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ブログでもポケモンの小説を投稿してますが、オリジナル設定でファンタジー的なのを描いてみたいと思います。注意点を書いたので、読んでください。
1.世界観的にはとある惑星。科学と魔法、両方が混在。モンスターや亜人種的なのもいます。
2.色々とめちゃくちゃな奴がいっぱい出てきます。
3.万が一他の方と似ている物があっても、いっさい関係はございません。
以上の事を踏まえて、「読んでやろう。」という太平洋のように心が広い方はご覧下さい。基本更新は遅いと思われます。
4月24日 キャラ紹介に画像を追加。Miiですが、イメージ的に。
ポケモソ、MH好きのどこにでもいるゲーム好きです
ポケモンWの友コ:シェイラ 3481-8652-6501
オリジナル小説—キューホへ http://jp.wazap.com/thread/396003/
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「もしもし、父さん?今仕事が終わったんだ。皆元気だよ。」
『そうか、それは何よりだ。』
「父さんの方はどう?例の子は見つかった?」
『いや、見つかってない。色々と手は打ってるんだけどなぁ。』
「無理はしないでね。こっちでも情報は集めてみるからさ。」
『気にせず、ゆっくり帰ってこいよ?』
「うん、分かった。ありがとう。」
会話を終え、青年は携帯電話を懐にしまった。
「終わったか?腹減ったから、飯にしようぜ。」
「うん、今行く。」
青年は仲間に返事を返すと、空を見上げながら呟いた。
「救世主候補・・・か。」
第1話「スラムに現れた賢者」
「んだと、コラァ!!」
「上等だ、ブッ殺してやる!」
道の真ん中で男二人が取っ組み合いの喧嘩を始めた。しかし、道行く者の誰一人としてそれを止めようとはしない。それもそのはず、この程度の事はこの町ではありふれた風景の一つだからだ。
ここは、大都市の郊外にある小さなスラムだ。大都市自体は華やかで貴族も歩くような所だが、ここはその逆だ。喧嘩、強盗、殺人は日常茶飯事の事で、住民の安全を守るはずの治安維持局からも見放された場所だ。道行く人々の衣服も粗末な物が多いのだ。そういう訳もあり、その男は異様に目立っていた。
彼が纏っている服は雪のような白銀であり、ところどころに銀で加工された装飾品でさりげなく、かつ豪華に飾られている。そしてその手には、宝石が付いた錫杖が握られている。いずれもこの世界では、賢者と呼ばれる魔術を修めた者が身につける物だ。
賢者がこんな場所にいる時点で十分異様だが、彼は何をするでもなく道行く人々を見つめているだけだ。普通なら物取りの餌食になるところであるが、魔術に関する知識が乏しい者では返り討ちにあうのが見えているので、誰も手が出せないのだ。
すると、突然—
「うっ・・・。」
道を歩いていた少年が突然うずくまったと思えば、その場に倒れてしまった。たちまち野次馬が集まりだし、騒ぎだすと、賢者も状況を把握しようとその場にやってきた。
—ドン。
「!」
「おっと、ごめんよ。」
人ごみの中、賢者に一人の少年がぶつかり、謝りながら離れていった。
—続く—
ポケモソ、MH好きのどこにでもいるゲーム好きです
ポケモンWの友コ:シェイラ 3481-8652-6501
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第2話「動き出す運命」
「クリフ!」
叫び声とともに、蹲った少年の知り合いらしき少女が野次馬を掻き分けて現れ、少年に肩を貸してその場を離れると、興味を失った野次馬たちはたちまちばらけていった。
「ちぇ〜っ、こんだけしか入ってねぇのかよ。身なりの割にしけた奴だな!」
騒ぎがあった道から少し離れた路地で、先程賢者とぶつかった少年—ギルは愚痴っていた。
「お、いたいた。どうだった、あいつの財布。」
そこへ先程の騒ぎの中心人物である少年—クリフが少女を連れて現れた。
「駄〜目だ。もっと入ってるかと思ったけど見当違いだ!」
「どれだけ入ってたの?」
「パンくらいは買えるくらい。」
少女の問いにギルは財布の中身を再確認しながら答えた。
「まぁ、これで今日の食事代は確保できたんだ。また別のカモを探そうぜ。」
どこか不満げなギルと少女にクリフはそう言い、二人は頷いた。そう、この三人は協力してスリをしていたのだ。クリフが仮病で騒ぎを起こし、ギルが野次馬から財布を奪い、少女がクリフを連れてその場を離れる—シンプルだが絶妙なチームワークである。
「そんじゃ、少し移動すっか。」
「そうだな。行くぞ、リリ。リリ?」
「あ・・・、あ、あそこ・・・。」
移動するためにリリと呼んだ少女を促したクリフだが、リリは震える声である方向を指差している。
「あそこ?あそこはただのか、べ・・・!?」
首を傾げながら指差す方向を見たギルとクリフだったが、二人もまたリリのようにその場に固まってしまった。
—ボコ、ガコボコン・・・
何の変哲もない石の壁が生きているように波打って動いているのだ。
「な、なんだありゃ?」
「知るかよ!やべぇことにならねぇ内に離れるぞ!」
クリフが二人を連れて路地を出ようと一歩を踏み出した瞬間—それは動き出した。波打っていた壁の一部が隆起したかと思えば、それは異形の怪物へと姿を変え彼らに襲いかかった。・・・いや、正確にはギルに。とっさに一番弱いリリを庇おうとしたクリフとリリを完全に無視し、怪物は巨大な腕でギルの首を掴み反対側の壁に叩きつけた。
「ゲホッ!!」
凄まじい力で喉を押さえられ、満足に息もできずに苦しむギルの耳に怪物の無機質な声が聞こえた。
「破壊ノ巫女ハドコダ・・・」
「し、知ら・・・ねぇよっ。人違い・・・だろっ・・・。」
息も絶え絶えに答えるギルの耳に今度はクリフの声が聞こえてきた。
「てめぇ!俺の弟分に何しやがるっ!リリ、少し離れてろ!」
そういうなり、クリフは路地に落ちていた角材を掴むや否や怪物の頭を力任せに殴りつけた。大人の男相手なら、倒せずとも怯ませる位は十分にできる一撃だ。しかし。
—バキッ
渾身の力で振り下ろされた角材は怪物の頭に当たると呆気なく折れてしまった。
「っ痛ぅ!くそ固ぇっ!」
攻撃が効かないばかりか、クリフの手までもあまりの硬さに痺れてしまった。
「ウソヲツクナ・・・。救世主候補タルオマエガ知ラナイハズハナイ。」
「だっ・・・から、人違・・・いだっつの!」
クリフに攻撃されたことなどまるで意に介さずにギルを締め上げる怪物にギルは何とか答える。なおも攻撃を繰り返すクリフだが、全く効いている様子はない。その時—
「・・・ここにおったか。それにしてもバジリコックか・・・。なんとも面倒な状況じゃの。」
いつの間にか先程財布をスッた賢者が路地の入口に立っていた。賢者は手にしている錫杖を軽く振って、魔術を詠唱した。
「聖なる水よ。呪法の力で産まれし怪物を塵へと還せ。オーマヴェレンシア。」
詠唱を終えると同時に、賢者の錫杖の先端から輝く水流が飛び出し、怪物が出てきた壁へと吸い込まれていった。その直後の事だ。
「・・・グッオオオ・・・、グアォォォ!」
怪物が突然苦しみ出し、ギルを押さえつけていた手を離した。
「ゲホッ!ゴホッ!」
「ギル!大丈夫か?」
「ギル!」
解放されむせ込むギルにクリフとリリが駆け寄る。そして三人の前で怪物はみるみるうちに崩れながら壁に吸い込まれていった。
「グゥオォォァァァァァァッ!」
やがて怪物は完全に壁に吸い込まれてしまった。後の壁には、怪物の絵ような物が描かれていたが、それも溶けるように消えてしまった。目の前で起こったことが信じられずに固まっている三人の元へ賢者は歩み寄って言った。
「大丈夫か?救世主候補。」
—続く—
ポケモソ、MH好きのどこにでもいるゲーム好きです
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第3話「選ばれし者」
「あんたもか、救世主候補って何なんだよ!」
まだ、目の前で起こった事が信じられないギルだったが、賢者に対して問いかけた。すると、賢者は溜め息をつきながら言った。
「まぁ、こんな所で食うのもままならん日常を送っておれば、知らずとも無理はない。説明してやってもいいが、その前に、わしの財布を返してもらおう。」
「財布?何の事だよ!」
「惚けるでない。お前たち3人で協力してわしからスッたであろう。」
どうやら完全にばれているようだ。騙しきれないだろうし、また先程の様な怪物が襲ってくるかもしれない。ギルはしぶしぶ、賢者に財布を返した。賢者は財布を懐にしまうと頷いて話し始めた。
「救世主候補、それは即ち、この世界を最大の危機から救う力を持った若人達の事。お前はそのうちの一人で、先程の怪物—バジリコックはお前を亡き者にしようとする何者かが仕掛けたトラップ型の式神じゃ。わしはお前を保護して連れて来るようにある男に頼まれたのじゃ。」
賢者の話が終わると、クレイがギルを庇うように前に立って言った。
「あんた自身がその式神を仕掛けた張本人じゃないのか?俺達を信用させて騙すつもりなんだろう!」
「フッハハハハ!なるほど、賢い奴じゃ。そういう考え方もできるな。じゃが、例えお前達がわしの言葉を信じずにここに残ったとしても、バジリコックのような怪物の襲撃が無くなる保証はないぞ。はっきり言ってバジリコックなど式神の中でも雑魚じゃ。ならば、敵か味方か分からんでも、自分たちより強い者に付いておけば安全、という考え方もできるぞ。まぁ、わしも頼まれたからには手ぶらで帰る訳にはいかぬのじゃがな。」
賢者は笑いながら答えた。賢者の言う事が本当かは分からない、だが、賢者がそれなりに強い力を持っていることも確かだ。それに万が一機嫌を損ねたら、後でと言わず、この場で殺されるだろう。考えた結果、3人は覚悟を決めた。
「「「・・・分かったよ。あんたについていく。」」」
「・・・お前たち2人はついてくる必要が無いのじゃがな。」
「俺はギルの兄貴分だ。だからついていく。」
「あたしも絶対ついていく。」
2人の声を聞いて賢者は苦笑しながら了承した。
「まぁ、よかろう。ついてきてはならんとは言っておらんからな。では、さっそく出発しよう。」
「何処へ?」
歩きだした賢者にギルが尋ねると、賢者は答えた。
「お前と同じ救世主候補が集まってきているギルド都市—ユグ・ドラシルじゃ。そこにお前を連れて来るように言った張本人がおる。」
この決断がどういう結末を招くかは分からないが、ギル達は賢者について歩き出した。そして、ギルは助かった事もうれしかったが、自分を守ろうとする2人の気持ちもうれしく感じたのであった。
—続く—
ポケモソ、MH好きのどこにでもいるゲーム好きです
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第4話「天舞う巨影」
スラム街を出発した一行は、ユグドラシルに続く街道へとさしかかっていた。横を馬車や自動車等が通り過ぎていくが、ギル達は普段から乗り物に乗る習慣がないのでさほど気にはならなかった。すると、賢者が自分達を追い抜いていこうとした馬車を止めた。
「もし、そこの馬車。ユグドラシルへ行くのならば、乗せてくれぬか?」
賢者の声に反応して馬車は止まり、フードを被っていた御者が顔を出した。その姿を見て、ギルは驚いた。
御者は人間ではなかったのだ。細長く尖った顔と全身は鱗に覆われ、瞳孔は猫の様に細くなっている。更に手の指は4本しかなく、長い尻尾まで生えている。彼は、リザードマンと呼ばれるモンスターだったのだ。モンスターでありながら、知能の高さと体の丈夫さを売りとして、人類と同盟を結び、働いているのだ。ギルは実物を見たのが初めてだったので、驚いたのだ。
「いいぜ。乗りな。一人旅も飽きてたとこだ。」
リザードマンの男(とはいえ、性別が判断できないが)は快く承諾してくれたので、一行は馬車の荷物の隙間に乗せてもらうことにした。
「・・・毛皮売りか。景気はどうだ?」
賢者は荷物を横目に御者と世間話を始めた。
「悪くないな。ユグ・ドラシルにゃ、俺達を差別する治安維持局の連中もあんまりいないしよ。なかなかの額で買い取ってくれる。」
賢者と御者が世間話をしている中、色々な事があって疲れたギル達はウトウトしていた。天気は良く、平和そのものだ。時々凶暴なモンスターが出没する街道もあるらしいが、どうやら、この街道は問題ないようだ。
「おい、どうした?」
しばらく進んだ所で、突然馬がその場に立ち止まってしまった。御者が手綱を引くが、一行に歩こうとしない。ふと見ると、他にも馬が止まってしまった馬車が何台かいた。理由は分からないが、馬達は何かに脅えているようだ。
「・・・上じゃ。」
馬達同様、何かの存在を感じたらしい賢者が天を仰いだ。つられるようにギル達も上を向いた。
それは、ギル達の存在など意に介せずに上空を飛んでいた。魚の様な体の横から4本の足が生え、鳥の様な翼で悠然と飛んでいる。その体からは、虹の様な淡い光が放たれ、それがいる周辺だけ別の世界の様に感じる。
「な、何だありゃあ・・・。」
口をあんぐり開けながら呟いた御者に応じるように賢者が言った。
「起源獣バハムート・・・。」
「バハムート?」
反射的に聞き返したギルに賢者は続けた。
「わしも見るのは、半世紀ぶりじゃ。この世界に命が溢れるよりも更に古の時代から存在する巨獣。一説には別次元の存在じゃと言う者もおる。真実かどうかは定かではないが、見ずに一生を終える者などいくらでもおる。」
「・・・!」
一瞬、上空にいるバハムートと目が合った気がしたが、おそらく気のせいだろう。
・・・後世の者は、この時の出来事をこう語る。—運命が動き出した日と。
—続く—
ポケモソ、MH好きのどこにでもいるゲーム好きです
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第5話「奇特なる都市」
「着いたぜ。ユグ・ドラシルだ。」
「すまんの。」
「ここが・・・」
馬車は、ユグ・ドラシルの南側の門で止まった。ギル達がいたスラム街近くの都市も大きかったが、それよりも発展しているように感じる。更には、街の中央部に巨木が生えているようだ。そして、様々な荷物を乗せた馬車やトラックが門を出入りしている。
「んじゃ、俺は仕事に戻るぜ。あばよ。」
御者はそう言うと、門をくぐって街の中に入っていった。
「さて、わしらも行くぞ。」
「ああ。」
ギル達も、ここからは歩いて目的地に行くことにした。
「久しぶりだねぇ、サーフェンさん!」
「ああ、久しぶりじゃの。」
「よっ、大賢者!」
「うむ、元気そうじゃな。」
街の中に入り、商店が立ち並ぶメインストリートを進む一行だが、先頭を歩く賢者に声をかける者が絶えない。賢者が有名なのもあるが、活気に溢れ、素朴な人が多いのだろう。様々な人種や人間と同盟関係にあるモンスターもごく普通に歩いている。
長く立派に舗装された道路をしばらく歩くと、門から見えた巨木と、その近くに建つ一際立派な建物が見えてきた。役所か何かかと思ったが、看板には『中央酒場』と書かれている。どうやら、ここが目的地だったようで、賢者は迷いなく中へ入っていく。ギル達も続いて中に入ると、そこはメインストリートに負けないほどの活気に溢れていた。
まだ、昼間だと言うのに酒の匂いと料理の匂い、人々の話声でごった返している。
「なぁ、ここは何なんだ?」
ギルとクリフは賢者に聞いてみた。すると、
「ここは、ユグ・ドラシルにとって一番重要な場所の一つじゃ。ユグ・ドラシルはモンスターの襲撃やガードマンなど、腕っ節を必要とする仕事を紹介するギルドじゃ。その戦力は、数こそ負けておるが、治安維持局に引けを取らんとも言われておる。ユグ・ドラシルに在籍する者たちは、ここで自分の実力に合った依頼を受注して仕事をする、という訳じゃ。」
「へぇ・・・。」
確かに、よく見ると、料理や酒を注文するカウンターとは別のカウンターが設置され、その近くのボードに依頼の内容を書いた紙が貼り出されている。更に、酒場にいる者達の多くが立派な武具を装備している。
酒場の中を誰かを探すように賢者が見廻していると、一人の男が話しかけてきた。一見すると、普通の人間だが、幾分様子が違っている。頬や首元には鱗が生え、頭髪からは短い角が覗いている。ドラグツァと呼ばれる人種の男の様だ。
ドラグツァは、竜と近しい人種とされ、強い生命力と竜に変身する魔法を生まれながらにして持っている。
「サーフェン殿、お久しぶりです。」
「マンジか。久しいの。・・・奴はおるかの。」
サーフェンと呼ばれた賢者が、誰かの居場所を聞くと、マンジと呼ばれた男は少し考えて答えた。
「今の時間ならば、裏の農園に居るかと思いますが。」
「そうかの。すまんな。お前達、行くぞ。」
どうやら、酒場には目的の人物はいなかったようで、ギル達は酒場の裏にある農園へ向かう事になったのであった。
—続く—
ポケモソ、MH好きのどこにでもいるゲーム好きです
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第6話「変人エルフ」
「コカッ、ココッ。」
「よしよし、たんと食えよ。」
ここは、ユグ・ドラシルの中央酒場裏の農園の一角。そこでは、一人の男が奇妙な生き物達に餌をやっていた。生き物の名は、コカトリス。飛竜種に分類されてはいるが、飛ぶこともブレスを吐く事もできない、温厚な性格の持ち主だ。その肉や卵は食用として重宝されており、飼育される事も珍しくはない。
「相変わらずじゃの、ソーマ。」
「おお、サーフェン!久しぶりだな。元気そうだなぁ!」
そこへギル達を連れたサーフェンがやってきて、男に声をかけると、男は嬉しそうにサーフェンと話し始めた。どうやら、かなり親しい仲の様だ。
「ん?もしかして、その子らは・・・」
「そうじゃ。お主が探しておった最後の救世主候補じゃ。」
サーフェンの言葉を聞いた男は、目を少年の様に輝かせ、ギル達に歩み寄ってきた。そして、そのままギルの前にやってきて握手を求めてきた。
「おお!君が12人目か!よく来たね、俺はソーマ。ここで働かせてもらっているエルフだ。」
「一番変わり者のな。」
「悪かったな。」
ソーマの自己紹介にサーフェンが補足を加えた。ギルはソーマの事をじっくり見てみた。見た目は細身の人間だ。ただ一つ、細長く伸びた耳を除けば。
エルフ族—古来より高い知性と強い魔力を持ちながら、他の人種を嫌い、森の奥などに集落を構えて暮らす人種だ。しかし、ソーマからは他の人種を嫌う様子はまったくない。それどころか、人の良さそうな笑みさえ浮かべている。ギルは、おずおずとソーマと握手を交わした。
「コカ〜ッコ!」
その時、一羽のコカトリスが一際大きく鳴いた。その足元には、その体の4分の1位もありそうな卵が転がっていた。
「おお、立派なのを産んだな。そうだ、君達も卵を集めるのを手伝ってくれ。礼はするからさ。」
ギル達は、いきなり働かされるのが嫌だったが、うまく乗せられて手伝うハメになってしまった。卵集め自体は、スリを得意としていたギル達には難しくはなかった。数10羽のコカトリスから卵を集めて、割れないように紙の容器に入れて、先程の酒場へと戻った。
「卵取ってきたぞ〜。」
「お疲れ様だよ〜。」
「あと、この卵で、コカプリン5つ頼むわ。俺の部屋に届けてくれや。」
「はいよ〜。」
ソーマは酒場のカウンターにいたコック帽をかぶった男に卵を渡すと、そのまま男に注文をつけた。
「さて、君に来てもらった理由を説明しないとな。俺の部屋まで来てくれ。」
ソーマに言われるまま、ギル達はソーマの部屋で話を聞くことにした。
「さて、改めて自己紹介だ。俺はソーマ、このユグ・ドラシルの総隊長をさせてもらってる。そして、ギル、君を始めとした救世主候補達の事を来る日まで守る役を与えられている。何か質問はあるかい?」
ソーマの言葉を聞いて、クリフが質問した。
「俺はクリフ。あんたが探してたギルの兄貴分だ。だから知りたい。救世主候補って、一体何なんだ?」
クリフの質問を聞いたソーマは、『なんだ、説明してないのか?』と言いたげな目でサーフェンを見るが、当の本人は『お前が説明しろ』と促した。
「救世主候補とは、この世界に訪れた滅亡の危機から、世界を救った救世主の力の一部を受け継いで生まれてきた者の事だ。そして、まもなく訪れる滅亡の危機から世界を救うために戦う宿命を背負っているんだ。」
改めて説明されると、ギルは頭の中が混乱してきた。
「宿命だって?そんなのあんたらの勝手だろ!」
ソーマの言葉が気に障った様子のクリフが声を荒げると、ソーマは返した。
「これは、この世界に生まれた者達に課せられた試練の一つ。かつての救世主候補達も運命を受け入れて戦ってきた。それに滅亡の危機はまず避けようがない。どうせ訪れる滅亡なら、自身の中に眠る力を活かして立ち向かった方がいいんじゃないか?どうしても不安なら、君も力をつけて彼を守ればいいんじゃないのか?」
ソーマの言葉にクリフは返す言葉が無かった。
—続く—
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第7話「十魔の一角」
ソーマの答えを聞き、考え込んだクリフの次にリリが質問した。
「これから、あたし達はどうなるの?」
「どうもせんさ。ただ、救世主候補であるギル君にはここにいてもらった方が助かる位のものさ。うちで救世主候補を預かるのは、十魔人会合で決まった事だしな。ギル君には来る日までに十分な力を身につけてもらいたい。君らがギル君と行動を共にしたいと言うなら、そうしてくれても構わない。」
ソーマの答えに今度はギルが質問した。
「十魔人って何?」
「俺ともう一人、そして残りの8人の豪傑達の事さ。全部で10人いて、魔人と称されるほどの力を有している事から、十魔人と呼ばれている。全世界に縄張りを持ち、互いにけん制しつつ世界を治めている。救世主候補の件は、定期的に十魔人が集まる会合で決まったんだ。」
ギルは、ソーマの答えを聞いて疑問に思った。だったら、十魔人が協力して滅亡の危機を回避すればいいのではないかと考えたからだ。
「じゃあ、あんたら十魔人が何とかしてくれよ!」
「・・・そうしたいのは山々なんだがなぁ。かつて訪れた滅亡の危機の時に、十魔人の力とて及ばなかった。結果的に救世主候補達の援護に回る形となってしまったのだ。どうやら救世主候補達には何かしらの加護の力が働いているようでな。その力無しに滅亡の危機は回避できないようなんだ。」
ソーマの言葉を聞いて、ギルも考えた。自分はスラムでも生活が嫌だった訳ではない。嫌だった訳ではないが、満足はしていなかった。必ず成り上がる事をクリフとリリとで誓って今日まで生き延びてきたのだ。確かに不本意であり、どこか怪しい内容ではある。だが、ユグ・ドラシルの街の大きさは本物だ。もしもここで名をあげる事が出来れば、成り上がる事も難しくないだろう。—そしてギルは決断した。2人の方を見ると、2人も決断した様子で、こちらを見て頷いた。ギルは胸を張ってソーマに言った。
「分かった。救世主候補として生きるよ。ただし、俺たち3人が生活に困らないようにしてくれ。」
ギルの言葉を真摯に聞いていたソーマは、突然笑い出した。
「おいおい、そんな事でいいのか?俺は、ここで面倒見ると決めた奴に不自由な思いはさせない、そのつもりで毎日働いているんだ!生活に困らんようにするなど、当然の事だ。ただし、実力に見合った仕事はこなしてもらうから、そのつもりでな。」
かなり緊張して言葉を発したギルは、ソーマの言葉で肩から力が抜けた。サーフェンの言う通り、変わり者の様だ。
「という事は、ここで救世主候補としての修行を積むという事でいいのか?」
「ああ。」
ソーマの問いにギルが答えると、ソーマは嬉しそうに言った。
「そうかそうか。いいか、うちで面倒をみると決めた以上、お前達に家族と一員として接する。ギル君などとは呼ばずに、名前だけで呼ぶぞ?」
「ああ、その方が気楽でいいや。」
元々堅苦しいのは好きじゃないのでギルはそう答えた。
「さて、問題はギルに何を習得させるかだな。剣術か、魔術か、召喚術か、法術か、どれがお前に合うのかはさすがに分からんからな。
「一通り教えてみればよかろう?」
サーフェンの意見にソーマは肩をすくめながら言った。
「そこまで都合のいい奴なんて、うちには・・・」
—コンコン。その時、ソーマの言葉を遮るようにドアがノックされた。
「はいよ、入りな。」
「ただいま、父さん。今、そこでウエイトレスの子と会ってさ。代わりに持ってきたよ、はい、コカプリン5つ。」
ドアが開いて、プリンが入った容器が乗ったトレイを持った青年が入ってきた。端正な顔立ちで背は高く、白銀の防具を纏っている。
「おお、すまんなぁ。」
ソーマは立ち上がると青年からトレイを受け取り、ギル達とサーフェン、自分の分を分けた。
「これは?」
思いもよらなかった事なので、ギルは思わず聞き返してしまった。すると、ソーマはまた笑いながら言った。
「言ったじゃないか。礼はするってな。これがそうだよ。お前達が集めた卵で作ったプリンさ。お前達には食べる権利がある、そうだろ?」
(・・・やっぱり変わった奴だ。)
そう思ったギルだったが、嫌な感じはしなかった。
「あと、これが報告書ね、はい。」
「おぅ、ところでグレアよ。」
「はい?」
書類を受け取ったソーマは、青年に話しかけた。グレアと呼ばれた青年が不思議そうに応じる。
「・・・弟子をとってみないか?」
—続く—
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第8話「グレア・ファルガン」
「弟子?急にまた、何で?」
ソーマの言葉にグレアは、首を傾げつつ答えた。
「いやな、ここにいる12人目の救世主候補のギルの師匠を探していてな。」
「その子が?でも、それなら尚更、もっと経験がある人の方がいいんじゃない?」
グレアがもっともな意見をすると、ソーマはニヤニヤしながら言った。
「いや、お前なら年も近いし、弟子をとるという事は、お前にとってもプラスになるだろ。誰でも最初から完璧にできる訳じゃないんだ。気楽にやってみな。」
ソーマの言葉に、グレアは少し考えて答えを出した。
「とりあえず、ギル君と一緒に行動してみて決めていいかな?」
「ん〜、まぁ、いいだろ。この街の案内でもしてやんな。」
「お前ら、どうでもよいが、当の本人が置き去りになっておるぞ。」
「「あ」」
うっかりギルを置いて話を進めていたソーマとグレアをサーフェンがつっこんだ。
「悪いな、ギル。こいつは、グレア・ファルガン。ここ、ユグ・ドラシルの中でも屈指の実力の持ち主で、八剣聖の一人だ。」
「よろしく。」
「八剣聖?」
グレアに握手を求められたギルだったが、聞いた事のない言葉に思わず聞き返した。
「八剣聖とは、十魔人程ではないが世界最高クラスの武術を身に付けた8人の猛者の事じゃ。」
なぜ、ソーマ自身が師匠となってくれないのかは分からないが、彼も十分な実力を持っているようだ、ギルはそう判断して握手を返した。その時、
—バタバタバタ、バン!
「グレア、何してんだ?先に飲みに行っちまうぞ!」
一人の中年男がソーマの部屋に駆け込んできた。
「ごめんごめん。ちょっと色々あってさ。」
「色々って何だよ?お、サーフェンさんじゃんか。久しぶりだな!」
かなりやかましいこの中年男は、どうやらグレアの知り合いのようだ。グレアは中年男にこれまでのいきさつをかいつまんで話すと、ギルに紹介してくれた。
「ギル君、騒がしくてごめんね。彼は、RC。僕の仕事仲間なんだ。実は、報告書を出した後、皆で飲みに行く事になっててさ。」
「お前、救世主候補なんだってな。俺はRCことレッドキャップ。ユグ・ドラシルで一番強固な男だ!」
RCの自己紹介を聞きながら、ギルはかなり濃い男だな、と密かに思った。
「RC、僕はこの街をギル君に案内しようと思っているんだけど、皆で行かないか?それで案内した後で飲みに行こう。」
「あ〜、まぁ飲めりゃ何でもいいや。」
グレアの提案にRCはあっさりと了承した。濃い割にはさっぱりとしたタイプのようだ。こうして、ギル達はソーマとサーフェンに見送られ、ユグ・ドラシルの街へ繰り出す事になったのであった。
—続く—
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業務連絡です。この度、キューホをもっと楽しく読むための情報コーナーをブログで始める事を思いついたのじゃ(某学園長風) 多分、読んだ方が分かりやすくなると思いますので、ぜひともよろしく。
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第9話「肉屋とニーズへッグ」
グレアとRCにユグ・ドラシルの街の案内を受けているギル達は、改めて街の活気に圧倒されていた。地下に豊富な水脈があるらしく、街の中には無料で入浴できる大衆浴場や温水プールもあり、それを目当てとした観光客らしき者も大勢見かけた。更に武具や魔法書などを扱う専門店も見られ、始めてみる物ばかりでギル達は感心しきり、その様子をグレアやRCは笑いながら見ていた。そして、
「うわっ、でっけぇ!」
「何の肉だ、こりゃ?」
『ユグ・ドラシルで一番』の看板を掲げた肉屋の前で、ギルとクリフは思わず声に出して驚いた。それもそのはず、店のショーケースには収まらないほどの巨大な肉の塊が店の前に置かれていたのだ。
「なぁ、おばちゃん。これ、何の肉?」
「ファランクスのもも肉だよ。でも、売り物じゃないんだ。触んないでちょうだいよ。」
「ギル君、僕もそうした方がいいと思う。」
「俺も。」
「へ?何で?」
思わず店のおばちゃんに質問したギルに、おばちゃんと何故かグレアとRCも注意を促した。首を傾げるギルの背中に生温かい風が触れた。
「うわわっ!?」
思わず叫びながら後ろを振り向くと、そこにはいつの間にか巨大な黒いドラゴンが立っていた。小山くらいはありそうな巨体を4本の足で支えた厳つい顔のドラゴンだ。当のドラゴンはギルには目もくれず、巨大な肉の塊にノシノシと近づくと、それを咥えて軽く唸るとその場から立ち去った。
「おばちゃん、いいのか?肉持ってかれたぞ!?」
肉屋のおばちゃんに尋ねるギルだが、おばちゃんは平然としていた。
「いいんだよ。ニーズへッグのために用意したんだからねぇ。」
「ニーズへッグ?」
「あのドラゴンの名前だよ。もう何十年も前からこの街の地下の水脈に棲みついていてね。時々地上に出てきては、街にある食べ物を漁っていくんだよ。」
いまいち状況が呑み込めないギル達にグレアが助け船を出してくれた。
「いいのか?そんな事されて。」
「縄張りを荒らされない限り、ニーズへッグは自分から人間は襲わないし、縄張り意識の強さで結果的に水脈を守ってくれているんだ。その感謝の思いを込めた風習って所かな。」
「ついでに言うと、あいつは半端なく強いぜ。間違っても怒らせるなよ、死ぬかもしんねぇから。」
ギル達は、こういうモンスターとの付き合い方もあるのかと少し驚き、この街の大らかさに感心したのであった。
—続く—
ポケモソ、MH好きのどこにでもいるゲーム好きです
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第10話「居合閃光」
再びグレアとRCが街の案内を始めると、突然路地裏から怪我をした男が飛び出してきた。男は心底慌てた様子でわめいた。
「た、大変だ!輸送中のモンスターが脱走したんだ!捕まえようとしたが、俺じゃ手に負えねぇ!助けてくれ!」
「落ち着いて、逃げたモンスターの種類と数を教えてくれないか?」
グレアが男を落ち着かせながら聞くと、少しだけ落ち着いた男は早口に言った。
「ファランクスが一頭、フェザーラプトルが12頭だ!全部気が立ってて近づけねぇ!」
「皆、僕から離れないで、結構厄介な事態になってるみたいだから。」
グレアがギル達にそう言った瞬間—
「ヴモォァァァ!」
男が飛び出してきた路地から、巨大な体を持った生き物が駆け出してきた。
「ファランクス!」
「あれが・・・」
その生き物は、ずんぐりとした体の前と横を頑丈そうな甲殻板で覆い、さらに頭からは全長の半分ほどもありそうな長大な角を生やしている。鼻息も荒く、男の言った通り、かなり興奮しているようだ。
「さて、いっちょやるか。」
指を鳴らしながら、RCが気合を入れていると、男が申し訳なさそうに言った。
「すまないんだが、なるべく怪我させないで捕まえてほしいんだ・・・。」
「あん?簡単にできるかよ、んな事!」
「そこを何とか、頼む!」
「・・・ッあ〜!どーするよ、グレア!」
男に頼みこまれ困ったRCはグレアに意見を求めてきた。すると、グレアは改めてギル達に傍を離れないように言うと、にこやかに言った。
「分かった。ぼくがやってみるよ。RCはフェザーラプトルを探して捕まえといてくれる?」
「了〜解!」
グレアの意見に納得したらしいRCは、男が飛び出してきた路地とは別の路地に入っていった。
「ヴモォォ!」
残ったグレアとギル達、男の中でファランクスがターゲットとしたのは、グレアだった。前足で地面を数回掻くと、角を向けて突進してきた。
「大丈夫なのかよ!?」
「うん、皆はちゃんと後ろにいてね。」
不安になりグレアに聞いたギルだったが、グレア本人は慌てた様子もなく、持っていた剣に手をかけた。そして、相手と自分の距離を測り、高速で剣を抜いた。あまりの速さにギル達にはそれがほとんど見えなかったのだが、剣を抜いたであろうことは判断できた。そして、剣を抜いた瞬間、鞘と剣の間から閃光が放たれた。強い光にギル達は反射的に目を庇ったが、まっすぐに突進してきていたファランクスは光の直撃を受け、驚きその場に急停止する。視力が戻るにつれ、どうやら落ち着きが戻ってきたようで、グレアがそっと近付き、優しく撫でてやった時には、ファランクスはすっかりおとなしくなっていた。
「ヴモォ…」
「よしよし」
長い角に臆することなく、グレアはファランクスを撫でまわしている。もう大丈夫なようだ。
「もう大丈夫だと思いますよ。今度はフェザーラプトルか。」
「ありがとう、このファランクスは俺が檻に戻しとこう。フェザーラプトルの事、頼んだよ。」
男は、落ち着きを取り戻したファランクスを誘導しながら、出てきた路地へと入っていった。
—続く—
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第11話「候補達」
「ところで、フェザーラプトルってどんなモンスターなんだ?」
クリフがグレアに尋ねると、グレアはあっさりと答えた。
「肉食性のモンスターさ。気が立ってるらしいから、気をつけないとね。」
グレアの言葉にギル達は頷くと、周囲の住民たちに注意を促しながら、フェザーラプトルの姿を探し始めた。しかし、なかなかフェザーラプトルの姿を見つける事が出来ない。
「これは、なかなか長引きそうだね・・・。」
グレアがそう呟いた時だった。
「あ、いた!グレアさーん!!」
ギル達の進行方向にある路地から、少女が明るい声で話しかけながら出てきた。出てきた少女の影に隠れるように少年も出てきた。いや、『少女の影に隠れるように』というのは適切ではない。『隠れてしまっている』のだ。少年と比べて、少女は極端に大きいのだ。少年自体はギルよりも小柄に見えるので、対比的にそう見えているのかとも思ったが、違う。どう見ても自分より少女の方が背が高いのだ。少女は両手に口を縛られたモンスターを掴んでいた。
「このフェザーラプトルが急に襲いかかってきたんで、とりあえず捕まえたんですけど。どうしたらいいのか分からなくて・・・。」
「ありがとう、助かったよ。このフェザーラプトルはさっき逃げ出したモンスターだったんだ。」
「そうなんですか?良かった!」
グレアの言葉に少女は明るく応じた。
「・・・あれ?もしかして、君って。」
「?」
少女はギルの顔を見るなり首を傾げて考え込むと、嬉しそうに言った。
「君って、救世主候補の一人でしょう?」
「ああ・・・、なんかそうらしいけど・・・。」
「やっぱり、そんな感じが何となくしたもん。私は、ザルパ。君と同じ救世主候補の一人だよ。この子も、救世主候補なの。イヅチよ。」
「イ、イヅチッす・・・。」
ザルパが自身の自己紹介と合わせてイヅチの紹介をすると、イヅチはもじもじと恥ずかしそうに名乗った。ザルパは声の明るさ通りで、健康的に焼けた肌と活動的な服装をしている。一方イヅチは、大人しめの服を着て頭に布を巻いている。
「ギル君も挨拶。」
「あ、ああ。俺はギル。良く分からねーけど救世主候補になったらしい。」
グレアに言われて、ギルも自己紹介をしていると、
「イヅチ、危ない!」
「キシャアァ!」
物陰に隠れていたらしいフェザーラプトルがイヅチに襲いかかったのだ。
「ウワアァァァァァッ!」
イヅチは絶叫しながらも、フェザーラプトルに拳を叩きつけた。小柄なイヅチの一撃は、驚く事にフェザーラプトルを易々と吹き飛ばした。殴り飛ばされたフェザーラプトルは死にはしなかったが、地面に叩きつけられ気絶したようだ。
「不意討ちなんて、怖すぎッす〜!」
「何言ってんのよ。ちゃんと反応して倒せたじゃん。」
怖がるイヅチをザルパがなだめる。確かにザルパの言うとおりだが・・・、どちらかというとイヅチの方が怖い気がする。
とりあえず、イヅチが気絶させた分も含め、3頭のフェザーラプトルをロープで縛って逃げられなくして、ザルパとイヅチと合流し、残りを探していると、
「キシャア、キシャアァ!」
怯えた様子のフェザーラプトルが角から飛び出してきた。何かから逃げている様子にも見える・・・、ギルがそう思った瞬間だった。
突如、フェザーラプトルが飛び出してきた角から赤い毛むくじゃらの腕がフェザーラプトルを捕らえたのだ。喚きながらもがくフェザーラプトルはそのまま角へと引きずり込まれた。直後—
「ギョエェェェェッ!」
聞くに堪えない断末魔と共に、何かが強引に引き裂かれる音がした。何かを察知した様子のグレアが走り出し、ギル達も後を追った。ギル達が角を曲がった瞬間、グレアは叫んだ。
「来ちゃいけない!・・・見ては、いけないッ!!」
勢いのまま、止まれずに角を曲がったギルの目には衝撃的な光景が広がっていた。
そこは—、ずたずたに引き裂かれ、元の生き物が分からないほどになった肉片と滴り落ちる血で赤く染まっていた。そして、血の海の真ん中には、今しがた殺されたらしい真っ二つにされたフェザーラプトルの死体を掴んだ血の様な赤い毛皮の獣がいた。
—続く—
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第12話「天界の候補」
血だまりの中にいる獣がギル達に気付いた。思わず後ずさるギル達だが、グレアは少し困った様子で獣に話しかけた。
「いくらなんでも、こんな道の真ん中を血の海にしなくてもいいんじゃないかな?ヴリィくん。」
「うるせー。こいつらが跳びかかってきたから殺しただけだ。俺に指図すんじゃねー。」
グレアの言葉に獣は不満そうに答えると、その姿を人へと変えた。年齢は、クリフと同じくらいだろうか、赤い髪の毛と目の周りを黒く塗るメイクで異様な存在感を放っている。また、体のいたるところに付着している血痕が先程までの虐殺を物語っている。
「そうそう、ボク達に喧嘩売るからいけないんですよ、グレアさん。」
ヴリィと呼ばれた青年の近くの壁にもたれるようにして、もう一人の青年がいた。ニット帽と柔らかそうな服を纏い、笑顔を浮かべた彼のすぐ横には、ボウガンの矢で磔にされたフェザーラプトルの死体があった。
「君もか・・・センケイ君。少しは殺しを控えてもらえないかい?」
「そうよ!あたし達は、フェザーラプトルを生け捕りにして回ってんのよ!?」
グレアの苦言にザルパが合わせるが、2人の青年は平然としている。
「うっせー、俺らが知った事かよ。俺に指図すんな、殺すぞ、アァッ!?」
「っていうか、正当防衛でしょ?これ。」
全く悪びれもしない2人の態度に、ザルパは腹が立ったらしく、
「やりすぎだって言ってんのよ!この馬鹿!」
「んだと!?今すぐ殺してやろーか!」
「やれー、ヴリィ〜!殺っちゃえ〜!」
頭に血がのぼったザルパとヴリィが一触即発の状態になり、センケイはそんな2人を煽っている。
「2人とも・・・、その辺に・・・」
「いい加減にせぬか!」
グレアが2人をなだめようとした瞬間、空から怒声が降ってきた。ギル達が見上げると、そこには背に生えた翼で空を飛んでいる鎧を纏った老人と少年がいた。2人は鮮やかに舞い降りると、老人は鋭い眼光でザルパとヴリィを睨みつけた。
「ユグ・ドラシルにいる以上、くだらぬ争いをしてはならぬ!」
「・・・すいません・・・。」
「・・・ケッ!」
老人の説教にザルパは素直に謝ったが、ヴリィは不満そうに唾を吐いた。
「・・・助かりましたよ、カムルさん。」
「うむ。しかし、お前たちの師匠はどこへ行ったのだ?」
カムルと呼ばれた老人は、ヴリィとセンケイに視線を向けた。
「あのおっさんなら、どっか行っちまったよ。」
「そうそう。」
「・・・あのたわけ者が・・・。」
ヴリィとセンケイの言葉に、カムルは頭を押さえた。見ると、グレアも苦笑している。どういう事なのか分からず、首を傾げていると、イヅチが教えてくれた。
「俺達、救世主候補には、師匠が付く事になってるらしいッす。・・・で、あの2人にも師匠がいるんッすが・・・、ちょっと変わった人なんす。」
「なるほど・・・、変わった人ねぇ。」
イヅチの説明を聞いているうちに、フェザーラプトルの死体の処理についての話をグレアとカムルがつけていた。
「では、わしが処理の手配をしておこう。おや?彼が君の弟子となる救世主候補かね?」
「あ、はい、まだ仮に・・・ですがね。ギル君です。」
カムルがギルに気付き、グレアが代わりに紹介した。すると、カムルはきびきびした動きで、手甲を外し、握手を求めてきた。
「やはりそうか・・・。わしの名は、カムル・ハズコーン。彼、ユぺルを始めとした3名の救世主候補達の師匠をしている。よろしく頼む。」
「ユぺルです。よろしくお願いします!」
カムルの紹介の後、ユぺルと呼ばれた少年も歩み寄ってきて握手を求めてきた。がっしりとした鎧を全身に纏ったカムルとは違い、ユぺルは要所に軽めの鎧を纏っている。鎧とは裏腹におとなしそうな印象を受ける、やや幼さが残る少年だ。
「よろしく・・・。」
ギルは握手を返しながら、2人をよく観察した。背に翼が生えている所を見ると、噂に聞く翼の生えた人種—ヴァルキュリエだろうか。ユぺルはともかく、カムルの翼は片方が機械となっているようだ。よほど激しい戦いを経験してきたのだろう。それにしても、他の救世主候補達の力に驚くばかりのギルであった。
—続く—
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第13話「ふさわしからぬ者」
「いつ見ても血まみれ・・・、救世主候補が聞いてあきれるね。」
「「「!」」」
突然、頭上から溜め息交じりの声が聞こえ、上を見たギル達の耳に別の声が聞こえた。
「ギャオオ!」
そこにいたのは、小柄なドラゴンに乗り槍を持った少年だった。年齢的にはギルに近いだろうか、見るとフェザーラプトル3頭を縄で縛り、ドラゴンの鞍に結わえている。
自分の事を言われているのが分かったのか、ヴリィが少年を睨みつける。
「あぁ?説教たれんじゃねーよ!」
「説教もしたくなるよ。君はここにきてトラブルばかり起こしている。君が何をしようと勝手だが、救世主候補の名を汚すのはやめて欲しいね。」
ヴリィの言葉に対し、気に障るような言葉で返す少年にグレアが苦笑しながら言った。
「ハイマス君気持ちは分かるけど、救世主候補同士、仲良くしてよ。」
「そういう考え方もあるでしょうが、僕は治安維持局代表として来ているだけです。彼らの様に、自分と釣り合わない人間となれあうつもりはありません。それに、ユグ・ドラシルのような場所が、救世主候補にふさわしいとも思っていません。ユグ・ドラシルは暴れていればいい。世界の平和を守るのは治安維持局だけでいい。」
ハイマスと呼ばれた少年の言葉にその場の空気が張り詰める。カムルは固く拳を握り、グレアは哀しそうな顔をしている。
「まぁ、彼の言ってる事も分からなくはないわね。」
「・・・ラクシャか。」
張り詰めた空気を和ませるような声でそう言ったのは、近くの建物の屋根に座っている一人の少女だった。額には菱形の模様が浮かび、角を生やし、藤色の着物を纏っている。少女はどこか斜に構えたような表情でハイマスに話しかけた。
「確かに私達がやっている事全てを正義だと言うつもりはないわ。だって、ここは自由を守り、自由を謳歌する街だもの。それが今回、あなた達救世主候補を預かる事になった理由でもあるしね。それだけは理解してもらえるかしら?」
「・・・分かりました。でも、僕が言った事もお忘れなく。それと、君が12番目の救世主候補だろう?」
ラクシャと呼ばれた少女の言葉に頷いたハイマスはギルの前にドラゴンに乗って降り立つと、ギルに話しかけた。
「確か、君はスラム街出身だろう?他の皆がどうかは知らないけど、僕は君の様な人間が救世主候補にふさわしい人間だとは思えない。せいぜい僕に迷惑をかける事だけはしないでくれ。」
それだけ言うと満足したのか、ハイマスはフェザーラプトルをカムルに引き渡して去っていった。
「んがーっ!むかつく!なんだよ、あいつ!」
思わずギルは怒りを声に出した。確かに救世主と言えるような力は持っていないが、さも役立たずの様に言われて腹が立ったのだ。
「まぁまぁ。」
「まったく、困った子よね。もう少し協調性があってもいいのにね。」
ハイマスの言葉に不満を隠しきれない一同を横目にカムルは捕らえたフェザーラプトルを用意した籠に入れていた。
「あいつって全然馴染まないよね。完全にこっちの事見下してるってゆーか。」
ザルパがそう言った直後、地面から声が聞こえた。
『まぁ、いかにも治安維持局で育ったエリートって感じだわな。珍しい事でもねぇ。』
「「「!!」」」
そう言うと、地面から黒い影が生えてきた。思わず後ずさるギル達だが、グレアは気安く話しかけた。
「やぁ、ンバック。先に飲んでるんじゃなかったの?」
『こんな騒ぎが起こってんのに飲んでられるかよ。ほれ、捕まえてきたぞ。』
よく見ると、影に見えたのは人間だった。ンバックと呼ばれた男は、地面から何かを引っ張りだした。それは鎖に縛られ、気絶した3頭のフェザーラプトルだった。
「お、さすが!」
「助かったぞ。これで全部捕まえたはずだ。」
『なら、先に行って飲んどくぞ。早めに来いよ。』
「うん、ありがと。」
ンバックはグレアに手を振ると、再び地面に潜っていった。
「凄いッすよね・・・。アンダーグラウンドの地中潜行能力。」
「アンダーグラウンド?」
イヅチの言葉に聞き返すギルに、イヅチは説明した。
「地底人ッすよ。ああやって水に潜るように地中を移動できる能力を持ってるらしいッす。」
「へー。」
その後、カムルやザルパ達と別れ、フェザーラプトルを引き渡した後、グレアとRCに街を案内されたギル達は、ンバックが待つ居酒屋へ向かった。
—続く—
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第14話「魔剣ヨルムンガント」
「おまたせ。」
『来たか、先にやってるぞ。』
「あれ?ずいぶん人数が多いね。」
ギル達を引き連れて居酒屋『とさか提灯』にやってきたグレアは、ンバックともう一人の男に手を振った。
「グレアの弟子になる救世主候補だと。」
「へぇ!僕は、ウィリー。チーム・イクスの一員さ。」
「チーム・イクス?」
聞き慣れない名前にギルが聞き返すと、グレアが答えてくれた。
「僕と、RC、ンバック、ウィリーの4人で組んでるチームさ。」
「ちなみに実力は、ユグ・ドラシル随一だぜ!」
グレアの言葉にRCが補足した。そして、ギル達はそのままチーム・イクスの宴に招かれ、共に食事をした。その中で、ユグ・ドラシルの話をたくさん聞き、宴の後、大衆浴場に向かう事になった。
「なぁ、リリ、言う事聞け。な?」
「・・・やだ。」
大衆浴場のカウンターの前でギル達はたたずんでいた。リリが突然、駄々をこね始めたのだ。どうやら、自分だけ女風呂に行くのが嫌なようなのだ。とはいえ、男風呂に入る訳にもいかないだろう。
「な〜にやってんのよ。」
「ラクシャ、ちょうどいい所に。」
「?」
そこへギル達と同じく、入浴しに来たらしいラクシャが歩いてきた。グレアは、ラクシャに何かを耳打ちした。すると、ラクシャは頷き、リリと手をつないで女風呂に入って行った。ようやくギル達も男風呂へと向かった。
「すげーっ!」
思わずギルは声をあげた。
ユグ・ドラシルの大衆浴場は、ニーズへッグに守られている水源から汲み上げた水を特殊な技術で浄化しつつ循環させている巨大浴槽が特徴だ。既に多くの利用者達が浴槽に浸かったり、体を洗ったりしているが、充分スペースは余っている。利用者達は互いに談笑しており、なかなか賑やかである。
「ところでよ、おめーら、今夜はどこで寝る気だ?」
「え?」
体を洗い、浴槽に使っていると、RCがクリフに尋ねた。確かに言われてみれば、まだ今夜の宿が決まっていなかった。
『俺達はさ、隊員用の寄宿塔に部屋を借りてるんだ。』
「じゃあ、俺達も・・・」
『話は最後まで聞けよ。部屋は一人一人にオーダーメイドで作られる。ただし、用意するまでに数日はかかる。今夜じゃ間に合わねーよ。部屋が出来るまで、中央酒場で毛布借りて雑魚寝するのがふつーだ。』
「なんだよ、それじゃスラムにいる時と変わらねーじゃん。」
ギルは不満を口にしながらも、結局その夜はンバックの言葉通りに、クリフやリリと一緒に雑魚寝して過ごした。
「よぉ、来たな。ファル坊。」
翌日、グレアに起こされ、中央酒場近くの武器工房にギル達はやってきていた。事前に連絡していたらしく、職人らしき壮年の男がグレアに話しかけてきた。壮年の男はギル達の姿を見ると、クリフの前まで行き、まじまじと見て言った。
「こいつが、救世主候補か?」
「違いますよ。この、ギル君です。」
グレアは苦笑しながらギルの肩を持って言った。壮年の男は頭を掻きながら、自己紹介した。
「俺は、ハコウっつーもんだ。ここで職人長をやってる。今日は、ソーマにおめえの武器を渡すように頼まれててな。まぁ、ついてきな。」
ハコウに招かれ、武器工房の中に入る。金属などを加工するために大きな炉が設置されているが、熱気を逃がす工夫が施されているため、思ったよりは暑くない。とはいえ、じっとしていれば汗がにじむ程度の熱気はあるが。武器工房というだけあって、様々な武具が加工されている。中には、大鍋の中の何かの薬品に浸けている武具や、大砲などもある。それらの横を通って、ギル達を引き連れたハコウは『職人長以外立ち入り禁止!』と張り紙された扉の前まで来た。大きな南京錠がかけられていたが、ハコウは鍵を取り出して、南京錠を外して扉を開けた。中には、『呪術未解除、触るな。』と書かれた箱が並んでいる。
「あれこれ触るなよ。どんな呪いがかかってる武器があるか分からんからな。」
(それって、大丈夫なのか・・・。)
一抹の不安を感じつつ、ハコウについていくと、ある箱の前で立ち止まった。かなり古そうな箱で、鎖でぐるぐる巻きにされている。ハコウは平然と鎖を解き、箱を開けた。すると、
『だーっ!てめ、ハコウ!よくも俺様をこんな埃っぽい所に閉じ込めやがったな!覚えてろよ!!』
箱の中から怒鳴り声が聞こえ、驚いたギル達だったが、思い切って中を覗き込んで見た。中には、柄に蛇の装飾が施されたナイフが入っていた。持ってみろとハコウに言われ手にしたギルは不満を口にした。
「俺の武器って言うから期待してたのに、ただのナイフかよ。」
『何だと、クソガキ。このヨルムンガント様をなめるなよ!』
「うわっ!?」
ギルの言葉に腹を立てたナイフが喚き、ギルが驚いていると、ハコウが説明してくれた。
「そのナイフは特別製でな、かつてこの大陸で暴れまわっていた大蛇—ヨルムンガントを封印しているんだ。ヨルムンガントと契約さえ結びゃあ、その魔力の一部を使えるって訳だ。俺の自信作、名付けて魔剣ヨルムンガント!」
『勝手に名付けんな!いいから封印を解きやがれ!』
ハコウに悪態をつくヨルムンガントだが、ハコウは涼しい顔をして言った。
「そいつの武器として力を貸すなら考えてやるぜ。嫌なら、おめえを永久封印するだけだ。」
『ちっ!分かったよ、貸せばいいんだろ、貸せば!』
ヨルムンガントの返事にハコウはニヤニヤしながら応じた。
「そうそう、物分かりがいいじゃねぇか。」
話がある程度ついたところで、ギルはまじまじとヨルムンガントを見てみた。すると、蛇の装飾の目がまばたきし、ヨルムンガントが話しかけてきた。
『おい、ガキ。俺様を持ったまま、別の武器を想像してみろ。』
「?」
『いいからやれよ。』
「・・・分かったよ。」
ギルは言われるまま、別の武器を想像した。すると、ヨルムンガントが青白い光に包まれ、その形状を変えていく。
「こ、これは・・・!」
「「「「・・・ハリセン?」」」」
そう、ヨルムンガントはギルが想像した武器(?)のハリセンに形を変えたのだ。
『武器を想像しろって言っただろが!何だこりゃ!!』
「武器じゃねーの?ハリセンて。」
『違うわァァァァ!!』
ギルの言葉に、ヨルムンガントは素早くつっこみを入れた。
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第15話「初仕事はお使い!?」
その後、倉庫から出たギル達は、「これもソーマに頼まれていた。」とクリフの武器に短槍を渡され、ギルドの中央酒場に戻った。
「予防接種?」
「そう、いざ仕事場に行けば、どんな病気にかかってもおかしくないからね。隊員は接種が義務付けられているんだよ。勿論無料でね。」
小休憩に茶を飲みながら(無論、グレアのおごり)、グレアに話を聞いたギル達は、街の中央部にある病院に向かった。
「次の方、どうぞ〜。」
初めての病院にドキドキしながら、待っていると診療室に呼ばれ、ギル達は中に入った。そこには、黒い診療服に身を包んだエルフ族と思われる男が座っており、傍らにはヴァルキュリエらしきナースも立っている。医者と思われるエルフ族の男は、気だるそうに言った。
「・・・予防接種だろ。元気か?」
「え?ああ・・・」
「あいよ。」
—プスッ
「!」
ギルに体調を訊いた医者は、間髪入れずにギルの左腕に注射を打った。突然の事に驚きはするが、不思議と痛みは無かった。同様にクリフとリリにも無遠慮に注射を行い、カルテを書いて、それで終わりだった。いささか適当ではないかとも思ったが、予防接種自体の経験もないので、そのまま診療室を出ようとすると、医者が話しかけてきた。
「おめー、救世主候補だろ?」
「そうらしいけど、どうして分かったの?」
「なんてこたぁない。ソーマの野郎に似顔絵貰ってる。」
そういうと医者は懐からギル達の似顔絵(完成度が低い)を取りだした。それを見て、ナースが噴き出す。完成度の低さにイラついているギル達に、医者は愚痴を言いだした。
「いいか?ソーマって野郎は、上官としては尊敬できるが、人間としちゃ尊敬出来ねぇ奴だ。何かというと無茶を言うわ、色んな事に巻き込むわ、たまったもんじゃねぇ。」
そのまま、医者の愚痴に30分近く付き合わされ、げんなりして中央酒場に戻ると、当のソーマはカウンター近くの椅子に座って、隊員と談笑していた。先程の愚痴の事を言うと、ソーマは笑いながら言った。
「ああ、ブランゴか。あいつとは長い付き合いでな。ああは言うが、本心は満更でも無いんだろうよ。」
どこからそんな自信が出てくるのだろうとギルが思っていると、ヨルムンガントがソーマに怒鳴りかかった。
『おい、ソーマ!!早く俺様の封印を解きやがれ!』
「やだね。どーせ反省してないんだろ?しばらくそのままでいな。ところで、お前らに頼み・・・というか仕事の話があるんだが。」
ヨルムンガントの怒鳴り声を無視し、ソーマは笑顔で切り出した。
『で初めての仕事で、張り切って出てきてみりゃ、お使いってか?ムハハハ!』
「うるせぇな!」
ギルの腰のベルトのケースに収まりニヤニヤしてそう言ったヨルムンガントにギルは声をあげた。そう—ギル達の最初の仕事となったのは、狂暴なモンスター退治でも、要人護衛でも無く、『隣町の雑貨店に頼んでいた荷物を取りに行く』という、完全なお使いだったのだ。ブチブチ文句を言いながら隣町についたギル達は、雑貨店へと向かった。
一方その頃、役目を終え、ユグ・ドラシルを離れた大賢者—サーフェンは、ユグ・ドラシルにほど近い湖畔の洋館にいた。
「御苦労であったな、アドリア・サーフェン。」
「・・・六賢者としての務めを果たしたまでじゃ。ところで、この場にはわしを含めて5人しかおらぬではないか。ボルナルクはどうしたのじゃ?」
サーフェンを労う老賢者に尋ねると、彼とその他の3人は暗い顔をした。
「彼は、ボルナルクは死んだ・・・。」
「・・・何じゃと!?奴は、退魔魔法の使い手じゃぞ?」
信じられない様子のサーフェンに傷だらけの賢者が涙ながらに言った。
「すまない・・・!怪我を負った私を庇おうとして、彼は・・・」
「・・・・・・」
サーフェンは、少しだけうつむくと彼に訊いた。
「最期は、どうじゃった・・・?」
「魔術を使う間もなく、デビルズ・スピアに貫かれて・・・」
「・・・そうか。」
静かに哀しさを漂わせるサーフェンや他の賢者に、老賢者は言った。
「ボルナルクの死は我らにとって、辛く大きな痛みだ。しかし、痛みを感じ泣くのは後だ。我らは、務めを果たし、未来を見届けねばならぬ。努々忘れるな。」
老賢者の言葉に、その場の全員が頷いた。
「「「「承知!」」」」
—続く—
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第16話「闇の使者」
「・・・うまく術にかかったみたいだね。」
「よりにもよってこいつらかよ・・・。」
「危険度はともかく、見た目的にアウトだよね。」
『油断するなよ。一応悪魔だ。』
ギル達がお使いに来ている街のある路地でグレア率いるチーム・イクスのメンバーは武器を構えた。ギル達とこの街に来ていた彼らの目の前には、気味の悪い生き物が大挙して襲いかかる機会をうかがっている。生き物の名前は、『エビルコクロッチ』。巨大なゴキブリに角と悪魔の尾が生え、前脚に人間の様な指を持つ低級悪魔に分類されるモンスターだ。
おそらくギルの命を狙っている何者かがけしかけたのだろう。少なくとも、この街には悪魔の侵入を妨げる結界が施されている。人の手によって持ち込まれた可能性は高い。しかし、グレアはギルを守るために、別れる前にある魔法を自分達にかけていた。それは、『トリックビジョン』と呼ばれる魔法で、自分や仲間を第三者が見た場合、その見た目を別の物に出来るのだ。そこでグレアは、相手にはグレア達がギル達に見えるようにし、ギル達はグレア達に見えるようにしたのだ。こうすれば、万一ギルの命を狙う者がいても、自分達に襲いかかって来るようになるからだ。自分達ならば、大抵のモンスターなら容易く倒せる。事実、エビルコクロッチは今のギル達にとっては脅威だが、自分達にとっては恐れるに足りない相手だ。
「それじゃあ、始めよう!」
「「「おう!」」」
グレアの声に仲間達は強く答えた。
「いらっしゃい。」
雑貨店に到着し、中に入ったギル達に店主が声をかけた。中には様々な道具が置いてあり、ギル達が見た事が無い物もあったが、とりあえず本題に入った。
「俺達はユグ・ドラシルから頼んであった物を取りに来たんだ。」
「ああ、あれね。ちょっと待ってな。」
一応最年長のクリフが要件を言うと、店主は頷いて店の奥に入っていった。少しの間、店の商品を見ながら待っていると、店主は小さな段ボールを持って出てきた。
「あいよ、頼まれてたやつだよ。先払いで代金は貰ってるから、気を付けて持って帰ってくれよ。」
「ああ、分かったよ。」
受け取った段ボールは小さいが、中身は入っているようだ。中身が気になる所だが、勝手に開けると後々怒られる羽目になるので止めておく事にした。
荷物は受け取ったが、グレア達と合流するまでには時間があるので、街の中を散策する事にした。とはいえ、手持ちの金もあまり無いのでブラブラと歩くだけだったのだが。やがて少し疲れたので近くの路地裏で休憩する事にした。スラムでの生活に慣れているので、やはり路地裏の方が落ち着くのだ。その時—
「きゃあ!」
突然、上から黒いマントの人間らしきものがリリの前に降りてきた。驚いて小さく悲鳴を上げるリリを余所に、黒マントは瞬く間にリリを包み込んでしまった。
「「リリ!」」
突然の事に驚くギルとクリフだったが、すぐさま各々の武器を構えた。
「てめぇ!リリを離せ!」
「・・・・・・」
クリフが声を荒げるが、黒マントはまるで動じていない。改めてその姿を見ると、何かしらの獣を模した長い牙の装飾がされた仮面を付けている。
『なんだよ。こちとら昼寝してたってーのに。』
腰のホルダーから抜かれ、昼寝を邪魔されたヨルムンガントがぼやいているが無視する。ギル達の敵意を感じ取ったのか、黒マントは地面を滑るようにしてギル達に近付いてきた。身構えるが、黒マントはギル達の横をすり抜けてしまった。しかし、どういう訳か、同時にリリをギル達の横に落とした。ギルとクリフは、リリの元に駆け寄る。
「リリ、大丈夫か!?」
「・・・うん、平気みたい。」
どうやら怪我などはしていないようだ。ほっとすると同時に黒マントの姿の姿を探すと、相手はすぐ近くの壁に立っていた。そして、ギル達をじっと見据えると、マントを翻して溶けるように姿を消してしまった。思わずクリフが言った。
「何だったんだ、あいつは・・・」
その後、何かしらの用事をしていたらしいグレア達と合流し、ギル達はユグ・ドラシルへ帰る事にした。
—続く—
ポケモソ、MH好きのどこにでもいるゲーム好きです
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第17話「収穫祭と奇妙な少年」
「ナイトデッド?」
『お前らの話を聞く限り、その可能性が高いんだが・・・』
「どうも腑に落ちない点があるんだよね。」
「?」
雑貨屋で荷物を預かり、ユグ・ドラシルへと持ち帰る途中、ギル達は合流したグレア達に街で起こった出来事を話した。すると、グレア達は黒マントの呼び名らしきものを口にしたものの、首を傾げている。
「そもそもナイトデッドは、闇を司るとされる精霊なんだけど、進んで人を襲ったりはしないはずなんだよ。どうしてリリに襲いかかったのか、見当がつかないんだ。」
『もう一度聞くが、手は出してないだろうな?』
「だから、出してねぇって!」
ンバックの問いにギルが首を横に振りながら答えると、グレア達はお手上げのポーズを取った。彼らなら何か分かると思ったのだが、これ以上は無理なようだ。とりあえず、悩んでいてもしょうがないので、ユグ・ドラシルに急いで帰る事にした。
「お、帰ったか。」
ユグ・ドラシルに到着し、中央酒場にあるソーマの部屋に行くと、彼は依頼書らしき大量の書類に目を通している最中だった。それでもギル達が入ると、書類から目を離して、話を聞く姿勢を取ってくれた。
「で、どうだった?荷物は。」
「貰ってきたぜ。ほら。」
「おお、確かに。お疲れさん!」
ソーマに雑貨屋で預かった段ボールを手渡すと、ソーマはデスクの上を片付け、段ボールの中身を見せてくれた。段ボールの中には色とりどりのボールの様な物が入っていた。
「これは、パレードボールって言ってな。3日後の収穫祭のパレードに使うつもりで注文してたんだ。おかげで間に合った、ありがとうな。」
「収穫祭?」
聞いた事の無い単語にギルが聞き返すと、グレアが教えてくれた。
「春と秋に街をあげて行われるお祭りだよ。自然への感謝と豊穣を祈って2日間にわたってやるんだ。出店も沢山来るよ。」
グレアの説明にソーマが補足した。
「ついでに言えば、収穫祭の時期にしか受注できない依頼もあるぞ。まぁ、無理しない程度にやってみな。で、これが今回の依頼の報酬金だ。あまり額はねぇが、受け取ってくれ。」
ソーマから報酬金の入った袋を受け取り、部屋を出た後、ギルはクリフ達と話し合って、収穫祭関連の依頼を受けて資金を稼ぐ事にした。ただし、まだ入ったばかりで実績もないので、手伝い程度の依頼しか受けられない、との事だったが。
収穫祭までの3日間、ギル達はグレアに修行をつけてもらいながら、依頼を受け、小金を稼いでいった。そして、収穫祭を翌日に控えた昼過ぎに、ギル達が寄宿棟に頼んでいた部屋が出来たという報告が入ったので、さっそく行ってみる事になった。
「ここが、頼まれた部屋だよ。3人部屋だけど、もっと色んな依頼が受けられる様にならないと、広い部屋や良い家具は揃えられないよ。まぁ、隙間風は入らないから安心しなよ。」
寄宿棟の管理人に連れられてきた部屋は、確かにさほど広くなく、3段ベッドと小さなテーブル、箪笥があるくらいの平凡で割と粗末な部屋だった。とはいえ、スラム生活が長かったギル達にとっては、かなり良い部屋に思えた。無論、この広さと家具の部屋でおさまるつもりもないのだが。そして、自分達の部屋でぐっすりと寝た翌日—春の収穫祭の当日を迎えた。
街の賑わいに目を覚まし、簡単な朝食を取っていると、ザルパとイヅチに一緒に収穫祭の出店を回るように誘われ、この3日間で稼いだお金の一部を持って出かける事になった。
「こんなに出店が出てる祭りって、生まれて初めてだな。」
「うん、とっても楽しいね!」
「でも、こんなに人がいて、スリとか起こらねぇのか?」
クリフの言葉に、ザルパがつっこんだ。
「起こる訳ないじゃない。ここは、治安維持局の本部のあるピースポリスに次いで治安が良いのよ?まぁ、私の生まれた町でも収穫祭はあったけど、ここまで大規模じゃ無かったな〜。」
「このたこ焼き、おいしいッす!」
出店を楽しみながら回っていると、射的屋の前に人混みが出来ていた。何があったのだろうかと、見に行ってみると、一人の少年が射撃の最中だった。少年の放つ弾は次々と的の真ん中に命中していく。とうとう店主が悲鳴をあげた。
「もう勘弁してくれ!好きな物は持ってっていいから!!」
しかし、少年は構わず射撃を続けようとする。そこへ、人混みを掻き分けながらハコウがやってきて、少年の手から銃を取り上げた。すると、少年は心底不思議そうに聞いた。
「どうして邪魔をするのですか?」
「これ以上やったら気の毒だろ?」
「・・・理解不能です。この店は銃で的を狙う遊戯を売り物にしているのではないのですか?」
ハコウに反論した少年の様子にハコウは頭を抱えながら言った。
「それはそうなんだが、限度っつーもんがある。適当に好きなもんを貰って出ていこう。」
「・・・理解不能です。」
ぶつぶつ呟きながら考え込む少年の姿を見て、ハコウは溜め息をつくと、景品の酒を手に取ると、少年に言った。
「じゃあ、お前が貰う景品は、代わりに俺が貰う。後でお前に代わりの物を買ってやる。だから、とりあえずこの店を出るぞ?」
「・・・了解。」
ようやく納得した様子の少年と共に店を出ようとしたハコウは、人混みの中にギル達の姿を見つけて、近づいてきた。
「よぉ、あまり気分が良くない所を見せちまったな。まぁ、ちょうど良い、こいつもおめえらと同じ救世主候補でよ、ザイアってんだ。訳あって俺が世話してる。変なところはあるが、悪い奴じゃねぇんだ。仲良くしてやってくれや。」
「ああ、俺は・・・」
自己紹介しようとするギルの声を遮って、ザイアが話し出した。
「ギル—救世主候補、武器—魔剣ヨルムンガント。幼馴染にクリフとリリ。ザルパ—救世主候補、武器—骨銃剣。イヅチ・ドウジ—救世主候補、武器—鬼木棍。全て登録済みです。」
「「「?」」」
ザイアの言葉の意味が分からず、混乱するギル達を見て、ハコウが苦笑しながら言った。
「本当に悪いな。でも、ちゃんと名前は覚えてるはずだからよ。気にしないでくれ、悪気は無いんだ。」
ギル達が頷くのを見ると、ハコウはザイアを連れてその場から去って行った。不思議な出会いではあったが、ともかくギル達は収穫祭を楽しむことにした。
—続く—
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第18話「さだめ」
「・・・なぁ、ソーマよ。いい加減話してくれんか、ザイアの事を。」
収穫祭で賑わうユグ・ドラシルの居酒屋「とさか提灯」の個室でハコウは切りだした。個室にはソーマとハコウの他、医務室のブランゴもいる。ソーマは酒をちびりと飲んで惚けた。
「話すって何を?」
「惚けるんじゃない。あいつが、ザイアが初めてここに来た時の事は忘れない。四肢をもがれ、内臓を喰われ、死にかけていた!強盗やモンスターに襲われたにしては酷過ぎる!」
ハコウの勢いに負けたのか、ソーマはゆっくりと話し始めた。
「そもそも救世主候補ってのは、生まれた時から決まっており、予言によって探す事が出来る。だが、困った事にまれに予言で見つからない場合もあるようなんだ。先日見つかったギルだってそうだ。そして、ザイアもな。」
そこまで言うと、ソーマは顔に手を当てて話を続けた。
「以前から何かを感じていたザイアの親族は、彼を密かに匿おうとした。それで発見が遅れたのはあるが、言い訳にしかならん。俺が出遅れたせいさ。何かしらの方法でザイアが救世主候補だと知った敵は、モンスターの大群を差し向け、親族もろともザイアを殺そうとしたんだ。奇跡的にザイアは殺される前に救えたが、それでも瞬間冷凍してここに運び、ブランゴやお前の処置を受けなければ死んでいただろう。一命を取り留めたものの、身体の半分以上が機械となり、その上今のザイアにこれまでの記憶は無い。・・・と、ここからはお前達の方がよく知っているだろう?」
ソーマが話し終わると同時に、ハコウは怒りを露わに怒鳴った。
「ならば、何故それをザイアに教えてやらん!?あいつは、何故自分が機械の身体を持つのか、そもそも人間なのか、何故生きているのかと、悩んでいるのだぞ!!」
「それを教えて何になる?自分のせいで親族が殺された事を思い出したザイアはどう思う!?復讐に駆られ、勝ち目の無い戦いに身を投じるのがオチだ!!」
双方の言葉を聞き、ブランゴが諭すようにハコウに言った。
「・・・お前の気持ちも分かる。だが、今は救世主候補を守る事が先決だと、ソーマは言っているんだ。正しい事とは言えない、だが、今は堪えろ。」
ブランゴの言葉に、やりきれない表情をしたハコウが酒をあおって言った。
「・・・おめえは、相変わらず汚い奴だ!」
「・・・だろうな。」
ソーマは頷きながら、自嘲気味に笑った。
一方その頃—
「ようやく着きましたな。大丈夫ですか、お嬢様。」
「うん、大丈夫よ。行きましょう。」
ユグ・ドラシルの門を獣耳の男とローブを被った少女が通った。その様子から、ユグ・ドラシルの隊員でも観光客でも無いようだ。彼らは出店に目もくれず、人混みを掻き分けて中央酒場へと向かっていく。その時—
—ドンッ
「きゃうっ!」
「おわっ!」
少女と出店から出てきた少年—ギルがぶつかってしまったのだ。それほど強くぶつかった訳ではないが、小柄な少女は尻餅をついてしまった。
「お嬢様!」
青年が慌てて少女を立たせ、ギルを睨みつける。後からついてきたクリフ達が、その様子を見て駆け寄ってきた。
「おいおい、何やってんだよ。」
「ちゃんと謝りなさいよね!」
完全に自分が悪い事にされていると気付いたギルは必死に弁明する。
「だってよ、あいつだって・・・」
だが、その場の空気がそれを許さない。ギルは納得できないまでもしょうがなく謝る事にした。
「悪い、ちゃんと前見てなかった。怪我無いか?」
「うん、大丈夫よ。私こそごめんなさい。」
ローブに付いた埃をはたきながら少女もギルに謝った。ある程度事態が終息したと判断した青年が少女に言った。
「お嬢様、急ぎましょう。」
「うん、行こう。それじゃあ。」
「あ、うん。」
少女は手を振ると、青年と共に人ごみに消えて行った。
「ん?」
「どうしたッすか?」
少女達が立ち去った後、ギルがしゃがみ込んだのでイヅチが尋ねると、ギルはしゃがみ込んだ理由となった物を皆に見せた。
「これは・・・」
「首飾りみたいね。」
それは何かの鱗らしき物と牙らしき物を赤い紐で繋いだ首飾りのようだ。
「さっきの子が落としたんだろ?」
その可能性は高いだろう。しかし、どこの誰かが分からなければ返しようがない。ただでさえ今日は収穫祭で人が多いのだ。
「ちゃんと返しなさいよ。」
「つってもどうすりゃいいんだよ?」
ギルはそう呟くと、もう一度首飾りを見た。
—続く—
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