ワザップ!フォーラム
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「ドラン、メラ!」
一か八か、ドランに指示を出す。
「はい?
私、そんな特技使えないわよ!?」
ドランが驚いて、聞き返してくる。
「ぎゃはははは!!
こりゃ傑作だぜ!
使えねー特技指示して、どうするっていうんだ!?」
フレイムはゲラゲラと笑っている。
ボクはフレイムの言葉を無視して続けた。
「メラはキミの父さんが覚えていた特技なんだ。
だからキミも使えるはずなんだ。
それと、もう一つ。
キミの母さんが使っていた特技も…」
ボクが言い終わる前に、ドランが納得したように頷いた。
「今の私にできることは、パパとママからもらった特技をモノにすること…
分かったわ。」
「やっぱ、このガキ本物の馬鹿だぜ!
『メラ』って火の玉の魔法だろ!
使えても俺には効かねーよ!」
フレイムは、またゲラゲラと笑い声を上げ、ドランに飛びかかった。
「上手くいくかどうか分からないけど…」
ドランは飛びかかってくるフレイムをまっすぐに見据えて、呟いた。
「メラ!」
その瞬間、小さな火の玉が発生した。
フレイムに向かって飛んでいくが、狙いは多少ずれている。
「まさか本当に使えるようになるとはな。
でも、俺にとってはありがたいぜ。
炎エネルギー、いただき!」
フレイムはそう言って、自らメラに当たろうとする。
「今だ! こおりの息!」
ボクの合図と同時に、ドランは氷の息吹を吐き出した。
「な、『こおりの息』だと!?」
フレイムは回避しようとするが、ドランの息の方が早かった。
冷気を放つドランの息吹の威力は、コドランのそれよりも強かった。
「ひ、ひーーッ!!」
フレイムは叫び声を上げて、ダウンした。
「お前…
今の技、こおりの息じゃなくて『こごえる吹雪』だろ…
メラは俺を引きつけるためのワナだったのか…」
地面に倒れたまま、呟くフレイム。
ボク達が、フレイムににじり寄る。
「わ、分かった! 俺の負けだ!
ひ、ひーーッ!!」
フレイムはそう吐き捨てたあと急に立ち上がり、溶岩の中に逃げていった。こごえる吹雪吹雪ブレス系の息の特技。
『こおりの息』の強化版。
魔力の消費量は多め。
非常に広い攻撃範囲と、高い威力を併せ持つ上に、当たった部位を凍結させることもできる強力な特技である。
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「逃げちゃったわね…」
ドランが、フレイムが飛び込んだ溶岩の辺りを見て呟く。
「うん…」
ボクはしばらく呆然としていたが、やがて我に返った。
「そうだ。そんなことよりも…」
抱きかかえているラキッズを地面に降ろす。
そして、バッグから薬草を取り出した。
「…だめだ、薬草だけじゃ足りない…」
「お困りのようね。」
ボクが途方に暮れていると、聞き覚えのある声がした。
「シェリー!?
どうして、こんなところに…!?」
「話はあとよ。はい、これ。」
シェリーは驚くボクを抑止し、丸めた紙を手渡してくる。
ボクはその紙を広げた。
「これは…!」
「『星空のレクイエム』の第2楽章…
手に入れるのに苦労したのよ。」
「あ、ありがとう…」
第2楽章の楽譜を渡し終えたシェリーは、ラキッズのもとに歩み寄った。
「派手にやられたわね…」
ラキッズの容態を見て、シェリーが呟く。
「仕方ないわね… ニジック!」
「はい!」
次の瞬間、岩陰から一匹のモンスターが飛び出してきた。
ーー鮮やかな虹色の翼を持つ、鳥のような姿…
以前、図鑑で見たことがある。
戦闘能力もさることながら、美しい容姿も併せ持つモンスター…
確か名前は… 『にじくじゃく』!
「ニジック、『ベホイマ』!」
「お任せを!」
"ニジック"と呼ばれたモンスターが、呪文を唱える。
ーーと、同時に、ラキッズの傷がみるみる塞がっていく。
「ふぎゃぁ…
オレとしたことが、気を失っちまったぜ…」
ラキッズが目を覚まし、辺りを見回す。
「ラキッズ!!」
ボクは回復したラキッズに飛び付いた。
ーーそして、その身体を強く抱きしめた。ベホイマ味方1体の傷を、ほぼ完全に回復できる強力な回復魔法。
ただし、魔力の消費量がかなり多く、連発すると息切れしやすいため、注意が必要である。
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「な、なんだよ、シエル…
気持ち悪りーぞ…」
ラキッズがボクの腕の中でもがく。
「だって、本当に死んじゃったかと思ったから…」
「オレはそう簡単にはくたばらねーよ。」
ラキッズが笑顔で言い返してくる。
ーー何はともあれ、良かった。
「ところで、あの炎野郎はどうしたんだ?」
「あなたが気絶している間に、勝っちゃったわよ。」
ラキッズの質問に、ドランが返した。
「オレ抜きで勝っちまったのか…!
すげーな!
でも、オレ、今回いいとこナシじゃねーかよ…」
ラキッズは、ちょっとしょんぼりしている。
「それと、あなたを回復してくれた、ニジックさんにちゃんと感謝しなさいよ。」
ドランが付け足す。
「おっと、悪りぃ悪りぃ…
ニジックさん、ありがとよ。」
ラキッズがニジックの方を向いて、礼を言った。
「さてと、ラキッズも回復したことだし…」
シェリーが口を開いた。
「そろそろ行くわよ。
白衣の男を探してるんでしょ?
ついて来なさい。」
シェリーはそう言って、洞窟のさらに奥へと歩いていった。
ボク達も、そのあとに続いた。
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「ねえ、シェリー。
キミも"モンスターマスター"なの?」
暗く長い洞窟を歩いている最中、ボクはシェリーに質問した。
「ええ、そうよ。」
「凄いよね、"にじくじゃく"って、かなり強いモンスターでしょ?」
「心配しなくても、あなたはもっと強くなるわよ、シエル。
シエルは昔からそうだったから…」
そういえば、ラキッズのタマゴを手渡された時にも気になることを言ってたな…
「ボクとキミって、どういう関係だったの?
キミはボクのことを昔から知ってるし、ボクもキミのことを知ってるんだよね?」
思い切って、聞いてみた。
「それを話すと長くなるわ…」
シェリーがため息混じりに呟いた。
ーーと同時に、暗い洞窟の通路に、光が差し込んだ。
「着いたわ。もうすぐよ。」
シェリーがボク達を催促する。
ボク達も、そのあとに従った。
ーー大きな空洞…
様々な実験機材らしきものが、所狭しと並べられている。
鉄骨に着いたスポットライトが、洞窟内を明るく照らしていた。
ボク達は、その光景をしばらく眺めていた。
すると、実験機材の影から、何者かが姿を現した。
同時に、レックスが息を呑む。
ーー白衣を着た男…
距離が離れていて、よく見えないけど、レックスが言ってた"ヤツ"に間違いなさそうだ。
男は、まだこちらに気付いていないようだ。
「あの人なんだね?」
ボクはレックスに確認した。
「ああ…」
白衣の男が機材のレバーに手をかけた。
「あれは、何の機械だ?」
ラキッズが首を傾げる。
「"魔界"への入り口を召喚する機械よ。」
シェリーが答えた。
「ま、魔界って…! マジかよ…」
ラキッズはかなり驚いた様子で、また白衣の男の方を見つめる。
次の瞬間、男がレバーを引いた。
ーー暗黒の空間の歪のようなものが、禍々しいオーラを放ちながら、その姿を現す。
やがて、男はその中に消えていった。
「よし、ボク達も行こう!」
男が歪の中に消えたのを確認して、仲間達に言い、歪の前まで走った。
「待ちなさい。」
シェリーがボクを引き止める。
「あの歪の先は…
『魔界』は、光が差すことのない、闇に閉ざされた世界…
何が起こるか分からないわ。
それでも行くの…?」
シェリーが心配そうに聞いてくる。
こんなに弱気なシェリーの顔は初めて見た。
でも、ここで引き下がるわけにはいかない。
「うん、行くよ。」
ボクは迷いを見せずに答えた。
「そう… なら止めないわ。」
ボク達は目の前の禍々しいオーラに向かって、一歩、また一歩と歩を進める。
「シエル!」
シェリーがボクの名を呼んだ。
「気を付けて…」
「うん、ありがとう、シェリー。」
ボクは笑顔でシェリーに言葉を返し、暗黒の歪の中に、足を踏み入れた。ーー光を失いし世界に向かって…to be continued… -
禍々しい紫色の空…Chapter 3
瘴気渦巻く常闇に眠る第3楽章…
果てしなく広がる岩山の大地…
明るいのに、空気は張りつめている。
「ここが… 魔界…」
ボクはそう呟き、一歩踏み出した。
しかし…
「うっ!」
ボクは声を上げて、地面に倒れ込んでしまった。
ーー苦しい… 身体が熱い…
「シエル! 大丈夫か!」
ラキッズがボクの元に駆け寄る。
だめだ…
意識が遠退いていく…
「シ… …ル…」
ボクの名を呼ぶラキッズの声が、次第に消えていく。
ーーまさか、この世界そのものが"モンスター"だったなんて…
ボクは薄れゆく意識の中で、そんなことを思い、ふと自分の手を見つめた。
ーーその瞬間、ボクは凍りついた。
ボクの手が…
人間の手が…
鋭利なツメのように変異している。
しかし、ボクにはどうすることもできなかった。
いや、どうして良いのか、分からなかった。
ーーただ、自分が自分ではなくなる恐怖心のみを覚えていた…
-
「う、うーん…」
「シエル、大丈夫か?」
ラキッズが心配そうな顔で、ボクの顔面を見下ろす。
「う、うん…」
ボクはおもむろに頷き、掌を見つめた。
ーー元の人間の手に戻っている。
やはりあれは、夢だったのか…?
「ここは…?」
状況を整理するため、ラキッズに尋ねる。
「魔界の入り口だ。
オレ達が入ってきたところから、まだ一歩も出ちゃいないぜ。」
「そう… ボクのせいで…」
「気にすんなよ。」
みんなの足を引っ張ってしまったことに対する罪悪感に駆られるボクを、ラキッズが励ます。
「というか、シエル。
お前、本当に大丈夫か?」
ラキッズが、もう一度心配そうに聞いてくる。
「うん、平気だよ。
ラキッズが助けてくれたの?」
「ああ…」
「ありがとう。」
「礼には及ばねーよ。
ってか、マジで焦ったぜ。
シエルの手、モンスターの鉤爪みたいになっちまったからな。
けどよ…」
ラキッズが言葉を切る。
「けど…?」
「いや、オレ達が今いる場所、よく見てみろよ。
光の境界線みたいなのがあるだろ?」
ラキッズが少し離れた場所の地面を指差した。
ーー確かに、光と闇を分けるかのような線が、くっきりと浮かび上がっている。
「で、あれ。」
ラキッズが、今度は岩の間で光を放つ物体を指差す。
「気を失ったお前をこの光の中に引き戻したら、お前は回復して、手のツメも元通りになったんだ。
何か関係あると思わねーか?」
「つまり…
あの光ってるやつが、ここを安全地帯にしてるってこと?」
ボクはおそるおそる答えた。
「そういうことだぜ。
ここでは生身の人間は、人の姿ではいられない。
あの白衣野郎も一応、人間だ。
ここを探索するために、ヤツが用意していたんだろうよ。」
ラキッズはそう言って、光る物体が挟まった岩の前まで移動した。
「レックス! ドラン! 来てくれ!」
ラキッズがレックスとドランを呼ぶ。
「あら、シエル、無事だったのね。
良かったわ。
ラキッズったら、ずっとシエルのそばを離れなかったのよ。」
ドランが笑いながら言う。
「うっせーな…」
ラキッズは、顔がちょっと赤くなった。
「ラキッズ、ありがとう。」
「…で、これを取り出せばいいんだな?」
「でも、狭くて取りづらいわよ。」
ドランが岩の隙間に顔を当てながら、呟く。
「みんな、下がってろ。」
レックスがそう言って、斧を振り上げた。
そして、振り下ろす。
ガキーン…という鋭い音と共に、岩の一部が砕け散った。
「すごーい!」
ドランが感嘆の声を上げた。
「これで取り出せるだろう。」
レックスが自慢気に言い、光る物体を取り出した。
岩の間に挟まっていた玉。
何の物質でできているのかは分からないけど、曇りのない、透き通った光をたたえている。
レックスが玉を動かすと同時に、光のテリトリーの位置も動いた。
どうやら、この玉が安全地帯を作っているのは間違いなさそうだ。
ボクはレックスから玉を受け取り、そして告げた。
「行こう。改めて出発だ。」
-
瘴気が立ち込める暗黒の空間…
先の見えない、どこまでも続く大地を歩いていく。
どれぐらいの時間が経ったのだろうか…?
魔界に入ってから今まで、モンスターを1体も見かけないのが、かえって不気味だ。
『魔界』とは、魔物達にとっては、楽園なんじゃないのか…?
そんなことを考えている矢先だった。
「ニンゲン! ニンゲン!」
突然、機械的な声が鳴り響く。
声の主の方に目をやる。
ーー右手に剣、左手にボウガンを持ち、青くコーティングされた機械…
それが、岩の上からこちらを見下ろしている。
この機械もモンスターなのだろうか?
「シンニュウシャ、ハッケン!
シンニュウシャ、ハッケン!」
機械が声色を変え、大音量で騒ぎ出す。
「"シンニュウシャ"って…」
「シエル、気を付けろ!」
ラキッズが注意を促す。
と同時に、機械がボクに向かって、ボウガンを構えた。
「ハイジョシマス!」
-
「シエル! 危ない!」
ラキッズの強烈な体当たりを受けたボクは、派手に転倒した。
ーーと同時に、ボウガンの矢がボクの顔の真横を通り過ぎていく。
機械が放った矢は、背後の岩に突き刺さった。
「いきなり攻撃してくるなんて…」
そう呟くボクのそばにレックスが駆け寄る。
「気を付けろ。奴の名は『キラーマシン』
戦闘のためだけに生み出された、機械のモンスターだ。」
「キラーマシンって、かなり強いヤツじゃないか。
そんな奴を仲間に加えられたら、心強いぜ。」
ラキッズはやる気満々だ。
「シエル! ハープの準備、忘れんなよ!」
「うん!」
ボクはハープを構えた。
ーーシェリーから託された第2楽章…
上手くいくかは分からないけど、頑張ってみよう。
「みんな準備はいいな! 行くぜ!」
ラキッズの合図と共に、強敵"キラーマシン"との攻防が始まった。
-
「ドラン、こおりの息!」
ドランに指示を出す。
「『こごえる吹雪』よ、シエル!」
「あ、そうか。ごめん。
パワーアップしたんだったね。
改めて、ドラン、こごえる吹雪!」
ドランの指摘を受け、指示をやり直す。
ーードランの"こごえる吹雪"は、無数の氷結晶を巻き上げつつ、キラーマシンに向かっていく。
しかし、攻撃は外れ、低温ブレスはキラーマシンの足元を凍結させた。
「アイテ ノ コウゲキ ノ みす ヲ カクニン!
ぴぴっ、ハンゲキもーど ニ キリカエ!」
キラーマシンはそう言ってボウガンを乱射してきた。
「みんな、岩陰に隠れてかわして!」
ボクの合図と同時に、仲間達が移動する。
ーーしかし、キラーマシンの矢の方が速かった。
「うぐっ!」
仲間達が苦しそうな声を上げる。
しかし、なんとか岩陰に隠れることができた。
矢の嵐の直撃は免れたが、多少かすめてしまった。
「みんな、大丈夫!?」
全員がダメージを受けてしまった。
動揺せずにはいられない。
「これくらい大丈夫、ただのかすり傷だぜ。」
「俺も大丈夫だ。」
「私もよ。」
みんなの言葉が返ってくる。
「ぴぴっ、たーげっとカクニン!
コウゲキ カイシ!」
ボク達がそれぞれの顔を、岩陰から覗かせて会話していると、キラーマシンが容赦なく矢を放ってくる。
ーー岩と金属製の矢が、鋭い音を立てながらぶつかり合う。
相手は遠距離攻撃を持っているから、厄介だ。
何か手はないのか…?
ドランも遠距離攻撃の『メラ』を使えるけど、この状況で岩陰から出るのはまずい…
矢と岩の衝突音が鳴り響く中で、必死に考えを巡らせる。
だが、良いアイデアが思い浮かばない。
「ぴぴっ、たーげっと トノ アイダ ニ、シャヘイブツ ヲ カクニン!
イドウ カイシ!」
矢の騒音の次は、キラーマシンの機械的な音声が鳴り響いた。
-
ガシャン、ガシャン…
足音を立てて、キラーマシンがこちらに近付いてくる。
まずい…
今近付かれたら、対処のしようがない。
ーーしかし、そんなボクの不安は、思いもよらない形でかき消されることとなった。
ガッシャーン…
大きな物音がした。
と同時に、またキラーマシンの機械音が聞こえてくる。
「ぴぴっ…
フソク ノ ジタイ ハッセイ…!
ジョウキョウ ヲ セイリチュウ…」
不測の事態…?
どういうことだ…?
ボクは、おそるおそる岩陰から顔を出し、声の主の方を見た。
ーーキラーマシンの4本足が、天に向かって伸びている。
ということは、転倒したのか…?
ボクはキラーマシンの足元を見た。
ーーそこだけガラスのように、凍結している。
そうか、さっきのドランのこごえる吹雪で凍った場所を踏んで、足を滑らせたんだ。
キラーマシンは足をバタバタさせている。
どうやら自力では起き上がれないようだ。
攻撃のチャンスだが、無抵抗な相手を攻撃するのは、やはり抵抗がある…
ボクが迷っていると、キラーマシンが奇妙なことを言い出した。
「ぴぴっ、ジリキ デ ダッシュツ デキル カクリツ 0.1ぱーせんと…
オウエンヨウセイもーど ニ キリカエ!
たーげっと ノ ザヒョウ ヲ ソウシンチュウ…」
「おい、シエル…
何か、ヤバくねーか?
応援要請モードって…」
ラキッズが呟く。
「まずい、1体だけでも厄介なのに、仲間を呼ばれたら余計に面倒なことになる…!
奴を止めるんだ!!」
レックスが声を上げた。
そして、全員でキラーマシンに向かって走り出す。
ーーしかし、遅かった。
「ソウシン カンリョウ!
スベテ ノ ぷろぐらむ ヲ しゃっとだうん…」
この言葉を最後に、キラーマシンは動かなくなった。
-
「おい、シエル、かなりヤバイことになっちまったぜ…!
これから、どうするんだ!?」
ラキッズは、かなり焦っている。
「とりあえず、ここから離れよう。」
ボクは機能を停止したキラーマシンを指差して、言った。
「あいつが送信したのは、"ここ"の座標だ。
だから…」
「だから、何だ?」
ボクが言い終わる前に挟まれる、どこかで聞いたことのある声…
ーー振り向くと、あの"白衣の男"が、そこにいた。
間近で見たその顔は、何となく見覚えがある。
でも、誰なのか、思い出せない。
「おや?」
男はボクの顔を見て、首をかしげた。
「確か君は、ジェームズ君の息子さん…
確か名前は、『シエル』君だったかな…?」
この人、父さんのことも、ボクのことも知ってる…!
「私の名は『イジュール・ウェイザー』
以後、お見知りおきを…」
イジュール…? …!!
もしかして、エルモスシティの学会で会った、あの人!?
ボクの表情の変化を見たイジュールが、口を開く。
「やっと思い出してくれましたか?
忘れられていては、こちらも気分が悪いですからね。
それにしても…」
イジュールの声色が、急に変わる。
「こんなところまで、のこのこやって来るとは…
子供だと思って、少々甘く見すぎたか…」
イジュールは、そう言って、右手を上げた。
「お前達!!」
イジュールの合図と共に、大量のキラーマシンが岩陰から姿を現した。
中には、剣とハンマーを持つ改良型と思われる個体や、両手に巨大な剣を持った大型の個体もいる。
と同時に、ラキッズ達が臨戦態勢に入る。
「おやおや、この数を相手にやる気ですか?」
イジュールは笑いながら手を叩いた。
「良いでしょう。
ここまで来たあなた方の力、見せてもらいましょう。
いきますよ…!!」
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「う、うーん… ここ、どこ…?」
気が付くと、殺風景な牢屋のような部屋にいた。
ーーそうか、ボク達は負けたんだ…
何より相手のあの数、そして戦闘能力の高さ…
敵は次々と攻めてきたけど、こちらは常に防戦一方…
結果は明らかだった…
また、ボクのせいで…
あの時、逃げる指示を出していれば、こんなことには…
再び罪悪感に駆られる。
「終わっちまったことを悔いても仕方ないぜ。
気にすんなよ。」
ふと、ラキッズの声が聞こえたような気がした。
「そうだよね。
落ち込んでても始まらないよね。」
ボクはゆっくりと立ち上がった。
とりあえず、ここから脱出しないと…
辺りを見回す。
部屋の角にダクトのようなものがある。
「あそこからなら…」
ダクトの蓋は錆びついていて、簡単には開きそうにない。
ボクはダクトの蓋を思いっきり引っ張った。
ーーガッシャーン…
大きな音を立てて、金属製の蓋が床に落ちる。
「よし、これで抜けられる。」
ボクはダクトの中に入っていった。
-
狭い横穴を、ほふく前進で進んでいく。
ガシャン、ガシャン
金属製のものに、何かをぶつけるような音がした。
通気口の小さな隙間から、部屋の様子を伺う。
一面真っ白な部屋…
どうやら、何かの実験室のようだ。
ーーそして…
ラキッズが、檻に閉じ込められている。
「テメエ、さっさとここから出しやがれ!!」
ラキッズは大声で叫びながら、檻に何度も体当たりをする。
そんなラキッズの姿を嘲笑う、ひとりの男が視界に入ってきた。
「ふふふ… 無駄ですよ…
その檻は、並のモンスターの攻撃力では破壊できません。」
「だったら、オレが並のモンスターじゃないことを証明してやるぜ!」
ラキッズはそう言って、また檻に体当たりをする。
「私のキラーマシンを1体も仕留められなかった、あなたが、ですか??
笑わせてくれますね…」
イジュールはまた薄ら笑いを浮かべる。
ーーその時、1匹のキラーマシンが部屋に飛び込んできた。
そして、機械的な音声で騒ぎ始める。
「ますたー、タイヘン デス!
ソノ どらごんきっず ト イッショ ニ イタ ショウネン ガ ユクエフメイ デス!」
「シエル!」
ラキッズが急に大声を上げる。
イジュールは一瞬ラキッズを見据えて、こう言った。
「全力で探し出し、見つけたら私のもとに連れてきなさい。」
「いえす、ますたー!」
キラーマシンは、命令を受理し、部屋から立ち去った。
まずい…
ボクが脱走したことがバレてしまった。
それに早くラキッズ達を助け出さないと…
でも、どうする?
今は仲間がいない。ボクひとりしかいない。
言いようのない焦りと不安が、こみ上げてくる。
ーーやがて、ボクは首を横に振った。
「ボクがやらなきゃ…!」
そして、再び通気口の隙間からラキッズの姿を確認し、小さく呟いた。
「必ず助けに行くからね、ラキッズ。」
-
レックスとドランは、今頃どうしてるんだろう…?
ラキッズの姿は確認できたけど、彼等はまだ見かけていない。
ーーガタン…
突然、ダクトの格子が外れ、ボクは下の廊下に転落してしまった。
「び、ビックリした…」
「気付かれてない… よね…?」
辺りを見回し、小さく呟く。
とりあえず、レックス達を探さないと…
ボクは埃を払って、歩き出した。
「うっ…!!」
途端に身に覚えのある苦しさが、ボクの身体を襲った。
ーー魔界に入った時にも味わった、あの"苦しさ"が…
とっさに、例の光の玉の様子を確認した。
そして、息を呑む。
光の玉が、真っ二つに割れている。
もうそこに、光は宿っていない。
しまった…!
さっきダクトから落ちた時に、割れてしまったのか…!
どうしたら良いのか分からずに焦るボクに、魔界の瘴気は容赦なくまとわりついてくる。
身体が熱い。
前はラキッズが助けてくれたけど、今はボクひとりしかいない。
もう、どうして良いか、分からない。
激しい動揺と、息苦しさの中で、次第に意識が遠退いていった。
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「ぴぴっ、ナゾ ノ セイメイタイ ヲ カクニン!
でぃーえぬえー ショウゴウ ぷろぐらむ ヲ サドウチュウ…」
朦朧(もうろう)とする意識の中で、機械的な音声が鳴り響く。
ーーボクは一体どうなってしまったんだろう…?
これは夢なのか…?
ゆっくりと瞳を開いた。
キラーマシンが、目と鼻の先でボクの顔を覗き込んでいる。
「うわっ!」
ボクは驚いて、飛びのいてしまった。
ーーそれにしても、身体がやけに軽いような気がする。
「ぴぴっ、ショウゴウ カンリョウ!
ナゾ ノ セイメイタイ ノ でぃーえぬえー ハ『しえる・くらいおす』ノ モノ ト イッチ!
たーげっと ヲ ハッケン!
ますたー ニ ホウコク!」
まずい、このままじゃラキッズを助けるどころか、ボクまで捕まってしまう。
ボクはとっさにキラーマシンとは逆方向に向かって走り出した。
「ぴぴっ、たーげっと ガ トウソウ!
ツイセキ シマス!」
キラーマシンはガシャガシャと音を立てながら、物凄いスピードで追いかけてくる。
ボクはありったけの力を振り絞って走った。
チラリと後ろを見た。
不思議なことに、キラーマシンとの距離が異常に開いている。
ボクって、こんなに走るの速かったっけ…?
次の瞬間、目の前に新たなキラーマシンが飛び出してきた。
そして、ボウガンを構える。
「ぴぴっ、たーげっと ろっくおん!」
目の前から次々と飛んでくる矢を、横跳びでかわしていく。
ーーやはり、身体が軽い。
そうこうしているうちに、後ろのキラーマシンも追いついてきた。
ーー挟み撃ちか…
こうなったら、やけくそだ。
ボクはそのまま、前方でボウガンを構えるキラーマシンに体当たりをした。
ーーガッシャーン…
凄まじい轟音とともに、硬い金属製のボディに真っ向から衝突する。
身体中に響き渡る痛み…
ああ、駄目だ、やられてしまった…
そう思った。
ーーしかし…
先ほどボクが体当たりをしたキラーマシンが、前方で転倒しているのを確認した。
そのボディは、大きくへこんでいる。
「ぴぴっ…
こんぴゅーた、サイキ フノウ…
キノウ ヲ テイシ…」
キラーマシンは弱々しく呟き、やがて動かなくなった。
どういうことだ?
そもそも人間のボクが、武装したモンスターなんかに勝てるわけがない。
ーー人間…?
ふと、機能を停止したキラーマシンに目をやった。
そのボディは、周囲の景色を反射している。
ボクはキラーマシンのボディに目を走らせ、自分の姿を確認した。
ーー青白い毛並み、鋭利なツメ…
今頃気付いたけど、4つ足になっている。
ボクの姿は、オオカミのようになっていた。
「ボク… モンスターになっちゃった…」
それ以外に、言葉が出なかった。
-
しばらく自分の姿を眺め、呆然としていると、背後でガシャガシャという物音がした。
我に返り、振り返ると、キラーマシンの大群が廊下を埋め尽くしている。
その光景は、ボク達が敗北を喫した"あのバトル"を思い起こさせた。
「ぴぴっ、たーげっと ヲ カクニン!
ホカク もーど ニ キリカエ!」
溢れかえるキラーマシンのうちの1体が、大声で言葉を発する。
「ホカク シマス!」
キラーマシンが飛びかかってきた。
ボクはそれを、横跳びで回避する。
そうだ、今のボクは"モンスター"なんだ…
それなら…
「えいっ!」
ボクはキラーマシンのボディに、思いっきり体当たりした。
獣の姿になったボクの力は、特殊合金の装甲をまとう機械兵を、いとも簡単に吹き飛ばした。
ラキッズ達が、あんなに苦戦した相手を一撃で…
ボクは内心、自分の力に恐怖を覚えた。
ボクの一連の行動を目の当たりにしたキラーマシンの大群は、しばらく黙り込んでしまった。
やがて、剣とハンマーを持つリーダーらしきキラーマシンが、言葉を発した。
「ぴぴっ、たーげっと ノ セントウ ノウリョク ハ ヨソウ イジョウ!
ますたー ニ ホウコク シテ サクセン ヲ タテナオシマス!」
そう言って引き返していく。
ーーキラーマシン軍団との距離が、少しずつ開いていく。
そうだ。
キラーマシンの言う"マスター"って、きっとイジュールのことだ。
あいつらを追いかけたら、ラキッズのいる部屋に行けるかもしれない。
でも、単身で攻め込むのは、やっぱり危険か…
とはいえ、レックスとドランの手掛かりは全く無いし…
ーーブゥゥーン…
そんなことを考えていると、背後で機械が作動するような音がした。
振り向くと、最初に体当たりでダウンさせたキラーマシンが起き上がり、こちらを見ている。
「ぴぴっ、でーた ノ ばっくあっぷ ニ シッパイ!
おーるでーた ショウシツ!
アラタナ ますたー ヲ ショウニンチュウ…」
「新たなマスターを承認って…」
「ぴぴっ! ニンショウ カンリョウ!
『しえる・くらいおす』サマ ヲ アラタナ ますたー ニ トウロク シマシタ!」
「えっ? えぇーっ!?」
ボクは驚きを隠せなかった。
「えっ、じゃあ、ボクの仲間になってくれるの…?」
念のため、確認してみる。
「いえす・ますたー!
ナンナリト ゴメイレイ ヲ!」
キラーマシンは、元気よく返事する。
「じゃあ、ボクの仲間を助けるのを手伝ってくれる?」
「いえす・ますたー!」
キラーマシンは、また元気よく返事する。
「普通に『シエル』って、呼んでくれていいよ。
ところで、キミの名前は…?」
「ナマエ… デスカ…?
でーた ヲ スベテ ショウシツ シテシマッタノデ…」
キラーマシンは黙り込んでしまった。
「そうか… キラーマシンだから、『キラーマ』なんてのはどうかな?」
名前を提案してみる。
「『きらーま』デスネ。
ショウニン シマシタ。」
キラーマシンは満足してくれたようだ。
「それと、キミを傷付けてしまったのは、ボクのせいだ。
だから、まずは、そのへこんだボディを直しに行こう。」
ボクは、キラーマのボディを指差して言った。
「アリガトウゴザイマス、しえるサマ…」
キラーマは、機械でありながら、感情のこもった声で感謝の言葉を述べた。
-
「よしっ!」
ドライバーでネジを回し終えたボクは、たった今修理したボディを眺めた。
「新しいパーツに変えちゃったけど、どうかな?
ちゃんと動ける?」
念のため、確認する。
「ハイ、ダイジョウブ デス!」
キラーマは両腕を上下させながら、答えた。
「良かった。じゃあ、行こうか。」
「いえす・しえるサマ!」
キラーマのボディの修理を終えたボク達は、改めてレックスとドランの捜索を始めた。
長い廊下にある扉を、ひとつ残らず片っ端から開けていく。
ーーいない、ここにもいない。
そうこうしているうちに、最後の扉まで来てしまった。
ボクはジャンプしてドアノブを回そうとしたが、扉には鍵がかかっていて開かない。
「鍵がかかってる… どうしたら…」
「しえるサマ、サガッテ クダサイ!」
ボクが悩んでいると、キラーマが話しかけてきた。
その指示に従い、後ろに下がる。
すると、キラーマはボウガンをドアノブに向かって構え、矢を放った。
ガチャン…という音と共に、キラーマの矢は見事扉の鍵を破壊した。
「スゴイよ、キラーマ! 中に入ろう!」
「ハイ、マイリマショウ!」
キラーマは、ちょっと嬉しそうだ。
ボク達は扉をくぐり、部屋に入った。
-
部屋に入ると同時に、壁を埋め尽くす檻が、ボク達を圧倒した。
そうか、あいつら、ここに捕まえたモンスターを閉じ込めているのか…
ここなら、レックスとドランがいるかもしれないな…
「おい、新入りか…?
見たことのないモンスターだが…」
檻の中からの声。
振り向くと、レックスがそこにいた。
「レックス!?」
驚いて声を上げてしまう。
「な、何だ、お前!?
どうして俺の名を知ってるんだ!?」
レックスもまた、驚いて声を上げる。
「知ってるも何も、ボク達、仲間じゃないか。」
「その声… まさか、お前、シエルか…?」
「うん、そうだよ、シエルだよ。」
レックスはやっと気付いてくれたようだ。
「でも、シエル。
何でそんな姿になってしまったんだ?」
「あの光の玉が割れちゃって、それで魔界の空気をまともに吸っちゃったんだ…
そしたら、急に身体が熱くなって、気付いたらこの姿になってたんだ。」
ボクは、事のいきさつをレックスに説明した。
「なるほどな… いろいろ大変だったんだな…
ところで…」
レックスはキラーマに視線を移した。
「そのキラーマシンはどうした?」
「キラーマは大丈夫だよ。
ボク達の新しい仲間だ。」
「まあ、シエルが言うんだから、大丈夫なんだろう。
これからよろしくな、キラーマ。」
「ハイ、ヨロシク オネガイ シマス!」
「ところで、ドランはどこにいるの?」
ボクはレックスに尋ねた。
「俺も聞こうと思っていたところだ。
ドランの行方はシエルも知らんのか…
ラキッズはどうした?」
レックスが聞いてくる。
「ラキッズは…
檻に入れられて、イジュールと話してるところを、さっきダクトの通気口から見た…」
「何について話してたんだ?」
「分からない。
ラキッズはずっと『さっさと出せ』って、叫んでたけど…」
気付かぬうちに、声が小さくなる。
「そうか… どちらにせよ、イジュールがいるとなれば、警備はかなり厳重なはずだ。
いち早くドランと合流して、イジュールのもとに乗り込んだ方が良さそうだな。
あのイジュールのことだ。
何をしでかすか、分かったもんじゃない。」
レックスは冷静に提案する。
「うん、まずは、レックスをここから出してあげないと…」
ボクはキラーマの方を向いた。
「キラーマ、また"さっきのヤツ"、よろしく。」
「いえす・しえるサマ!」
キラーマの放った矢が、檻の鍵を破壊する。
と同時に、レックスが檻から出てきた。
「よし、じゃあ、早くドランの捜索に向かおう。
こうしている間にも、ラキッズの身に危険が迫ってるんだ。」
無事レックスを助け出したボク達は、部屋を飛び出て走り出した。
-
「いたっ!
ちょっと、あんた達何すんのよ!」
長い廊下を走る中で、耳に入ってきた声。
「みんな、ちょっと待って!
今のドランの声じゃない?」
急いでレックスとキラーマを呼び止める。
「レディに手を上げるなんて、サイテー!」
また、ドランの声が聞こえた。
ボク達は、その声を頼りにドランの居場所を探す。
「ここだ、この扉の奥から聞こえる…」
ボク達は、その扉の向こうに足を踏み入れた。
「もう、頭にきた!
あんた達、まとめて氷漬けにしてあげるわ!」
ボク達がドランの前に姿を見せた、ちょうどその時だった。
ドランは大きく息を吸い込み、"こごえる吹雪"を吐く態勢に入っている。
「あらっ?」
ドランがこちらに気付いて、攻撃を中断する。
「レックスじゃない!」
しかし、ボクとキラーマの姿を確認したドランは表情を変えた。
「…って、そのキラーマシンとオオカミは一体何なのよ!
レックス、あんたまでおかしくなっちゃったの!?」
「違う違う、落ち着け、ドラン。
このキラーマシンは俺達の新しい仲間だ。」
レックスがドランを落ち着かせる。
「ハイ、ワタクシ、ますたー・しえるサマ ノ オトモ ヲ スルコトニ ナリマシタ、『きらーま』トイウ モノデス!
ソシテ コチラガ…」
キラーマの視線が、ボクに向けられる。
「ワタクシ ノ アラタナ ますたー、しえるサマ デ ゴザイマス!」
ドランは、一瞬きょとんとしていたが、やがて我に返ったように目を大きく見開く。
「えっ? えぇぇぇーっ!?
そのオオカミ、シエルなの!?
ホントに…?」
ドランはおそるおそる尋ねてくる。
「ホントだよ。
魔界の空気を吸っちゃったら、こんな姿になっちゃったんだ。」
ボクはドランに応えた。
「その声、間違いなくシエルね…
でも、良かった。二人とも無事で…
ところでラキッズはどうしたの?」
「キミと合流してから、助けに行こうと思っていたところなんだ。」
「あら、そうだったの。
じゃあ、"こんなヤツら"さっさと片付けて、早くラキッズを助けに行きましょ。」
ドランは強気に言った。
辺りを見回すと、何十体ものキラーマシンが、こちらへの攻撃のチャンスをうかがっている。
「大丈夫、ボクがついてる。
ボク、こう見えて結構強いんだ。」
モンスターになって以来、ボク自身もいつしか強気になっていた。
やがて、キラーマシンのうちの一体が、声を上げた。
「ぴぴっ、たーげっと ろっくおん!
コウゲキ カイシ!」
-
次々と飛んでくる矢を回避し、ボクはキラーマシンに思いっきり体当たりをした。
体当たりをまともに受けたキラーマシンは、後ろにいる他のたくさんのキラーマシンを巻き込みながら、吹っ飛んでいく。
「すごーい、シエルめちゃくちゃ強いじゃない!」
ドランが感嘆の声を上げる。
「まあね。
でも相手の方が手数が多いから、油断はできないよ。」
「ワタクシ モ カセイ シマス!」
キラーマはそう言って、ボクに何かの呪文を唱えた。
「ばいきると!!」
その瞬間、身体中に力がみなぎるのを感じた。
「ますたー・しえるサマ、ちゃんす デス!
モウイチド コウゲキ ヲ!」
キラーマが攻撃を促してくる。
「分かった! レックス、ドラン、援護して!」
ボクが走り出すと同時に、レックス達もついてくる。
「ぴぴっ、たーげっと ノ コウゲキリョク ガ キュウジョウショウ!
キケン、キケン!
ゲイゲキ もーど ニ キリカエ、キリカエ!」
キラーマシン達は、焦ってボウガンを乱射してきた。
「レックス、斧で矢を叩き落として!」
レックスに指示を出す。
「分かった。」
レックスは斧を前に構え、高速回転させて矢を次々と弾き落とした。
しかし、それでも完全に防げているわけではなく、何本かは身体をかすめたりする。
「もう、うっとうしいわね!
カチンコチンにしてあげるわ!」
ドランはそう言って、息を吸い込み、こごえる吹雪を吐いた。
次の瞬間、飛んできた矢は一瞬で凍結して床に落ち、キラーマシン達は氷漬けになる。
「さあ、シエル、チャンスよ!
思いっきり、やってやりなさい!」
「分かった! 行くよ!」
ボクはドランの言葉に返し、全身に力を込めて、凍りついたキラーマシン達に体当たりをした。
ーーパリーン…
ガラスの割れるような音と共に、氷が砕け散る。
「うっ!」
ボクは反動で、後ろに吹っ飛んでしまった。
キラキラと輝く、無数の氷の破片が舞い散る中、ボクは気を失った。バイキルト味方1体の攻撃力を、一時的に2倍に引き上げる強力な補助呪文。
これにより、斬撃系の技など、物理的な攻撃の威力が格段に上がる。