ワザップ!フォーラム
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……現れし、闇よりの刺客。
足音の主が、ついに、海覇達の目の前へと姿を見せた……!
「キヒヒ……」
「あら?随分可愛いネズミちゃん達だこと」
……敵は、男女二人組だった。
男の方は、黒いパーカーに身を包み、そのフードを深く被って顔の殆どを隠した不気味な男。
『キヒヒ』という気色悪い笑いを口ずさんでいる。
また、一方で女の方は、ヒョウ柄のド派手なファッションで決めていて、化粧も非常に濃い。
野性的、かつ妖しい雰囲気の、まさに『悪女』という風格が見てとれる。
どちらも、悪役を絵に描いたような見た目と、登場の仕方だ。
間違いなく、海覇達に危害を加える存在であろう。
見過ごすわけにはいかない。
「キサマラノ、タクラミ、モ、オシマイ、ダ」
「おとなしく投降するんだな」
エイデスと裕太が、強気にでる。
他もまた、警戒を崩さない。
ふとした瞬間に襲われる可能性もある。
相手は、今までのような真っ当な人間ではない。
裏社会の人間。
その気になれば法を犯すことさえ厭わない連中だ。
油断すれば、そこを掬われる。
「……」
……沈黙の後だった。
「……生意気なガキ達ねぇ」
「それじゃさっそくだけど、死んで貰おうかしらァッ!?」
女がそう叫んだその刹那!
「!」
裏路地に、一筋の眼光が、紅き軌道を描いて空気を裂いた!
これはもしや、女の使役する魔物か!?
突然の奇襲であったが、気を抜かずに構えていた彼らには……。
「……オケガハアリマセンカ、カイハサマ」
「……ああ、ありがとうアカツキ」
……傷ひとつ、つかなかった。
女は『チッ』と舌打ちしたが、彼女の魔物はいまだ攻撃の手を止めていない。
奴が走る度、斬撃が彼らを襲う。
「……クッ」
……あまりに迅速な動き。
アカツキは、奴の姿を把捉しきれないでいた。
だが……これは、爪による攻撃だろうか?
奴の放つ刃に若干の生命の流れを感じ取ったアカツキは、そう悟った。
すると、アカツキは次の瞬間……。
「……ソコダァッ!」
……敵が仕掛けてくるタイミングを瞬時に把握し、そして、そこを見事に突いて!
奴の攻撃を、受け止めた!
「……ヤハリナ」
……アカツキの予想通り、奴は爪で攻撃していた。
やっと視点が定まったアカツキは、自らが掴んでいる爪を見て、その鋭利さに肝を冷やした。
……機械だけど。
「……なるほど、こいつは……」
「……『ダースウルフェン』か」
……その魔物は、狼のような、それでいて狼ならざる闇を宿した獣であった。
名は、『ダースウルフェン』。
これもまた、悪役らしい魔物だ……!
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刺客が放ったダースウルフェンの猛威が、海覇達に襲いかかる。
しかし……。
「これだけの魔物を相手に、そのダースウルフェンだけじゃ心許ないんじゃないかな?」
……確かに、こちらには合計9体の魔物が味方についている。
対して、今のところ敵はダースウルフェン1体のみ。
こちらが優勢であろうことは、例え地を這う地虫であろうとも理解し得ること。
だが、敵はダースウルフェンを繰り出してきた。
となれば、敵に何かしらの策があることは検討がつく。
それならば、今のこの戦況はむしろ、警戒を怠ってはいけない局面といえよう。
裕太は敵の腹を探りにいった。
……すると、女は……。
「……フフッ」
……身の毛も弥立つような……。
まるで、亡霊が微笑んだかのような笑みを、浮かべた。
やはりだ。
何かある。
……と、その時!
「……!」
……海覇は、気付いた。
奴らが何を隠しているのか……と、いうことを。
気配が、した。
無数の鼓動が、聞こえた。
……そして。
それらを辿った先に、見えた。
「……周りのビルを見ろ!」
「!!」
海覇の叫びに、一同はハッとなった。
視線を周辺のビルに移すと、そこには……!
「ダースウルフェンの、群れ……だと!?」
……窓から顔を覗かせる、獣共の大軍。
ダースウルフェンの紅き眼が迸らせる殺気が、そこらじゅうから犇々と伝わってくる !
その数、少なく見積もっても50匹はいるだろう。
敵が隠していたこととはこれだったのだ!
「ちっ……勘の良いガキだねぇ」
どうやら敵は、これで奇襲を仕掛けてくるつもりだったらしい。
それが回避されたことについてはほっとした一同。
だが……。
「……この数は……」
……ピンチなことには変わりない。
ダースウルフェン一匹の強さにもよるが、『数』が戦いに与える影響は凄まじい。
連携の手数も多くなってくるし、多方向からの攻撃も厄介だ。
「やっておしまい!」
女の号令の瞬間だった!
グガァァァッ!グガァァァッ!という獣の叫び、嘶き、咆哮が!
裏路地にて、蹂躙し!
その轟音と共に!
海覇達に、禍々しき毒牙を向けた!
対する、破壊神に抗いせし戦士たちは!
「まとめて凪ぎ払え!バリクナジャッ!」
「キング!『こごえる息』で奴らを凍てつかせろ!」
「エイデス!『カウンター・オブ・ミラクルソード』で全て跳ね返してやれ!」
……持てる力を、存分に発揮するッ!
ついに、激戦の幕が開いた!
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戦いは、まさしく混戦であった。
魔物だらけの大乱闘。
剣の振るわれる音。
鮮血のしぶき。
肉が引きちぎれ。
慟哭が、轟く。
今のところは、勢力的にみれば、あちらの方がより優勢といえば優勢かもしれない。
しかしながら、こちらも負けじと、確実に敵の数を減らしていっている。
「めんどいナァ……一気に片付けるかァッ!」
ジョーは、まるで草むしりのような退屈な駆逐作業に飽き飽きしたのか。
ここでついにしびれを切らし。
まとめて敵を消し去る手段に踏み切る……!
……その時だった!
ジョーの周辺から突如発生した『電流』が、バチバチと音を鳴らせながら、ジョーの肉体を伝ってきた!
そして、それらは、ジョーがとある呪文を詠唱したと同時に!
一気に加速し、放たれたッ!
「『ジゴスパーク』ッ!」
竜の如く天を駆け抜ける雷撃が、猟犬共に襲いかかる!
怒号をうちならし、次々と奴らの命を燃やしていく……!
「ウォッ、アブネッ」
「な、なんという凄まじい雷だ」
アカツキは流れ弾を間一髪でかわし、ポーンはその威力に驚愕、唖然とする。
青白き閃光がひとしきり響き終わると……。
……辺り一面に広がっていたのは、ダースウルフェン共の死体で形成された、死屍累々であった。
「すごいね、海覇君のモヒカント」
「な!だろぉー!」
ジョーを称える裕太と、まるで我が子を褒められた親のように照れる海覇。
その光景をみて、『くだらね』とばかりにため息をつく、亜州人。
だが、とにかくこれで敵の数は激減した。
ここを一気に攻めれば、勝利は目前!
……かと、思われた。
だが……!
「……ククク、調子に乗っては困るなぁ……ククク」
……今までずっと口を閉じてきた、黒いパーカーの男が、今再び、彼特有の不気味な笑いをし始めた。
女の方は大分悔しそうにしているが、この男はなぜか未だに余裕の態度を見せている。
……そういえば、この男の魔物がまだ戦いに出てきていないような……。
「……まだ、いるようだな」
「ダレガ、キテモ、オンナジ、ダ」
エイデス達は屈することなく、気合い十分。
だが……。
「……クククカーッハッハッハ!!」
男の笑みが絶頂に達した、その時であった!
「……!?」
……一匹のとある魔物が、突然。
天空から、舞い降りてきた。
そいつは、ダースウルフェン達の何倍もの巨体を誇り、そして、ダースウルフェン達の何倍もの魔力を放っていた。
おぞましき存在。
その牙、爪、眼……何もかもが鋭く、恐ろしい。
奴の吐息は凍土のように冷たく。
さながら、全身が凍えて恐怖するかのようだ。
その魔物は、獅子の肉体を持ちながら、鷲のような翼を携え、大蛇の頭を尻尾に宿している。
無造作に、まるで子供が遊びで作った粘土の作品のように、歪で、混沌とした生命体。
奴の事を、人はこう呼ぶ。
「『キマイラロード』……!」
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その魔物は、合成され、絶大な力を得た暗黒の獅子・『キマイラロード』。
Aランクに位置し、大きさは2体分。
そいつは今、海覇達の眼前にて。
禍々しい邪気を放ちながら、立ちはだかっていた。
「……今までの奴等とは段違いのオーラだ」
「……ああ、こいつはヤバい感じだ」
海覇達も瞬時に悟った、キマイラロードの高い戦闘力。
アカツキ達も、先程までの構えからより一層強化し、己の油断と隙の排除に努める。
「キヒヒィ、こいつと、残りのダースウルフェン全部に、勝てるかなァ~♪」
「無理だよな!!無理だよなァ!!ギャハハハ!!」
男の憎たらしい笑い声が響く。
だが確かに、こいつの言う通り、今度はこちらの劣勢だ。
キマイラロード一匹だけでも結構な重荷な上に、ダースウルフェンの残党も混じってくるとなると、こちらの戦力もさすがに分散することとなる。
今までは雑魚処理だったので適当にやっててもそれほど苦戦することはなかったが、流石に一体の大物が割り込んでくるとそうも言ってられなくなるのだ。
ダースウルフェンに目を向ければ、キマイラロードに殺られ。
逆にキマイラロードに集中しようとすると、思わぬ所でダースウルフェンから奇襲を仕掛けられる可能性もある。
アカツキ達は、葛藤に似た苛立ちを覚えていた。
「……くっ」
「……トニカク、ヤルシカ、ナイゾ」
……覚悟を、強いられた。
「……ギャハァッ!ぶち殺せェッ!キマイラロードォォッ!」
……男の狂気に満ちた指令がキマイラロードに下された次の瞬間!
獅子の牙が、唸りをあげて!
アカツキ達を、殺しにきた!
「ウォォッ!」
それに果敢に向かうは、アカツキの刃。
戦場を牛耳る百獣の王に、宣戦布告を申し出る!
野生が作りし牙と、人が作りし刃の激突。
跳ねる火花、互いに削り合い、裂き合い。
アカツキが斬れば、キマイラロードが砕いてくる。
両者共、一歩も退かぬ戦況。
「グォォッ!」
「ウォォラッ!!」
叫べ。
命と命のやり取りは、こうあるべきだ。
もっとも、アカツキは機械なので、『命』ではないが。
だが、それでも。
……代わりに、『魂』をかけている。
そう。
熱く燃える、魂を。
「ラァッ!『レンゴクギリ』ッ!」
……その煉獄で、キマイラロードを焼き尽くせ!
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紅き炎を纏いし剣が、 アカツキの強き意志と共に放たれた!
空を焼き、風を燃やし、視界を焦がしていくその刃の矛先はキマイラロード。
必殺の一太刀が、急襲を仕掛ける……!
……が。
「……グルルルルゥ」
「ナッ……!?」
……『効いていない』。
バカな!アカツキの渾身の一撃が……!
全く、キマイラロードには通用していなかった!
そう……全く、傷の一つもついていない。
「そんな……!」
……海覇が愕然とするのも無理はない。
これまで、アカツキの『煉獄斬り』といえば、必勝の一手であり、直撃すれば敵の致命傷。
例えそうでなくとも、何かしら敵に傷の二つや三つはつけてきた。
だが、今回はそうではない。
このキマイラロードは、全くの無傷でアカツキの煉獄斬りを凌いだのだッ!
「ギャハハハハァッ!残念だったなァ」
「このキマイラロードにはなァ、色んなヤベェ薬物を投入しているんだヨォ」
「そう、例えば、さっきみたいな特技に対する抵抗力を無理矢理上げる奴とかなァ」
……『薬物を投入している』。
男が言ったその言葉が示している意味は……。
『ドーピング』。
「……!」
……海覇は、戦慄した。
そして、激しい『嫌悪感』を抱いた。
ドーピングという卑劣な行為もそうだが。
なにより耐えがたしは。
『魔物に無理強いし』。
『薬を飲ませ』。
『強制的に』。
『強くさせた』。
……人として、いや……生ある者として。
この男は、禁忌に触れていた。
何に目が眩んだのかは知らないが、薬物を服用させ生物を改造し、挙げ句にくだらない野望に悪用した彼の犯した罪は決して許されるものではない。
……いや。
許されて、良いわけが……。
ないッ!!
「……もう許さないぞ」
「貴様……!」
……その時、男はもう一つの禁忌と立ち会った。
『海覇の逆鱗に触れる』……という、禁忌と。
……男は、海覇の表情を見た瞬間。
「……!?」
……自らに迫る命の危機を、察知した。
今の海覇の形相は、とても少年のそれとは思えない程に、怒りと憎悪に染まっていた。
虎のような瞳孔。
鰐のような剥き出しの歯。
そして、鷹のような殺気。
まるで、理性を失った野獣の如し。
「……科学は、そんな事のために使うものじゃない」
「科学を……侮辱するナァァァァァアアアアアアアッッ!!」
……それは、海覇だからこそ抱いた怒りであった。
先祖の血を引き、先祖の願いを継いだ彼だからこその、怒りであった。
……激昂の科学者・海覇。
科学の屈辱を晴らす、一つの光となれ!
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怒れ、赤髪の少年。
生物を、そして科学を冒涜したこの悪しき男に。
お前の逆上を、知らしめろ!
「アカツキッ!」
「ハイ、ワカッテイマス」
「モウヨウシャハセンッ!」
海覇の激怒に同調したアカツキは、猛然と、合成魔獣キマイラロードに突撃した!
大剣ブレイブレードで、目の前を穿ちながら!
一直線に、キマイラロードを貫きにいく!
「ウォォッ!」
属性に対する耐性が強固ならば、逆に考えろ。
そうすれば、『無属性』が有効な事が、見えてくる。
そう、キマイラロードには何の小細工も無用の産物。
丸腰でかからなければ、一矢報いることすら叶わない。
それが、奴……キマイラロードの立っている境地なのだから。
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怒れ、赤髪の少年。
生物を、そして科学を冒涜したこの悪しき男に。
お前の逆上を、知らしめろ!
「アカツキッ!」
「ハイ、ワカッテイマス」
「モウヨウシャハセンッ!」
海覇の激怒に同調したアカツキは、猛然と、合成魔獣キマイラロードに突撃した!
大剣ブレイブレードで、目の前を穿ちながら!
一直線に、キマイラロードを貫きにいく!
「ウォォッ!」
属性に対する耐性が強固ならば、逆に考えろ。
そうすれば、『無属性』が有効な事が、見えてくる。
そう、キマイラロードには何の小細工も無用の産物。
丸腰でかからなければ、一矢報いることすら叶わない。
それが、奴……キマイラロードの立っている境地なのだから。
「ラァッ!」
一閃。
しかし、やはりと言ったところか。
さほどのダメージは与えらていない。
ピンピンしている。
「グルルルルゥ……」
……どうやら、この強靭な肉体もドーピングによって手に入れたものらしい。
奴の筋肉には、自然ならざる力が宿っている。
肉体増強の薬……それも、とびきり強力な。
恐らく、その薬によってキマイラロードにかかっている副作用の負担も凄まじかろう。
だが、キマイラロードはそれでもなお、それに耐え、アカツキと戦っている。
この時、アカツキは悟った。
「……コイツ」
……こいつは、ドーピングという重い鎖をあの男に背負わさせられながらも。
それでもこいつは、あの男のために、力を奮っている。
……なんと厚き、主君への忠誠心だろうか。
キマイラロードの強さの本質は、決してドーピングなどではない。
……その誇りこそが、奴の強さの真実なのだ。
『ズルをした卑怯者』という認識で、このキマイラロードに舐めてかかれば……。
……死ぬのは、そいつの方だ。
「……」
……アカツキは、キマイラロードに対して向ける目を変えた。
このキマイラロードは、あの男とは違う。
このキマイラロードは、ただ一人のマスターに忠実な、ただ一匹の『騎士』だ。
侮るなかれ。
「……キサマノソノチュウセイシン、ミゴトダ」
「ココカラハワタシモゼンリョクデヤロウ」
……獅子と、機械竜との一騎討ちが、始まる……!
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「ミセテヤロウ!ワタシノアラタナルチカラヲ!」
「ウォォォッッ!」
アカツキはその豪語と共に。
なんと、大剣ブレイブレードをアスファルトに捨て!
そして、腰を深く落として構えた。
そこから、体全体に力を溜め。
『黄金の闘気』を充実させていく……!
「あ、アカツキ……?」
……海覇は、アカツキのこの構えを初めて見た。
腰を落とすのは今まで通りだが、剣を捨ててのそれは見たことがない。
また、何やら、アカツキが解放した力の過半数が『爪』に向かっていっているように見える。
ということは、今アカツキが放とうとしているのはもしや、格闘業か?
いつの間にアカツキはそんな技を新しく覚えていたのか?
海覇にとって今この光景は、いわば未知の世界。
手に汗が滲んでくる。
「……グルルルルゥ……」
……対してキマイラロードは、これを避ける手段を選ばなかった。
キマイラロードもまた、アカツキと同様に力を溜め、必殺技の構えをとる……。
しかし、キマイラロードのそれはアカツキとは正反対の性質であった。
輝く『黄金』の反対といえば、そう。
鈍き『黒金』。
漆黒に包まれた物質。
本質の見えぬ存在。
黄金の、真逆。
その暗黒のエネルギーが、キマイラロードから無限にみなぎってくる……!
「……」
「……」
……そして、到来した沈黙。
光と闇の対面。
それらは対極といわれ、しかしその一方で『森羅万象の源』とも肩を並べていわれている。
その激突が、間近に迫っている。
冷たくはりつめた空気。
緊張感に支配された戦場。
幻想的に彩られた景色。
そして垣間見える、生と死の狭間。
次の一瞬で、全てが瞬く間に決まり、終結するだろう。
互いにマスターに忠実なる騎士同士。
これ程平等な一戦はない。
故に、恐れるものなど何もない。
奇襲も、不意打ちも有り得ない、正々堂々の一騎討ちなのだから。
騎士の名にかけて。
いざ。
尋常に……!
「……ショウブダッ!キマイラロードッ!」
「『ゴールドフィンガー』ッ!」
黄金に照らされし勇姿……!
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しばらく小説更新はお休みとさせていただきます。
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影と陰謀に包まれしこの戦場にて、黄金に輝くはアカツキの拳……いや、『爪』というべきか。
その美しき奥義『ゴールドフィンガー』は、昨晩、優衣とアカツキが不良達と対峙した際にアカツキが突如として編み出した技だ。
金色に焦がされた決意が、アカツキの鉄爪を鍛えぬいてゆく。
凄まじいスピードで飛びかかるアカツキが引き起こす空気摩擦と共に。
キマイラロードを、醜き野望もろとも貫くために……!
「ウォォォォッ!」
……それに対し、キマイラロードは……。
「……グルガァァァッ!!」
……咆哮。
と、同時に。
「……!!」
……キマイラロードを纏っている瘴気が、どんどん。
……膨張していく……!
……迅速に……!
「……これは、一体」
「おおかた『闇』かなんかを体ン中で作ってんだろうよ」
「あのクソッタレの養分となる物質っつったところか」
……魔物の中には、光や炎、『闇』などのように、形のないものを糧に生きる種もある。
キマイラロードもその一匹だ。
奴にとって闇とは、人間でいうところの『主食』にあたる。
生きていくうえで欠かせない存在。
そしてキマイラロードはそれを、自身の体の中にて生成することが可能なのだ。
外部から取り込む酸素、内部からはキマイラロード独特の体液などを成分とし作り上げる。
そうしてできた闇を己が食らうことで、キマイラロードは生命活動を維持しているのだ。
また、闇を過剰にとることで、戦闘能力も上げることが可能。
闇の成分を急速に供給し、大量に闇を生産することで、キマイラロードは自分自身の力を底上げできる。
そして今、アカツキと交戦しているキマイラロードもまた、その手段を講じていた。
雄叫びと共に、奴の体内から溢れる闇。
禍々しく、妖しく、おぞましい程にドス黒い暗黒が、アカツキの視界を覆った。
真っ黒の空間でも、アカツキのゴールドフィンガーは光る。
しかし、それ以外は完全に闇に呑まれた。
海覇、裕太、亜州人。
エイデス達。
刺客ども。
そして、キマイラロード。
アカツキ自身……。
そう、何もかも。
もはや、闇にて存在を示しているのはアカツキの爪のみ。
だが、闇にて最も力を誇示していたのは……。
「ガルルルルルガァァッ!!」
……キマイラロードだった!
「ウォォォォッ!?」
キマイラロードの獣爪を食らったアカツキ。
ゴールドフィンガーは、そのあまりの衝撃により輝きを失い、アカツキもそのまま吹っ飛ばされた……!
「アカツキっ!」
それにしても、なんという恐ろしき火力。
アカツキの新しき技『ゴールドフィンガー』を無理矢理力で押し退け、キマイラロードはアカツキのボディに大きな傷を負わせた。
闇を膨れ上がらせ、それをたんまりとたいらげたキマイラロードが放つ一撃は、これほどまでに強力なのだ。
「……タノシメソウダナ」
……トーナメント以来、消化不良ぎみであった彼の闘争心は、今。
……今、再び、芽吹こうとしている……!
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今日からまた毎日小説を更新していきます。ジョーカー3楽しみ
……力があればこそ、両者は対立する。
そう、そこに意思や野望がある限り。
海覇達と刺客共もまた、その宿命にあった。
彼らのいる戦場は未だ、キマイラロードの作り出した暗黒に閉ざされている。
彼らの視界の一切をも遮ってしまうほどに、彼らの世界は暗く染まってしまっている。
しかしそんな中でさえ、確かなる『戦意』というものは、彼らを血に争わせていた。
「ガルルガァッ!」
「トオボエハソコマデニシロ!」
アカツキは、叫ぶキマイラロードの姿を、闇の中でもしっかりと捉えていた。
例え何度奴に吹き飛ばされても、アカツキは依然として諦めてはいない。
例え、己が向かっていく先や飛ばされる先でさえ何も見えぬ、光なき空間だったとしても。
アカツキの中に、自慢の忠誠心があれば。
アカツキは何度でも立ち上がれる。
それがアカツキ、その機械。
そして!
「ゴールドフィンガーッ!」
「ガルルッ!?」
……紅爪はついに、キマイラロードに見事命中した!
「ガルルガァァァ!!」
ついに一矢を報いたアカツキ!
痛みに悶えるキマイラロード!
そして……!
「……ん?」
「視界が……!」
……なんと、どういうわけか、海覇達のいる路地裏を真っ黒に包み込んでいた闇が忽然と消え始めていく……!
「どういうことだ!?なぜ闇が晴れた!?」
死角の男は、これをアカツキの仕業と踏んで、アカツキを問い詰める。
するとアカツキは、こう言った。
「ゴールドフィンガーニハ、『イテツクハドウ』トオナジコウカガアル」
……『凍てつく波動』。
その技の効果は、『敵にかかっている良い効果を全て消し去る』というもの。
良い効果というのは、例えばそう、『バイキルト』などの呪文で攻撃力が倍になった状態だとか、そういう類いのものを指す。
凍てつく波動は、それらを全て消し去る特技なのだ。
そして、ゴールドフィンガーは、その凍てつく波動と同様の効果を持っている。
ということは、必然的に、キマイラロードが作り出していた暗黒が消えた原因は……。
「……ツマリ、ワタシガケシタトイウコトダ」
……ゴールドフィンガーのその効果が、『キマイラロードにとって良い効果』を木っ端微塵に消し去った……と、いうことだ!
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「明るくなった!」
「ここから反撃するぞ!」
アカツキの活躍により、暗く縛られていた世界はついに解放された。
空を見上げれば、青色が広がっていて。
周りの景色も、きちんと元いた路地裏の風景になっていて。
そしてなにより、視界がはっきりとしている。
目の前にいる頼もしき仲間と、悪の手先の姿が鮮明に見えている。
戦況を把握できる。
それは普段当たり前だったからこそ。
取り戻せた時の心強さは、デカい。
ゆえに、その後の海覇達の士気の揚がりようは凄まじかった。
アカツキを筆頭に、海覇達の仲間の魔物達が、次々と悪党共の領域に進軍してゆく。
「なんなのよ!こいつら!」
「キヒヒ……やべぇなこいつら……キヒヒ………」
敵は明らかに動揺している。
心が、極限に揺らいでいる。
「ガルル……」
キマイラロードも、それに同調するかのように、戦意を喪失していく。
何せ、自分が今まで積み上げてきた『良い効果』を全て打ち消されたのだ。
当然といえば、当然だ。
……どういうことかって?
決まっているだろう。
ここで言っている『良い効果』という言葉は、『一時的な身体能力の変化』として定義されている。
それはつまり、呪文や特技による変化に限らずとも、『一時的』であるならば、それは『良い効果』であるということだ。
そう、例えば……。
……『薬』による変化、とか……。
「……キサマハ、ナカナカミドコロノアルマモノダッタ」
「……ダガ、ソレデモ『ドリョク』ニハカテナカッタヨウダ」
……アカツキが、キマイラロードに詰め寄る。
誇り高きキマイラロードは、あくまで退かない。が、その四足は……。
……確かなる『恐怖』に、震えていた。
……そして、瞬間。
アカツキは、地に突き刺さっていた愛剣『ブレイブレード』を再び手に取り。
超スピードでキマイラロードの懐に入り……!
「……デナオシテコイ!」
「『レンゴクギリ!』」
……鋼の肉体に秘めたありったけの怒りの炎を!
力に溺れた哀れなる獅子に、渾身の力でぶつけた!
「ガァァァァァッ!!」
……キマイラロード、その魔物。
業火の中、炭になる間際。
……『努力』を、知る……。
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……アカツキは、キマイラロードを見事討ち取ってみせた。
そしてそれと同刻、他の仲間達もその勢いに乗り……。
「……これでクソ犬共は殲滅できたかァ、ウザったかったなァ」
……残ったダースウルフェン達を、全て掃討した。
これで、敵の魔物は0。
海覇達の勝ちである!
「終わりだ……キヒヒ……」
「きーーーっ!なんてムカつくガキ共なのッ!!」
刺客の男と女は、いかにも悪者らしい負け台詞を吐いて、海覇達に憤怒を露にしていた。
キマイラロードはそこそこ強かったとはいえ、やはり所詮はあの小物連中によって無理矢理力を引き出された魔物。
ここまでしっかりと己の道を歩み、努力を積んできた海覇達の敵ではなかった。
「さて……とォ」
と、亜州人がふと切り出した。
彼は海覇やアカツキよりもさらに一歩前に踏み出て、何やら刺客の連中に話を持ちかけるらしい。
刺客達見る彼の眼差し。
その、殺意にも似た鋭利さを持ったそれは……。
「……ひっ」
……刺客達を、恐怖させた。
そう、良い大人が恐怖するほどの、亜州人の形相。
この場にいる誰よりも、彼は修羅に身を包んでいた。
……やがて亜州人は、ゆっくりと口を開き。
……刺客達に、こう、尋ねた……。
「……てめぇらのボスのとこまで案内しろ」
「さもなければ……」
「……迷わず『殺す』」
……『殺す』。
それは、曲がりなりにも年端もいかぬ少年の口から発せられた言葉であった。
そして、そこには、一滴の冗談の粒も紛れていない。
……亜州人は純粋に、刺客の命を引き合いに出して、刺客達に案内を求めているのだ……!
「……あっ……あっ……」
……刺客もとっくに悟っていた。
『言わなければ殺される』と……。
だって、彼の顔を見れば一瞬で分かること。
本当にこちらを殺す気だ。
彼はそういう顔をしている。
……しかし、同時にこうも思った。
いくらなんでも、彼の仲間が彼を止めにくるだろう、と。
さすがに仲間に殺しはさせないだろう、と。
……だが、それに確信は持てなかった。
だって、彼の顔を前にしてそんなことを思うのは……。
……あまりにも暗愚なことであったから。
「……はい」
……刺客達の口はいつしか勝手に動いていた。
虚ろな目で二人は地を見つめる。
だって、顔を上げれば、またあの恐ろしい少年の姿を見ることになるから……。
「……亜州人……?」
……海覇はうすうす気づいていた。
亜州人が周囲に放っている殺気がさっきから尋常でないことに。
いくら普段からの言動が粗暴な亜州人でも、『殺す』なんて言葉を、あんな平然と、これ程に現実味を絡めて言うなんて、まともじゃない。
なにか、彼個人が秘めている事情が関係しているのだろうか。
……亜州人の動向に暗雲がかかる。
が、しかし同時に、亜州人が刺客達を脅迫したおかけで、今回の事件の主犯に会えるのだ。
いずれにせよ、海覇だけで解決できる問題ではなさそうだし。
海覇はひとまず、亜州人について深く考えるのを辞めて、今自分がやるべきことに集中することにした……。
「シドーの復活は、俺達が絶対止めて見せる……!」
信念に燃える、少年の宿願。
-
……刺客達に、彼らのボスがいる所まで案内されながら、移動していく海覇達。
「……そういえば」
……ふと海覇は、何かを思いだしたのか、急に歩みを止めてとんと立ち止まり、何やら難しい顔をし始めた。
「おい、立ち止まってねえでとっとと進め、このグズ野郎」
亜州人に催促され、海覇は、意識を取り戻したかのようにハッとなった。
どうやら海覇は、自身の思考の渦にのめり込んでいたらしい。
「す、すまん」
「……ったく」
……海覇が気がかりになっていたこと。
それは……。
(優衣ちゃん……大丈夫かな……)
…………
……
…
……時は、海覇達が刺客に襲われる前まで遡る……。
「……なんだか雰囲気がおっかないね、周麻美ちゃん」
「大丈夫よ、あなたのことは私が命に代えても守るわ」
……海覇、亜州人、裕太の3人からなるBチームとはまた別に、路地裏を進むもう一つのチームの姿が、そこにあった。
その名もAチーム。
優衣と周麻美、そして、ホープと名高いモンスターマスター竜己からなる小隊だ。
「ああ優衣さんのほっぺた柔らかいわ」
「ちょっ、周麻美ちゃん、くすぐったいよお」
……始めに言うと、周麻美は優衣にゾッコンである。
トーナメントでの戦い以来、優衣と関わることが多くなった周麻美は、次第に優衣の愛らしさ、可愛らしさに惹かれるようになり……。
……そして、色々あって現在のこの有り様に至るわけだ。
優衣は、純粋に周麻美のことを友達として見てるのに対して、周麻美は完全に優衣のことをアレな方向で見てる。
このあんまりな歪みっぷりに、周麻美の魔物達は、ホクブリを筆頭に、彼らが主人ながらドン引きしていた。
(ガチレズだな本当……)
ホクブリの心の声の一端である。
(海覇くんが居ない今なら、優衣さんと好き放題くんずほぐれつできる……!)
……言うまでもなく、周麻美の心の声の一端である。
「……居づらい」
……この場合、一番哀れな立場にあるのは竜己であった。
-
優衣と周麻美と竜己、そして愉快な魔物達……Aチームは、路地裏を淡々と歩いていく。
「いや~、にしてもホント、さっきから殺気立ってる所っすよねえココ」
『シードック』のシドックが、辺りをキョロキョロと見渡しながら言った。
「あ、俺今上手いこと言った」
……『さっき』と『殺気』。
ダジャレになってる。
「お前な……」
『リザードマン』のヒジカタは、そのくだらなさに呆れ顔。
一応ここは敵の本拠地であるからして、もう少し緊張感は持ってて欲しいものなのだが。
……それこそ、こんな『殺気立ってる所』なわけだし。
……だが、緊張感がないのはシドックだけではなかった。
「ナメコさんはこういった暗い所がお好きなのですか?」
「♪」
「そうですか♪」
……『グレイトドラゴン』のブリザー、『おばけなめくじ』のナメコもまた、この状況を楽しんでいた。
ブリザーは、大好きな愛弟子であるナメコと一緒にいれてご機嫌の様子。
その一方でナメコは、路地裏という場所を気に入ったらしい。
ピョンピョン弾んで喜んでいる。
……ナメクジらしいというか、なんというか……。
「……ふふっ、皆楽しそう」
……優衣は、そんな魔物達の姿を見て和んでいた。
「オロチちゃんもすっかり元気みたいだし」
「シャアー♪」
「あはっ、くすぐったいよぉ♪」
……『コアトル』のオロチは、優衣の頬を、その爬虫類特有の細長い舌でぺろぺろ。
2体分のモンスターがするだけあって、優衣の顔はオロチの唾液で全体的に塗ったくられてしまった。
「わぁ、べとべとだぁ」
……だが、当の優衣は全く気にしていない様子。
いや、むしろ、無邪気に楽しんでいるようだ。
まるで犬猫かなにかに舐められているのと同じ感覚らしい。
相手は大蛇なのに……。
おかげで、優衣の顔はねちょねちょ。
「オロチちゃんは可愛いーねー♪」
「シャア♪」
……でも、とっても楽しそう。
オロチも、優衣にすっかり心を許し、とってもなついていた。
「……驚いた、優衣は本当に魔物を手懐けるのが上手いんだな」
……竜己は、そんな優衣に称賛の言葉を送った。
「ええ~?そんな誉めても何も出ないよ~♪」
……そう言った優衣であったが、優衣は、もはやそれがお礼なのかというくらい眩しい笑顔を、竜己に送っていた。
「……海覇が惚れるのも分かるな」
「んー?」
「……なんでもないさ」
……竜己は密かに期待していた。
この、優衣という少女に。
……彼女の秘めたる、モンスターマスターとしての才能に……。
-
……現在別行動中の海覇達Bチームは、今ごろ、刺客に襲われてるところだろうか。
優衣達Aチームは、そんな仲間のピンチを知るよしもなく、相も変わらず、のどかに足を進めていた。
……しかし、このあまりの静けさに、竜己は……。
「……連中の邪気はさっきから犇々と伝わってくる」
「……だが、連中は全く動いてこないな」
……何度も言うようでくどいが、ここは敵の本拠地でたる。
竜己達がここに潜入していることを敵が知っているにしろ知らないにしろ……。
……ここの組織の構成員と思わしき人物が未だに竜己達の前に姿を現していないことはどう考えても不自然。
いつどの通路でばったり鉢合わせしてもおかしくはないのだ。
「敵が来ないなら良いことじゃないの?」
優衣は竜己に問う。
……だが、その返しに飛んできた竜己の答えは、意外なものであった。
「……いや、むしろ来てくれないと困るんだ」
「ええっ!?」
……『来てくれないと困る』。
彼は確かにそう言った。
一体どういうことなのだろうか。
一体、その言葉の真意は何なのか?
「困るって……?」
優衣は、再び問う。
竜己は、こう答えた。
「実を言うと、俺は、今回の事件の首謀者がいる所を知らない」
「だから、こうやって敢えて、皆と騒がしく喋りながら歩くことで、敵の戦闘員を誘きだし、そいつからその場所を無理矢理聞き出そうと思っていたんだがな……」
……どうやら、そういう算段だったらしい。
「確かに、あんなに大声で会話をしてたのに、敵の人は、誰も私達に気付いていないみたいだね」
竜己の話を聞いて、優衣もこの状況を不自然に感じ始めた。
……『私達に気付いていないみたい』……?
「……なるほど」
「この静けさは、俺達に『そう思わせる』ための仕掛けだったってわけだ」
「えっ?」
……刹那、竜己の口から……。
……『指示』が下された。
「……ここら一帯に微弱な電流を流してくれ、ヒジカタ」
「『らいめい斬り』を使えるお前なら簡単なはずだ」
「は?それってどういう……」
……竜己の指示に疑問を抱きかけたヒジカタであったが、ヒジカタの言葉は途中でとんと途切れた。
するとヒジカタは、ニヤリと笑ってこう言った……。
「……なるほどねェ……!」
どうやら、竜己の思惑に気づいた様子。
果たして、竜己の策とは一体……!?
-
「……ハッ!」
ヒジカタは、竜己の指示通り、ごく微弱な電流を、この路地裏の地を通して辺りに流した。
ピリピリ、優衣達の靴底にもその感触が伝わってくる。
「……?」
……優衣達には、この竜己の指示が何を意味しているのかまるで見えてこない。
電流なんか流してどうする気なのだろうか?
「……」
……ヒジカタが、いつになく真剣な表情を見せている。
優衣達は、ヒジカタが何をしているのか分かっていないが、ここは邪魔をしてはいけない場面なのかと空気を読んで黙っている。
静かに時が過ぎていく……。
「……」
……そして。
「……!」
……パチッ。
「そこか!」
……ヒジカタは突然そう言うや否や、目を見開いて、優衣達の思いもよらぬ方向へと剣を向けた!
その次の瞬間、剣から巨大な雷弾が剣の先からバリバリと迸り、そして砲弾のように射出された!
青白い光が、ヒジカタの向かいのビルの一室へと一直線!
すると……。
「くっ、バレたか!」
……その中から、一人の男の声が、雷鳴の狭間にて微かに聞こえた。
優衣達は、それを聞き逃さなかった。
「今のって……!」
「ああ、追っ手だな」
……どうやら、敵の刺客の尻尾を掴んだらしい。
しかし、さっきの電流でどうしてそれが出来たのか……?
「なんで分かったの?」
優衣が問うと、竜己はドヤ顔で次のように説明した。
「簡単なことさ」
「電流を流して、俺達が居ないところから電気の弾ける音がしたら、そこが敵のいる位置になるんだ」
「へぇー!すごいね!」
優衣は、そっか!と、頭上で豆電球を照らした。
……しかし。
「……で、どういうこと?」
「ズコーーッ」
……理解は、してなかった。
……つまり、これは音の出所で敵の居場所を探るという方法だったわけだ。
先程の微弱な電流は、生物に触れるとパチパチと電気の音がするものであり……。
その音が、竜己達のいる場所以外で鳴るということは、それ即ち、そこにはまた別の生物がいるということ。
海覇達Aチームは、Bチームとは離れて行動しているため、ここで道が交わることはない。
と言うことは必然的に、その生物の正体は『敵』に限定されるわけだ。
そのことに気付いた竜己は、機転を利かせて、ヒジカタに電流を流すのを頼んだ……と、いうわけだ。
「……さて」
「敵さんの、おでましだな」
-
強者の気配が、色濃く薫る。
青白いシグナルに導かれた刺客が、ついに竜己達の前に姿を表した!
「隙の無い小僧共め、ならばここで殺してやろうぞ!」
刺客は、少し年配の男のようで、年はパッと見60なんとかくらいに見える。
しかしなぜだろうか、この男からは、年寄りのそれとは思えぬただならぬオーラが漂っている。
『殺してやろう』と彼は言ったが、その言葉には、確かに強い言霊が宿っていた。
子供騙しの脅しではなく、本当に竜己達を始末する気なのだろう。
……だが、竜己は臆することなく……。
「……殺すねぇ、この魔物達を前にしてそんな宣言が出来るとはな」
……強気に、前に踏み出た。
しかし、竜己の言うこともそうだ。
こちらの味方である魔物達は、トーナメントにて目覚ましい活躍を果たした強者ばかり。
よほど敵に強いカードがいなければ、こいつらを相手に『殺す』などと身の程知らずな宣言は出来ないはず。
……どうやら敵には、何か協力な仲間がついているらしい。
「年寄りが一人でも油断せぬか……どこまでの隙の無い奴らよ」
「良いだろう!冥土の土産に見せてやろう!」
「『アトラス』!『バズズ』!」
……男が言うと、彼の背後から、徐々に黒い陰が立ち込めてきた……。
そして、その先から……!
「……こいつらも『復活』してたのか……!」
……竜己も思わず後退る程の魔物が、2体現れた!
まず1体目は、恐ろしい一つ目の屈強な巨人で、赤熱したかのような赤い体を持っている。
2体目は、猿のような見た目の高位悪魔で、これもまた赤い体。
彼らは『アトラス』と『バズズ』。
彼らは、かつてはとある者に仕えていた魔物である。
そう、その者の名は……。
……『邪神官ハーゴン』!
「……なるほど、面白い……!」
-
「……竜己くん、あの魔物達は」
「ああ、かつてあのハーゴンの側近として、3人の勇者の前に立ちはだかったという、伝説の『悪霊の神々』の2匹だ」
……『悪霊の神々』。
竜己はそう言った。
それ即ち、『アトラス』、『バズズ』、『ベリアル』……この3匹の魔物の総称である。
その内、アトラスとバズズの2匹が、竜己達の目の前に現れたというわけだ。
悪霊の神々は、今度の事件の発端である『シドー』を崇拝していた『ハーゴン破壊教』の教祖ハーゴンによって生み出された魔物で、生まれながらに凄まじい魔力を持っていたという。
ランクも、3匹ともSランクという高い水準。
アトラスは怪力、バズズは奇術、ベリアルは魔術にそれぞれ秀でていて、昔日の勇者達にとっては1、2を争う強敵であったと、伝説には記されている……。
……要するに、めちゃくちゃ強いってことだ。
「……っ」
……優衣は、肩にちょこんと乗せてるスラ助を守るように構える。
……スラ助が誰だったのか忘れちゃった人にもう一度コイツを紹介しておくと、優衣の相棒のスライムである。
一応、今までずっと優衣の肩に乗っかっていた。
「……ピキー」
……忘れられがちなスラ助であった。
……さて、それは置いておいて。
「……ベリアルは居ないのか?」
竜己は男に問う。
すると男は不敵に笑ってこう答えた。
「貴様らに答える義理はない……」
「大人しく、この薄暗く冷たい地に骨を埋めるが良い!」
……そして、男はついに臨戦体勢。
アトラスとバズズも、各々の武器を構えて、得物に魔力を注いでいく……!
「……えらく組織の情報を神経質に守ってるじゃないか」
「俺達をここで止められる自信が無いんだな?」
……竜己はそう吐き捨てながら、男と同様、モンスターバトルの体勢に入った。
ヒジカタ、ブリザー、オロチの3匹も、竜己を背にして戦闘準備を整える。
「私達も戦うよ竜己くんっ!」
優衣は竜己に言った。
……が、竜己はこう答えた。
「……ダメだ」
「えっ……」
竜己は言葉を続ける。
「あの2匹は遥か昔、人間や魔物達と数多の戦争を繰り広げてきたとされている」
「混戦には非常に慣れてるはずだ、多勢に無勢が効かない」
「……っ」
……確かに、竜己の言う通りだ。
下手にこちらが数で攻めようものなら、敵はその場に適した古の戦術でこちらを叩きのめしてくるだろう。
それならば、少数精鋭で臨んだ方が勝機がある。
「……大丈夫だ」
……竜己は、優衣達を励ますように言う。
「……今のところ、俺は海覇よりも強いモンスターマスターだ」
「なんてったって、『ホープ』だからな」
……希望よ、照らせ。
そして、滅ぼせ。
悪霊共を。
-
「先手必勝!」
「ヒジカタ!バズズに雷鳴斬り!」
「ブリザーは全体に白くかがやく息を吐け!」
「オロチも並びに猛毒の息だ!」
いち早く動いたのは竜己であった。
ヒジカタ達に次々と指示を繰り出し、敵の不意を突く。
「任せろ!」
そして、それに応えるように、ヒジカタ達もハイスピードで技を放った!
そう、いつもよりも俊敏に!
「ハァッ!」
ヒジカタが剣を振るった!
そこから吹き出る、雷鳴の衝撃波!
それは、地を裂きながらバズズへ突き進んでいく!
「しまった!出遅れたッ」
あまりに速い竜己とヒジカタのコンビネーション!
見事に男の一歩先をいくことに成功し、これでバズズへの被弾は確定した……
……と、思われたが……。
「キキ、その程度ォ……!」
「キキーーッ!!」
……バズズが叫んだ瞬間だった。
「……!?」
なんと、衝撃波が、先程よりも巨大に膨れ上がり始めた……!
突然、膨大な電力エネルギーと化したそれは、雷の爆音を一頻り撒き散らしていくと……。
……これまた突然。
跡形も無く、消え去ってしまった。
「……『相殺』か」
……竜己は、どうやらこれがどういうことなのか知っているらしい。
『相殺』とは、知っての通り、互いが互いの現象を打ち消し合うことだが……。
モンスターマスター達の間で使われる『相殺』という専門用語としては、こう定義されている。
『全く同じ性質の技同士がぶつかることで、互いが互いの技を無力化すること』……と。
……つまりそういうことだ。
バズズは、ヒジカタのらいめい斬りが自身に被弾する直前に、ヒジカタと同様、らいめい斬りを放ってこれを打ち消したのだ!
「……どうやらマスターよりも魔物の方が賢いようだな」
「……っぐ」
……流石は悪霊の神々。
人間以上の知能と力を持って魔物達を従えてきただけのことはある。
……だが、竜己は決して屈することはしなかった。
なおも竜己は笑みを浮かべて、戦場の指揮官として悪霊の神々と渡り合う。
「……だが、これはどうだ!」
「ブリザー、オロチ!やれ!」
「グォォォォォッ!!」
瞬間、ブリザーの、凍えるような『白くかがやく息』と、オロチの『猛毒の息』が、同時に発射された!
二つのブレスは折り重なり合い、氷と毒の二属性を持つ合体技『白くかがやく猛毒の息』となって……!
バズズとアトラスを凍てつかせ、猛毒に侵さんとした……!
……だが!
「ウォォォッ!」
……アトラスが、その巨大なこん棒を振りかぶった時!
白くかがやく猛毒の息は……!
「……はは、まさか」
……風と共に消されてしまった……。
恐るべしアトラスの怪力……!
骨も凍らせ、細胞まで腐食させる程の息をこうも容易く消してしまうとは……!
「……勇者達が苦戦しただけあって、やっぱ簡単にはいかねえか」
バズズとアトラス、この2匹……。
今までの敵とは、明らかに格が違う……!