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どうも。白井稲妻です。
…(^_^;)
またまたネタを思い付きました。
今度は『DQM(ドラゴンクエストモンスターズ)』のオリジナルエピソードを書いていこうと思います。
また、この物語はフィクションです。
実在する人物・団体とは一切関係がありません。主要登場人物紹介シエル・クライオスモンスターマスターとして旅立つ12歳の少年。
本作の主人公。
青いバンダナとハープがトレードマーク。ラキッズ♂のドラゴンキッズ。シエルの相棒。
通常のドラゴンキッズと違い、何か"特別なチカラ"を持っているらしいが…ジェームズ・クライオスシエルの父親。通称『クライオス博士』
著名なモンスター研究者。アルト・クリントンクライオス博士の助手。
面倒見の良い女性で、シエルのことはいつも気にかけている。イジュール・ウェイザークライオス博士の知り合いで、著名な科学者。
しかし『マッドサイエンティスト』とも噂されている。Sherry(シェリー)シエルにラキッズのタマゴを託した謎の少女。
その目的は不明。※リンクをクリックして下さい。目次
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ーーボク達の手に、世界の命運がかかっている…Prelude…
戦慄の前奏曲…
何度もプレッシャーに負けそうになったけど、それでもここまで戦い抜いてきた。
今は仲間達と自分の力を信じ、戦うしかない。
ボクはバンダナを結び直し、自分に喝を入れた。
と同時に、「選手入場」の合図が鳴り響く。
ボク達は戦慄のバトルステージへの階段を駆け上がった。
眩しい光…
鼓膜を突き破るほどの観客達の歓声…
ーーオルティアナ・マスターリーグ…
この島のモンスターマスターなら、誰もが憧れを抱く夢の舞台。
その夢の舞台に、ボク達は今立っている。
『これより、
エルモスシティ・セントラルタワービル完成記念!!
オルティアナ・マスターリーグの開会を宣言します!!』
主催者のこの台詞と同時に花火が上がり、歓声がさらに沸き起こった。
みんなにとっては、自分自身の名誉を懸けた戦い…
そしてボク達にとっては、世界の命運を懸けた戦い…
満天の星空に見守られし今宵…
その戦いが幕を開けようとしている。ーー夜はまだ明けない…to be continued… -
青空に舞うカモメ達の声…Chapter 1
出会いと旅立ちの第1楽章…
きらめくさざ波の音…
大海が奏でる旋律の中で、ボクは目覚めた。
ふと、机に置いてあったハープに目をやる。
どこで手に入れたのか知らないけど、記憶喪失の自分が唯一持っていた"ボクの宝物"。
ボクはそれを手に取り、弦を弾いた。
上手くは弾けないのだけれど、その音色はいつもボクの心を落ち着かせてくれる。
「シエル! 島が見えたぞー!」
聞き慣れた父の声が、デッキから聞こえた。
ボクはハープを手に、船のデッキに出た。
「どうだ、よく眠れたか?」
「うん、ちょっと酔っちゃったけど…」
「そうか…」
父は船が進む先を指差した。
その先に島らしき陸地が見える。
「見えるか?
あの島が今日から私達が暮らすことになる
『オルティアナ島』だ。」
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「以外に大きな島だね。」
「ああ、あそこは助手のアルト君の生まれ故郷でね。
モンスターの研究をしたいなら、丁度良いんじゃないかと勧められたんだ。」
「そうなんだ…」
ボクはオルティアナ島の方角をしばらく眺めていた。
「まあ、島に着くまではまだ時間がかかるから、しばらく休んでいなさい。」
父がこう言ってきたので、ボクは再び船室に戻り、身体を横にした。
心地よいさざ波の声が、ボクを眠りの世界へといざなった。
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「おーい、シエルー!
着いたぞー!」
父の声が聞こえた。
どうやらオルティアナ島に着いたようだ。
ボクはハープを手に取り、船のデッキに出た。
ーー時は既に黄昏…
海原は夕陽を反射し、宝石のように輝いている。
「久しぶりだね、アルト君。
2年ぶりだろうか?
どうだい、その後の研究は?」
父の話し声が聞こえたので、ボクはそちらに目をやった。
「お久しぶりです、クライオス博士。
ええ、研究の方は比較的順調ですよ。
この島は生息するモンスターが豊富なので、研究もはかどります。」
少し間を置いて、アルトが続けた。
「それにしても、遅かったですね…
何かあったのですか?」
「いやぁ、乗船手続きに手違いがあってね…
それで、到着が遅れてしまったんだ。
待たせて済まなかったね。」
「いえいえ、この街には暇つぶしできる場所なんて、たくさんありますから…」
一瞬、アルトと目が合った。
「あらシエルくんじゃない。
こんばんは。久しぶりね。
私のこと、覚えてる?」
「こんばんは。
いつもボクのこと、可愛がってくれたから、覚えてるよ。」
「まあ、嬉しい!
今日からはシエルくんとも一緒に生活することになるから、よろしくね!」
「あ、はい!
よろしくお願いします。」
「それじゃあ、クライオス博士。
ここで立ち話をするのもアレなので、そろそろ研究所の方に向かいませんか?」
アルトは、波止場の倉庫の前に止めてあるビークルを指差した。
「おお、そうだったな。
では、早速君の研究成果を拝見させていただこうかな。」
「ええ、楽しみにしていて下さい。」
ボク達はアルトのビークルに乗り込んだ。
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ビークルはネオンが眩しい大都会の中を、縫うように駆け抜けていく。
街の中央には、天を貫くようにそびえる高層ビルが建っている。
どうやら、まだ建設中のようだ。
やがてビークルは街を出て、森の中に入った。
その数分後、緑が豊かな小さな村に着いた。
「着きましたよ。
私の生まれ故郷『パロット村』にようこそ!」
アルトはそう言って車を止めた。
パロット村に着いた時は、もう夜になっていた。
「あそこが私の研究所よ。
私についてきて下さい。」
アルトはおしゃれな家を指差し、そこに向かって歩き出した。
ボク達も、そのあとに続く。
父とアルトは、ずっと何か話している。
アルトにいざなわれて辿り着いたのは、見たこともない機械が並ぶ部屋。
「ああ、そうだ。
シエル、2階の部屋が空いているらしいから、今日はそこで休みなさい。」
父にそう言われたので、ボクは2階に上がっていった。
しばらくして、1階から父とアルトの話し声が聞こえてきた。
多分、アルトの"研究成果"について、話しているのだろう。
ボクは床に耳を当ててみた。
『マ素』や『マデュライト』という言葉はかろうじて聞き取れるが、他は全く聞こえなかった。
それにしても今日はちょっと疲れたな…
ボクはベッドに向かい、横になった。
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ーー眩しい…
窓から入ってくる日差しが、ボクの顔面を直接照りつけた。
ボクは身体を起こした。
何時間ぐらい眠っていたのだろうか?
1階が何やら騒がしい。
ボクは様子を見に行くことにした。
「おお、シエル。起きたか。
よく眠れたか?」
「うん、何か騒がしかったから降りてきたけど、今日はどこかに行くの?」
「ああ、昨日ここに来るまでに大きな街を通っただろ?
あそこは『エルモスシティ』と言ってな、この島で一番の大都会なんだ。
私はあの街で開かれる学会に呼ばれているんだが、お前も来るか?」
「えっ?」
ボクは戸惑った。
そもそも自分のような子供が学会に行っても…
しかし、この疑問に対する回答は以外にも早く出た。
「いや、アルト君から聞いた話なんだが…
お前のような子供達に"モンスターのタマゴ"を配布するイベントが催されるらしくてな、ひょっとしたら興味があるんじゃないかと思ってな。」
ーーモンスターのタマゴか…
興味はあるが、同時に不安もあった。
果たして自分にモンスターを育て上げることができるのだろうか?
しばらくの沈黙のあと、ボクは答えた。
「ボクも行くよ、父さん。」
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会場は大勢の人で溢れかえっていた。
自分と同じぐらいの年頃の子供もたくさんいる。
「それじゃあ、父さんは学会に行ってくるから、お前はタマゴを貰ってきなさい。」
「さっき受け付けの人に聞いたが…」
父は子供達が群がっている場所を指差した。
「タマゴはあそこで貰えるらしいから。」
「うん、じゃあ学会頑張ってきてね。」
「ああ、お前も良いタマゴが貰えると良いな。」
この言葉のあと、ボク達は一旦別れた。
とりあえず、タマゴを貰いに行くか…
ボクは子供達がいる方に、歩を進めた。
「さあ、順番に並んで! 押さないでね!」
タマゴ鑑定士のお姉さんが、子供達に催促する。
ボクは列の一番後ろに並んだ。
10分近く並んでいるが、一向に前に進まない。
ーーその時、背後から誰かに肩を叩かれた…
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寒気がした。
ボクはゆっくりと振り返る。
目の前に立っていたのは、自分と同い年ぐらいの少女だった。
金髪が特徴的で、クールで大人びた雰囲気。
第一印象はそんな感じだ。
ひょっとしたら、ボクより年上なのかもしれない。
ただ、不思議なことに、以前この少女に会ったことがあるような気がした。
今初めて会った人なのに、どうしてなのだろうか…?
「あの… ボクに何か用ですか…?」
ボクはおそるおそる尋ねた。
「『シエル・クライオス』って、あなたのことよね?」
少女が尋ね返してくる。
ーーボクは返答に戸惑った。
確かにボクは『シエル・クライオス』だけど、初対面の人に本当のことを言ってしまって良いのだろうか?
そもそも、この人はどうしてボクの名前を知ってるんだろう?
有名なモンスター研究者である父さんの名前ならともかく、どうしてボクの名前を…?
ボクが返答にためらっていると、少女はいきなりボクの腕を引いて、人気のない場所に連れていった。
途端に恐怖心が込み上げてくる。
まさかこの人、ボクを誘拐する気なのだろうか?
「ちょっと! いきなり何するんだよ!」
ボクは声を上げた。
「しっ! 静かにしなさい!」
少女はボクの口に手を当て、黙らせた。
「私のことが信用できないから、あなたは応えに躊躇したんでしょうけど、あなたが『シエル』であることは分かってるわ。」
「えっ!?」
「私はあなたを知っている。
ずっと前から…」
少女はさらに続けた。
「そしてあなたも私を知っているわ…」
「ちょっ、どういうこと!?」
少女はボクの言葉を遮り、大きなプラスチック製の容器を取り出し、ボクに手渡した。
中にはモンスターのタマゴらしき物体が入っている。
「今は詳しくは言えないけど、"この子"はあなたにしか育てられない。
この子をあなたに託すわ…」
少女はそう言って、ボクの前から走り去ろうとした。
「ちょ、ちょっと!」
ボクは状況を整理するので精一杯だった。
とっさに彼女を呼び止める。
すると彼女は振り返り、こう言った。
「…Sherry……」
「えっ?」
「Sherry(シェリー)…
それが私の名前よ…」
彼女は最後にそう言い残し、ボクの前から姿を消した。
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『シェリー』と名乗る少女が去ったあとも、ボクはオロオロしていた。
というか、このタマゴどうしよう?
ボクに託すって言ってたけど、本当に貰ってしまって良いのだろうか?
それにしてもあのシェリーって子、様子が普通じゃなかったな…
『この子はあなたにしか育てられない』
シェリーは確かにボクにそう言った。
一体どういう意味なのだろうか?
ともあれ、いくら考えても答えが出そうになかった。
ボクの手にある"このタマゴ"から産まれてくる子のことも考えると、とりあえずは彼女の言葉を信じた方が良いのかもしれない。
それに…
これは飽くまでもボクのカンなんだけど、シェリーは悪い人だとは思えないし…
そうこうしているうちに、父が学会を終えて戻ってきた。
見知らぬ男も一緒だ。
「イジュール、また研究の話を聞かせてくれよ。
君は少々やり過ぎるところがあるんだがな…
まあ、だからこそ、それ相応の研究成果が出せるんだろうな。
お互い、頑張ろうな。」
「ああ、研究は私にとっては本能そのものだからな…
ついつい熱くなってしまうんだ。」
イジュールと呼ばれた男と視線が合った。
「おやおや、可愛い息子さんがお迎えのようだね。
では、私はこれで。」
「ああ、またな。」
イジュールは去っていった。
父がボクに向き直る。
「おお、シエル、無事にタマゴを貰えたようだな。」
父の言葉で、ボクはここに来た本来の目的を思い出した。
ああ、そうだ。
ボクはモンスターのタマゴを貰いに来たんだった。
父さんは、このタマゴが配布されたものだと勘違いしているようだ。
とりあえずは、このタマゴを貰ったということにしておくか…
「うん、どんな子が産まれるか、楽しみだな。」
ボクはそう答えた。
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パロット村に戻った時は、もうすでに日が落ちていた。
少々曇りがかった、淀んだ雰囲気の空が辺りに闇を落としている。
ボク達はアルトの研究所に戻り、夕食を食べた。
2階の自室に入る頃には、すでに10時過ぎになっていた。
ふと、窓の外の景色を眺める。
すると、先ほどの曇りは晴れて、美しい星空が姿を現していた。
ボクはシェリーから託されたタマゴを容器から出した。
そして抱きかかえてみる。
「確かタマゴって、こうやって温めると良いんだよな。」
ボクはベッドに転がり込んだ。
ーー芽吹く生命(いのち)の結晶を抱きしめたまま…
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眠りに落ちてから、何時間ぐらい経ったのだろうか?
まだ、夜は明けていない。
胸の辺りで、何かがうごめく。
ボクは目を開いた。
するとどうしたことだろう。
タマゴがピクピクと動いているのだ。
孵化の時が近いのだろうか?
それにしても、昨日貰ったばかりのタマゴなのに、孵化するのは早すぎじゃないか?
様々なことを考えているうちに、タマゴは小さな音を立て、少しずつその表面にヒビを走らせていく。
ボクはその様子を、じっと見守った。
ピキピキ…
小さな音と同時に、殻の破片がシーツの上に落ちる。
ーーやがて、タマゴは完全に割れ、中からひとつの"生命"が姿を現した。
ボクの目の前で、新たな生命が生まれた。
「生命の神秘」とは、このことを言うのだろう。
ボクは産まれたモンスターをよく見てみた。
どうやら、ドラゴンの子供のようだ。
この種族は以前図鑑で見たことがある。
『ドラゴンキッズ』
それが、今ボクの目の前にいるモンスターの種族名だ。
キッズ(子供)とはいえど、ドラゴンだ。
未知なるポテンシャルを秘めているのは、間違いないだろう。
「ふぎゃあぁ…」
ドラゴンキッズは、あくびとも取れる鳴き声を上げた。
ーーそして、ボクの方を向いてきた。
曇りなき、星空の夜のことであった…
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「ふぎゃ?」
ドラゴンキッズは、ボクの顔を見て頭をかしげている。
ボクはその頭を優しく撫でた。
ドラゴンキッズは気持ち良さそうにじゃれついてくる。
ボクはドラゴンキッズを抱きしめて、ふと思った。
そうだ、この子に名前をつけないといけない。
「ねえ、ボク、キミに名前をつけたいんだけど…
どんな名前がいい?」
ボクはドラゴンキッズに尋ねてみた。
「さあな…
まだ産まれたばかりだし、いきなりそんなこと聞かれてもな…」
「あはは、そうだよね…」
数秒後、ボクは我に返った。
…!? この子、今喋ったよね!?
産まれたばかりなのに、普通に言葉を話せるなんて…
これも、モンスターが持つ能力のひとつなのだろうか?
「ねえ… キミ、喋れるの?」
「当たり前だろ!
オレはそこらのモンスターとは、一味も二味も百味も違うんだよ!」
「あ、ごめん、怒らせちゃった?」
「いや、別に…
で、お前が今日からオレの"マスター"か…
まっ、オレのような心強い仲間がいれば安心だぜ。
よろしくな。」
それにしても、こいつ態度でかいな。
シェリーはボクにしか育てられないって言ってたけど、現段階ではボクとこの子の相性は最悪な気がする。
というか、"マスター"って何だ?
ボクは早速、この疑問をぶつけてみた。
「あの… 『マスター』って何?」
「はあ? 冗談じゃないよな?
お前本当に知らないのか?」
「う、うん…」
「しゃーねーな…
じゃあ、オレが直々に教えてやるから、よーく聞いておくんだぞ。
"マスター"っていうのはだな、『モンスターマスター』の略称だ。
で、そのモンスターマスターはな、いろんな場所を旅してオレのような強えモンスター達を集めてチームを作り、他のモンスターマスターと戦って腕試しをする。
これが『モンスターマスター』だ。
分かったか!」
「う、うん…」
何でボクが知らないことを、産まれたばかりの"こいつ"が知ってるんだろう?
態度はでかいけど、やっぱ只者じゃないな、こいつ…
「何か頼りねえな…
まあ、いいや。
これからよろしくな、"相棒"!」
「うん、よろしく!」
ボクは元気良く返事した。
ーー相棒…
その余韻はいつまでもボクの心に響いていた。
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「う、うーん…」
朝日がボクの顔に降り注ぐ。
また新しい一日の始まり。
そばに目をやると、夜中に孵化したばかりの"相棒"も目を覚ましたようだ。
「ふぎゃあ、よく寝たな…
お、もう起きてたのか。」
「うん、まあね。」
そうだ、タマゴが孵化したことを父さん達に報告しよう。
きっと、ビックリするだろうな。
ボクはそう思い立つと同時に、相棒を抱きかかえ、階段を駆け降りた。
「あら、シエルくん、もう起きたの?
ってまあ!」
アルトさんは、ボクの腕の中でうずくまるドラゴンキッズを見て、かなり驚いた様子だった。
「この子、あのタマゴから産まれたのね!」
「うん、夜中にタマゴから孵ったんだよ。」
「そうだったの。
この子は『ドラゴンキッズ』ね。
身体は小さいけど、頼れるモンスターよ。」
腕の中の相棒が、誇らしげに顔を上げる。
「そうだろ、そうだろ。
オレって、やっぱすげーモンスターだろ。」
喋るドラゴンキッズを見て、アルトはさらに驚いた様子だ。
「まあ喋れるなんて… 凄いわ…
私、モンスター研究始めて長いけど、産まれた数時間後に喋るモンスターを見たのは、これが初めてよ。
きっと凄い子に成長するわ。」
アルトさんが相棒の頭を撫でる。
とても気持ちが良さそうだ。
ふと、気になった。
父さんの姿が見当たらない。
そこで、アルトさんに聞いてみることにした。
「ところで、アルトさん。
父さんはどこにいるの?」
「研究室にいるんじゃないかしら?
せっかくだから、その子を見せにいってあげたら?
きっと喜ぶわよ。」
「うん、そうするよ。」
ボクは廊下に出て、研究室を目指した。
「なるほどな、そういうことな。」
突然、相棒が話し出す。
「な、何が、"そういうこと"なの?」
「いや、いきなりオレを抱きかかえて走り出すから、さすがのオレもちとビックリしたぜ。
で、お前の親父さんがこの先にいるんだな?」
「うん。ボクの父さんはね、有名なモンスター博士なんだ。」
「おっ、そいつは楽しみだな。」
互いに話し合っているうちに、研究室の扉の前に辿り着いた。
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「この扉の向こうに親父さんがいるんだな?」
「そうだよ。」
ボクはそう言って、ドアノブをひねった。
ーーしかし、そこに父の姿はなかった…
「何だよ、いねーじゃんかよー…」
相棒が不機嫌そうに言う。
「別の部屋にいるのかな?
父さん、何も言わずに外に出ていったりしないから、きっと家の中にいるはずだよ。
捜してみよう。」
ボクたちは、家じゅうの部屋を回ったが、父の姿はどこにもなかった。
「結局、どこにもいねーじゃんかよー
お前、本当のこと言ってんだろうな?」
相棒はかなりご立腹のようだ。
「うん、本当だよ。
何か急用でもあったのかな…?」
ボクが困っていると、相棒が突然口を開いた。
「なあ、オレさっきから、すげー嫌な予感がするんだが…
さっきの姉ちゃんのところに戻った方が良いんじゃないか?」
さっきの姉ちゃん…?
ああ、アルトさんのことか…
でも、どうしてそんなこと言うんだろう…?
ーー先に口を開いたのは、相棒だった。
「お前の親父さん、"有名なモンスター博士"なんだよな…?
だとしたら、親父さんが持つモンスターに関する技術や知識を悪用しようとしている連中がいるかもしれん…」
相棒は少し間を置いて、続ける。
ボクはじっとそれを聞いていた。
「さっき研究室に着くまでの間、お前といろいろ話したが…
あの姉ちゃん、親父さんの助手なんだよな…?
もしこの一連の出来事に事件性があるとしたら、さっきの姉ちゃんも危ねえぞ。」
…!!
確かにこいつの言う通りだ…!
可能性としては、十分あり得る。
ボクは相棒を抱きかかえ、アルトがいる部屋を目指して走った。
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ーーアルトさんも姿を消していた…
「ひょっとしたら、別の部屋にいるかも…
捜すの手伝って!」
ボクは相棒と二手に分かれ、再び家じゅうを駆け巡った。
しかし…
アルトさんの姿は、やはりどこにもなかった…
ーー相棒の言う通りだった…
くそぅ… もう少し早く気付いていれば…!!
相棒がボクに話しかけてくる。
「親父さんは分からねえが、姉ちゃんの方はまだいなくなってから時間があまり経ってねえ。
今なら追いつけるんじゃないか?」
「でも、どこへ向かってるのか分からないふたりを、どうやって追いかけるの?」
「そりゃ… まあ、そうだよな…」
流石の相棒も困った様子だ。
「あっ、そういえば…!!」
急にあることを思い出した。
「どうした、何か思い当たることでもあるのか?」
「関連性があるかどうかは分からないけど、キミのタマゴ、シェリーっていう女の子から貰ったんだ…
『あなたにしか育てられない』って言ってた。」
「意味深だな。
まあとにかく、お前は一刻も早く旅立たねばならねえようだな。」
「えっ?」
「お前は、このオレを仲間モンスターに加えた。
その時から、お前はモンスターマスターだ。
そのシェリーって奴が何者かは分からねえが、お前とオレがこれから起こり得る良くない出来事を阻止するカギになっているのかもしれねえ。」
ボクは焦った。
いきなり旅に出ろなんて言われても…
ボクが悩んでいると、相棒が喝を入れてくる。
「悩んでる暇はねえぞ。さっさと荷物まとめろ。
まあ、不安なのは分かるが、お前は"ひとり"じゃねえんだよ。
"オレ"がいるだろ…?」
ーーひとりじゃない…
幼少期から人見知りが激しく、周りに打ち解けるのが苦手なボクにとって、この言葉はボクの胸に重く響いた。
そして…
その言葉で、ボクは決意を固めることができた。
「分かった。
今すぐ準備するから、ちょっと待ってて。」
ボクは自室に行き、バッグと"宝物"を取ってきた。
相棒の前に旅支度を整えた姿を見せると、不思議そうな目でボクを見つめてきた。
「…? 何だその楽器は?」
相棒は、ボクが背負っているハープを見て言った。
「これはね、ボクの宝物なんだ。」
「ふーん、重たくないか?」
「ううん、全然。
いつも持ち歩いているから…」
「そうか。忘れ物はないな?」
ボクはバッグの中を確かめた。
薬草、ゴールド(お金)など、必需品が全て入っている。
そして、答えた。
「ないよ。さあ、出発しよう。」
「おう!」
ボク達は、研究所の外に出た。
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外に出た瞬間、ボク達は再び息を飲んだ。
ーー村人が、一人残らず消えている。
「ねえ、これって…」
ボクは震える声で呟いた。
「ああ、村人が全員さらわれたようだな。
急がねーとマズイ。」
「う、うん…」
得体の知れない"敵"に襲われる恐怖心が、ボクを包み込む。
ーーでも、怖がってはいられない。
ボクは勇気を振り絞り、相棒に言った。
「行こう、相棒! 外の世界へ!」
それを聞いた相棒は、嬉しそうにボクの頭に飛び乗った。
「おうよ! オレのパートナーはそうでなくちゃな。」
「ところで…」
ボクはあることを思い出した。
「キミに名前をつけるのを忘れてたね。
どんな名前がいい?」
すると相棒は、こう言ってきた。
「お前がつけてくれるんなら、どんな名前でもいいや。
とびっきりカッコイイ名前を頼むぜ。」
とびっきりカッコイイ名前…
そう言われても、すぐには思いつかない。
まてよ…
この子の種族名は『ドラゴンキッズ』
ドラゴンキッズの種族名をもじって、『ラキッズ』なんてのはどうだろう?
ボクは早速この名前を提案した。
「ねえ、『ラキッズ』っていうのはどうかな?」
「ラキッズかぁ…
まあ、あんまりカッコイイ名前とは言えねえが、気に入ったぜ。
よし、オレは今日から『ラキッズ』だ!」
それを聞いたボクは嬉しくなった。
そして、こう言った。
「気に入ってくれて、良かった。
ボクは『シエル』。"シエル・クライオス"。
改めてよろしくね、ラキッズ!」
「おう、よろしくな、シエル!」
無事、互いに呼び合う名を手に入れたボク達は、村の門の前まで来た。
そして、振り返る。
ここに引っ越してきてから、まだ2日しか経ってないけど、その2日でいろんな出来事があった。
ボクはそんなことを考えながら、村に別れを告げ、門をくぐった。
門から出ただけなのに、空気が村の中とは違う気がした。
ここが今日からボク達が歩んでいく世界…
小さなドラゴンを連れた少年は、ゆっくりと歩き出す。ーー星空の勇者たちの冒険譚が、今始まる…to be continued… -
村を出てから数十分。Chapter 2
廻る生命の第2楽章…
ボクはどこに向かえば良いか分からず、途方に暮れていた。
「まずは、どこに行ったらいいんだろう?」
「さあな、とりあえず近くの街に行ってみたらどうだ?」
近くの街かぁ…
ボクはバッグから地図を取り出した。
ここからだと、昨日も行った『エルモスシティ』が最寄りの街になる。
「エルモスシティがここから一番近いね。」
「じゃ、そこに行くか。」
ボク達は大都会を目指し、歩き出そうとした。
「待ちなさい。」
ーーその時、急に背後から声をかけられた。
物凄く、聞き覚えのある声だった。
ボク達は振り返った。
そこに居たのは、昨日ボクにラキッズのタマゴを渡したシェリーだった。
「シェリー!? どうしてここに?」
「あら、名前覚えててくれたのね。嬉しい。」
クールな少女は、微笑んだ。
「あなたにこれを渡しておくわ。」
シェリーはそう言って、丸めた一枚の紙を手渡してきた。
「何、これ?」
ボクはその紙を広げた。
何やら楽譜のようなものが書かれている。
ボクが紙に書かれたものを見たのを確認したシェリーは、それについての説明を始める。
「それはね、『星空のレクイエム』という曲の楽譜よ。
といっても、これは第1楽章だけなんだけどね。
シエル、あなたハープ持ってるわよね?」
シェリーが尋ねてくる。
「うん、もしかして、この楽譜って…」
「ええ、そうよ。
そのハープで演奏してごらんなさい。」
シェリーにそう言われたので、ボクはハープを取り出した。
初めて見る楽譜だし、上手く演奏できるとは到底思えないけど、頑張ってみた。
「あなた…」
シェリーは何か言いたげに語りかけてくる。
「やっぱり下手くそだった?」
ボクはシェリーに聞き返した。
すると以外な返事が返ってきた。
「いいえ…」
シェリーは一瞬言葉に迷ったようだった。
そして、こう付け加える。
「初演奏にしては、上出来だったと思うわ。
まあ、完璧とは言えないけど、あとは自分で練習しなさい。」
「あ、はい!」
シェリーはボクの演奏を褒めてくれた。
何だか嬉しい。
「それと、その曲の効果についてだけど…」
シェリーは話を続けた。
「その曲の旋律には『レクイエム』の名の通り、荒ぶる魂を鎮める効果があるの。
あなたは今日からモンスターマスター。
これから先、いろんな苦難が待ち受けていると思うけど、星空のレクイエムはきっとあなたの助けになるわ。
それと…」
シェリーはラキッズに視線を移した。
「ドラゴンキッズを連れているということは、昨日のタマゴが孵ったのね。
間に合って良かったわ。」
「えっ、どういう意味?」
ーーボクが聞き返すと同時に、森の木々の中から物音がした…
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ガサゴソ…
木々の狭間から聞こえる音は、次第に大きくなっていく。
やがて、物音の正体が姿を現した。
青いプルプルとした身体と、半開きの口。
誰でも知っている有名なモンスター『スライム』だ。
スライムはこちらをじっと見つめている。
「あら、ちょうど良いんじゃない?
シエル、あなたのモンスターマスターとしての実力を見させてもらおうかしら?」
シェリーが促してくる。
「くうぅぅー! 燃えてきたぜ!」
今まで黙っていたラキッズだが、もうすでに臨戦態勢だ。
「シエル、オレ達の記念すべき初陣だぜ!
指示の方は任せたからな。
んじゃ、まずはどうする?」
「どうするって、聞かれても…」
ボクは戸惑った。
そうこうしているうちに、スライムがラキッズに飛びかかってきた。
「か、かわして、ラキッズ!」
それがとっさに出た言葉だった。
「あらよっと!」
ラキッズはスライムの体当たりを、いとも簡単にかわした。
ーーそして…
狙いを外したスライムは、見事に後ろの木に激突した。
そのあと、木の下の地面に落ちて、突っ伏してしまった。
どうやら気絶してしまったようだ。
「あら、全く攻撃してないのに、勝っちゃったの?
ある意味凄いわね…」
シェリーは少々笑っている。
「あ、そうだ!」
ボクはあることを思い付き、ハープを取り出した。
「シエル、何する気なんだ?」
ラキッズが不思議そうに、こちらを見つめてくる。
「まあ、見ててよ。」
ボクはハープを構え、さっきシェリーから教わった曲、『星空のレクイエム』を奏でた。
美しい音色が、辺りを包み込む。
「さっきシェリーが言ってたよね?
この曲には、荒ぶる魂を鎮める効果があるって。
だから、あのスライムの心を落ち着かせようと思って弾いてみたんだけど…」
すると、シェリーが笑顔で言ってきた。
「賢いわね、シエル。
あなたの言う通り、その曲はモンスターの怒れる心を落ち着かせて、仲間にすることができるの。
わざと回りくどい言い方をしたけど、その分なら大丈夫ね。
あなたにラキッズのタマゴを託して正解だった。」
シェリーは一旦間を置いた。
「じゃあ、私はそろそろ行くわね。
シエル、幸運を祈るわ。」
シェリーはそう言って、何かの呪文を唱えた。
「ちょっと待って…」
「ルーラ!」
ボクが言い終えるより先に、シェリーは姿を消した…ルーラモンスターの特技ではなく、モンスターマスターが使える移動用の呪文。
一度行ったことがある街などに瞬時に移動することができ、これにより移動時間を大幅に短縮することが可能。
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「あのさぁ…」
ボクが、シェリーが去った場所をいつまでも見ていると、ラキッズが切り出した。
「さっきの回避命令、ナイスだったぜ!」
「…えっ!?」
ラキッズの以外な発言に、ボクは驚いた。
まだ気絶しているスライムを見て、ラキッズが言う。
「お前、ああなることを見越して回避命令出したんだろ?」
「ち、違うよ!
本当はどうして良いか分からなかった。
とっさに出た言葉が『かわして』だったんだ…」
ラキッズはしばらくボクの顔を見つめたあと、言った。
「あはははは! 分かってるって!
お前、正直だな。ますます気に入ったぜ!」
「あ、ありがとう…」
ボクは何となく照れ臭くなった。
「あの…」
今度はボクの方から、切り出してみた。
「ラキッズの回避も凄かったよ。
あんなとっさの命令で、よく動けたね。」
「そうだろ? そうだろ?
オレって、やっぱすげーだろ??」
ラキッズが詰め寄ってくる。
「う、うん…」
ボクはたじたじしながら応えた。
ーー互いの良さを認め合う…
何だか良い気分だ。
そうこうしていると、先ほどのスライムが起き上がった。
そしていきなりボクに飛びかかってくる。
「こ、こいつ! 何でシエルを…!」
ラキッズは、再び戦闘態勢に入る。
「待って!」
ボクはそんなラキッズを制止した。
スライムはそのままボクの懐に飛び込んできた。
そして、気持ち良さそうにじゃれついてくる。
「このスライム、ボクになついちゃったみたいだね。」
「ああ、何だ… そういうことか…」
ラキッズは戦闘態勢から戻る。
「ひょっとして、ボク達の仲間になってくれるの?」
ボクはスライムに尋ねてみた。
「ピギー!」
元気の良い返事が返ってくる。
「ありがとう。
キミは今日からボク達の仲間だ。
じゃあ、名前をつけないとね…」
この子は人間の言葉は話せないのか…
モンスターにも言葉を話せるものと、そうでないものがいるんだな…
ボクはそんなことを思いながら、スライムにつける名前を考えた。
「ねえ、キミの鳴き声から取ってみたんだけど、『ピギィ』ってのはどう?」
ボクはスライムに提案した。
「ピギー! ピギー!」
元気の良い返事が、また返ってくる。
「気に入ってくれた?」
「ピギー!」
「よし、じゃあ、キミは今日から『ピギィ』だ。
よろしくね。」
「ピギー!」
ボクとピギィのやり取りを見ていたラキッズが、口を開いた。
「早くもオレに後輩ができたな。
まっ、よろしく頼むぜ、ピギィ。」
「ピギー!」
ラキッズもピギィも嬉しそうだ。
「それじゃあ、そろそろ行こう。」
「おう!」
「ピギー!」
新たな仲間『ピギィ』を加えたボク達は、エルモスシティを目指して歩き始めた。