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小説作成所(旧小説フォーラム交流所)に載せさせて戴(イタダ)いていた作品です。
目次頁(ページ) 内容 01 説明 02〜07 序章 08〜10 第一章 11〜14 第二章 15〜17 第三章 18〜21 第四章 22 終章 24〜27 追伸 28〜 解説
人物紹介
※全員十八〜九歳。名前 身体的特徴 その他 h 微妙に低いかもしれない身長。 語り手。e と同居している。 e 平均程度の身長。 探偵。 i 身長は若干高め。 御洒落(オシャレ)に関する意識が強い。 n 身長は稍(ヤヤ)低め。猫背。 臆病。何時(イツ)もi の云いなり。 x 長身。 留守番電話設定なし。三重県在住。 j 小柄。膚(ハダ)が皓い(シロイ)。美少年。 三重県在住。自宅(館)に入ると、性格が変わる。
※人物紹介のx とj が反対になってました。(今は訂正済み)
解説に関して
こういう解説は、時間軸に合わせて書かれるものか物語の進行に合わせて書かれるものに二分されるが、書きやすく、理解もされやすいと考えられる物語の進行を軸にした書き方にする。
おまけ(大幅変更した部分<<12〜14>>との比較用に)
——x の独白
「さて——」
彼は辺りを見回す。風が吹き荒れる、天鵞絨(ビロード)が揺れた。
「さて、俺はこの事件を解くに当たって選択していく方法を採った(トッタ)」
「洗濯?服でも洗ったのかい」
僕の科白(セリフ)は空気の如く(ゴトク)。
雨が降り始め、屋根を打つ音が聴こえる。
「——例えば、此れ(コレ)は彼の(アノ)怪しい男を犯人と仮定した場合。
1 犯行は犯人が階段を降りるのを夜に目撃した後である。
2 犯行は犯人が階段を降りるのを夜に目撃した前である。
此れは、今日彼処(アソコ)の宿の大家に訊いたんだが、彼処(アソコ)の階段は古くて、音が凄いそうだ。
加えて、ここ最近大家は極度の不眠症なんだ、因って(ヨッテ)昨日は一晩中寝ていなかったらしい。
其れ(ソレ)と、事件の日に怪しい人物が夜中に一度階段を下り、車の音がした。
暫く(シバラク)すると、叉(マタ)車の音がしたので、外を眺めていると、怪しい人物が一人、階段を上がっていくのを大家が確認したらしい。
此れ等(コレラ)のコトから、犯人が何もないのにわざわざ犯行現場へ戻ってくることはないと思われるので、<2>が正しいと思われる。
乃ち(スナワチ)、二度目の怪しい男は全く無関係な人物だと思われる」
「一寸(チョット)待てよ、窓から降りたんじゃ——」
j は気障(キザ)ったらしく云う。
「君も一瞬であれ、彼の(アノ)建物を見ただろう。
彼の(アノ)宿は二階の床の高さから地面まで約五mある。
序で(ツイデ)だけど、彼の(アノ)宿の階段は意外と几帳面(キチョウメン)な感じで、一人で乗ったときと二人で乗ったときでは鳴る音の大きさが違うんだよ」
まあ、何う(ドウ)でも佳い(イイ)のだが——j がぽつんと云った。
「——さて、話を続けよう——」
雨脚(アマアシ)が強くなる。
「次に、叉(マタ)二つに分ける。
一 犯行は部屋の中で行われた。
二 犯行は部屋の外で行われた。
此れ(コレ)は警察の発表を待つしかないが、恐らく<一>だと思われる。
根拠は、血の飛び散り方等だ。綺麗に放射状に飛んでいたよ、扉の倒れたところ以外はね。
でも、十中八九彼処(アソコ)も同じように放射状になっていたと思うよ。
よって、此処(ココ)では仮に、<一>が正しいとして話を進める。
壱 犯人が凶器を用いた。
弐 犯人が凶器を何者かに用いさせた。
参 犯人がとった行動が間接的に被害者に被害を与えた。
此れは、特に決め手がないと思われるが、犯人が意識せずにやってしまったとすれば、<壱>だと云うことになる。
仮に、此処(ココ)では<壱>が正しいと仮定する。
すると、犯人は犯行後何らかの方法で、階段を使わずに宿から脱出したことになる。
壹 犯行直後犯人は部屋から立ち去った。
貳 犯行直後犯人は部屋から立ち去らなかった。
此れは、<壹>が正しいと思われる。
根拠として挙げられるのは、犯人の心理としては一刻も早く現場を立ち去りたくなるのが普通である為(タメ)である。
よって次のコトが判る。
犯人は車で戻ってきた直後、犯行を行った。そして、抜け穴から——」
「残念でした!」
雷が吼(ホ)えた。軈て(ヤガテ)、雨は去った。
「……どういう、意味…だ?」
「何を云ってるんだか?抜け穴が在れ(アレ)ばとっくに警察(サツ)が見つけてるよ」
項垂(ウナダ)れる。
光が部屋に差し込む、其の(ソノ)光の加護のウチでのみ現れる笑顔の儘(ママ)で、彼は指を持ち上げ、云った。
「さあ、h 。 君の番だ」
第二章終了
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序章壹(イチ) 四月八日 午後十一時 n の部屋にて 隣人達による証言に基づく(モトヅク)推測
彼は嗤(ワラ)った。
「どうしたって云(イ)うんだい?」
僕は問うが、彼は嗤い続けた。
仕方がない。
さほど心配しなくても良さそうだから、抛(ホ)っとこう。
此処(ココ)まで来て、漸く(ヨウヤク)彼は話し始めた。
「それがさ——」
その後、暫く(シバラク)喧噪(ケンソウ)が続くかと思いきや、鈍い音がした途端、静かになった。
終了(推測なので、<<僕>>や<<彼>>が誰なのかは判らない。
又、警察は何れ(イヅレ)かがn だろうと見ている。)
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貳(ニ) 四月八日 午後十一時 h&e事件の夜、探偵達は——
「昨期(サッキ)電話書けたらさ、n 又愚痴(グチ)ってたよ。
ホント、もう自分の名前ぐらい認めろってのに…」
「そう云ってやるなよ」
彼——e はとかく、他人をかばう。
「まあ、もう子供じゃないんだからそろそろ諦める(アキラメル)べきだけどな」
天鵞絨(ビロード)が揺れる。
恰(アタカ)も嗤っているようだ。だが其れ(ソレ)は天使の微笑み(ホホエミ)ではなく、悪魔の微笑(ビショウ)のように僕には見えた。
「しかし、阿郎の何処(ドコ)が悪いって云うんだい?
太郎なんて在り来たり過ぎるじゃないか」
「其れ(ソレ)は僕も云ってみた。
けど彼奴(アイツ)は<t>が必要だ、<t>が必要だと嘆いて(ナゲイテ)いるんだ。此方(コッチ)の云うことにはちっとも耳を貸さずにね」
さて——ことが起こったのは四月九日だった。
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參(サン) 四月九日 午前十時 h&e事件が探偵の元へ
探偵は鬱陶(ウットウ)しげに話し出す。
やはり、この時も天鵞絨(ビロード)は舞っていた。
此れ(コレ)は悪魔ではなく、凡て(スベテ)を知っているモノだけが漏らす事の出来る嗤み(エミ)だった。
「で——?」
探偵は此れだけ云うとソファの中にのめり込んでいった。
「襲われたのは僕等も知っている通りn だ。
どうやら彼はその日、知人にゴルフバッグを貸す約束をしていたようだ。
此れは彼の住んでいる宿の隣人達から聞いたし、大家にも話していたらしい。
そして、知人らしき人物が彼の部屋に入ったのを宿の真正面に在る交番の警察官二人が証明している。
此の二人は真面目の固まりで、彼処等(アソコラ)辺りでは有名だそうだ。
よって此の証言は信用して佳い(イイ)と思われる。
そして、其の(ソノ)十分後に知人は莫迦巨い(バカデカイ)ゴルフバッグを背負って出てきた。
しかし、その時の彼の服装は春にふさわしくない黒いコートにサングラス、マスク、帽子と怪しい服装度百%だったらしいよ」
彼は唐突に口を挟んだ。
「その<怪しい服装度百%>と云う、その言葉を考えついたモノのネーミングセンスが疑われる様な言葉は何処(ドコ)かの雑誌に載っていたのかい?
もしそうなら、直ぐ(スグ)に其の雑誌の購読を已め(ヤメ)たまえ。 其の代金が浮けば——」
「判ったよ!」
僕は黙りこくった。(無論、h が創った言葉だった。)
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事件の内容
「——続けて…」
僕は暫く(シバラク)黙っていたが、軈て(ヤガテ)喋り(シャベリ)だした。
「其の(ソノ)男はもう一度、ゴルフバッグを担いで(カツイデ)帰ってきた。
その後、男が部屋から出たと云う証言はない。
さらに、窓は一部が割れていたモノの其の埃(ホコリ)の積もり具合から、どんなに少なく見積もっても約半年程窓は開いていなかった、と云われている。
ついでに、此の(コノ)窓が割れていたのは、近所の餓鬼(ガキ)共による事が隣人達により証言されている。
そして、明け方。
日の出と共に穹(ソラ)を光る物体が飛んだと警察官は云う。
大きさは約十cm程と云われている。此の(コノ)証言に関しては信憑性(シンピョウセイ)が薄い。
警察官は、其の(ソノ)石が飛び出したと看(ミ)られるn の借りている部屋へ行ったかと思いきや扉に体当たりし始めたらしい。
古い為か脆かった(モロカッタ)ようで、二度もぶつかると扉が外れて中に入れたそうだ。
部屋の中にはn が一人倒れていたらしい。
ガス等の匂い(ニオイ)は何もしなかったそうだ。
無論、窓の穴は換気用には小さすぎる為、部屋に充満していたガスを一晩で入れ替えるなんて事は不可能だと警察が発表している。
さらに、特に何時もと違うと指摘された点は、天井が少し焦げていたコトと、
香酉線香(カトリセンコウ)が狭い部屋の真ん中にあったコト、
彼の大切なクロスボウ——特注でほぼ金属製——の金属製の部分ではない、数少ない木の部分が少し焦げていたコト位だろう。
さらに、恐らく此れ(コレ)が今回の犯罪の醍醐味(ダイゴミ)と思える部分だが、彼の机——此れも又、部屋と同じように小さくてね。
高さ450mm、奥行きと横幅は各300mm、厚さは20mm——そんなモノの上に、GIN(ジン 酒)が置いてあった。
ついでに、その中には遅速性(チソクセイ)の睡眠薬があったそうだ。
さて、凶器である椅子も在った。
血痕(ケッコン)はどうなっていたのか完全には判ら(ワカラ)ない。
最初に入った警察官が扉でぐちゃぐちゃにしてしまったからね。
全く、勿体(モッタイ)ないコトをしてくれたよ」
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警察の見解への批評
「其れ(ソレ)で——」
彼は云った。
「其れ(ソレ)で、どうかしたのかい?」
「勿論(モチロン)さ。
警察の見解は、
‘今回の犯人は例の友人であり、n は被害者である。
クロスボウの傷などは被害者の不注意から付いたモノであり、
被害者は其れ(ソレ)を隠していただけであり、
友人が呼び出された本当の理由はクロスボウの修繕である。
何故犯人が部屋にいなかったかは不明である’
としたモノだけど、違うね。
先ず(マズ)彼——n はアレ(クロスボウ)に何か理由があって態と(ワザト)傷を付けたのならまだしも、
不注意で傷を付けるコトなんて絶対にない。
本当はこうだと思うんだ」
少し、間を開けて——
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h の推測
「先ず(マズ)最初に、あの男の正体だが、僕は、——余り知られていないが、——今回同時に行方不明となっているi ではないか、と僕は睨んでいる。
i はここ一週間——そう、四月二日から姿を見せていない。
そして、その失踪の直前、i をn の宿の近くで何度も見かけたという情報が在る。
理由はこれだけ在る。充分過ぎるだろう?
さて、それを踏まえた上で、本題に入る。
n にはi を殺すつもりはなかったが、i が——恐らく冗談で——『お前のその<t >に関するいじめは俺が始めた』とでも云った。
そしてn が、それに対して怒ってしまったんじゃないかと僕は考える。
其処(ソコ)で、喧嘩(ケンカ)になるかと思いきや、n は手近に在った椅子でi を悲鳴も上げないうちに殺してしまった。
恐らくi を殺すつもりなんて無かったんだろうけども。
しかし、阿郎は此処で、其の時のi の服装——全身黒ずくめの <怪しい服装度百%>——を思い出し、
偶々(タマタマ)側(ソバ)に在った燃える種類(タイプ)のゴルフバッグに死体を入れていった。
この時、血痕(ケッコン)が残らなかったのは、偶々ビニールシートを敷いて何かの修理でもしてたんじゃないかな、と思う。
よって其れもゴルフバッグの中に詰め込んで、i が偶々乗ってきていた車に乗って何処(ドコ)か山奥にでも、行ったんじゃないかと思うよ。
そんでもってビニールシートは切り刻んで(キザンデ)、川にでも流し、死体は何処か人気(ヒトケ)のないところに深く埋めて、その後はゴルフバッグを背負って帰ってきた。
次に、ゴルフバッグを切って紐(ヒモ)にして、香酉線香(カトリセンコウ)に結びつけて、時間が来たら燃えるように設置(セット)する。
そして、クロスボウを其の(ソノ)紐でぐるぐる巻きにして天井の方で椅子を巻きつけた状態で引っ掛けて——勿論、血の付いている面が付着しないようにして——、
叉(マタ)戻して、ゴルフバッグの余りは重りにしたというわけさ。
そう、其の(ソノ)重りこそが彼の(アノ)警察官の見た飛行物体なんだ。
後はi の指紋の付いたGINを手袋をして持って、グラスに注ぎ、遅速性の睡眠薬を多量に溶かし、其れ(ソレ)を飲む。
最後に、其の(ソノ)手袋をクロスボウの重りの中に突っ込んで、香酉線香に火を点ければ、もうそれで終わりだ——」
序章終了
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第一章h の推測への探偵の酷評
声が響く…——。
「——そんな訳…」
「そんな訳ないだろ——」
探偵は其の(ソノ)声を嗤い(ワライ)声へと変えていく。
「先ず(マズ)、第一に‘偶々(タマタマ)’が多すぎる。
実際問題そんな事云(イ)ってたら、現実に迷宮入りされている事件に対して、
‘通行人が偶々鍵を開ける名人だったので、侵入し中の住民を殺害した’
とでも云えば通行人を犯人に出来てしまうじゃないか。
厭、それどころか誰でも犯人に出来てしまうよ」
黙りこくった僕を見て、彼は嗤み(エミ)を浮かべる。
僕はつい、云い返す。
「そうは云うけどね、此れ(コレ)は君の大好きな世界である、推理小説の世界じゃないんだよ?
君は判って(ワカッテ)るのかい?
仮に、僕に偶然が続いて宝くじが二回当たっても、其れ(ソレ)は現実の出来事であり、‘あってはならない出来事’ではない。
乃ち(スナワチ)、今回起きた事件だって仮にも現実にあった事件。
偶然の連鎖によって或人物(アルジンブツ)の殺意が目覚め、
殺人(未遂<ミスイ>)を実行させたと云っても過言ではない」
彼は鼻で嗤っ(ワラッ)た。
「そうかい」
「ああ。
それじゃあ、現場に行ってくる。
君も来るかい?」
「いいや、もう、判っているというのにそんなコトしてられないよ。
時間の浪費じゃないか」
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違和感×趣味×後悔
誰と行こうか?
一人で現場に行っても面白くない。
「トゥルルルルル、トゥルルルルル…」
電話の呼び出し音が鳴り続ける。
どうやら彼奴(アイツ)は留守電を入れていないようだ。
全く何時(イツ)になったら出るのか。 其処(ソコ)で僕は受話器を置いた。
此れ(コレ)以上時間を無駄には出来ない。
今は未だ(マダ)午後一時。今から急げば、五十分には着く事が出来る。
————
K 駅より目指す。時間にして約二十分。
電車に揺られつつ現場へ向かう。
そして僕は考える。
今回の事件の構造によく似た出来事に何時(イツ)か出遇った(デアッタ)ような気がする。
何時だったか?思い出せない。
「確かに見たんだ——、聞いたんだ……」
————
軈(ヤガ)て電車の旅は終わりを告げる。
電車から降り立った地は既に(スデニ)我が懐かしの故郷。
ホームを一歩歩く度に風が駆(カラダ)をすり抜ける。
改札を抜けた時、其処(ソコ)は既に現代から置き去りにされた世界。
しかし、僕を幻想の世界から引き戻す声がした。
「h か?久しぶりだな」
成程(ナルホド)、駅のロータリー付近に立っているのは、先刻(サッキ)電話をしても出なかったx とj か。まあ、十中八九此奴(コイツ)等なら、未だ(マダ)——
「あの気持ち悪い趣味未だ続けてんのか?」
「続けてて悪かったね。其れ(ソレ)にしても、久しぶりに遇(ア)って親友に云(イ)う最初の言葉が其れかよ」
「そうさ。非道い(ヒドイ)ったらありゃしない」
さて、今の会話は一つ目が僕、二つ目がx 、三つ目がj だ。
「まあ、今日は事件の現場を見に来たんだからさ、疾(ハヤ)く行こうよ」
小柄な彼はすたすたと先を行った。
そして、歩きながら僕は後悔した。
日傘を莫迦(バカ)にしちゃいけないな。
僕の前を二人の婦人が日傘を差して、涼しそうに通り過ぎて行った。
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x の意外な特技
午後三時十七分、現場に着いた。
日が照りつける中、x が「昨日描いといた」と云って美術に圧倒的に近い——乃ち(スナワチ)曲線が直線よりも多く登場している——絵を見せてくれた。
ふむ。
此の(コノ)間の雑誌に書いてあった絵だけじゃ不完全な説明だった。
「あり、警察もさすがに来てるみたいだぞ」
云ったx に続いてj も驚いている。
慌てている彼等に問う。
「何う(ドウ)云うことだよ?」
「嗚呼(アア)、厭(イヤ)ね。
お前もこの春Y 署署長に就任した武下実(タケシタミノル 三十八)は知ってるだろ、彼の(アノ)小心者。
実は昨日、警察が来た時、其奴(ソイツ)も来たんだよ。
そして、被害者を運んでいったんだ。
よって今現在、被害者のことは警察が発表してくれるまで謎というワケだ。
で、警察はその後、テープを貼ったら一目散に駆けてったんだ。
交番の奴らを連れて、誰も残さずに、去っていったんだ」
「そう、誰も残さずにね」
「おい、j 御前、そう云う他人の科白(セリフ)の繰り返しばっか已(ヤ)めろよ」
何故かそう云いつつ彼等は現場から離れていた。
「お前等、何処(ドコ)行ってるんだよ」
「だってあんな所居ても仕様(ショウ)がないだろ。
だから今は此奴(コイツ)の家に向かってるんだよ」
「そう、向かってるんだよ、h 君」
j 、おまえそんな厭味なやつだったっけ……。
午後三時半 j 宅
静かに陽(ヒ)は照らしだす、この儚すぎる世界を。
館へ一歩足を踏み入れた。
j は此方(コチラ)を振り向き、穹(ソラ)を眺めて(ナガメテ)談じ始めた。
「ようこそ、我が屋敷へ——」
第一章終了
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第二章某教授の敵を髣髴(ホウフツ)とさせる、その症状の原因は——
何も、j はアンソニーのマネをしたかった訳ではない。
事実、何故こんな事が起こるのか、此れ(コレ)の解(コタエ)は僕でも知っている。
「x 未だ(マダ)此奴(コイツ)の癖というか病的な症状というか……。
まあ、此れは治ってないんだな?」
「Yes !!」
扉が閉まったとき、館は闇を迎える。
しかし、彼等が歩けば、僅か(ワズカ)に天窓から漏れている光が瞳(メ)に入る。
<玄関の間>を抜け、ホールの扉を開ける。
その眩い(マバユイ)程の光。
主(j )は壁に挟(ハサ)まれた空間の中でのみ安らぎを得る。
ソレは彼の<色々恐怖症>——乃ち(スナワチ)、恐がりな所を隠すことなく示している。
その病的症状が示すは、彼の只真っ直ぐ(タダマッスグ)な性格。
<色々恐怖症>を素(ソ)の儘(ママ)生活面に出している。
此れ(コレ)を純真な性格の表れと云(イ)わずなんと云おう?
「さあ、誰からだい?」
「何が?」
「決まってるだろ、探偵になれなかったモノ達の探偵に送るささやかな挑戦状だよ——」
探偵——e 。探偵になれなかったモノ達——h ,j ,x 。
「そう来りゃ、俺からかな——」
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x の独白
資料:事件に関わる出来事
※<K:>は宿の向かいに在る警察官が、<O:>は大家、及びn の隣人が証言したことを表す。引用:
事件発生前
O:n が、知人にゴルフバッグを貸す約束をしている、と隣人や大家に話す。
事件当日
夜
K:知人らしき人物——春にふさわしくない黒いコートにサングラス、マスク、黒い帽子を身に着けた黒ずくめの怪しい人物がn の部屋を訪れる。
OK:十分後、その人物が莫迦巨い(バカデカイ)ゴルフバッグを担いで出てくる。
そして車で出発する。
OK:車が来たので外を見ると男が、ゴルフバッグを背負って階段を上っていく。
「さて——」
彼は辺りを見回す。風が吹き荒れる、天鵞絨(ビロード)が揺れた。
「さて、俺はこの事件を解くに当たって選択していく方法を採った(トッタ)」
「洗濯?服でも洗ったのかい」
僕の科白(セリフ)は空気の如く(ゴトク)。
雨が降り始め、屋根を打つ音が聴こえる。
「——例えば、此れ(コレ)は彼の(アノ)怪しい(下りて行った)男を犯人と仮定した場合。
1 犯行は、犯人が階段を降りるのを、夜に目撃した後に行われた。
2 犯行は、犯人が階段を降りるのを、夜に目撃した前に行われた。
此れは、今日彼処(アソコ)の宿の大家に訊いたんだが、彼処(アソコ)の階段は古くて、音が凄いそうだ。
加えて、ここ最近大家は極度の不眠症なんだ、因って(ヨッテ)昨日は一晩中寝ていなかったらしい」
j が気障(キザ)ったらしく口を挟んだ。
「君も一瞬であれ、彼の(アノ)建物を見ただろう。
彼の(アノ)宿は二階の床の高さから地面まで約五mある。
大家に気付かれず、且つ(カツ)自分の体を傷つけることなく——何故人の体を運ぶなんて云うのか、は後から云うけど——人の体を運ぶのは大変だから、怪我した体でやるのは無理だ。
序で(ツイデ)だけど、彼の(アノ)宿の階段は意外と几帳面(キチョウメン)な感じで、一人で乗ったときと二人で乗ったときでは鳴る音の大きさが違うんだよ。
そして、最初の怪しい(下りて行った)男の時は<<二人分の音>>がして、二度目の(上って行った)男の時には、<<一人分の音>>がしたらしい」
j を睨んでいるx は、表情が歪みそうになるのを何とか堪えて——
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x の猛撃
「今その説明をする必要は無いんじゃないか?
何れ(イヅレ)俺がするのだから。
何より俺の独白(スイリ)の邪魔をしなくても——
……」
……。x は何とか耐え切ったようだ——。危なかった……。
彼は再度j を睨み——
「——ゴホン。
そしてその大家は、事件の日に怪しい人物が夜中に一度階段を下り、車の音がした、と証言している。
暫く(シバラク)すると、又車の音がしたので、外を眺めていると、怪しい人物が一人、階段を上がっていくのを大家が確認したらしい。
尚、後で判った事だが、その車は盗難車で、中にはその男の身元を示すものは何も無かったそうだ。
此れ等(コレラ)のコトを踏まえると、犯人が何もないのにわざわざ犯行現場へ戻ってくることはないと思われるので、<2>が正しいと思われる。
乃ち(スナワチ)、二度目の怪しい男は全く無関係な人物だと思われる。
——と云いたい所だが、今俺が云った科白(セリフ)により、それは否定されてしまっている。
乃ち、<2>の場合<<もし大家がずっと起きていたのなら——しかも大家はこれを認めており——大家が、若(モ)しくは、向かいの警察官が、その二度目の怪しい男が下に下りたのならそれを、降りてないのなら二階にいることを確認することになった>>筈(ハズ)だからだ!」
「——チッ」
j 、止めろよ。そんな白地(アカラサマ)に——x が<2>を選んだところを狙って、莫迦(バカ)にしようと、していた事を露(アラワ)に——するなよ。
「フン」
x も先刻(サッキ)の仕返しと云わん許り(バカリ)に——
j を見て嗤う(ワラウ)。
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x の推理
しかしこれにj は、全くと云って良い程反応せず——
x はこれを見て又嗤う。
「では、——。
そろそろか、この物語(マーダーケース)が終幕(カーテンフォール)を迎えるのは」
j が云う。
「そんな事。よく云えたな」
j とx ——……。
彼等は本当に、探偵ではないのだろうか。
厭、こいつ等は既に——
「探偵だから——そう、それ故だ。
お前等も気付いてると思うが、恐らく——あの男の正体はi だ。
一週間も姿を隠していて、しかも失踪の直前に事件現場付近で姿を確認されているからんだからな。
これらを踏まえると、
i は一週間入念に準備して、予めn にゴルフバッグを借りる約束をしておく。
そして、n の部屋へ向かい、n を例の莫迦巨い(バカデカイ)ゴルフバッグに入れて連れ出す。
ここからは俺の完全な推測だが、噂に在った<<コカイン密売説>>は本当なのではないのかと、思う。
しかし、i は狡猾だ。元々n を殺す気でいたから、あいつにはコカインを一切与えなかった。
代わりに——、遅速性の睡眠薬を過剰に——致死量以上に与えたのだ。
ところが、n は飲んでしまったが、殺される前にそれに気付き、運良くも逃げ出す事に成功したのだ。
しかし、自分の部屋で椅子に腰掛けようとした途端、薬が効いてきて、倒れてしまった。
そして、椅子の角で頭を打って、倒れてしまった。
これが……この事件の、悲しい、悲しい、結末さ——」
これで決まりだな。
本当にそう思った。
j のその科白が飛び出すまでは——。
「そもそも——、だ。
大きさの問題を無視できたとしても、重さはどうなる?
六十数キログラムを、単なるゴルフバッグが支えることができるとでも云うのか?」
「——ッ!」
雷が吼(ホ)えた。軈て(ヤガテ)、雨は去った。
x が項垂(ウナダ)れる。
光が部屋に差し込む。其の(ソノ)光の加護のウチでのみ現れる笑顔の儘(ママ)で、彼は指を持ち上げ、云った。
「さあ、h 。 君の番だ」
第二章終了
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第三章h の独白?
「さて——」
j の顔から嗤み(エミ)が消える。
「さて、今回の僕の推理は誰が聴いても、間違っているんだ。
でも、其処(ソコ)が重要なんだ。
其れ(ソレ)以外の所なんてどうでも佳(イ)い。
何なら耳栓をしていてくれても構(カマ)わない。
だけど、絶対におかしな所を見つけて欲しいんだ。
そう。
僕は、真実に果てしなく近いところにいるんだ。
けど、その事実を僕の思考が拒絶してしまうんだ……。
——だから、君達に解いて欲しいんだ。
この事件の真相を——、僕の拒絶する真実を……」
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拒絶された真実とは——
光が途絶える、時計の音が鳴る。
「犯人は、n に今度ゴルフバッグを借りるから、周りの人物に云(イ)いふらしておいてくれ、
とでも云っておき、まあ仮に例のクロスボウの修繕をする約束だったとする。
そして、犯人は宿を訪れ、暫く(シバラク)の間、大人しく修繕していたとする。
犯人は、手土産として持ってきていたGIN(ジン)を出し、彼に飲ませた。
が、彼は酔った為か禁句——<t >に関する科白(セリフ)を云ってしまった。
もしかしたら、犯人はiを全く別の方法で殺そうとしていたのかもしれない。
しかし、現実は犯人の思惑とは違った——」
雨粒が一粒落ちた。二粒三粒……。 軈(ヤガ)てソレは凄(スサ)まじい音を立てる雨となる。
「——彼は、怒り狂う。そして、犯人はつい人間としての防衛本能を働かしてしまい、手近に在(ア)った椅子で彼を……」
雨の音が安定してきた——。
「彼は自分の車に乗って、死体を処分した。
そして、宿に戻って来て、ゴルフバッグを切って紐(ヒモ)にして、香酉線香(カトリセンコウ)に結びつけて、時間が来たら燃えるように設置(セット)した。
どのように設置(セット)したかと云うと、クロスボウを其の(ソノ)紐でぐるぐる巻きにして天井の方で椅子を巻きつけた状態で引っ掛けて——勿論、血の付いている面が付着しないようにして——、
又戻して、ゴルフバッグの余りは重りにしたというわけさ。
そして、其の(ソノ)重りこそが彼の(アノ)警察官の見た飛行物体なんだ。
後はi の指紋の付いたGINを手袋をして持って、グラスに注ぎ、遅速性の睡眠薬を多量に溶かし、其れ(ソレ)を飲む。
そして最後に、其の(ソノ)手袋をクロスボウの重りの中に突っ込んで、香酉線香に火を点ける——」
豪雨に加え、暴風がし始めた。
不意に扉を叩く音がする。
しかし、この音はホールを抜けてきたことに加え、暴風雨の音を受けたため比較的小さなモノだった。
「少し、待っていてくれ給え(タマエ)。探偵の登場だ」
「えっ?」
j は笑みを漏らすと、扉の方へ抜けていった。
幻の如く、漆黒の中に融(ト)けていった。
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探偵登場
「やあ、j 君。それと、x 君、h 。それで、皆さん方、進んでらっしゃるのですか、ナゾトキは?」
その言葉は凡(スベ)てが僕の胸を貫通する。
血だらけになっても未(マ)だ立っていれば、僕は真実を掴(ツカ)むであろう。
しかし、何時(イツ)も僕は、その彼の口から発せられる推理とも云える程高品質な想像——若(モ)しくは、妄想に心を粉々にされる。
よって僕は、彼の助手のような身に在りながら彼の推理を未(イマ)だかつて二度しか聴いたことがない。
<畏怖(イフ)>
この言葉は、彼の推理を現す上で必要不可欠なモノである。
其れ(ソレ)は、最も美しく、最も怖ろしい、最も残虐な——そして、其れはもっとも<完全>に近付きつつ、<不完全>な状態を保ち続ける、永久不滅の存在なのである。
探偵は、館の主と対峙して——。
「さあ、今宵の惨劇(ザンゲキ)を終わらせるのは——」
気が付けば、月は昇り——
「僕かい? それとも……——」
星が穹(ソラ)を埋め尽くす……。
「君かい?」
第三章終了
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第四章凡ての決定権は彼の掌中に在り
「ふん、其んな(ソンナ)コトは決まっている。
何故なら、君達がこの館にいる限り、この館の主である私に凡て(スベテ)の決定権があるのだから」
月に暈(カサ)が掛かり始めたのか、月明かりが弱くなる。
「そうですか……。では、後悔のなさらないよう、今宵(コヨイ)最後のナゾトキをどうぞ——」
時刻は既に七時半、未(イマ)だ春である限りは、夜の闇が凡て(スベテ)を包んでいる。
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j の独白〜真犯人の正体は——〜
「さて——。実を云(イ)うと私の瞳には最初、何も映ってこなかった。
靄(モヤ)が掛かっていたのだ。
若(モ)しかすると、この事件の真相を知ろうとする己自身を、その真実を知る事によって発生する危機から守ろうとしていたのかもしれない。
しかし、私の瞳に——h 、君の独白を聴いた瞬間——真実が照らし出されたんだ。
そして、私はこの事件の犯人とされているn が居る中で、新たに真犯人を見つけてしまったんだ——」
風が頬に当たる。
「——そう、真犯人はn なんだ!」
僕の脳から靄(モヤ)は消えた。
厭(イヤ)——未だ(マダ)、僕の思考は誤作動(バグ)を起こしている。
その誤作動は止(トド)まるところを知らない。
何も聞こえない、何も見えない——。
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不可解な複数の行動の理由
「——n が犯人だと仮定すると、此の事件の謎はスルスルと解(ホグ)れる。
先ず(マズ)何故(ナニユエ)に彼が己を犯人という立場に置いたのかと云うコトだが、此れ(コレ)は単純解明。
計画的な殺人よりも衝動殺人の方が罪は軽くなる可能性が高い。
それに、警察はi が犯人ではないと気が付くかもしれないが、其(ソ)うなった時に態々(ワザワザ)衝動殺人の犯人について再度調べるヤツは無に等しいだろう。
其う云う意味で、此れは殺人である事に気付かれた時のための保険も兼ねていたんだ。
n は凶器である椅子でi を殺害し、怪しい格好をして車に乗って、何処(ドコ)か山奥にでも行って埋めたか、
コップを捨てたのだとすれば、自殺したように見せかけようとして何か薬をGIN(ジン)に入れておいて、毒を飲ませたとも考えられる。
後は、彼が戻った後、自分で仕掛けを作り、椅子をつけずに誤作動させて天井に焦げ目を作り、GINを飲み、椅子を自分の上から落としたと考えれば説明は付く。
然も(シカモ)、此(コ)の仮定を用いれば彼(ア)の警察の不可解な行動にも説明が付く。
此処(ココ)から先は私の完全な想像だが——乃ち(スナワチ)、既(スデ)に署の一部は、n が自殺であると確信していたのだ。
そう、彼等(カレラ)は其(ソ)の説を検証した。
そして彼等は真実に辿り(タドリ)着いていたのだ——、とっくに……。
しかし、上層部(ウエ)は其れを快く思われなかったらしい。
故(ユエ)に、警察は無知を突き通したのさ——。
残るは、怪しい男の正体だがi が自分からでなく、n から云われてそのような格好をするとは到底思えない。
となると、彼(アレ)はn の変装となる訳だが、そうなると、i が事前にアノ部屋に入ってきていたことになる。
が、ソレを探るには今は余りにも情報が足りない。
因って(ヨッテ)この謎は保留というコトにしておこう——」