し、レッドは素早く対処した。
「ピカチュウ、10万ボルト!」
「ピカーッ!」
しかし、飛来する10万ボルトをオウリュウは、難なくかわして、ドラゴンクローの斬撃を飛ばしてくる。今度は、全員がポケモンを繰り出し、技で迎撃する事に成功した。数では圧倒的に不利なはずなのに、シェイラは笑顔を見せている。
「数だけじゃ、アタシには勝てねーよ。ま、全員でかかってきた方がいいとは思うけどな!」
そう言うと、今度は高速回転しながらの燕返しを床擦れ擦れに行い、床に落ちている天井の破片を竜巻の様に巻き込み、イヅチ達目掛けて飛ばしてきた。必死に迎撃するが、全弾落としきれず、数発が掠める。それでも、イヅチはブライの言葉を思い出しながら立ち向かっていく。
「カイリュー、しんそくッす!」
「受け止めな。」
目にも止まらぬ速度での攻撃が見透かされたかのように軽々と受け止められ、弾き飛ばされる。
(やっぱり楽には行かないッす・・・)
そう思ったイヅチの目の前で、オウリュウが少しよろめいたように感じられた。さすがに全くの無傷とはいかなかったのだろう。しかし、単調な攻撃では倒せない。その時、イヅチは、ある作戦を思いついた。
—続く—
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PARTY・PLAN〜小部隊計画〜第62話「ララバイ」
「カメックス、ハイドロカノン!」
「ウィンディ、大文字!」
大量の水と炎がぶつかりあい、水蒸気が部屋に広がった。イヅチの思いついた作戦を皆に説明する為に、レッドとグリーンが即興で煙幕を張ってくれたのだ。手短に作戦を説明するが、正直自信は無かった。それでも、皆は真剣に聞いてくれた。そして、頷いて了承してくれた。とにかく、オウリュウを倒す、シェイラに詳しい事を聞くにはそれしかない。
そして、水蒸気が晴れた瞬間、作戦は実行に移された。
「ドダイトス、リーフストーム!」
「ゴウカザル、火炎放射!」
「ポッチャマ、ハイドロポンプ!」
コウキ達が一斉に攻撃を仕掛ける。これをオウリュウは受け止めもせずに軽々とかわしていく。
「ルカリオ、波動弾!」
「グレッグル、ヘドロ爆弾!」
的確に行動を先読みしたゲンとハンサムの攻撃をオウリュウは斬撃を飛ばして撃破する。
「マリル、転がる!」
そこへ超高速回転(自称)のコトネのマリルの転がるが襲いかかるが、あっさりかわされる。しかし、そこにヒビキとソウルが同時に近接攻撃を仕掛ける。これを受け止め、弾き返したオウリュウに間髪入れずにハルカとユウキが畳みかける。
「・・・ちったぁやるな。オウリュウ、流星群—街滅。」
一番恐れていた攻撃が来た。本当に街一つを滅ぼしてしまうのではないかと思われるほどの弾数と威力を誇る黒き流星群が降り注ぐ。
「ゼクロム、クロスサンダー!」
「レシラム、クロスフレイム!」
しかし、黒き巨竜と白き巨竜が互いに呼応して威力を増した技が、それらを掻き消し、オウリュウに命中する。
「グォォォォッ!」
しかし、それでもオウリュウは倒れない。逆に大技を出した後のゼクロムとレシラムを狙うが、トウヤのダイケンキが牽制の吹雪を放つ。
「いい加減に鬱陶しいな・・・。オウリュウ、雑魚に構わず、レッドを狙え!」
シェイラの指示に従い、レッドに襲いかかるオウリュウだが、その体が空中で静止する。
「これは、サイコキネシス?軌道を読みやがったか!」
オウリュウを止めたのは、ミツルのサーナイトのサイコキネシスだ。強引に拘束から逃れようとするオウリュウに、今度はイヅチが仕掛けた。
「カイリュー、しんそく!」
高速でつっこんだカイリューは、オウリュウを通り過ぎた。
「!?」
思わぬ行動にシェイラの動きが止まる。それこそがこの作戦の目的だ。
「今ッす、げきりん—逆鱗ロケット!」
イヅチの指示に従い、カイリューはその場で急停止し、反転して回転しながら、げきりんのエネルギーを纏って突撃する。
「オウリュウ、全力でかわせ!」
さすがに危険と判断したオウリュウがサイコキネシスを振りほどくが、一瞬遅かった。強烈な一撃をまともに喰らい、そのまま壁に激突し、落下した。必死に起き上がろうとするが、これまでの戦いのダメージもあってか、そのまま倒れた。
「・・・勝ったのか?なぁ、俺達、勝ったのか?」
「・・・多分・・・。」
目の前の出来事が信じられない様子のジュンがコウキに聞くが、コウキも半信半疑といった様子で頷いている。
「勝った・・・んだね。」
「N・・・。」
その場に静かに勝利の喜びが広がっていき始めた瞬間—
「ハッ!油断したな、オウリュウ!流星群!」
シェイラが笑い声をあげ、オウリュウが起き上がり、流星群を床に叩きつけた。たちまち爆煙が部屋中に広がる。
「レシラム、神通力!」
レシラムの神通力により、煙を吹き払った時には、既にシェイラとオウリュウの姿は無かった。
「逃げた!?」
「この期に及んで・・・」
部屋を見渡すと、壁に隠し通路があったようで、入口が開きっぱなしになっている。思った以上に慌てていたようだ。
「逃げられたらどうなるか、分からない!追いかけよう!」
ハンサムの言葉に頷き、手持ちポケモンを休ませているシロナとダイゴをその場に残し、イヅチ達は隠し通路に入った。
「なぁ、オウリュウ信じられっか?イヅチの奴、あんなによく出来た作戦をたてやがった。やっぱ、大物になりそうだぜ。」
隠し通路の奥の部屋で、グラスを床に置いてシェイラは言った。
『・・・満足か?』
「ああ、この世界にアタシがいなくても大丈夫だ。弟子共も立派に成長したし、心配だった事もこれで解決するはずだ。・・・悪かったな、アタシのわがままに付き合わせて。」
『お前のわがままに付き合える奴は、他にいないからな。』
オウリュウの言葉に、シェイラは笑いながら言った。
「ちげぇねぇ!・・・もう、時間がねぇな。・・・オウリュウ」
『・・・なんだ?』
「あの世で会おーぜ。」
『・・・ああ、必ず行く。』
オウリュウの返事を聞き、シェイラは目を閉じた。
「これって・・・、どういう事ッすか?」
イヅチは震える声で呟いた。隠し通路からシェイラを追い、辿り着いた奥の部屋で、シェイラは壁に寄り掛かって—死んでいた。眠っているのかと思うほど安らかな顔をしているが、息は無い。傍には、何かしらの薬品が入っていたらしいグラスが置いてある。そして、シェイラの傍でオウリュウが丸まる様にして倒れている。
「師匠・・・、どうしてっ!師匠!!」
必死にシェイラの肩を掴んで揺さぶるイヅチだが、返事は無い。代わりにシェイラの手に握られていた鍵が落ちて、チャリン・・・と音を立てた。
「・・・ひどいよ。ウソついたまま、死んじゃうなんて・・・。」
レッドが哀しそうに言った。
「どうして?どうしてこんな答えを出したんですか・・・?」
Nも明らかに動揺した様子で呟き、トウコが慰めるように手を握る。
「師匠・・・師匠!」
シェイラにすがって泣きわめくイヅチを気遣わしげな顔で見る討伐隊のメンバー達。しかし、その時—突然館内放送が入った。
『自爆装置起動、自爆装置起動。この基地はあと90秒後に爆発いたします。繰り返します—』
「自爆システム!?」
「時間がない、急いで脱出するぞ!」
「そうだな!・・・イヅチ何してんだ!」
グリーンがイヅチの手を引くが、イヅチは首を横に振る。
「嫌ッす!師匠と一緒にいるッす!」
その時、オウリュウが起き上がり、イヅチの足元を攻撃した。
「・・・オウリュウ・・・」
その目は、『ここは、お前の居場所じゃない。出ていけ!』と雄弁に書かれている。打ちのめされるイヅチをグリーンが無理やり連れて部屋から飛び出していく。それを見届けると、オウリュウは再び丸まって寝そべった。
—続く—
ポケモソ、MH好きのどこにでもいるゲーム好きです
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PARTY・PLAN〜小部隊計画〜第63話「小部隊計画」
討伐隊のメンバーはシロナとダイゴと合流し、トウコ達に誘導され、ゼティスとの戦いで空いた大穴から間一髪で脱出した。
直後、基地のあちらこちらから火の手が上がり、小爆発を繰り返しながら、空を飛んでいた基地が落ちていく。かつては自分の家の様に暮らしていた基地の末路と、師匠の事を思うとイヅチは涙が止まらなかった。
そして、基地は海に没すると、深くまで沈み、爆発した。巻き上がる煙と水飛沫—それが全ての終わりを克明に知らせていた。
その後、ワタルや意識を取り戻したブライ達と合流したイヅチ達は、日常へと戻っていった。
最終決戦から5日後、戦いに参加したトレーナー達が国際警察の本部に集められた。負傷したレッドやブライ達も集まる中、イヅチはショックから立ち直れず、うつむいたまま席についていた。
「皆、待たせてすまなかった。」
間もなくハンサムが会議室に入ってきて、話し始めた。
「今回の招集を提案したのは、シロナさんだ。・・・詳しくは、シロナさんにお願いしたい。」
ハンサムが話し終わると、シロナが立ちあがり、静かに話し始めた。
「理由は、シェイラがシンオウ地方を襲撃した際に落としていった、いえ、おそらくは置いていったこの簡易式金庫なの。イヅチ君、イヅチ君。」
「あ、はいッす!」
突然呼ばれて驚いているイヅチに微笑みかけると、シロナは話を続けた。
「この中には、おそらくシェイラの行動の秘密が隠されているはず。彼女は全てを終わらせた後で、これを見て欲しかったのね。鍵らしい物は見つからなかったわ。でも、イヅチ君。ハンサムさんに聞いたのだけど、シェイラの手に鍵が握られていたらしいわね?」
「はい、これッす・・・。」
イヅチはシロナに言われて持ってきた鍵を取りだした。ここの所、師匠の形見として黙って持ってきて、これを握って涙を流していたのだが、それではいけないと思い、こうして持ってきたのだ。
「おい、もしかして・・・」
ブライが珍しく動揺した様子で呟くと、シロナは頷いた。
「ええ、おそらく、いえ、きっと開くはずよ。」
「!」
言葉の意味が分かったイヅチは静かに簡易式金庫の前まで歩いていくと、鍵穴に形見の鍵を差し込んだ。シロナの予想通り、鍵は鍵穴にぴったりとはまった。息をのむ一同の前でゆっくりと鍵を回す。
—カチリ・・・
鍵は回り、ロックが解除された音がした。皆の顔を見ると、全員が黙って頷いた。イヅチは唾を飲んで、ゆっくりと金庫を開ける。—中には一冊のノートと日記帳が入っていた。
それらを手に取ると、皆に読むように促され、イヅチは震える指で日記帳を開き、読み始めた。読み進めていくと、涙が止まらなくなり、シロナに代わってもらった。見ると、その場の全員が涙目になっている。続いて、ノートの方もシロナが読んでくれた。
『・・・この世界に特別なトレーナーなど、いない。アタシは敢えて明言したい。いわゆる世で特別なトレーナーとか、英雄などと呼ばれるトレーナーには、一部例外を除いて、ある法則が認められる。まず、まっすぐな心を持っている事。悪を許さず、理不尽を許さぬ心だ。2つ目は、環境。愛情に溢れた家庭、切磋琢磨し合える好敵手、理解し協力してくれる大人達・・・。これらの要素が当てはまっていれば、誰にでも英雄になるチャンスはある。3つ目は、センスだ。状況を見て、適切な判断を下せる能力の事だ。多少先天的な物はあるにしろ、後から学ぶ事でもカバーする事は可能である。これらが少しでも高い水準にあれば、英雄になりうるポテンシャルを持っていると断言できると、アタシは考えている。』
そこまで読んで続きを読もうとしたシロナは目を見開くと、涙を滲ませた。そして、涙を拭うと続きを読み始めた。
『・・・しかし、条件が整っていても英雄にはなれない。英雄とは、世の中に認められて初めて生まれるものだからだ。そして、その為にはきっかけが必要だ。様々な事件の現場に居合わせ、関与する事で凡人は英雄へと変わっていく。逆に言い方は悪いが、事件に出くわし関与しなければ英雄は生まれない。誰の目にも明らかな悲劇や悪行無くしては英雄は生まれる事は無い、アタシはそう思っている。しかし、今の段階でこれは机上の空論だ。ただし、これが実証できれば、世界にとって非常にプラスとなりうる説なのではないだろうか。そして、アタシはこの説を小部隊論と呼び、英雄育成プログラムをこう呼称する—PARTY・PLAN〜小部隊計画〜と。』
読み終わると、シロナは涙を流した。燭陰が涙を流しながら呟いた。
「酷いですよ、師匠・・・。私達を持論の実証に使うなんて、こんな・・・哀しい思いをさせるなんて・・・。」
「俺達は結局、師匠の手の上で踊らされていた訳か・・・。」
ブライも悔しさと悲しさを滲ませて言った。
「やっぱり・・・、ウソついてたんだね・・・。シェイラ・・・」
レッドも帽子で目元を隠して呟いた。ジュンが立ちあがって叫んだ
「なんだってんだよ!おかしいだろ?こんなの・・・!」
「どうして・・・、どうしてこんな答えしか見つけられなかったんですか?シェイラ・・・。」
Nが震える声で静かに言い、トウコがそっと手を握る。その場が言いようのない悲しみに包まれる中、シロナは涙を拭って皆に喋りかけた。
「皆、哀しいのは私も同じよ。でも、本当にシェイラが望んでいたのは、哀しいだけの世界じゃ無かったはずよ。私達がシェイラの思いを無駄にしてはいけないわ!」
シロナの言葉に、皆が静かに頷き、イヅチも涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら頷いた。
—続く—
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PARTYPLAN〜小部隊計画〜epilogue
「お邪魔しまーす。レッドの母さん、レッドいる?」
「あら、グリーン君。レッドなら2階で休んでるわよ。」
「ありがとうございます。んじゃ、挨拶してきます。」
グリーンはレッドの母親にお土産を渡すと、2階へ上がっていった。怪我をしたレッドを連れて帰った時は驚いていたが、やはり久しぶりに帰ってきたのは嬉しかったのだろう。おかげでレッドは完全に治るまで外出禁止令が出されてしまったが。グリーンは無遠慮にレッドの部屋のドアを開けた。
「よぉ、見舞いに来てやったぜ。」
「・・・忙しいんじゃないの?」
「うっせ、お前がナーバスになってないか、見に来てやったんだよ!」
「・・・一番ナーバスになってたの、グリーンのくせに。」
「それを言うんじゃねぇ!」
幼馴染同士の軽口を叩きあった後、グリーンは切りだした。
「今よ、トキワシティにトレーナーハウスってのがあるってしらねーだろ?」
「・・・うん。」
「そこでよ、腕の立つトレーナーを募集してんだと。」
「?」
「そこなら、大勢のトレーナーが来る。退屈はしないんじゃねーの?お前の親にも心配掛けちゃいけねぇし、家も近いだろ?」
ようやくグリーンの言葉の意味が分かったレッドは不敵に笑いながら言った。
「・・・きっと後悔しちゃうよ?」
「やぁ、皆、フロンティアブレーンには慣れたかい?」
ジョウト地方のバトルフロンティアにやってきたエニシダは、燭陰達に尋ねた。
「ええ、まだ違和感はありますが。」
「まぁ、ゆっくり馴染んでいけばいいさ。」
戦いが終わった後、燭陰達は話し合って、エニシダにコンタクトを取り、フロンティアブレーンになりたいと申し出た。最初は悩んでいたエニシダだったが、シェイラの日記やノートの事を話すと、了承してくれた。そして、シンオウ地方と兼任する者ばかりだったジョウト地方のバトルフロンティアでフロンティアブレーンとして活動する事になったのだ。
(師匠、見ていますか?私達は、ちゃんと前へ向かっていますよ。)
燭陰は、静かに今は亡き師匠を思った。
一方、シンオウ地方に戻ったシロナは、シェイラの残した小部隊計画をナナカマド博士らの協力を得て、後世に残すべく活動を始めた。最初は反対意見も多かったが、徐々に活動は実を結びつつある。
「・・・N~、何してんの?置いてっちゃうよ!」
「ああ、今行くよ。」
物思いにふけっていたNは、トウコの呼び声に振り向き、歩き出した。
「私ね、Nと一緒に色んな物を見たいの!もう見た物も、見てない物も。せっかく友達に慣れたんだもん。そうしないと損よ!」
「・・・そうだね。」
トウコの言葉にNは笑顔で答えた。2人の英雄によるイッシュ地方の旅は始まったばかりだ。
シェイラが死んでから2週間が経った。フスベシティに帰ったイヅチは両親に事情を話し、修行の為、カントージム巡りの旅を再開する事を許された。そして、今、イヅチはタマムシシティにいる。
正直完全には立ち直れていない。時折悲しい夢を見る事もある。それでも、ポケモン達が、共に戦った仲間達に励まされ、こうして旅を続けている。
(師匠、俺、絶対に忘れないッす。師匠の願いと小部隊計画の事・・・)
その時、イヅチの横を一陣の風が通り過ぎた。風の吹きぬけた方向を見ると、摩天楼の一角を舞う赤い翼の竜が見えた気がした。
「まさか・・・、いや、きっと気のせいッすね!さぁ、ジム戦ッす!」
イヅチはある思いをよぎらせるが、首を振り、タマムシジムに向かって歩き出した。
—こうして、世界は今日も廻る。
—ひとまず完—
あとがき
え〜、尻切れトンボ的に終わった感が半端ないですが、ひとまず本編はこれで終わりとなります。思えば、イヅチが弟子入り懇願してた時からここまで書けるとは、飽きっぽい事に定評のある私にしては上出来ではないでしょうか(殴) 本音を言うと、Nを幸せにしてあげたくて始めた企画ですが・・・、結果オーライって事で(汗) 途中、「あんたは何がしたいんだ!」とか、「ありえねぇだろwマヂ厨坊」とか言わずに読んでくださり、コメントまで下さった皆様のおかげで、最終回を迎えられました事を深く感謝いたします!
さて、今後ですが、実はPARTY・PLANは終わってません(゚∇゚ ;)エッ!?
実はシェイラのポケモン達は生き延びており、野良ポケモンとなっています。原作のトレーナー達と彼らの間に起こるエピソードを番外編として投稿したいと思います。ではでは。
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PARTY・PLAN〜番外編〜ep1「追憶」
・・・俺があいつと出会ったのは、人間共が鉱山と呼んでいたある山岳地帯だった。そこらの人間共は、山の恵みである鉱石を採掘し、加工して生活していたらしい。あいつの一族も例外でなく、特に父親はそれなりの地位に就いていたらしい。
忙しい大人達にかまってもらえず、退屈したあいつは一人で森に入り、俺に出会った。この見た目に恐れを抱く奴は珍しくない。だが、あいつはそんなこともなく、笑顔で近づいてきた。最初こそ煩わしいと思っていたが、いつの間にか妙な連れのように思いはじめていたんだ。そんなある日、山が消えた。
山腹崩壊—その時起こった出来事はそう言うらしい。きっかけは地震だったが、山が崩れるほどの被害が出たのは言うまでもなく、人間共の過剰な採掘活動だ。事前に危険性を感じ、異を唱えた者もいたらしいが、欲に目がくらんだ人間共は止まらなかった。
結果—山は崩れ、森も麓にあった人間共の集落も壊滅した。あいつは奇跡的に無傷だったらしいが、両親を喪った。そして、親戚の制止も聞かず、遊び相手だった俺を探しに森へと向かった。
その時、俺は土砂崩れに巻き込まれ、深手を負っていた。深い痛みの中、人間共への憎しみが募っていった。力尽くで瓦礫を押しのけたところで俺は意識を失った。
—誰かの、人間の呼び声が聞こえ、俺の意識は引き戻された。自分達の為なら自然を俺達の事を何とも思わない人間共・・・。俺は朦朧とする意識の中、呼び声と共に近づいてきた小さな影を怒りと憎しみのままに引き裂いた。
我に返った時には、全てが手遅れな状態だった。共に過ごし、ある種の絆さえ感じていた少女は、俺の爪に引き裂かれ、血の海に沈んでいた。
どうして、どうしてこんな事に?動揺する俺を他所に、愛しい少女はどんどん冷たくなっていく。助けようとしても引き裂き、破壊する事しか出来ぬ俺にはどうする事も出来なかった。助けを呼ぼうと飛ぼうにも、翼に力が入らない。そればかりか、体に力が入らず、俺も地面に倒れ伏した。
—誰か、誰か彼女を助けてくれ!俺の命ならくれてやる。だから、頼む!俺に詫びる機会を、愛しい彼女に再び笑顔を!
その時、俺の視界に神々しく輝く翼が見え、直後、俺は再び意識を失った。
気がついた時、俺の傍らには辛うじて息をするあいつの姿と虹色に輝く羽根があった。とにかく、傷が治せる奴がいる場所—集落に行かなくては、そうすれば彼女は助かる。そう思って後先考えずに集落へ飛んだ俺の目に映ったのは、余震による被害で今度こそ壊滅した集落の無残な様だった。
その後、何とか医者を見つけ治療を施してもらったあいつには、俺がつけた痛々しい傷跡が残った。俺は、その場の怒りで、天涯孤独になってしまったあいつに一生消えない傷をつけてしまったのだ。独りぼっちになったあいつは、俺と共に旅をする事を提案した。俺は、何かしらの方法であいつに詫び、あいつの願いを叶えてやりたいと考えていたから、断る理由がなかった。
その後、自分達の過去を忘れたいかのように、俺達は仲間を増やし、力をつけていった。そして、己の力を証明し、生きていくためにある組織に入った。親戚も死に絶え、頼るものなどないあいつには、選択の余地はなかった。それから俺達は、自身の存在を認めさせるかのように組織の為に力を揮った。無論、それが善行だとは思ってはいなかったが、そうするしかないと自身に言い聞かせ、戦い続けていた。そんなある日—
あるガキに完全敗北を期した。力の差は歴然で、俺達は手加減などしていなかった。だが、あのガキ—レッドは不利な状況から俺達を打ち破り、ついには組織自体を壊滅させた。
レッドに負けた後、俺達は組織を見限り、放浪の旅に出た。そんな時、欲望にまみれた黒い街で、白を感じさせる女に出会った。金でも巻き上げようと勝負を挑んだ俺達だったが、その女とポケモン達に苦戦を強いられ、決着が着くことはなかった。その後、その女はあいつの事が気に入ったらしく、連絡先を交換し合っていた。ただし、あいつ自身は、その女—シロナがどこか苦手だと最後まで言っていた。
丸々一週間俺達を追いかけ続けた物好きのガキをあいつは最初の弟子にした。『野垂れ死にでもされたら、たまらないから』とあいつは言い張っていたが、どこか満更でもない風だったのを覚えている。その後も、弟子は増えていったが、ある時を境にあいつはある目的の為に全てをなげうつ事を決意した。その決意に俺も乗ることにした。待っている結末が破滅だと知っても、動じる事もなかった。
世界中も、よく知る者達も、愛する弟子達も、全てを敵に回してあいつは、シェイラは戦った。計画の、目的の為なら、手段を問わず。結果、計画は成功し、シェイラは—死んだ。
だが、一つだけ誤算があった。俺も一緒に死のうとしたのに、死ねなかったのだ。何故だ、何故俺だけが生き延びる?何度も後を追おうと考えたが、結局、本当にあいつが望んだ世界になるまで見届ける事にした。あいつに見せる顔はないが、俺なりにあいつの為を思って決めた事だ。あいつが命をかけた目的を必ず達成させる—それが俺が生き延びている意味なのだろう。
そして、今、俺は自由の身だ。さて、まずは何処に行こうか?
—Ep1完—
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PARTY・PLAN〜番外編〜ep2「森を彷徨う双刃」
「ここはトキワの森。普段は鬱蒼とした木々の隙間から、鳥ポケモンや虫ポケモンの声や姿を確認する事が出来るが、今は不気味に静まり返り、時折哀しげな声が森に響き渡っている。その声に導かれ、森の奥に進むと、巨大な斧と甲冑が泣き喚きながら襲いかかってくる・・・んだって。」
「だって、じゃねぇよ!何だ、その演出!」
懐中電灯で自分の顔を下から照らしながらレッドが間を取りながら囁くと、たじろぎながらグリーンがわめいた。
グリーンとレッドは、トキワシティの市長から要請を受けて、謎のポケモンが出没しているトキワの森の調査に来ていた。
「・・・もしかして、怖いの?」
「ハァ?怖くねーし!トキワジムのジムリーダーの俺にとっちゃここは、庭みたいなもんだぜ?」
グリーンが厚着をしている訳でもないのに汗を垂らしながら反論すると、レッドはグリーンの後ろを指しながら言った。突然の事に、グリーンは反射的に声を上げた。
「・・・あ!」
「はぅあっ!?」
「「・・・・・・」」
沈黙が流れ、レッドの肩に乗っていたピカチュウが笑いを堪えているのが聞こえた。グリーンは顔を赤くしながらレッドに聞いた。
「なんだよ!」
「・・・スピアー。」
レッドの指さす先を見ると、確かに数匹のスピアーがいる。ただし、全て戦闘不能になり、倒れているのだが。
「こりゃ、ついさっきやられたばっかりだな。」
スピアーには斬撃を受けたような真新しい傷跡が着いている—そうまるで斧に切り裂かれた様な傷跡が。
「・・・ここから分かれ道だね。別々に行く?グリーンが怖いなら一緒に行ってあげようか?」
「馬鹿言え、ガキじゃあるめーし。大体、俺様一人で充分だっつの!」
レッドの言葉に素早く返したグリーンは、分かれ道の一方に入っていった。
「・・・ホントは怖いくせに・・・。」
レッドは呟くと、もう一方の道へと進んでいった。
(・・・正直、めっちゃ怖えぇ・・・)
分かれ道に入って数分後、グリーンは内心そう思っていた。つい意地を張ってしまったが、幼い頃からこの手の話は苦手なのだ。おまけにレッドが全く動じないものだから、自分も平気な振りをしてしまうのだ。最初の冒険でも、シオンタウンのポケモンタワーに出る幽霊に驚き、逃げ出す最中にレッドと鉢合わせし、平気な振りして勝負を挑み、あっけなくボロ負けした・・・という忌まわしい記憶がある。
(ったく、レッドの薄情者・・・)
自分で別行動を選んだくせにグリーンは心の中でレッドに文句を言っていた。その時—
—ガサッ・・・
「!」
突然茂みが動いた。風は吹いておらず、動きからしてキャタピーやビードルの類ではない。いや、それよりもずっと大きい。
(何だよ、どうせスピアーか何かなんだろ?早く出てこいよ!)
内心完全にビクつきながらわめくグリーンを他所に、音の主はグリーンの隙を伺うかのように森の茂みの中を素早く移動している。そして—
「○△□◎〜!!!」
グリーンの声にならない叫びがトキワの森に響き渡った。
「・・・という訳で、俺様に不意打ちを食らわせようとしたポケモン—キリキザンを華麗なテクニックで返り討ちにし、ゲットする事に成功したって訳だ。」
後日、オーキド研究所でグリーンは鼻高々に話していた。
「ふーん、そうなんだ。」
「キリキザンとは珍しいのぉ。」
レッドとオーキドが相槌を打つ。だが、レッドの横にはレッドが行った道の先で出くわしたポケモン—オノノクスのトマホークが与えられたポケモンフーズを頬張っていた。
どうやら、シェイラが死んだ後、何かしらの方法でトキワの森へやってきたキリキザンとトマホークが噂の正体のようだ。時折聞こえていた哀しげな声はトマホークの哀悼の声で、巨大な斧はトマホーク自身、甲冑はキリキザン自身—という所だろう。
結果的にレッドとグリーンは新たなポケモンを入手した事になるが、グリーンはどこか面白くない。それもそのはず、突然襲いかかってきたキリキザンに思わず悲鳴をあげてしまったグリーンに対し、レッドは全く動じずにトマホークを仲間に引き入れたからだ。おまけに、帰り道で合流したレッドとピカチュウが必死に笑いを堪えていたのだ。
(やっぱり、気にくわねー!)
そう思うグリーンとは裏腹に、本日もマサラタウンは平和で穏やかである。
—ep2完—
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PARTY・PLAN〜番外編〜ep3「幻影の虹」
深い森の中を彼は歩いていた。目印になるような物もないのに迷いなく。何故なら、彼には行くべき道が分かっているから。
そして、森を抜けた先に天へと伸びる塔が見え、その頂上に虹色に輝く巨大な鳥を見た。その時—
「マツバ、マツバー!!私だ!」
「・・・・・・」
騒々しく自分を呼ぶ友の声に、マツバは集中力を乱され、千里眼を使うのを中断し、自分の部屋から出た。
「おお、マツバ!聞いてくれ、スイクンだ!」
「いきなり何だい?というか、スイクンはヒビキくんがつれているはずだろう?」
部屋の前で待っていた友—ミナキが興奮した様子で話すが、マツバは意味が分からず首を傾げた。何処かの舞踏会から飛び出してきた様な燕尾服を思わせる服を纏ったこの男—ミナキは伝説のポケモンであるスイクンを追い求めるスイクンハンター・・・だった。しかし、肝心のスイクンは、マツバも良く知る少年トレーナーのヒビキを選んだ。意外なほどあっさりとその事実を受け入れていた筈のミナキが何故、またスイクンで騒いでいるのだろう。
「そうじゃないんだ。聞いて驚くな?私は、スイクンの子供の情報を入手したのだ!」
「スイクンの子供?」
明らかに眉唾ものの情報だが、スイクンに関するミナキの情報網は確かだ。どうやら、焼けた塔の周辺で小柄なスイクンらしきポケモンが目撃されたらしい。ミナキほどはスイクンに思い入れがある訳でもないのだが、ミナキは完全に自分と調査に行く気になっているようだ。丁重に断ろうとした時—
「大変です、マツバ様!焼けた塔が・・・!」
エンジュジムのトレーナーが息を切らせて走ってきた。どうやら焼けた塔で何かが起こったようだ。エンジュジムリーダーである以上、自分も行かねばならぬだろう。マツバは溜め息をつくと、ミナキと焼けた塔へと向かった。
「これは・・・!」
エンジュシティの北西にある焼けた塔の前まで来たマツバは息を呑んだ。そこには本来、火事で焼けおちたまま立て直されることなく残されている塔があるはずだった。しかし、今、マツバとミナキの目の前には、鬱蒼とした森が広がり、その奥にスズの塔の様な立派な塔が見える。—そう、まるで先程まで千里眼で見ていたような光景だった。
(あそこはスズの塔だと思っていたが、まさか・・・)
「スイクンjrよ、待っていてくれ!」
物思いにふけるマツバを余所に、ミナキは猛ダッシュで森の中に駆け込んでいった。まったく、ミナキという男は昔からそうだ。スイクンの事となると、容易く暴走する。それを止めたりサポートする側はたまったものではない。マツバは急いでミナキを追った。森の中に入り、しばらく歩くと
意外なほどあっさりと塔の前に辿り着いた。
「ここか・・・、見れば見るほどスズの塔と瓜二つだな・・・。」
「いたぞ、スイクンjrだ!」
(だから、スイクンjrって何?)
ミナキの声に反応し、指さす方を見ると、塔の三階の屋根部分に確かに小振りなスイクンが立っていた。
「中から廻ろう!行くぞ、マツバ!」
「・・・ああ、分かったよ。」
鍵の掛かっていない扉を開け、塔の中へと入る。内部にはひんやりとした少し埃っぽい空気が満ちていた。野生ポケモンの気配も感じなかったので、そのまま進み、三階まで辿り着いた。
「スイクンjrはどこだ?どこにいる?」
周囲を見回し、屋根も覗いてみたが、それらしい姿は全く見えない。スイクンを探し回るミナキを横目に、マツバは上へ続く梯子を見つめた。
この塔で起こった火事で命を落としたポケモン達—後のエンテイ、ライコウ、スイクンを伝説の鳥ポケモン、ホウオウが蘇らせたという伝説もエンジュには残っている。他にも、ホウオウにまつわる伝説は多く、マツバはそれを聞きながら育った。そして、ホウオウに出会うべく修行を積み続けていた。しかし、ホウオウが選んだ者もまた、ヒビキであった。無論、その事についてヒビキを恨んだりする気持ちは無い。ホウオウが決めた事に逆らうつもりは無かったからだ。ところが、ヒビキはホウオウをゲットするチャンスだったにも関わらず、それをしなかった。その理由について尋ねると、『ホウオウにはずっと自分達を見守っていてほしいから』と照れ臭そうに言っていた。故に、今もホウオウは何処かにいるかもしれないのだ。もしかしたら、この塔のてっぺんにも・・・。
いないかもしれない、それでも確認しない訳にはいかなかった。スイクンを探し回るミナキをその場に置いて、マツバは上の階へと向かった。
そして—
「ショオォォーッ!!」
塔のてっぺんに辿り着いたマツバの目に、荘厳な輝きを持つ虹色の翼のポケモン—ホウオウの姿が映った。彼がやってくるを待っていたかのように、ホウオウが鳴き声をあげた。ずっと夢に見ていた瞬間、待ち望んでいた瞬間、どこか来る事を恐れていた瞬間、しかし、マツバの心は穏やかだった。その時—
「もう、いいの?これをのがすとチャンスはないかもしれないよ?」
声に気付いて振り向くと、そこには幼い頃の自分がいた。ところが、マツバは動じることなく頷いた。
「いいんだ。君もホウオウも、この塔や森すらも幻影なんだろう?」
「どうかな?ほんものかもよ?」
「それでも、今まで自分を信じてここまで来た。だから、自分を信じて言うよ、これは幻影だ。」
「・・・げんえいでもあえてうれしくないの?」
「嬉しくないと言えば嘘になるね。でも、自分自身の力でいつか本物のホウオウに認められたいんだ。・・・でも、ありがとう。」
マツバの言葉を聞いた幼いマツバは笑みを浮かべ、フッと消えた。そして、高速で世界が回り始め、意識が遠のいていく。そして、意識を失う直前、虹色の光に包まれた感じがした。
「・・・様、マツバ様!」
「う・・・。」
ジムトレーナーに起こされて目を開けると、そこはエンジュジムの裏だった。近くでは、ミナキも倒れている。揺り起そうかと思ったマツバだったが、
「ハハ、アハハ、スイク〜ン。」
どうやら、夢の中でスイクンとの甘い一時を味わっているようだ。マツバは苦笑すると、ポケギアで時間を確認した。—やはり、時間は出発した時のままだ。
エンジュシティで幻騒ぎが起こるのは、少し後の事。
それは突然訪れた幻影の一時。
—ep3完—
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PARTY・PLAN〜番外編〜ep4「魂還る地で」
「サーナイト、シャドーボール!」
「サーッ!」
サーナイトが撃ち出したシャドーボールがヨマワルをはね飛ばし、戦闘不能にした。
「ふぅ・・・」
戦いを終え、緑色の髪の少年—ミツルは息をついた。彼がいるのは送り火山。ミナモシティで買い物をしていた時に他のトレーナーが『送り火山に見た事のないポケモンが出る』という噂を聞いて、確かめにやってきたのだ。しかし、出てくるのは元々送り火山を生息地にしているゴーストタイプのポケモンばかりだ。
「頑張ってるじゃないの。感心感心!」
「よぉ。」
「!」
山の上の方から歩いてきたのは、モヒカン頭の男と日に焼けた肌の南国を思わせる少女だった。ミツルは2人の姿を見て、驚いた様子で言った。
「フヨウさん、カゲツさん・・・。どうしてここに?」
この送り火山で伝説のポケモンにまつわる宝玉を護っている老夫婦の孫娘であり、修行場所として幼い頃から過ごしてきたフヨウはともかく、カゲツに送り火山との関係性があるようには思えなかったのだ。
ミツルの問いに、カゲツは頭を抱えながら話し始めた。
事の発端は、その日の朝—
「送り火山の調査に行く人、この指とーまれ!」
「「「・・・・・・?」」」
突然のフヨウの発言に、ホウエン四天王の面々は思わず彼女の顔を見る。
「・・・何かあったのか?」
「う、うーん。まぁ、そんなとこ。」
カゲツの的を得た発言に苦笑しつつ、フヨウは話し始めた。
「おじいちゃんとおばあちゃんがね、最近送り火山に見た事もない恐ろしいポケモンが現れて、山のポケモン達が怯えてるって言ってきたの。当然、あちしが調査する事になったんだけど、1人じゃ大変だから、手伝って欲しいかなーって・・・。」
フヨウが話し終わるや否や、プリムとゲンジが首を横に振った。
「わたくしは行きませんわ。あそこはあなたの庭の様なもの、その気になれば一人でも出来ない事はないでしょう?手応えがあるような相手なら構わないですけどね。」
「わしも同意見だ。それに、我々が全員ここを空ける訳にはいかぬからな。」
「うう〜っ」
2人のもっとも過ぎる意見に反論できないフヨウは、本能的に厄介事に巻き込まれると判断して逃げようとするカゲツを見つけた。
「カーゲーツ♪」
「うっ・・・。いやいや、俺もムリだぜ?ほら、あれだ、忙しい!」
「あら、退屈そうにしていたじゃありませんこと?」
必死に巻き込まれまいと言い訳するカゲツにプリムが雑誌を読みながら言った。
「ちょっ、プリム!?いやいやいや、いかねーぞ!俺は!!」
「じゃ、レッツゴー!」
「・・・嫌だァァァァァ!」
こうして抵抗も虚しく、カゲツは見事に巻き込まれたのであった。
「・・・つー訳よ。ったく、どーせ何かの見間違いだろ。」
至極面倒臭そうに言うカゲツにミツルが反論した。
「いえ、でもかなり沢山の人がそのポケモンを目撃して、実際に戦って負けた人もいましたよ。ただの見間違いとは言えないんじゃないんですか?」
「ありがとー!いい子いい子!」
ミツルの言葉に目を輝かせながらフヨウがミツルの頭を撫でると、ミツルは照れてうつむいた。その時、突然空気が変わった。先程までは静けさと神秘的な空気だったのが、刺すような緊張感を帯びた空気に変わっていく。
「・・・どーやら、マジでいたらしいな。恐ろしいポケモンとやらがよ・・・。」
「君、気をつけてね。」
「はい・・・。」
霧に包まれている送り火山はお世辞にも視界が良いとは言えない。3人は互いの背中を合わせるように周囲を警戒する。—と、霧の中で目らしきものが赤く光った。
「あぶねぇ、かわせ!」
「「!」」
カゲツの声と同時に3人はその場を跳び離れた。直後、3人がいた場所を黒いエネルギーの渦が穿った。攻撃によって発生した空気の流れで一時的に視界が広がった。エネルギーの渦が飛んできた方向には、黒と紫、青で彩られた3又のポケモンがいた。
「あいつが、おじいちゃんとおばあちゃんが言ってた・・・」
「シャギャアァァァァ!」
フヨウの言葉に応えるかのように、ポケモンは吼え声をあげる。さながら、『正解だ』と言わんばかりに。
「やるしかねぇよな・・・。」
「そうですね・・・。」
「いくよっ。」
3人はそれぞれにポケモンを繰り出し、戦う態勢に入った。それを見計らったかのように相手も攻撃を再開した。謎のポケモンは3本の首からそれぞれ違う攻撃を放ってくる。最初はその攻撃に翻弄されていた3人だったが、フヨウがサマヨールの守るを使って相手の攻撃を引き付け、カゲツとミツルがフェイントを織り交ぜて攻撃し、徐々に盛り返していった。
「はぁ〜、やった・・・。」
どれほどの時間が経っただろうか、ミツルは疲れ果て、地面に座り込んだ。カゲツとフヨウもミツルほどではないが、息を切らせている。そして、彼らの目の前にはハイパーボールが転がっていた。戦いの最中、相手が消耗していると判断し、ミツルが投げたハイパーボールでどうにか謎のポケモンを捕獲する事に成功したのだ。
「ったく、手強い奴だったぜ。」
「あちしがいなきゃ勝てなかったよね。」
「よく言うぜ、誰のせいでここまで来たと思ってんだ!」
軽口を叩く2人に苦笑しながら、ミツルはハイパーボールを拾い上げた。その後、2人に訊いたのだが、結局そのハイパーボールはミツルの物という事になった。
謎のポケモンの正体が、サザンドラと呼ばれるドラゴンポケモンであり、かつてミツルの敵となった女性が育てていたポケモンであるらしい事が分かるのは、もう少し後の話である。
—ep4完—
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PARTY・PLAN〜番外編〜ep5「凍てつく湖の狙撃手」
「ダディ・・・」
「どうした、ジュン?」
「釣れねーな・・・。」
「釣りも真剣勝負だぞ。忍耐だ!」
「はぁ〜・・・」
「「・・・・・・」」
「ジュン、バトルの特訓をしながら待つぞ!」
「さすがはダディ!おっしゃ、行くぜ!!」
こうして、せっかちな親子の釣りの成果は芳しくないのだが、本人達がその事実に気付く様子は無い。
バトルの特訓をする彼らの息は白い。それもそのはず、ここはリッシ湖—寒冷な気候のシンオウ地方でもかなり寒い場所である。幸い雪は降っていないため気長に釣り糸を垂らす事も出来るのだが、この親子にはあまり関係がないようだ。騒がしくバトルの特訓をしている最中、ジュンの凄い釣竿がしなった。
「!掛かった!」
「ここからが真剣勝負だ!負けるなよ!!」
「了解、ダディ!」
正しいのかそうでないのか、よく分からない掛け合いをしながら、ジュンは釣り糸を巻き上げていく。魚影を見る限り、かなりの大物のようだ。
「おりゃあぁ!」
気合を込めてジュンが獲物を一気に釣り上げると、青く長大な巨体が釣り上げられた。
「ギャラドス!!」
「しかし、これは・・・?」
釣り上げたのは凶悪ポケモンのギャラドスだ。凄い釣竿を持ってすれば比較的容易に釣る事が出来るポケモンだが、様子がおかしい。なんと、全身が凍りついて既に戦闘不能になっていたのだ。直後、少し離れた水面から水飛沫をあげて何かが飛び出した。
「キングドラ!?」
現れたのはキングドラ、シンオウ地方では目撃情報の無いポケモンである。一瞬、ジュンの目とキングドラの目が合った。
「あいつは・・・、まさか!」
その瞬間、ジュンにある戦いの記憶が蘇る。かつて、シンオウ地方や他の地方に攻撃を仕掛けたあるトレーナー—彼女との最終決戦の地となった基地内で戦った個体だ・・・、証拠は無いが、ジュンは確信していた。
「・・・知ってる奴か?」
「多分ね・・・。」
ジュンとクロツグはポケモンを繰り出して構える。相手が一瞬だけ発した闘志を感じたからだ。感じたとおり、キングドラは水面から顔を出し、冷凍ビームを放った。しかし、冷凍ビームが飛んでいったのは、遥か上空—とてもジュン達を狙った攻撃とは思えない。だが、直後、無数の氷柱が上空から降り注いだ。冷凍ビームが雪雲とぶつかり、氷柱と化したのだ。
「ドサイドン、10万ボルト!」
「ゴウカザル、火炎放射!」
辛うじてポケモン達の攻撃で氷柱を全弾撃ち落とす事が出来たが、その隙にキングドラは水中に身を潜めてしまった。ゴウカザルでは不利と判断し、素早くヘラクロスに入れ替えた瞬間、キングドラが飛び出し、ハイドロポンプを放ってきた。何とかかわすが、飛沫が体にかかり、びしょ濡れになってしまった。キングドラはクロツグのドサイドンの岩石砲を易々とかわし、再び水中に消えた。
「なるほど・・・、一筋縄ではいきそうにないな。」
「気をつけろよ、ダディ!あいつ結構強いぞ!」
「誰に向かって言ってんだ?お前こそ気をつけろよ。」
「おぅ!」
「うぉわっ!!」
ジュンとヘラクロスは間一髪で飛んできた氷塊をかわした。氷塊の正体は、キングドラの冷凍ビームによって凍らされた湖の一部だ。最初こそ、2対1の状況で有利に戦いを進めていたのだが、湖を凍らせ、ハイドロポンプで水かさを増す戦法を取り始めたキングドラに押され始めていた。いくらジュンとクロツグのタッグでも、地の利が相手にある以上、楽には戦えないのだ。
(でも、あいつが使って来てるのは、遠距離攻撃用の技ばっかりだ。接近戦に持ち込む事が出来れば・・・)
ジュンがそう思った矢先、キングドラが凄まじいエネルギーを纏い、氷塊を押しのけ、水飛沫をあげて突っ込んできた。ギガインパクトだ。
「しまっ・・・」
完全に虚を突かれ、ジュンは反応できない。そこへキングドラが迫る。その時—
「ドサイドン、岩石砲!」
「ドッサイッ!!」
標的をジュンに定めて突撃していたキングドラは、かわしきれずに岩石砲を浴び、水中に没した。ジュンは、少しだけ肩に入っていた息を吐く。
「ダディ・・・、俺の事、餌にしたんじゃないよな?」
「それは無いさ。結果オーライって奴だ。」
互いに声を掛け合うと、2人は再び身構えた。これほどの相手がそう簡単に倒れるとは思えないからだ。2人の読み通り、キングドラはこちらの攻撃が及ばない深度からハイドロポンプで狙ってきた。何とかかわす事は出来るが、こちらから手が出せないのでは話にならない。その時、ジュンにあるアイディアが浮かんだ。すかさず父であるクロツグを呼び、耳打ちする。すると、クロツグはニヤリと笑って頷いた。そこへ再び水中からの攻撃が飛んでくるが、かわして2人は行動に移った。
「ドサイドン、岩石砲!!」
「ドッサーイッ!!」
強烈な岩石砲が放たれ、湖に飛び込んだ。しかし、命中はしなかったらしく、キングドラの攻撃が襲いかかってくる。攻撃をしのぎながら、2人は心の中で秒読みしていた。そして—
—ドォォォォン・・・!!
岩石砲が水中で炸裂し、氷塊ごと湖の水を撥ね上げた。当然、水中にいたキングドラもうちあげられる。
「今だ、メガホーン!!」
「ヘラクロッ!!」
無防備となったキングドラに渾身のメガホーンが命中し、キングドラは吹き飛ばされ、木に叩きつけられた。大きなダメージにすぐには態勢を立て直せないようだ。そこへジュンはバッグから取り出したボールを投げつけた。それはキングドラに当たると、網状の光線を発し、キングドラを内部へ吸い込んだ。完全にキングドラを吸い込み、地面に落ちたボール—ネットボールと呼ばれる水タイプの捕獲に適したボールは、数回揺れると、カチッという音と共に静止した。ジュンは震える手でネットボールを拾い上げると、大声で叫んだ。
「大物、捕ったどーーーーっ!!!」
どこかおかしな発言の後、ジュンはクロツグに向かって言った。
「ダディ。俺、こいつを育てて、必ずダディに挑戦するからな!!」
「ああ、待ってるぞ、ジュン。」
ジュンの言葉に、クロツグは心底嬉しそうに応じた。
キングドラを新たな手持ちポケモンとし、ジュンがクロツグと戦うのは、また別の話。
—ep5完—
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PARTY・PLAN〜番外編〜ep6「狂王、地下に現る」
「あ〜、今日も素晴らしかったな。ノボリ様とクダリ様の戦いっぷり。」
「当然だろ。俺達のボスだぞ?」
「明日も楽しみだな。」
ここはバトルサブウェイ。今日も激しいバトルが行われ、今は営業時間を終え、職員達がホールを片づけながら話に花を咲かせていた。仕事を終えた後の楽しい一時。ところが—
「お、おい!なんか飛んでくるぞ!」
「あれは・・・、まさか」
「嘘だろ・・・?」
「「「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」
3人の職員達は飛んできた物—Wi-fiトレインに悲鳴をあげた。
「・・・まし!しっかりしてくださいまし!」
「・・・ノボリ様?」
「ああ、良かった・・・。横転したWi-fiトレインと、傍で倒れているあなた方を見た時は本当に驚きましたよ・・・。一体何があったというのですか?」
職員達が目覚めたのは、ライモンシティの病院のベッドの上だった。
事情を尋ねるサブウェイマスターのノボリに職員の一人は見た事を必死に伝えた。
「・・・なるほど、それは緊急事態ですね。とにかく、一時バトルサブウェイは休業です。急いでクダリと問題を解決せねば。」
ノボリはそう言うと、病室を足早に出て行った。
「Wi-fiトレインが飛んできた時、職員達は奥に潜む巨大な影と黄色くぎらつく2つの瞳を見た、と言っておりました。」
「それにしてもWi-fiトレインを飛ばすとは、そうとうの怪力を持った相手の様ですね。気をつけねば。」
急遽、バトルサブウェイを封鎖し、調査に乗り出したサブウェイマスターのノボリとクダリは、薄暗い地下鉄内を歩いていた。その時、クダリが突然立ち止まった。
「どうかなさいましたか?」
「・・・ノボリ、これを見てくださいまし。」
「これは、足跡!?」
そこにあったのは、巨大な何者かの足跡だった。
「わたくしは、野生のゴルーグが犯人ではないかと思っておりましたが、どう見てもゴルーグの足跡ではありませんね。」
「どうやら、まだ新しい足跡の様です。注意してくださいまし。」
「グガガガ・・・」
「「!!」」
一瞬聞こえた笑い声に、ノボリとクダリは身構えた。笑い声の主が発した強烈な殺気に思わず背筋に汗が流れる。
「どうやら、おいでになられたようですね。」
「相手はWi-fiトレインを吹き飛ばす事が出来ます。気をつけてくださいまし!」
ノボリはイワパレスを、クダリはアーケオスを繰り出して、周囲を見回す。そして、奴は轟音をあげ、土埃を立てながら現れた。
「グガァァァァァァッ!!」
「「ガブリアス!?」」
地響きを立て、目の前に現れたポケモンを見て2人は驚愕した。イッシュ地方では確認されていないガブリアスだ。何度かチャレンジャーが繰り出してきたので姿は知っている。しかし・・・
「何と巨大な・・・」
そう、通常のガブリアスが小さく思えるほど、そのガブリアスは大きいのだ。これならWi-fiトレインを吹き飛ばせてもおかしくは無い。
「ノボリ!」
「!」
思わず圧倒されていたノボリはクダリの声で我に帰る。自分達は、このガブリアスを何とかしなくてはいけないのだ。ガブリアスは殺気をむき出しにして、牙をむいて襲いかかってきた。
「イワパレス、シザークロス!」
「アーケオス、燕返し!」
双方の攻撃が寸分狂わずに直撃する。しかし、ガブリアスはまったく意に介さず、アーケオスに喰らい付き、渾身の力で壁に叩きつけた。
「アーケオス!」
「アーケ・・・」
かなりのダメージを受けたようだが、幸い持たせていたオボンの実で回復し、持ち直したようだ。しかし、強烈な衝撃を受けた地下鉄には亀裂が入り、瓦礫がいくつか落下した。
「・・・クダリ!」
「ええ、これ以上ここで暴れられては、バトルサブウェイが持ちません!」
2人はそう言うと、目配せをすると、踵を返して走り出した。
「グガァァッ!」
2人を追って巨大ガブリアスも走りだした。ポケモンを使って牽制攻撃をしながら2人は必死に走る。逃げる為ではない、全力で戦うために。
中央ロビーまで辿り着いた2人は、ある路線の列車に飛び込み、全速力で発進した。狙い通り、ガブリアスも2人を追って後をついてくる。
「ノボリ、急いでくださいまし!追いつかれます!」
「これが全力でございます!」
「しかたない・・・!アイアント、岩雪崩!!」
「アント!」
クダリの指示を受けてアイアントが撃ち出した岩雪崩がガブリアスに命中し、その動きを鈍らせる。その隙に、列車は先へと急ぐ。そして、ガブリアスと程良い距離を保ちつつ、目的地に停車した。
そこは使われていない列車や修理中の列車を止めておく車庫の街、カナワタウン。住民は先刻の事件で避難している。これだけ広い野外なら、周りに気にすることなく戦える。
「さて、おいたは終わりの時間です!」
「覚悟してくださいまし!」
「グカカカカカカカ!」
ギギギアルとオノノクスを繰り出して身構えるノボリとクダリを見て、ガブリアスは恐ろしげな笑い声をあげた。そして、一瞬の沈黙の後、激戦が始まった。
「ハァハァ、ノボリ・・・」
「何でしょう、クダリ?」
「今度からは、氷タイプの技が使えるポケモンを持つ事も検討しませんか?」
「・・・確かに、それは良い考えだと思います・・・。でも、まずは街とバトルサブウェイを元に戻さねば・・・。」
息を切らせ、座り込む2人の前には、先程まで驚異的な暴れ方をしていたガブリアスが入ったハイパーボールが転がっていた。
その後、バトルサブウェイのサブウェイマスターが強力なポケモンを使い始め、数多くの挑戦者を震え上がらせる事になるが、それはまた別の話。
—ep6完—
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PARTY・PLAN〜番外編〜ep7「刀槍剣戟の果てに」
チェレンは震えながら白い息を吐いた。それも当然の事、ここはセッカシティ。イッシュ地方の中でもかなり寒冷な場所である。おまけに季節は冬、寒がりの彼が刺すような寒さの中でいるのには訳がある。
「チェレーン、あったかいお茶よ〜。」
「ああ、ありがとう。」
この寒い中、変わらずマイペースなベルの声に応じる。普段は修行のためにチャンピオンロードにいるチェレンだが、今回はベルと他の2人の計4人で行動している。
「さみ〜。」
「悪いわね、皆。もう少ししたら休みましょ。」
チェレンほどではないが寒がっているトウヤとアララギ博士が、セッカシティ内であるポケモンを観察している。そう、今回はアララギ博士の調査に協力するためにこの街を訪れたのだ。調査対象はクマシュン、ネジ山や冬のセッカシティで見られる氷タイプのポケモンで、この街のジムリーダー—ハチクも使用している。アララギ博士いわく、ネジ山に残るクマシュンとセッカシティに出るクマシュンのルーツは別だというのだ。という訳で、詳しく調査する事になったという訳だ。調査は順調で、間もなく休憩という時・・・
—ドゴォォォォン・・・
「「「「!!」」」」
突然、街の北西の方角から爆音が轟いた。
「あの方角は、竜螺旋の塔!!」
かつてイッシュ地方を揺るがす出来事が始まった場所—竜螺旋の塔。チェレンも近くでその出来事を見た。そして、それに関わった2人の英雄も知っている。だが、あの2人は今、全く別の場所にいるはずだ。
「何かが起こったんだ。トウヤ、見に行くよ!」
「おぅ!」
「2人とも気をつけてね!」
ベルとアララギ博士をその場に残し、チェレンとトウヤは竜螺旋の塔に急いだ。
「ハチクさん!」
「そなた達も来たか。何か大事が起こっているようだ。」
「急ごう!」
竜螺旋の塔の入口でハチクと合流したトウヤとチェレンは、爆音の元と思われる塔の上部へと急いだ。途中には竜螺旋の塔に生息しているポケモン達が何者かに攻撃されて倒れている。どうやら、本当にただ事ではないようだ。塔の半ばまで来た時に、それは床に倒れていた。
「これは、カイリュー!?」
黄土色の肌の巨体と翼、長い尾。確かに倒れているのはカイリューだ。竜螺旋の塔の周囲の水辺で目撃例はあるが、内部では見られない。
「リュー・・・!」
トウヤ達が立ち止まると同時にカイリューは意識を取り戻し、翼を広げて塔の上に向かって飛んで行った。
「やっぱり、上で何かが起こってるんだ!」
トウヤの声にチェレンとハチクは頷き、3人はカイリューの後を追った。
竜螺旋の塔の上は、かつて英雄の一人が白き龍と共に戦いへと向かった場所。伝説のポケモンであった白い龍がいた場所なだけあって神秘的な空気に包まれているはずなのだが、今は違った。
11体のカイリューと20体の大柄なガブリアスが血みどろの戦いを繰り広げていた。カイリュー達が必死に攻撃を繰り出しているが、ガブリアス達は鬼気迫る勢いで攻めており、押されている。11体のカイリュー・・・その光景にトウヤ達は見覚えがあった。かつてヒウンシティを襲撃したポケモンの集団の中に、連携攻撃でトウヤ達を苦しめたカイリュー達だ。しかし、何故彼らがガブリアス達と戦っているのだろう。と、トウヤ達に気付いたガブリアスが飛び掛かってきた。モンスターボールを持って身構えるトウヤ達だったが、そのガブリアスに一回り大きいカイリューがドラゴンダイブをくらわせ、はね飛ばしたのだ。
「俺達を庇ったのか?」
トウヤの問いかけに答えず、そのカイリューは再び戦いに戻っていく。しかし、数で負けているうえに力でも相手が上回っており、苦戦を強いられている。トウヤは、思わずチェレンとハチクの顔を見る。すると、2人は黙って頷いた。彼らにとってそれだけで充分だった。
「ダイケンキ、吹雪!」
「ヒヤッキー、冷凍ビーム!」
「ツンベア—、氷柱落とし!」
それぞれの攻撃がガブリアス達に襲いかかり、数体のガブリアスを吹き飛ばした。驚いた様子でこちらを見るカイリュー達にトウヤは言った。
「悪いけど、勝手に参加させてもらうぜ!」
一回り大きいカイリューは軽く頷くと、ガブリアスを迎えうった。そして、トウヤ達も戦いの場へと踏み込んでいった。
「お前で、最後だァァ!」
「ケンキッ!」
最後のガブリアスがダイケンキの吹雪を受けて倒れた。戦いが始まったのは、昼だったのにもう辺りは暗くなり始めていた。何とか勝利する事が出来たが、カイリュー達はほとんどがやられて倒れている。傷薬を使ってカイリュー達を治療し終えると、一回り大きなカイリューがトウヤに飛びかかった。
「トウヤ!」
「!!」
騙されたのか、そう思った瞬間、トウヤのカバンからモンスターボールを取りだしたカイリューは自分でボタンを押して中に入ってしまった。
呆気に取られているトウヤの前でモンスターボールは数回動き、止まった。
「・・・どういう事?」
「そなたを認めたという事ではないか?」
モンスターボールを拾い上げて呟くトウヤに、ハチクが言った。
「俺の事を・・・?」
いつからだろう、近くにいたトウコが遠くに感じ始めたのは。事実、トウコとNは英雄、自分は・・・ただのトレーナーだ。そう思うと、寂しく感じた。姉弟なのに、自分には何もないと思っていた。おまけに2人は今、イッシュ中を旅している。そんな中、自分を認めて仲間になる事を選んだというカイリューは、自分がそうするのにふさわしいと言ってくれているようだった。そう思うと、とても嬉しく感じた。
その後、他のカイリュー達は、竜螺旋の塔に留まる事を決めたらしく、ガブリアス達はポケモンリーグで処分を決める事になった。
『どうしたの?良い事でもあった?』
「なんでもないよ。」
『でも、君は嬉しそうな顔をしてるけど?』
「うるさいな、馬鹿N。」
『うう〜。』
『ちょっと、トウ・・・』
途中でライブキャスターの電源を切ってトウヤは、ポケモンセンターを出た。新たな仲間との旅の始まり、トウヤの心も天気も快晴である。
—ep7完—
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PARTY・PLAN〜番外編〜ep final「新たなる旅路」
「オニドリル、ドリルくちばしッす!」
「オニーッ!」
オニドリルの最後の力を振り絞ったドリルくちばしが、モルフォンにきまった。
「モルフォン戦闘不能!よって勝者、イヅチ!」
倒れたモルフォンを見て審判が判定を下した。ここはカントー地方セキチクシティのセキチクジム—たった今、ジムリーダーのアンズと挑戦者のイヅチとのバトルが終わった所だ。
「・・・あたいの負けだね。ほら、ピンクバッジを持ってって!」
「ありがとうございます!」
「ところで、次はどのジムに挑戦するの?」
「え〜っと、あとはグレンジムとトキワジムッす!」
イヅチがアンズの問いに答えると、アンズはタウンマップを取り出して説明してくれた。
「ここから南側のゲートを通って、19番水道を渡って、双子島のある20番水道を目指すの。双子島の東口の入口から、臨時グレンジムに行けるはずだよ。」
「分かりましたッす!ありがとうございます!」
こうして、イヅチの次の目的地が決まった。
それが昨日の事、イヅチは今、どういう訳かグレンジムがある双子島ではなく、グレン島にいた。その理由というのは・・・
「ウオオーイ!気をつけろ坊主!もうじき来るぞー!」
横にいる熱いクイズオヤジこと、グレンジムのジムリーダーのカツラからの頼みであった。双子島へ向かう最中に、船で買い出しに出ていたカツラに会ったイヅチは、カツラからある話を聞いたのだ。
「最近、グレン島の固まった溶岩が何者かに破壊されておるのだ。必死に犯人を捕まえようとしとるんだが、ジムの業務もあってな・・・。手伝ってくれれば、優先的にジム戦を受けさせてやるわい!」
その話に乗ったイヅチはカツラと共に、その何者かを待っている・・・という訳なのだ。青空に浮かぶ雲が太陽を隠し、辺りが薄暗くなる。ところが、次の瞬間、突然太陽の光が差した。太陽を隠していた雲が引き裂かれたのだ。
「きおったぞ!」
「あれは・・・、まさか!」
雲を引き裂き、上空から急降下してきたのは、青空の色が映ったような蒼い体と、燃えるような赤い翼を持ったドラゴンタイプのポケモン—ボーマンダだ。舞い降りてきたボーマンダは体を高速回転させ、グレン島の街を覆っている溶岩を破砕し、破片を撒き散らす。
「また、破片を飛ばしおって!危ないじゃろうが!」
カツラは怒鳴り声をあげ、破片をよけながらボーマンダに近付いていく。イヅチは思わず、その名前を口に出していた。
「オウリュウ!!」
「!」
その声にボーマンダが反応し、動きを止めた。そして、イヅチとボーマンダの目が合った瞬間、ボーマンダが吼え声をあげた。
「グガァァァァ!」
それはまるで、『さぁ、行くぞ!』と言ってるように聞こえた。直後、ボーマンダは飛び掛かってきた。イヅチもカイリューを繰り出して応戦する。
「知っておるのか!?」
マグカルゴを繰り出し、身構えたカツラがイヅチに尋ねてきた。イヅチは応戦しつつ答えた。
「多分・・・、いや、知ってるッす!俺の師匠のボーマンダに違いないッす!」
証拠など無い。だが、イヅチにはそう感じた。そして、イヅチはカツラにある事を頼んだ。
「・・・なんじゃと?偉い!何と熱い男じゃ!思う存分戦ってこい!!」
イヅチの言った事を聞くと、カツラは感動したのか、マグカルゴを戻し、少し離れた所まで移動した。
「ありがとうございます・・・。行くッすよ、カイリュー!」
「リューッ!」
イヅチとカイリューは互いの顔を見て頷くと、オウリュウと思わしきボーマンダに戦いを挑んだ。
「・・・結果はどうあれ、天晴な戦いじゃったわい!」
数時間後、疲れ果て地面に倒れて眠りこんだイヅチを見て、カツラは感服したように言った。イヅチとカイリュー、オウリュウの戦いは熾烈を極め、強烈な攻撃を受けつつも互いに一歩も引かなかった。最終的にはイヅチとカイリューが限界を迎え、それを感じたのか、ボーマンダが何処かへ飛び去るという形で勝負はついた。残されたのは、寝そべるイヅチとカイリュー、激しい戦いの中で固まった溶岩が破壊され、昔の姿を感じさせるようになったグレン島だけだ。
(もしや、あのボーマンダは、グレン島の再興を手伝おうとしておったのか?いや、まさかの・・・)
カツラとブーバーンは、イヅチとカイリューをポケモンセンターまで運んで行った。
その後、目を覚ましたイヅチは、約束通りカツラとのジム戦を行い、無事にクリムゾンバッジを手に入れ、トキワシティへ向かう事にした。出発の直前、カツラが見送りに来てくれていた。
「たいしたもんじゃわい!この分なら、カントーのジム制覇も可能じゃろうて!・・・ところで、本当に良いのか?旅が厳しくなるのだぞ?」
情が移った訳ではなく、先輩トレーナーとしてカツラが尋ねる。実は起きた後、イヅチはカントージムを制覇したら、オウリュウと思わしきボーマンダを追い、決着をつける事を決めていたのだ。相手がまだカントー地方にいるかも分からない、それどころか相手が今何処にいるのかすらも見当がつかないのだ。途方もなく困難な旅になる事だろう。それでも、イヅチは言った。
「オウリュウは、きっと待ってるッす。俺が、俺達がもっともっと強くなって現れるのを。だから、修行して強くなりながら、オウリュウを探しに行くッす!」
「それなら、止めやせんわい。何者にも負けぬ情熱を忘れるでないぞ!」
「はいッす!」
イヅチは元気良く返事をし、旅立っていった。
その後のイヅチの旅は、本人が書き記した日記をある地方のポケモンリーグチャンピオンが公開する事で、書籍化され、多くの人の目に留まる事になるが、それはずっと先の話—。
—正真正銘の完—
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