ワザップ!フォーラム
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黄昏時、ボク達はようやくエルモスシティに辿り着いた。
街灯やネオンが既に灯り始めている。
ボク達はメインストリートを歩いていった。
人通りの多さや賑やかさは相変わらずだけど、前に来た時とは、どこか様子が違うようにも思えた。
ボクはふと立ち止まり、街の中心にそびえる高層ビルを見上げた。
この島にやってきたあの日、アルトさんのビークルから見えたあの建設中のビルだ。
近くで見ると、やはり大きい。
工事は終わっているようだが、まだ準備中らしく、中には入れないようだ。
近くには掲示板がある。
そこには、こう書かれていた。エルモスシティ・セントラルタワービル
近日オープン!!
地上168階の高さを持つ本施設は、世界でも最大級の規模を誇るモンスター研究のための総合複合センターです。
モンスターマスターのための施設も充実しておりますので、是非お越し下さいませ!
「ひ、168階!? 高っ!?
オレ、高いとこ苦手なんだよな…」
驚嘆するラキッズ。
「モンスターマスターのための施設もあるみたいだね。
でも、まだ開店前みたいだから、オープンしたらまた来てみようよ。」
ボクはラキッズ達に提案した。
「おう、そうだな。
それじゃあ、街の散策でもするか。
これからの冒険に備えて、薬草とかたくさん用意しといた方が良いんじゃねえか?」
ラキッズの言う通りだ。
何が起こるか分からないこれからの旅に備えて、買い出しをしておいた方が良いかもしれない。
「よし、じゃあ、買い出しに行くか。」
「よっしゃー!
んじゃ、早速行こうぜ!」
ラキッズは、やけにはしゃいでいる。
ボクとピギィは、そんなラキッズを追うように歩いた。
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「ねえ、ラキッズ…」
ふと聞いてみた。
「何かキミ、テンション高いね。」
「あっ、当たり前だろ!
オレ達はこれから冒険の旅に出るんだぜ!
落ち着いてなんか、いられるか!」
「まっ、それもそうだね。」
ボク達は一軒の店に辿り着いた。
「あら、かわいいモンスターマスターさんね。
最近は、あなたみたいな子供のマスターさんもよく来るのよ。」
気前の良さそうなおばさんが、ボク達を歓迎してくれる。
ボク達は、そこで薬草や食料を購入した。
「ところで、あなた達…」
店員のおばさんが声をかけてくる。
「何ですか?」
ボクは聞き返した。
「これからどこに行くか、もう決めてるの?」
「いいえ…」
「じゃあ、『サザンレイク』に行ってみるといいわよ。
あそこはモンスターも豊富だから…
場所はこの街の南部よ。」
おばさんが助言をしてくれた。
とりあえず、今は行く場所のあてがないし、その『サザンレイク』という場所に行ってみるか…
これから先に備えて、より多くのモンスターを仲間にして、戦力もアップしておいた方が良さそうだ。
「助言、ありがとうございます。」
ボクはおばさんにお礼を言い、店を出た。
「なあ、シエル…」
ラキッズが話しかけてくる。
「早く、そのサザンレイクとやらに行こうぜ。
オレ、早く戦いたくてウズウズしてるんだ。」
「バトルって、そんなに楽しいの?
お互い傷付くし、怖くない?」
ふとラキッズに聞いてみた。
「怖いも何も…
"大切なモノ"を守るための戦いだぜ?
怖がってなんかいられるかよ!」
ーー"大切なモノ"を守るための戦い…か…
ボクの中で何かが壊れ、揺らぎ始めていた決心が、もう一度確かなものになるのを感じた。
「うん!」
バンダナを結び直し、気合いを入れる。
「行こう、サザンレイクへ!
ラキッズ、ピギィ!」
「おうよ!」
「ピギィ!」
ボク達は、エルモスシティを出て、南に向かって歩いていった。
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ーー辺り一面に広がる広大な湖…
その水面は、夜空を照らす月を映しだしている。
サザンレイクに辿り着いた時は、もうすでに夜のとばりが降りていた。
「もう夜か…
今日はこの辺りで野宿しよう。」
ボクはラキッズ達に提案した。
「まだ戦ってないのに?」
ラキッズは少々不機嫌そうだ。
「夜は昼間よりも強いモンスターが現れやすいって、聞いたことがあるんだ。」
ボクは理由を述べた。
そう、これは幼い頃から、父さんに聞かされてきたこと。
ーー闇夜は魔物達の独壇場…
昼間よりも好戦的で凶暴な魔物達が、最も活動的になる時間帯。
だからこそ、夜にはあまり外に出ない方が良いんだとか。
「だったら、尚更戦った方が好都合じゃねえか?」
「…えっ!?」
何となく予想はしていたが、やはり驚いてしまう。
「オレ達は、より強いモンスターを仲間に加えていく必要があるんだぜ?
だったら、そいつらを仲間にしちまえばいいじゃねえか?」
やっぱりそうきたか…
ボクも同じことを考えたけど、果たして今のボク達の実力で、"凶暴な魔物達"に勝つことができるのだろうか?
「まっ、シエルは慎重だからな。
今の実力で勝てるか、とか考えてるんだろ?」
図星だった。
「心配すんなよ。オレ達がいるだろ?
それとも今のオレ達じゃ頼りないか…?」
「そ、そんなことないよ!
ラキッズ達のこと、頼りにしてる。」
ボクは少し間を置いて、続けた。
「分かった、行こう!」
それを聞いたラキッズは、嬉しそうにはしゃいだ。
「よしきた! 早く行こうぜ!」
ラキッズが、ボク達を先導する。
これじゃ、どっちがマスターか分からないな…
ボクはそんなことを考えながら、ラキッズのあとに続いた。
ピギィも、後ろについてくる。
一行は、月光が照らし出す水辺に沿って、歩いていった。
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歩き始めてから、10分ぐらい経っただろうか?
近くの藪から、物音がする。
ラキッズは、とっさに身構えた。
その音は、ピギィが仲間になる"きっかけ"となった、ボク達の初陣を彷彿させた。
やがて、物音の正体が姿を現す。
だが、飛び出してきた魔物を見て、ボク達は驚いてしまった。
「…えっ? オレ…?」
ラキッズは、魔物を見て少々戸惑っている。
ボクも言葉が出なかった。
しかし、魔物はボク達のスキを見逃さず、ラキッズに噛み付く。
「いってぇー!」
ラキッズが悲鳴を上げる。
「フン!
わたしがあまりにもカワイイから、油断しちゃったのかしら?」
魔物の第一声で、ボクは我に返った。
ーーそう、飛び出してきた魔物の正体は『ドラゴンキッズ』
ラキッズと全く同じ姿形をしたモンスターだった…
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ドラゴンキッズ VS ドラゴンキッズの戦いが始まった。
ーーっと思ったが…
「あら…?」
野生のドラゴンキッズの視線が、ピギィのそれと合った。
ピギィは、ビクッとする。
「かわいー!!
わたし、スライム系の男の子に目がないのよ!」
ドラゴンキッズはそう言って、ラキッズには目もくれず、ピギィにぴったりと引っ付いてしまった。
このドラゴンキッズ、話し方からして♀だろうか?
「決めた!
わたし、あんた達についていってあげるわ。」
「はい!?」
ボクとラキッズは、同時に声を出した。
「だーかーらー!
あんた達についていってあげるって、言ってるのよ。
この子のことが気に入ってしまったの。」
「はあ…」
ボク達は呆然としていた。
というより、言葉が出なかった。
「え、じゃあ、オレ達の仲間になってくれるのか?」
ラキッズがドラゴンキッズに尋ねる。
「そういうことよ。
わたしは『コドラン』。よろしくね。」
「あっ、はい! よろしく…」
あまりにも意外すぎる形で、新たな仲間ができた。
コドランはずっとピギィの周りを飛び回っている。
ピギィも最初は戸惑っていたが、すぐに打ち解けたようだ。
極めて変(?)な結末だけど、これで良かったのかな?
そんなことを考えているうちに、野宿するのにちょうど良さそうな場所に出た。
ボク達は、木の根元に横になり、身体を休めることにした。
明日はどんなモンスターに出会えるんだろう?
無意識のうちにモンスターのことを考えるようになっていた。
まだ冒険に出て1日しか経ってないけど、少しだけだけど、ラキッズ達と行動を共にして、"モンスター"というものを知ることができたような気がする。
ボクは今日一日のことを振り返りながら、瞳を閉じた。
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ズシン… ズシン…
何の音だろうか?
何かの足音のような音は、次第にこちらに近付いてくる。
「…きろ…」
聞き覚えのある声…
「…きろ…シエル…」
誰かがボクを呼んでいる。
「起きろ! シエル!」
ラキッズの怒鳴り声で、ボクはやっと目覚めた。
「お前ら…
この俺のテリトリーで寝るとは、いい度胸じゃねぇか…!」
その声で、ボクはやっと状況を把握した。
ーー声の主は…
巨大な銀色の斧を持ったドラゴンのモンスター…
『バトルレックス』…!!
まずい…
今のボク達の実力で、勝てる相手じゃない…!
ボクは逃げることを考えていた。
しかし…
「なあ、シエル。起こして悪かったな。
でも、あいつ強そうだろ?
相手に取って不足はないぜ!
じゃ、指示のほうはよろしく頼むぜ!」
「…えっ!? 戦うの…?」
ボクはラキッズに聞き返した。
「当たり前だろ!
こいつを仲間に加えたら、一気に戦力アップだぜ!」
なるほど…
ラキッズらしいや…
そう思った。
この状況じゃ、逃げられそうにないし、一か八か戦ってみるのも良いかもしれない。
ボクはバンダナをきつく締め、気合いを入れて頷いた。
「分かった!」
そして、バトルレックスの方を向いて、言い放った。
「勝負だ! バトルレックス!」
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「フン! ガキのくせに調子に乗るなよ!
この俺を仲間にしようなんざ、10年早えんだよ!」
バトルレックスは、巨大な斧をラキッズめがけて振り下ろした。
「横にかわして、ラキッズ!」
ボクはとっさに指示を出す。
ラキッズは素早く斧をかわした。
巨大な斧は、そのまま地面に突き刺さる。
「むぐっ! 抜けねぇ…!」
バトルレックスは、地面に刺さった斧を引き抜こうとしている。
ーーそうか!
ボクはあることに気付いた。
このモンスターの攻撃の要は"斧"
なので、斧さえ使えなくすれば…
そして、斧が使えなくなっている今、こちらが攻撃をしかける最大のチャンスだ。
「みんな、今だ! 攻撃!」
ボクは大声で指示を出した。
ラキッズ達が、バトルレックスに次々と攻撃をしかける。
「お前ら…!
調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」
バトルレックスは斧を引き抜き、それを振り回した。
「あ、危ねえ…!」
間一髪だった。
あんなものを、まともに食らったら、ただじゃ済まない。
ラキッズは、少々息切れしている。
「そうだ!」
ボクはハープを取り出した。
そして、シェリーから教わった『星空のレクイエム』を弾き始めた。
「ボクがハープを弾きながら指示を出すから、みんなは攻撃と回避をよろしく!」
ボクは仲間達に告げた。
「よっしゃ! 分かったぜ、相棒!」
「任せときなさい!」
「ピギー!」
仲間達の声が、ボクに返ってくる。
ーーみんな、ボクのことを信じて、頑張ってくれているんだ…!
ボクも頑張らなきゃ!
"本物の"バトルが、改めて幕を開けた。
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バトルレックスは、斧を力任せに振り回してくる。
これじゃ、近付くのは危険だな、と思った。
「ねえ、ラキッズ! 炎とか、吐けないの?」
「炎か… いけるぜ。」
ラキッズはそう言うと、大きく息を吸い込んだ。
「だが、こいつはチャージにちょっとだけ時間をくうんだ!
シエル、上手く時間を稼いでくれ!」
「分かった!」
「スキあり!」
バトルレックスは、息の構えで動きが鈍ったラキッズに斧を振り下ろそうとする。
「コドラン! 体当たりだ!」
そう、バトルレックスは今、斧をラキッズに振り下ろすことに専念している。
つまり、振り回してはいない。
だから、近接攻撃をしても大丈夫だと思った。
ーーしかし、コドランがバトルレックスを妨害するより早く、斧がラキッズに当たってしまいそうだ。
「ピギー!」
今まで黙っていたピギィが、声を上げる。
と同時に、火の玉のようなものが、バトルレックスの方に飛んでいった。
火の玉は物凄い勢いでコドランの真横を通過し、見事バトルレックスに命中した。
「あっちーっ!」
バトルレックスの攻撃が止まった。
すると、バトルレックスはラキッズから目を背け、ピギィを睨みつけた。
「てめぇ、やりやがったな!」
バトルレックスは斧を振りかぶり、ピギィに飛びかかった。
バトルレックスは最初の一振りのあとも、次々と攻撃を繰り出す。
ピギィはかろうじて回避しているが、いつまで持つか分からない状態だった。
「ちょっと、あんた!
わたしの可愛いピギィくんに、何てことすんのよ!」
コドランはそう言うと同時に、口から冷気を吐いた。
「わたしのとっておきの技『こおりの息』よ!」
「ぎゃっ!」
不意打ちをまともに受けたバトルレックスは、飛び上がった。
冷気が当たった場所が凍結する。
「てめえら、この俺を散々コケにしやがって…
許さん…!!」
バトルレックスは、今度はコドランに飛びかかった。
しかし、わずかとは言えど凍結しているため、さっきよりも身体の動きが鈍い。
「待たせたな!」
ラキッズは技を出そうとしている。
「みんな、伏せろ!」
ボク達は、地面にしゃがみ込んだ。
ーーそして、ラキッズはチャージしていたものを一気に放出した。
「オレの必殺技『はげしい炎』だぜ!」
凄まじい炎は、激しい熱風を巻き起こし、バトルレックスに襲いかかる。
「な、うわぁぁぁぁーっ!!」はげしい炎炎ブレス系の息の特技。
攻撃範囲が広いのが特長。
『火の息』や『かえんの息』よりも高い威力を持つが、その分魔力の消費量も多め。
ラキッズは技を出す直前に『息をすいこむ』を使ったため、威力が通常の2倍に跳ね上がった。こおりの息吹雪ブレス系の息の特技。
はげしい炎と同様、広い攻撃範囲を持つ。
『つめたい息』よりも高めの威力を持つが、その分魔力の消費も多い。
当たった箇所を凍結させることができ、これにより敵の動きを鈍らせることが可能。
攻撃と妨害の両方に使える特技である。
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バトルレックスは地面に倒れ込んだ。
「よっしゃー! 勝ったぜ、シエル!」
ラキッズが歓喜の声を上げる。
しかし、バトルレックスはすぐに起き上がった。
そして、こちらを見つめている。
「こいつ…! まだ、やるってのか!?」
ラキッズが再び戦闘態勢に入る。
だが、バトルレックスの口から発せられたのは、意外な言葉だった…
「…? 誰だ、お前ら…?
俺は今まで、何をしていたのだ…?」
バトルレックスはきょろきょろしている。
「白衣の男に声をかけられて… それで…」
バトルレックスは何かを思い出そうと、頭を抱えている。
もしかして、"洗脳"…?
このバトルレックスは、何者かに操られていたのか…?
というか、"白衣の男"って、まさか…!?
「ねえ、その白衣の男、ボクに似てなかった!?」
ボクは突発的にバトルレックスに聞いていた。
"白衣の男"と"父"が同一人物であるような気がしたからだ。
「さあ…
顔はよく見えなかったから分からないな…」
「そうか…」
しばらくして、バトルレックスはこちらに向き直ってきた。
「お前らが俺を助けてくれたのか…?」
「そうだぜ!」
ボクが言うより先に、ラキッズに言われてしまった。
「そうか、助かった。ありがとう。
何か礼をせねばならんな…」
バトルレックスは、ボクの方を向いてきた。
「お前、モンスターマスターか?」
バトルレックスが尋ねてくる。
ボクはその問いに答えた。
「そうだよ。まだ駆け出しだけど…」
「なら話は早い。
お前は俺に何かしでかした白衣の男に興味があるようだし、俺ももう一度そいつに会いたいと思っている。
また、俺のように苦しむモンスターが現れたらいかんからな。」
「じゃあ、ボク達の仲間に…」
「ああ、俺の方から頼む。
お前らは強い。
俺のチカラを引き出し、役立ててくれ。」
バトルレックスが懇願してくる。
「分かった。これからよろしく。」
「ありがとう。俺は『レックス』。
お前らの名前は…?」
「ボクは『シエル』。」
「『ラキッズ』だ。」
「『コドラン』よ。」
「ピギー!」
ボクはピギィを抱いた。
「この子は人間の言葉は喋れないんだ。
名前は『ピギィ』だよ。」
ボクがそう言い終えたあと、ラキッズ達は倒れるように眠ってしまった。
「今日はよく頑張ってくれたからね…
おやすみ、みんな。」
仲間達の頭を優しく撫でる。
「レックス、キミも寝たほうが…」
最後まで言い切る前に、意識がなくなっていく。
「こんな夜更けに俺と戦ったんだから、無理もないか…
俺もそろそろ休むか…」
レックスも、ボク達のそばに身体を横たえた。
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翌朝、朝日と木の葉が舞う音がボクを目覚めさせた。
「起きたか、シエル。」
ラキッズ達は、もう出発の準備はできている、とでも言わんばかりの状態だ。
「お前があまりにも気持ち良さそうに眠ってたからな…
無理に起こしたら可哀想だと思って待ってたんだ。」
「ありがとう、みんな。
じゃあ、行こうか。」
ボクは、ラキッズ達の気遣いに感謝の意を述べ、出発を宣言した。
「それにしても…」
ラキッズが切り出す。
「昨日のバトルは凄かったな。
レックス、お前すげー強かったぜ。」
「そんな風に言われると、嬉しいな。
ありがとう、ラキッズ。」
「おう! 頼りにしてるぜ!」
ラキッズがボクの方に向き直る。
「シエルの指示も凄かったぜ!
お前、やればできるじゃん。」
「ありがとう、ラキッズ。」
褒められると、やはり嬉しい。
自分でも、いつからあんな的確な指示が出せるようになったのか分からない。
今までは逃げてばっかだったけど、ラキッズ達から立ち向かう"勇気"をもらったような気がする。
「あと、ハープの音色な。
レックスの洗脳を解いちまうとか、やっぱすげー!」
これについては、ボクも思っていたところだ。
『星空のレクイエム』は、ただモンスターを仲間にするだけでなく、何か他にも特別なチカラを持っているのかもしれない。
「わたしの『こおりの息』も結構凄かったでしょ?」
コドランが褒めて欲しそうに周囲に視線を向ける。
「ああ、あれのおかげでピギィが助かったんだもんな。」
「あんな特技を持っていたなんて、知らなかったよ。」
「それとピギィの『メラ』!
おかげで助かったぜ。
ありがとな、ピギィ。」
「ピギー!」
ピギィは嬉しそうに、ぴょんぴょん跳ねる。
「野生のスライムは特技を使えねえんだがな…」
ラキッズはそう言って、ボクをまっすぐに見つめた。
「シエル、お前が引き出したんだ。
ピギィに眠るチカラをな。」
「ボクが… 引き出した…」
「ああそうだ。
お前がピギィの潜在能力を引き出したんだ。」
ラキッズは話を続けた。
「どんなに強大な力を持つモンスターでも、その力のすべてを自力でコントロールすることはできない。
で、その眠れる力を呼び覚ましてやるのもまた、モンスターマスターの役目だ。」
ラキッズは少し間を置いた。
「安心しな。
シエルはちゃんとマスターの役割を果たしてるよ。」
「うん、ありがとう、ラキッズ。」
「でも、一番凄かったのって…」
今度はボクの方から、切り出してみた。
「やっぱラキッズの『はげしい炎』だと思うな。」
「あ、それはわたしも同感だわ。」
コドランはラキッズの方を向いた。
「あんた、炎を吐く前に『息をすいこむ』を使ったでしょ?」
「ああ、使ったぜ。
おかげで待たせちまったが、威力は抜群だっただろ?」
ラキッズが得意げに聞き返す。
「ええ。
威力ありすぎで、こっちまで火傷するかと思ったわ。
でもおかげで、レックスを助けられたんだし、結果オーライよね。」
みんなが、お互いの良いところを素直に評価する…
良い雰囲気だ。
昨日のことをいろいろ話しながら歩いていると、大きな建物のある場所に辿り着いた。
立て札には、こう書いてある。モンスター配合研究所
モンスターマスターの皆様、歓迎します。
本施設では、2体のモンスターを掛け合わせて、より強いモンスターを生み出すことができます。
詳しくは、中で説明いたします。
「2体のモンスターから、より強いモンスターを… か…」
ボクは呟いた。
「入ってみない?」
ラキッズ達に提案してみた。
「どうみても怪しいけど、シエルがそう言うならオレは行くぜ。」
「じゃあ、わたしも。」
「俺も行く。」
「ピギー!」
「決まりだね。」
ボク達は、見るからに怪しげな建物に入っていった。メラ火の玉を操るメラ系の呪文。
メラ系の呪文は、魔力を一点に集中させて放つため威力が高い反面、攻撃範囲が狭いという弱点がある。
そのため、標的を正確に狙う技術が必要。
『メラ』は魔法使いの入門用の呪文としても親しまれており、非常に扱いやすい呪文である。息をすいこむ補助用の特技。
この技を使用したあとに息で攻撃すると、その息の威力は通常の2倍に跳ね上がる。
ただし、この特技は効果が持続しないため、使ったあとすぐに攻撃しないと効果がなくなってしまう点には注意が必要である。
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建物の内部は、外観からは想像もつかないほど華やかなものだった。
大勢の人がソファやイスに座って、くつろいでおり、音楽まで流れている。
"研究所"らしからぬ雰囲気が立ち込めている。
ボク達は受付に向かった。
「あら、かわいいマスターさんね。
でも、実力はかなりのもののようね。」
受付嬢は、レックスを見て言った。
そして、ボクの方に向き直る。
「あなた見ない顔だけど、ひょっとして"ここ"の利用は初めてかしら?」
「はい。」
「じゃあ、説明するわね。
ここでは、♂と♀の2体のモンスターから、1体のより強いモンスターを生み出すことができるの。
これを『配合』と呼ぶのよ。
一言で言ってしまえば、"モンスターの出産"ね。」
受付嬢は、そこで一度言葉を切った。
「でも、残念なことに、生まれたモンスターが仲間になる代わりに、元の2体のモンスターとはお別れしなくちゃならないの。」
「お、お別れって…!?」
ボクは思わず声を上げた。
「そう、その子達とは、もう二度と会えなくなる…」
「そ、そんな…!」
「でもね。」
受付嬢が付け加える。
「冒険して、いろんなモンスターと出会って仲間にする…
そして、配合して別れて、また新たなモンスターと出会う…
そんないくつもの"出会いと別れ"を通じて、モンスターと一緒に、マスター自身の心も成長していくのよ。」
出会いと別れを繰り返して、ボク自身の心も成長する… か…
ボクが言葉を出せずにいると、受付嬢が先に口を開いた。
「ずっと苦楽を共にしてきた仲間と別れるんだもの…
悩むのも無理はないわ。」
受付嬢はそう言って、近くの扉を指差した。
「配合はあの扉の向こうでできるわ。
決心が固まったら、入ってみてね。」
「はい…」
ボクは近くのソファに座り込んだ。
いくら強いモンスターを仲間にするチャンスとはいえ、とても乗り気にはなれなかった。
「なあ、シエル…」
ラキッズが話しかけてくる。
「オレ、もっとお前と冒険したかったけど、配合がお前のためになるって言うなら文句は言えねえや…
シエル、オレを配合して…」
「ちょっと待ってよ!」
ラキッズが言い終える前に、コドランが口を挟む。
「さっきの人、『♂と♀を配合』って、言ってたわよ。
今、このチームにいる♀って、わたししかいないじゃない。」
コドランがボクを見つめてくる。
「シエル、わたしを配合に使って。
その代わり、お願いがあるの。」
「お願い…?」
ボクは聞き返した。
「ええ、ピギィくんと配合してくれない?」
「ピギィと…?」
ピギィはきょろきょろしている。
思い出した。
コドランを仲間にした、あの日のことを…
「分かった。でも、その前に…」
ボクはピギィの元に歩みより、しゃがんで目線を合わせた。
「ピギィ、キミとコドランを…」
「ピギー!」
ピギィはボクが最後まで言い切る前に、元気よく返事した。
人間の言葉は分からなくても、気持ちはちゃんと伝わってるんだな…
そう思った。
「決まりね。」
ボク達は扉の前まで、歩いていった。
「じゃあ、行こうか。」
ドアノブをひねる。
「おお、配合か。
で、どの子達を配合するんじゃ?」
白衣の老人が話しかけてくる。
おそらく、この人が配合をしてくれるのだろう。
コドランとピギィが前に出た。
「この子達を配合して下さい。
お願いします。」
ボクは老人に告げた。
「うむ、ではよく見ておくのじゃぞ。
新たなモンスターが生まれる奇跡を…」
老人はそう言って、両手を真上に掲げた。
と同時に、コドランとピギィの身体が、宙に浮かび上がる。
ーーやがて、2匹は光に包まれた。
その光は、次第に強くなっていく。
「さよなら… コドラン、ピギィ…」
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コドランとピギィを包み込んだ光は強い輝きを放ったあと、少しずつ弱くなった。
ーーやがて、光の中に生まれたモンスターが、その姿を現す。
背中から生えたコドランのものとよく似た翼…
体色はオレンジ色だが、顔はピギィにそっくりだ。
見事なまでに、コドランとピギィを合体させたような姿をしている。
「ほう! これはこれは…!」
配合士の老人は、生まれたモンスターを見て呟いた。
「『ドラゴスライム』の♀じゃな。」
「ドラゴスライム…?」
「このモンスターの種族名じゃよ。」
老人はそう言って、懐からメモ帳とペンを取り出した。
そして、ぶつぶつと独り言を言いながら、メモ帳に何かを書き始めた。
「なるほど…
スライムとドラゴンキッズを配合すると、ドラゴスライムが生まれるのじゃな…
配合研究を始めて40年…
モンスターとは実に不思議なものよのう…」
メモを書き終えた老人は、こちらに向き直った。
「さあ、お前さん。
早くあの子に名前を付けてあげなさい。」
老人に促され、モンスターの名前を考える。
「じゃあ…」
ボクは生まれたばかりのドラゴスライムの方を向いて言った。
「『ドラン』っていうのはどうかな?」
「『ドラン』ね…
うん、気に入ったわ。
私は今日から『ドラン』よ。」
ドランは、ゆっくりとボクの方に飛んでくる。
「な、なんと…!」
老人は驚いた様子だ。
「生まれたばかりのモンスターが喋るとは…!」
生まれたばかりのモンスターが人間の言葉を喋る…
ボクは前にも同じ光景を目にした。
ーーラキッズと目が合う。
「なあ、爺さん。
オレも生まれてすぐに人間の言葉喋れたぜ。」
ラキッズが老人の方を向いて言った。
「何と…!」
老人は再び驚き、ラキッズの頭にそっと触れる…
その瞬間、老人の表情が変わった。
「こ、この子は…!!」
老人は、目を大きく見開いた。
「何だよ、どうしたんだよ、爺さん…」
「お主は"普通のドラゴンキッズ"ではない。」
それを聞いたラキッズは、顔が真っ赤になる。
「当たり前だろ!
オレはそこらのドラゴンキッズとは、格が違うんだよ!」
「違う違う、そういう意味ではない。」
老人はラキッズが落ち着いたのを確認して、続けた。
「お主の遺伝子構造は、明らかにドラゴンキッズのものではない。」
「いでんしこーぞー…?
何言ってんだ、爺さん…?」
ラキッズは首をかしげて聞き返す。
「ああ、話が難しかったかの。
簡単に言ってしまうとだな…」
老人は続けた。
「お主を配合すると、とんでもなく強いモンスターが生まれるかもしれんのだ。」
そして、老人はまっすぐにボクを見つめ、こう言ってきた。
「頼む! このドラゴンキッズを配合してくれ!
モンスター研究界の常識を覆すような結果になるかもしれんのだ!!」
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「ええっと…」
ボクは少々戸惑って続けた。
「今、ボクのチームにいる♀のモンスターって、生まれたばっかりのドランだけなんですが…」
「えっ、そうなの?
生まれたばっかりのモンスターじゃ、配合は無理じゃのぅ…」
老人は残念そうに顔をしかめる。
「やっぱオレは遠慮しとくぜ、配合…」
ラキッズは、ボクの頭の上に飛び乗った。
「オレ、シエル達と一緒に冒険するの、すげー楽しいんだよ…」
ラキッズがボクと同じ目線に降りてくる。
「さっきは『オレを配合してくれ』みたいなこと言っちまったけどよ…
やっぱオレ、もっとお前と一緒にいたい。
だから…」
「そうか…
まあ、モンスターが自分の意思でそう言うなら、仕方ないのぅ…」
老人がラキッズが最後まで言い切る前に、話を飲み込んでくれたようだ。
老人の視線が、ボクとラキッズに向けられる。
「お主らからは、何やら強い絆のようなものを感じる。
将来、凄いモンスターマスターになるんじゃないかのぅ…」
老人が呟いた。
老人は、再びボクの方に向き直る。
「そうそう、さっき言い忘れておったが…」
そう言って、今度はドランの方を向いた。
「ドランは、いわばドラゴスライムのハイブリッド版じゃ。
野生のドラゴスライムより、強い。
今はまだ特技を何も使えんが、成長すれば、ドラゴスライムが覚える特技に加えて、両親が覚えていた特技も思い出して使えるようになるんじゃ。」
「コドランは『こおりの息』を、ピギィは『メラ』を使えたから、ドランはその両方を使えるようになるってことですか?」
ボクは確認のため、質問した。
「そういうことじゃ。
まだ配合するかの、と言いたいところじゃが、♀のモンスターはドランしかおらんのじゃったな。」
「はい。」
老人はボク達全員に、順に視線を移してこう言った。
「うむ、では強いチームになるよう、頑張りなさい。
応援しとるよ。」
「はい。配合、ありがとうございました。」
ボクは配合士にお礼の言葉を述べ、配合研究所をあとにした。
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配合研究所を出て、30分ほど歩いた頃だった。
ーー北の方に大きな山が見える。
その頂は、黒煙を巻き上げている。
「グランデラ山…」
ボクが山の方を眺めていると、レックスが呟いた。
「グランデラ山…?」
「灼熱地帯を好む魔物が多数生息している活火山。
そして…」
レックスは、そこで言葉を切る。
「そして…?」
「…俺の生まれ故郷だ。
俺はあの山で生まれ、平和に暮らしていた。
白衣の男に声をかけられるまでは…」
「ちょ、ちょっと!
レックスが白衣の男に声をかけられた場所って、あの火山なの?」
ボクはレックスに聞いてみた。
「いかにも、そうだが…」
「レックス、それ、わりと重要な情報だぜ。」
ラキッズが口を挟む。
「お前が操られてしまった場所がグランデラ山なら、まだいるかもしれないぜ。
それ"白衣の男"とやらが…」
ラキッズが続けた。
「白衣の男に声をかけられたのはだいぶ前だから、あの男がいるかどうかは分からんが、手がかりぐらいは残ってるかもしれんな…」
「よし、じゃあ善は急げだ。
早いとこ、あの火山に行こうぜ。」
ラキッズはやる気満々だ。
「そうだね。
レックスを操った奴と、パロット村の人々を消し去った奴も、何か関連性があるかもしれないし…」
ボクはそこで一度言葉を切り、続けた。
「何より、レックスがあんなことされたんだ。
許しておけないよ!」
ボクはみんなに向かって言った。
「シエル、お前言う時は言うじゃねえか!
おうよ!
仲間を傷付ける奴は、このオレがただじゃおかねえ!
行くぜ!」
ラキッズはボク達の返答を待たずに、グランデラ山に向かって飛んで行った。
ボク達は、そんなラキッズの後ろ姿を追いかけていった。
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火山のふもとに辿り着いた一行。
「おい、ちょっと来いよ!」
ラキッズが岩山の斜面の方を見ながら、みんなを催促する。
ボクはラキッズのもとに行き、その視線の先にあるものを見た。
ーー中に入っていけそうな洞窟がある。
「中に入れそうだぜ。行ってみるか?」
ラキッズがボクに問いかけてくる。
「…うん。」
「ちょっと待て。」
レックスがボク達を引き止めようとした。
「どうしたんだ?」
ラキッズが聞き返す。
「いや、その…」
レックスは口ごもってしまう。
ラキッズはレックスの顔の真正面まで飛んでいった。
「安心しろよ。
お前がまたおかしくなったら、オレらが止めてやるよ。」
「いや、しかしだな…
お前らまでおかしくなったら、それこそ大変なことに…」
「大丈夫だって。
オレらの絆は、そんなふざけた術では断ち切れねえほど固いんだよ。
今度はお前ひとりじゃない、みんながついてる…」
ラキッズはそこで一度言葉を切り、ボクの方に向き直った。
「…だろ? シエル。」
「…うん。」
ボクはレックスの方を向いた。
「一緒に行こう、レックス。」
レックスはかなり戸惑った様子だったが、やがてこう言った。
「分かった。」
「よし、じゃあ行くぜ。」
ラキッズが薄暗い洞窟の中に入っていく。
ボク達も、そのあとに続いて洞窟に入っていった。
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ーー熱い…
奥に進めば進むほど、乾いた熱い空気が身体を焦がしてくる。
やがて、大きな空洞に出た。
崖下から、燃えるような赤い光が上がっている。
ボクは崖下を覗き見た。
ーー灼熱の溶岩…
それは洞窟のさらに奥から流れてきているようだ。
煉獄の炎の河の上流に目をやる。
すると、さらに奥に進めそうな場所を発見した。
「あそこから、もっと奥に進めるんじゃないかな…?
行ってみない…?」
ボクはみんなに提案した。
「行こうぜ。」
ラキッズが言った。
そして、レックスとドランも賛同してくれた。
ボク達は、さらに奥へと歩を進める。
「さすがに火山の中は暑いわね…」
ドランが少々息切れしたような感じで言う。
「ドラン、大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。」
ザブン…
水から何かが飛び跳ねるような音がした。
ボクが振り返ると、溶岩の中から突然モンスターが飛び出してきて、ボクとドランに飛びかかってきた。
「シエル! ドラン! 危ない!」
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ボクはとっさにドランを抱え、魔物の攻撃を横に回転して回避した。
魔物はさっきまでボクが立っていたあたりの地面に激突した。
ジュッっという音と共に、細い煙が上がる。
ボクは落ち着いて魔物の姿を改めて見た。
ーー炎の魔物…
いや、炎そのもののような姿をしている。
「テメー、オレの仲間に何てことしやがる!!」
ラキッズはボクの指示を待たずに、"はげしい炎"を吐く構えを見せた。
「ラキッズ! よせ!」
レックスがラキッズを止めようとする。
ーーしかし、遅かった…
ラキッズの吐く炎は魔物に命中したが、魔物はダメージを受けるどころか、以前よりも元気そうになっている。
「このモンスターの名は『フレイム』
溶岩の中に生息する炎のモンスターだ。」
レックスは魔物の名をボクに教えたあと、ラキッズの方に向き直った。
「こいつの身体の90%以上は炎でできている。
炎の攻撃は、こいつらにとっては逆にエネルギー源になるんだ。」
「なっ、何だって!?
じゃあ、どうすれば良いんだよ…?」
ラキッズが聞き返した。
「炎以外の攻撃を使うしかない。」
「はげしい炎は使えねえのか…
オレ、アレ以外の特技持ってないから、ガチンコの殴り合いってわけだな。
おもしれえ…!」
ラキッズはボクの方に向き直った。
「シエル、早速指示を頼むぜ!」
「うん!」
-
「ラキッズ! 体当たりで攻撃!」
「おう!」
ラキッズが、フレイムに体当たりをしかける。
「あっちーッ!!」
しかし、フレイムの身体に触れた瞬間、ラキッズは飛び上がった。
ラキッズの黄色い身体に、火傷の跡が残る。
「シエル! こいつに直接攻撃は無理だぜ!
逆にこっちがダメージを受けちまう…」
「こっちがダメージか…」
ボクは考えを巡らせた。
はげしい炎は使えない…
直接触れるのも駄目…
…となると、レックスの斧で攻撃するしか…
「次はこっちから攻撃させてもらうぜ。」
ボクが判断に迷っていると、フレイムが先に攻撃をしかけてこようとする。
「まとめて焼き尽くしてやる!」
フレイムは大きく息を吸い込んだ。
ーー見覚えのある構え…
そう、ラキッズが"はげしい炎"を吐く時のそれに似ている。
「みんな、かわして!!」
危険を悟ったボクは、とっさに指示を出す。
レックスとドランは、すぐ近くの岩陰に隠れた。
だが、火傷を負ったラキッズは、逃げ遅れてしまった。
「うりゃぁぁ!! くたばりやがれぇぇ!!」
フレイムは大声で叫んで、はげしい炎を吐き出した。
ただでさえ暑い火山内に、さらなる熱気が巻き起こる。
ボクは両腕を顔の前でクロスさせ、とても目を開けてはいられないほどの強烈な熱風から身を守った。
フレイムのはげしい炎は、辺りを燃え盛る火の海にして…
ーーそして、その炎は、ラキッズを包み込んだ。
-
「ラキッズーーッ!!」
ボクは目を覆いながら、大声で"相棒"の名を呼んだ。
しかし、返事がない。
やがて、まともな視界を取り戻したボクは、息を呑んだ。
ーーラキッズが…
さっきまで、あんなに元気だったラキッズが…
ぐったりとして、地面に横たわっている。
ボクはすぐにラキッズのもとに駆け寄り、その身体を抱いた。
「ラキッズ! ラキッズ!」
いくら呼びかけても、やはり返事はなかった。
ーーしばらく、その場から動けなかった。
「まずはチビ竜を一匹仕留めてやったぜ…!
ひっひっひっ…!」
フレイムは、そんなボクを嘲笑い、辺りを見回す。
「さて、次はどいつから痛めつけてやろうか…?
斧竜からにしようか…?
スライム竜からが良いだろうか…?
それとも…」
「…許さない……」
「あん?」
「お前は、絶対に許さない…!!」
ボクはフレイムを睨みつけた。
「ひっひっひ…
そうか、おもしれえ…
決めたぜ…!」
フレイムは、一瞬間を置いて続けた。
「人間のガキ!
次はお前を丸焼きにしてやる!!」
フレイムはそう吐き捨て、ボクに飛びかかってきた。
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レックスがボクとフレイムの間に割り込み、ボクを庇った。
「何をボケっとしている!
早く指示を出してくれ!」
レックスはボクを真剣な眼差しで見つめ、そう言った。
「ひっひっひっ!」
続け様に、フレイムが攻撃をしかけてくる。
ーーしめた…!
「レックス、斧で反撃!」
「なるほど、カウンターか! よし!」
レックスは手に持った斧で、フレイムをなぎ払った。
斧は見事にフレイムの身体にヒットする。
「ぎゃぁぁぁぁ…!!」
フレイムが叫び声を上げる。
ーーしかし…
「なーんちゃってな!」
フレイムは全くダメージを受けていないかのような様子だ。
「確かに当たったのに、どうして…?」
ボクは戸惑いを隠せなかった。
「ひっひっひ、バカなガキだぜ!
実体を持たない俺様に、そんな攻撃は通用しねえんだよ!
ひっひっひ、もう打つ手なしか?」
フレイムは馬鹿にしたように、大声で笑う。
レックスの斧も駄目なら、一体どうすれば…
様々に考えを巡らせる。
だめだ…
全く良い戦略が思い浮かばない…
相手は1体しかいないのに、ラキッズがいないだけで、こんなに戦いが辛くなるなんて…
ーーそうだ。
ボクは今まで、ラキッズに頼りすぎていたんだ…
今までのバトルでは、みんなラキッズのおかげで勝利できていた。
しかし今、ラキッズは戦えない。
だから、レックスとドランだけで戦術を組み立てないといけない。
…ドラン?
そういえば、ドランって…
ボクの頭に、ある考えがひらめいた。
上手くいくかどうかは分からないけど、懸けてみよう。