ワザップ!フォーラム
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第19話「小族の長」
「うんめぇ!やっぱ、収穫祭の出店の串焼きは最高だぜ!」
「お、兄ちゃん、嬉しい事言ってくれるね!じゃあ、一本おまけしてやるよ。」
「わりーなぁ。」
ここはユグ・ドラシル。今は収穫祭の真っただ中だ。その中にある串焼きの出店の前で、長身で大柄な男が串焼きをむさぼるように食べていた。彼の連れと思われる男が、彼を呼ぶ。
「ヴェン、はしゃぐ気持ちは分からなくないけど、そろそろ行こう。」
「おう、今行くぜ!」
呼び声に応え、男は出店を離れて連れと歩き始めた。
「しっかし、収穫祭のタイミングで帰って来れるたァ思わなかったぜ。」
「君はいつでも本能で行動するからね。おまけに力任せだ。」
連れの言葉に笑いながら男が言った。
「ちげぇねぇ!お前が頭脳、俺が身体ってな。最高のコンビじゃねぇか!」
「とはいえ、君も弟子を取っているのだろう?今回の旅には無理して同行する必要はなかったのに。」
連れが男の反応を見るようにそう言うと、男は頭を掻きながら小さい声で言った。
「いや、ガキなんざ師匠無しでも立派になるもんだぜ。それよか・・・」
「嫌な気配がする・・・かい?」
「気付いてやがったか。」
「当然だろ。これでも八剣聖だからね。」
周りのお祭り騒ぎとは裏腹に、彼らの顔は真剣だ。
「ぶっちゃけ、今回の調査ってのも、それと関係してんだろ?」
「半分は趣味だけどね。少しの間、ここに滞在するつもりさ。」
「付いててやろうか?」
「いいさ。子守がいる歳でも無い。」
「そうか・・・。ん!?おい、ザルパじゃねぇか!ザルパ!」
「どうすんだよ、これ・・・。」
「返さなきゃッす。」
先程ぶつかった少女の持ち物と思われる首飾りを手にギルは困っていた。返さないといけないのは分かる。だが、彼女の事を何も知らないのだ。どう返せと言うのだろう。
「何言ってんのよ。落し物は、中央酒場に持っていけば持ち主がそのうち取りに来るわ。むやみに探すよりよっぽどいいわ。」
「・・・おお!」
半ば呆れた顔をしたザルパの提案にギル達は賛成し、早速中央酒場に向かおうとした時だった。
「おい、ザルパじゃねぇか!ザルパ!」
「「「「!」」」」
突然のザルパを呼ぶ声に反応して一同が振り返ると、2人組の男がこちらに向かって歩いて来ていた。そのうちの長身で大柄の男が手を振っている。どうやら、先程の声は彼のもののようだ。知らない顔だが、様子からしてザルパの知り合いなのだろう。
「ヴェノンさん、帰ってきたんですか!?」
「ああ、今しがたな。」
「もー、何やってるんですか!自分の弟子を置いて!」
どうやら、親しい間柄らしい。故郷が同じなのだろうか。よく見ると、やや薄汚れてはいるが、かなりしっかりした造りの鎧を纏っている。一方、連れと思われるもう一人の男は、同じく薄汚れており、つば広帽と薄茶色の上着を着ており、2本の剣を腰に差している。ヴェノンと呼ばれた男は完全にザルパに説教されている。傍から見れば、格好の良いものではない。すると、溜め息をつきながら、連れの男がギル達に話しかけてきた。
「やぁ、諸君。こんにちわ。私はアルバート・デイン、しがない学者だ。あそこで年下に説教されているのが、ヴェノン・オーストリッチ。私の親友でね。両方一応八剣聖をやっている。」
「ところでよ、何かあったのか?」
ようやく説教から解放されたらしいヴェノンがギル達に話しかけてきた。ヴェノンとアルバートに事のいきさつを話すと、アルバートが首飾りを見て言った。
「これは、セルキーの少数民族のお守りのようだね。おそらくはザルパ君と同じ救世主候補の一人—ミルディ・クレシェンテの持ち物だろうね。私の予測が正しければだが。」
「相変わらず、頭良いな、お前。」
アルバートの言葉にヴェノンが感心したような声を出す。そして、ヴェノン達も中央酒場に向かうと言うので、一緒に行動する事になった。
一方その頃、中央酒場のソーマの部屋では、先程までハコウやブランゴと飲んでいたソーマが、小柄な少女と青年—ミルディ・クレシェンテと話をしていた。
「・・・と言うと、何か?救世主候補として戦う代わりに、自分達の一族の復興が進むように働きかけて欲しいと?」
「そうです!あなたにとっても、私が戦わないのは困るでしょう?」
そう言うミルディは、小柄で線も細く、震えている。どちらかというとこのような交渉には向いていないのだろう。それでも一族を守るために精一杯の勇気を振り絞ってやって来たのだ。いつしかソーマは条件など無しに手を貸してやろうと思い始めていた。しかし、十魔人として、ユグ・ドラシルの総隊長として、威厳は見せておかねばならない。
「分かった。手を貸してもいい。ただし、その前に一族の者である証拠を見せてはもらえぬか?」
ソーマがそう言うと、付き人らしい青年が怒ったように言った。
「仮にも、一族の代表を相手に、証拠など無礼ではないか!」
「いいの、カイユ。分かりました。これが・・・、!」
付き人をなだめつつ、証拠を見せようとするミルディだが、突然あたふたし始めた。
「いかがなさいました!?」
「ないの、首飾りがどこにも!」
「何ですと!?」
困った事になった、ソーマはそう思った。普段ならともかく、今は収穫祭の最中だ。落し物がすぐに見つかるとは限らない。とはいえ、仮にも権力のある者同士の交渉が口約束ではおさまりが付かないだろう。その時、ドアをノックする音が聞こえた。
—続く—
ポケモソ、MH好きのどこにでもいるゲーム好きです
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第20話「聖剣と山斬り」
ミルディとの会談中にドアをノックする音が聞こえ、ソーマは立ち上がってドアを開けると、そこにはギル達と、2人の八剣聖—ヴェノンとアルバートがいた。
「お、どうした?悪いが、今は忙しくてな。話は後にしてくれ。」
ソーマの言葉に、ギルは首を横に振りながら、手にした物を差し出した。
「違うよ。落し物があって、持ってきただけだぜ。ほら。」
「それならしょうがないな。・・・!」
ギルに渡された落し物を見て、ソーマは一瞬笑みを浮かべて、ミルディに向かって言った。
「失礼した。どうやら先に証拠を見せてもらっていたようだ。よろこんで協力させて頂こう。そして、これはお返しする。」
そう言うと、落し物—ミルディが探していた一族の者である証拠の首飾りをミルディに渡した。彼女は驚いた様子で首飾りを見るが、ソーマがこっそりとウインクするのを見て、頷くと首飾りを受け取った。そして、小声でソーマに話しかけた。
「・・・ありがとうございます。私・・・」
「礼なら、そこにいるギルに言いなさい。それをここまで持ってきてくれたのは彼だからな。そして、救世主候補の一人でもある。」
ミルディは静かに頷くと、カイユを伴ってギル達の前まで来て、礼と自己紹介をした。
「ギル、私の大切な物を持ってきてくれてありがとう。私は、ミルディ・クレシェンス—貴方と同じ救世主候補です。」
「あ、ああ、どういたしまして・・・。」
突然、丁寧なお礼を言われ、戸惑っているギルを笑顔で見たソーマは、ミルディとカイユに言った。
「詳しい手続きなどは、後日行いましょう。今日は収穫祭を楽しんで帰ってくれ。ギル、お前らが案内してやってくれ。」
「ええ?」
「後でお駄賃をやろう。」
それを聞いたギル達は嬉しそうに頷き、ミルディ達と部屋を出ていった。
「・・・さてと。で、どうだった?今回の調査は。」
ギル達の足跡が完全に聞こえなくなるのを待ってから、ソーマはヴェノンとアルバートに話しかけた。アルバートが頷いて、報告を始めた。
「まずは、魔王についてですが、復活の兆候は見られません。ただ、上位悪魔と思われるモンスターによる襲撃事件が確認できました。」
「上位悪魔の召喚を行おうとしてた黒魔術教団もいくつか潰したが、関係してるかどうかは分からねぇ。」
ヴェノンの言葉に頷くと、アルバートは続きを話し始めた。
「破壊の巫女については、恐らく既に治安維持局、あるいはそれに属する組織によって保護されているようです。ただし、能力については、覚醒はしてないでしょう。」
「・・・他には?」
ソーマがそう言うと、アルバートは考えながら話した。
「以前話されていた人物についてですが、それらしい目撃情報が得られました。ただ・・・」
「ただ?」
「改造人間に携わる企業で目撃されたらしく、人違いの可能性もあるかと。」
「・・・そうか、何とか無事が確認できればいいんだがな。」
ソーマの言葉に、アルバートとヴェノンは静かに頷いた。と、ソーマが話題を変えた。
「ところでヴェノン。ヴリィとセンケイに少しは師匠らしい事をしてやれ。意味のあるなしに関わらず、あいつらには必要な事だ。救世主候補としてじゃなく、人間としてだ。」
「ん〜、前にも言ったが、俺にゃ向いてねぇ気がすんだよ。」
ヴェノンの言葉にソーマは笑いながら言った。
「向いてる向いてないじゃねぇさ。お前が今までいろんな人から教わって身につけた事を次の世代に託せばいいだけの事さ。」
「ま、考えてみるわ。」
「ああ、頼むわ。」
ヴェノンの言葉に、ソーマは少年のような笑顔で応じた。
「しかし、聖剣と山斬りに会えるとは思いませんでしたね。」
「聖剣と山斬り?」
聞き慣れない言葉にギルが首を傾げると、イヅチが教えてくれた。
「アルバートさんは、伝説の聖剣—エクスカリバーを扱う事から、聖剣の異名を持っているッす。ヴェノンさんは、かつて山一つを一刀両断したという逸話からそう呼ばれてるッす。」
「ヴェノンはタイタニアの英雄の一人で、アルバートさんは世界的に有名な探検家なのよ。」
イヅチの言葉にザルパが補足した。ヴェノンの事を英雄と言っておきながら呼び捨てなのはどこか不思議だったが、黙っておく事にした。
「あ。」
「どうした?」
突然、クリフが立ち止まったのでどうしたのかと思い、前を見ると、ニーズへッグがいつもにも増して色んな店を回りながらごちそうを食べていた。
『おいおい、あいつ、ニーズへッグじゃねぇか?随分でかくなったな。』
腰のベルトにさしていたヨルムンガントがいきなり声をあげた。
「なんだよ?知ってんのか?」
封印されていたはずのヨルムンガントがどうしてニーズへッグの事を知ってるのか、分からなかったギルは聞いてみた。
『うん10年前に虫干しされた時に見たぜ。その時は、まだまだちっこかったがな。ところで、わざわざ教えてやったんだ。焼きそば奢れ。』
「ナイフのくせに食うのかよ!?」
『俺様をそんじょそこらのナイフと一緒にするなよ?いいから、焼きそば奢れ!』
ヨルムンガントの言葉を半ば無視して、ギルはアルバートとヴェノンの事を考えていた。ヴェノンが強いというのは体格から納得できるが、アルバートは賢いが、強いとはなかなか思えなかったのだ。だが、それ以上考えるのは後だ。今は収穫祭を楽しむ事にして、ギルは仲間達と出店を回っていく事にした。
—続く—
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キャラ紹介 その1
ギル
救世主候補の一人に選ばれたスラム街出身の少年。幼馴染のクリフとリリの面倒も見るという条件でユグ・ドラシルの一員となる。13歳。
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魔剣ヨルムンガント
かつては世界中で暴れまわっていた大蛇だったが、特製のナイフに封印されてしまった。会話や形状変化程度は可能であるが、完全封印をしない事を条件に、ギルの武器となる。
クリフ
ギルの幼馴染で兄貴分。当初はギルが救世主候補として活動する事に反対していたが、自分の力で守る事を決意。共にユグ・ドラシルの一員となる。17歳くらい。ちなみに捨て子ではなく、戦争孤児である。
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リリ
クリフと同じくギルの幼馴染。幼い少女ながら、スラム街で生き抜いてきたためたくましい一面がある。10歳くらい。
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アドリア・サーフェン
ウラノスの男で、ユグ・ドラシル傘下の魔術師集団『六賢者』の第3席。東方大陸北部出身で故郷の大精霊と契約を結んでいる。30代半ば。
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ソーマ・グランバー
世界屈指のギルド都市—ユグ・ドラシルの総隊長を務めるエルフ。地位としては高いが、ギルドマスターではない。結界魔法と封印魔法のエキスパートで、ヨルムンガントの封印をおこなったのも彼である。人望が厚く、特にユグ・ドラシルの隊員からは父親の様に慕われている。世界を束ねている『十魔人』のメンバーでもあるが、200代後半の高齢である。
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グレア・ファルガン
世界最強の武術集団『八剣聖』の一員の青年。剣術、体術、魔術、召喚術をソーマから直々に学んでいる。ソーマからギル、クリフ、リリの師匠に任命される。25歳。
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RC(レッドキャップ)
ユグ・ドラシルの隊員で、グレアとはチームを組んで活動する仲。ディフェルダーで、自称『ユグ・ドラシル最硬』の男。30代。
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ザルパ
ギルと同じ救世主候補の一人。人種は不明(恐らくはタイタニア)。真面目で明るい性格で、集団行動を重んじるタイプ。15歳。
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イヅチ
人種は不明だが、怪力を誇る救世主候補の一人。実力はあるものの、自分に自信がなく、やや引っ込み思案。13歳。『〜ッす』が口癖。
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ヴリィ・バーサーカー
現段階で最強クラスの救世主候補。マンマル(突然変異型)の少年で、好戦的で粗暴な態度が目立つ。17歳くらい。
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センケイ
ヴリィとつるんでいる救世主候補。温厚そうな見た目であるが、残虐な一面も。ボウガンを扱うが、実力は未知数。ヴリィと同い年。
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カムル・ハズコーン
3人の救世主候補の師匠を務めるヴァルキュリエの老人。以前に片方の翼を失い、機械の翼をつけている。かなりの戦闘経験があり、72歳という高齢ながら実力は確かである。
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ユぺル
カムルと同じヴァルキュリエであるが、血縁関係はない。救世主候補の一人でおとなしく人懐っこい。13歳。
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ハイマス
治安維持局から選ばれた救世主候補。13歳ながらにドラゴンライダーの資格を取るほどの秀才。やや協調性に欠け、治安維持局こそ世界を救うのにふさわしいと考えているが、一応協力する気はあるらしい。
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ンバック
グレアやRCとチームを組んでいるアンダーグラウンドの男。見た目に反し、常識的。恐らく20代後半。
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ウィリー
グレア、RC、ンバックと共にチーム・イクスで活動するユグ・ドラシルの隊員。知的な物言いだが、変わり者らしい。23歳。
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ハコウ
ユグ・ドラシルの武器工房の職人長を務めるドワーフの男。腕は確かで、ヨルムンガントを封印しているナイフを打った張本人。鍛冶の技術だけでなく、最新技術も使える(らしい)。50代前半。
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ブランゴ
ユグ・ドラシルの病院で医者として働いているエルフの男。ソーマ直属の部下であったらしいが、不満も多いようである。200代。
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ザイア
救世主候補の一人で、敵の襲撃を受け、一命を取り留めるも、サイボーグとなり、記憶を失っている。精神面に不安はあるが、戦闘能力は高い。15歳くらい。
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ミルディ・クレシェンス
救世主候補の一人で、セルキーの少数部族の代表としてユグ・ドラシルを訪れた。基本的にはおとなしいが、一族の為に十魔人であるソーマとの交渉を行うなど、芯は強い。12歳。
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アルバート・デイン
『八剣聖』の一員にして、しがない学者(本人談)。学者と名乗っているが、年中探検に精を出す変わり者。弟が治安維持局に努めている。頭脳派と言っているが、聖剣エクスカリバーの使い手らしい。28歳。
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ヴェノン・オーストリッチ
『八剣聖』の一人で『山斬り』の異名を持つタイタニアの男。アルバートとは親友で、彼の探検に同行する事もしばしば。いい加減な所があり、弟子であるヴリィとセンケイを置いてアルバートの探検に同行していた。33歳。
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第21話「雷電鳥—サンダーバード」
ユグ・ドラシルの収穫祭の初日は、日が落ち、辺りが暗くなったにもかかわらず、人々の賑わいが収まる様子はない。出店に、仮設ステージで行われているイベントに目を奪われている人々は、空を仰ぎ見る事などしない。そして、誰も興味を示さぬ漆黒の夜空に、闇の精霊—ナイトデッドは浮かんでいた。ただ浮かんでいるだけで、何の音も出さず、身動きしないナイトデッドに気付く者などいない。だが、ナイトデッドは人混みの中のある一点を見つめていた。
「おめでとーう!3等の景品は、召喚術師入門セットだよ。」
とあるくじ引き屋で、3等の景品—召喚術師入門セットなる、何やら如何わしい箱を渡されたのは、ギルの幼馴染のリリだ。3等が当たった事が嬉しいのか、リリはいつも一緒にいるギルやクリフ、一緒に出店を回っていたザルパ達に見せている。
一方その頃、中央酒場にほど近い路地を一人の警備員が歩いていた。これだけ大掛かりな催し物だ、何ら不思議はない。そこへ、グレアがやって来て、彼に剣を向けると、小さな、しかし凄みのある声で言った。
「おっと、ちょっと止まってくれるかな。・・・一体何をするつもり?」
「な、何の事ですか?私はただ・・・」
警備員は慌てた様子で言葉を発するが、グレアは彼から全く視線を逸らさずに言った。
「そう簡単には騙されないよ。その程度の変装くらい、その気になれば見抜けるさ。そうだろう?ハーク。」
「フッフッ・・・、さすがと褒めておこうか。グレア・ファルガン。」
グレアの言葉を聞いた警備員は、笑いながら両手を上げた。すると、彼の身体が突然溶けた。・・・いや、そうではない。正しくは、彼の身体に纏わりつき、その姿を警備員に偽装させていた、無数の毒蟲が剥がれ落ちたのだ。
「蠱毒使いのハーク・バイアス。世界永久指名手配のテロリスト。さしずめ、この騒ぎに乗じて救世主候補か父さんに何かをしようと考えてるんだろ?」
「俺より弱い奴に教えてやる義理はないね。」
「いいよ。教えてもらうんじゃなくて、力づくで言わせるから。」
剣を向けられているのにもかかわらず、ハークは笑みを浮かべて言った。
「虚勢は止めな、坊や。分かってるだろ、俺と戦うと周りがどうなるか。」
「・・・それなら、その前に全力で消すまでだよ。」
「それはご免こうむりたいね。俺も今死んでやる訳にはいかないし。」
「!」
すると、ハークの突然、毒蟲たちが舞い上がり、障気の渦となってハークを包み込んだ。とっさにその場から飛び離れたグレアの耳にハークの声が聞こえた。
「今日はただの挨拶だよ。それにこっちもまだ君らとドンパチやるにはキツイからね。今はそっとしといてあげる。あの方が目覚めるまでね・・・」
「・・・クッ!」
いくら他の人々への攻撃の可能性があったとはいえ、何もせずに逃がすべきではなかった。グレアはそう思い、歯ぎしりをした。
「や、お帰り。」
「ここにいたのか。」
「さっきまで見回りしてたからね。今は休憩中。」
ひとしきり出店を回り、休憩を取るために中央酒場に行ったギル達は、グレアと合流した。すると、リリの持っている箱を見てグレアが言った。
「あれ?それって、召喚術師入門セット?懐かしいなぁ。」
「知ってるの?」
「うん、昔僕も使ったよ。あまり変わってないね。」
問いへのグレアの答えに、リリはまじまじと召喚術師入門セットを見てみた。
「多分、入門用にごく弱い力の精霊との契約キットが入ってるよ。試してみたら?」
グレアの言葉を信じて、リリが恐る恐る箱を開けると、魔法陣らしきものが書かれた紙と、指輪、『トロルにも分かる召喚術』というタイトルの本が入っていた。グレアの手ほどきを受けながら、契約の為に精霊を呼び出してみる。
「魔術書の持ち主、リリが命ずる。静電気の精霊よ、我が言葉に応え現れよ、サンダーバード!!」
「「「!」」」
リリが召喚の呪文を唱えた直後、床に置かれた魔法陣と指輪が激しい光を放った。そして、光が収まり、魔法陣の上には・・・
「ピィ。」
「・・・ひよこ?」
そう、淡い光を放つヒヨコ・・・のような鳥が浮かんでいた。
「失敗したのか?」
「ううん、成功だよ。」
「嘘だ!サンダーバードって感じしないぞ!?」
クリフの言葉を聞いたグレアは、剣を抜き、上に向けて召喚の呪文を唱えた。
「静電気の精霊よ、集い我が元に現れよ、サンダーバード!」
「「「「!」」」」
すると、電撃と共に先程のヒヨコ・・・ではなく、サンダーバードが無数に現れた。
「サンダーバードは、一羽では力を発揮できないんだ。何匹もが融合すれば・・・」
グレアはそう言いながら、指をはじいた。すると、バラバラだったサンダーバード達が、渦を巻くように集まっていく。そして・・・
「ピキーーーッ!!」
火花を散らしながら光輝くワシの様な姿になったのだ。驚いているギル達を余所に、グレアは説明を続ける。
「一度に呼び出せるサンダーバードの数は、召喚する者の力量に応じて変わるんだ。初めてで成功するだけでも凄いんだよ。これから修行を積めば、きっと出来るさ。もしかしたら、リリは召喚術師に向いてるのかもね。」
「私が・・・?」
「ピヨ〜ッ!」
リリが信じられないといった顔で、魔術書を持ったまま、自分が呼び出したサンダーバードを見ていると、サンダーバードは何かを伝えようと鳴いた。
「とりあえず、この子と契約を結ぶかどうか決めないとね。この状態でも、光を発する事が出来たり、静電気を起こす位は出来るよ。」
「リリ、どうする?」
グレアの話を聞いていたクリフがリリに尋ねると、リリは頷いて言った。
「うん、契約する!」
その後、リリはグレアに教わりながら、召喚術師入門セットに入っていた指輪を媒体として、サンダーバードと契約を結ぶ事に成功した。
「よろしくね、サンダーバード!」
「ピヨッ!」
「・・・じゃあ、僕は見回りに戻るよ。夜更かししないで寝てね。」
リリが成功するのを見届けたグレアは、飲みかけのコーヒーを飲み干して、中央酒場から出て行った。ギル達は、その後、少しだけ夜更かししてから眠りについた。
—続く—
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第22話「パレードタイム!」
収穫祭最終日の朝となり、出店や商店の店員達が準備を始める中、彼女は駆け足で医務室へと向かう。若草色の髪の毛と薄い桃色の服、そして特徴的なのは希望に満ち、ぱっちりと開いた茜色の目だ。その手に花束を握った少女は、道を行く人々の間を縫って駆けて行く。パン屋の店員が、少女に声をかけた。
「ライアちゃん、今日もお見舞いかい?偉いねぇ、これ、少し焦げてるけど持ってってよ。」
「おばさん、おはよう!いいの?ありがとう!」
ライアと呼ばれた少女は、パン屋の店員に渡された紙袋を受け取ると、再び駆けだした。医務室に入ると、いつものようにDr.ブランゴの専属ナースのベティが患者用に置いている新聞を読んでいた。彼女は、ライアが来たのに気付くと話しかけてくれた。
「あら、ライア。おはよう。病室の鍵は開いてるわよ。」
「ベティさん、おはよう!行ってくるね。」
ライアはベティに挨拶すると、目的の病室へと向かった。
「ルカ、入るよ?」
ドアをノックして病室に入ると、そこにはベッドに寝かされた少年がいた。眠っているのか、目をつぶっているが、端正な顔には何かしらのペイントが施されている。ライアもよく知らないのだが、彼—ルカの一族に伝わるまじないらしい。
「今日は、夜にパレードがあるよ。ここからも見えるらしいから、一緒に見ようね。あ、後ね。さっきパン屋のおばさんにパンを貰ったの。おいしそうでしょ?」
しかし、ルカはライアの言葉に反応しない。それもそのはず、彼はユグ・ドラシルに到着する前に敵が差し向けたと思われるモンスターに襲われ、昏睡状態に陥っているのだ。ルカと同じ師匠に教わっているライアは、こうして毎日お見舞いに来ては、言葉をかけているのだ。まもなく3ヶ月ほどになるが、彼はまだ目を覚まさない。それでも、いつかきっと目覚める、ライアはそう信じているのだ。
「どうした?食わねぇのか?」
「てゆーか、どういう風の吹きまわしですか〜?」
「・・・ケッ。」
中央酒場の一角のテーブルで、ヴェノンとその弟子のヴリィとセンケイと朝食を取っていた。そこへ、マンジがやってきて、眉をひそめながら言った。
「これは随分と奇妙な光景だな。どういう風の吹きまわしだ?」
「何の話だ?たまには、弟子との絆を深めないとな。」
「よく言うな。普段はほったらかしているくせに。」
「そう言うなら代わってくれよ。あんたは、副隊長だろ?」
マンジの言葉にヴェノンは冗談交じりに言った。すると、マンジは真顔で言いきった。
「悪いが、俺には親父さんとこのギルドを守るという義務がある。それに、意外とお前達は合っていると思うぞ。」
「「「どこが!?」」」
マンジの言葉に3人は声を揃えてつっこんだ。その様子を見て、マンジは笑みを浮かべて去っていった。
「うりゃあ!」
「せいっ!」
その頃、ギルとクリフは、朝の稽古をグレアにつけてもらっていた。2人が同時に攻撃を繰り出すが、グレアは易々とそれらをしのぎ、反撃してくる。あくまで稽古なので竹刀を使っていたが、ギルとクリフはいくつかコブをつくってしまった。
「じゃあ、今日はこのくらいにしておこうか。怪我した所は、ちゃんと冷やしときなよ。」
「いててて・・・」
「うっす・・・」
『お前よぉ、稽古ってかやられてただけじゃね?』
「うるさいな!」
ヨルムンガントの言葉にいらつくギルをグレアがなだめた。
「まぁまぁ、まだ修行を始めたばかりだし、もっともっと強くなれるよ。」
釈然としない思いを感じつつ、ギルは頷いた。
一方その頃、中央酒場の倉庫では・・・少女と少年がなにやら作業をしていた。
「そこのレンチ取って。」
『あいよ。』
姿からしてアンダーグラウンドと思われる少年からレンチを受け取った少女は、目の前の機械のボルトを手早く締めていく。
『ちょっと急ぎ過ぎじゃねぇか?俺がやるから休めよ。』
「嫌よ。中途半端は嫌いなの。」
『・・・かわいくねーの。』
「うるさいわね!」
少女の名は、クラリス。そして、少年の名はボロネジ。共に救世主候補であり、手先が器用なので一緒に行動する事が多いのだ。彼女達が作っているのは、パレードに使う照明装置だ。ウラノスから選出されたクラリスが設計し、ボロネジが協力しているのだ。とはいえ、クラリスにはこだわりがあるらしく、ボロネジはほとんど触らせてもらえないのだが。そして、パレードの開始時間が迫ってきた。
「すっげぇ人・・・」
「あ、始まるッす!」
街の入口の方から歓声とイルミネーションが見えてきた。いくつものパレードカーに乗った魔術師や戦士達が踊っている。
「見ろよ!ラーカン兄弟だ!!」
「「「!」」」
骨や破れた布などで飾られたパレードカーに乗っているのは、オオカミの頭をした2人の大男だ。2人が雄叫びをあげるたびに観客達は歓声を上げる。
「ラーカン兄弟?」
「ウェアウルフの兄弟よ。副隊長でもあるの。」
「へぇーっ。」
更にパレードは続き、様々な演出が観客達を魅了していく。そして、パレードカーにグレアとヴェノンが乗ってやってきた。
「おっ!?」
すると、グレアはサンダーバードを一斉に呼び出し、空中でダンスしているかのように誘導し始めた。そして、ヴェノンは、パレードカーから飛び降りると、先程まで乗っていたパレードカーをグレアごと持ち上げ、歩き始めた。幻想的なサンダーバードのダンスと、ヴェノンの迫力満点のパフォーマンスに観客達の歓声も大きくなる。
「行くわよ、ボロネジ。」
『あいよ。』
別のパレードカーに乗っていたクラリスとボロネジもパフォーマンスを始めた。ボロネジがスイッチを入れると、照明装置から色とりどりの光が発せられ、空中にホログラムを形成する。それを見た観客達が一斉に歓声を上げる。更に、街の近くの山からは花火が打ち上げられ、大盛況のうちにパレードと共に、ユグ・ドラシル春の収穫祭は幕を閉じた。
—続く—
ポケモソ、MH好きのどこにでもいるゲーム好きです
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第23話「十魔人連絡会」
収穫祭の翌日、いつもにも増して賑わいを見せていたユグ・ドラシルの街は普段の日常に戻っていた。・・・ある点を除いては。
「え?ソーマ、いないの?」
「ああ、戻るのは明日だろう。依頼を受けるなら、俺を通じてくれ。」
ギルの言葉に答えたのは、副隊長の一人であるマンジだ。彼は普段ソーマが依頼を受注するために座っているカウンターに座っていた。
「何処に行ったんだ?」
「うーむ・・・、お前達に行っていいものか・・・。」
クリフの問いにマンジが少し考えていると、そこへグレアがやってきた。
「おはよう。どうしたの?マンジさん。」
「うむ、こいつらに親父さんの用事の事を言うべきか考えていてな。お前はどう思う?」
事のいきさつを聞き、グレアは少し考えて答えた。
「教えてあげてもいいんじゃない?責任は僕が取るし。」
「じゃあ、お前が教えてやってくれ。俺は仕事がある。」
「うん、分かった。」
グレアは頷くと、ギル達を手ごろなテーブルにつかせると、話し始めた。
「ソーマ父さんが十魔人って事は知ってるよね?」
「ああ。」
「十魔人は、年に数回、不定期に集合して意見交換する連絡会をおこなっているんだ。そこで、各々がどうやって世界を統治していくかを議論しているんだ。いわば、世界の行き先を決める会議って所かな。ソーマ父さんは、それに出かけたんだよ。」
グレアの説明に、ギルは感心しながら言った。
「ふーん、ソーマも意外と大変なんだな。」
「それは、ちょっと失礼でしょ・・・。」
ギルの言葉に、グレアは思わず苦笑した。確かにソーマは、普段は農園に通ったり、気まぐれに酒を飲んだりしているが、実動部隊を束ねる、事実上のギルドマスターだ。苦労が無いはずがないのだ。
「へっきしっ!!」
「ソーマちゃん、風邪かいの?」
「いや〜、どうだろ?」
とある場所のとある屋敷の広間でソーマは、目の前にいる人物と話していた。連絡会の集合時間にはまだ早く、少々退屈していた頃に、比較的仲の良い十魔人のカルバ・ヤナイが到着し、世間話をしていたのだ。サトリであるカルバは、ソーマよりも100歳以上年上だ。それ故、未だに「ちゃん」付けで呼ばれるのだが、ソーマは特に気にしてなかった。広間には既にソーマとカルバを入れて9人の十魔人が集まっていた。残るは一人なのだが・・・
「あの小童もなかなか来ぬじゃろうのぅ。」
「多分な、昔から変わんねーわ。」
「・・・何度も言うが、ソーマちゃんの教育が悪かったわけではないのじゃぞ?」
「フフッ、ありがとう。ヤナ爺。」
ヤナ爺こと、カルバは頷くと、懐中時計を取り出し、時間を確認して、ソーマに言った。
「間もなく時間じゃの。・・・また遅刻かの。」
「はぁーっ・・・」
ソーマが溜め息をついた瞬間、広間の扉が突然吹き飛び、何者かがソーマに向かって突進してきた。
「ソォ——マァッ!!ぶっ殺してやるァッ!!」
突進しながら、ソーマに向かって叫んだのは、頭に立派な角を生やした戦闘部族—シュラ族の男、そして、先程までソーマとカルバが噂していた人物だった。男は、手にしていた巨大な金棒を振り上げ、ソーマに渾身の力で振り下ろした!
—ガキィィン・・・
「相変わらずだな、少しは年相応に大人しくしたらどうだ。シュテン。」
「大人しく?それを言うなら、オメーもとっとと引退しな!くたばりぞこない!!」
振り下ろされた金棒を片手で受け止めたソーマに対し、男は悪態をつく。組み合う2人を見て、この場を仕切っている男が忠告した。
「シュテン殿、ソーマ殿、この場で争うのは避けていただきたい。ここは話し合いの場です。」
「だとよ、早く座れ、シュテン。」
「ケッ・・・」
男の言葉を聞き、ソーマとシュテンと呼ばれた男は、用意された席についた。それを確認すると、忠告した男は、話し始めた。
「一応、時間通りにお集まりいただき感謝する。今回の連絡会の議題ですが、当然破滅の運命についてです。まずは・・・」
「話し合いの場・・・ねぇ。脅し合いの場の間違いじゃない?」
「そいつぁ、いいな!その通りだろ?セグマさんよ。グハハ!」
話の途中で皮肉を言ったのは、セルキー族の女性と、大柄のサイボーグと思われる男だ。2人を見て、その場を取り仕切っていた男—セグマ・ルーザスは溜め息をつきながら言った。
「タルマ殿、ジオラール殿、そのような発言は慎んでいただきたい。」
セグマの言葉に、タルマと呼ばれたセルキー族の女は煙草をふかしながら、ジオラールと呼ばれた男は手元の機械をいじりながら答えた。
「へいへい。」
「分かってるよ〜っと。」
適当な返事に頭を抱えつつ、セグマは話を再開した。
「まずは、救世主候補12人が一応生きたまま、ユグ・ドラシルに到着しました。ソーマ殿には、ギルドをあげて彼らの指導に当たっていただきます。」
「やけに引っ掛かる言い方をするな。」
ソーマの言葉に、セグマはソーマを横目で睨みながら言った。
「12人全員とは言っても、うち2人はまともに使命をまっとうできるか分からない状態ではないですか。とても手放しでは喜べませんな。」
「さも、ソーマ殿にのみ非があるような言い方をされますな。」
セグマの言葉に反論する様な言葉を発したのは、タイタニアと思われる長身の男だった。セグマは、それに対し静かに反論した。
「クラド殿・・・、別にそういう意味で言った訳ではありません。ただ、もう少し慎重に動いて欲しいと申したのです。」
それに対し、更に反論しようとしたクラドをソーマが制した。
「クラド、もういいよ。ありがとう。これでは話が進まない。」
「・・・はい。」
ソーマの言葉に、クラドは従い、セグマは再び話を再開した。
「そして、破壊の巫女ですが、当組織で保護しています故、心配なさらず。」
その言葉に対し、少年の声が否定的な発言をした。
「心配ない?それはどうだろうね。逆にあなたの治安維持局が危ないのでは?最近の不祥事を見ると、そう思うのが普通じゃない?」
「イクリム殿・・・、断じてそのような事は御座いません。私の治安維持局は各地で治安維持のために粉骨砕身しております。」
セグマの言葉に、ややどうでもよさそうにイクリムと呼ばれた少年は返した。
「ふーん。下手に分散するよりも、一ヶ所に固めておいた方が能力の覚醒や効率的にいいと思うけどね。」
それに対し、セグマは渋面を作りながら、話を進めた。
「最後に、最近、各地で黒魔術師達の活動が活発化しております。『黒の魔女』との関係性は不明ですが、悪魔を召喚する恐れはありますのでご注意ください。」
「ていうかさ。イクリムの案を試したらどうよ?一ヶ所に敵が集中するなら、いざって時に守り易いしさ。ソーマのガードは簡単に突破できないし。なぁ、イシュタ?」
タルマがイクリムの意見に同調しつつ、隣にいたヴァルキュリエの女性に話しかけた。イシュタと呼ばれたヴァルキュリエの女性は軽く頷きながら言った。
「ええ、その方が私共としても、支援がしやすいですわ。」
「確かに、それは言えてるな。ユグ・ドラシルの方が人種に関わらず柔軟に動けるしな。」
イシュタの言葉にジオラールも頷く。更にカルバも納得した様子で頷く。そんな中、シュテンが嫌味交じりにその場にいたスーツ姿の男に対して言葉を発した。
「しっかし、これだけ俺達が世界の行く末について直接議論してるってのに。あの引きこもりヤローは顔を出しやがらねぇな。」
その言葉を言われたスーツ姿の男は、不満げに反論した。
「私は正式に雇われた代行です。つまりこの場で議論し、依頼主に報告する義務がある。そういう点では、彼も参加していると言えますが?」
それを聞いて、つまらなさそうにシュテンがセグマに言った。
「なぁ、おい。もういいだろ?破壊の巫女も救世主候補もソーマのヤローの所で。とっとと終わらせよーぜ。」
「シュテン殿・・・」
呆れるセグマを余所に他のメンバーは全員賛成とばかりに手をあげている。少し悩んだ挙句、セグマは決断を下した。
「・・・分かりました。近い内にソーマ殿の元に使者を送りましょう。詳しくはその時に。今日の所はこれにて終了です。お疲れ様でした。」
セグマが話し終わる前にシュテンは席を立ち、さっさと出ていった。続いてイクリムが移動用のマシンに乗って、電話をかけながら出ていった。ソーマも席を立ったところに、クラドとカルバが話しかけてきた。
「ソーマちゃん。色々あると思うが、無茶はしてはいかんぞ。力のある者が集まりすぎると、いさかいを起こすからの。」
「そうですよ。少なくとも、それに乗じてくる奴はいますよ。」
それを聞いて、ソーマは笑いながら感謝の言葉を口にした。
「心配してくれてありがとうな。でもよ、大丈夫だ。なにせ、俺は一人であって二人でもある十魔人だからな。」
そう言うと、ソーマは二人に別れを告げ、屋敷を後にした。
—続く—
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第24話「犬猿の仲」
「ただいま〜!」
「おっ!お帰り。で、依頼はどうなった?」
収穫祭から5日後、ギル、クリフ、リリの3人は、依頼先からユグ・ドラシルに帰還してきた。
3日ほど前から、修業しつつも自分たちでこなせる依頼を受注するようにグレアにアドバイスを受けたのだ。ちょうど資金も欲しかったところだったので、ギル達はアドバイスに従うことにしたのだ。
いつものようにカウンターにいたソーマに、持ち帰ってきた籠を見せて、依頼の達成を知らせた。
「ほら、きっちり捕獲してきたぜ。田んぼ用のウォーターリーパー。」
籠の中には、蛙と魚が混じり合ったような生き物が数匹入れられており、キーキーと金切り声をあげている。ソーマは籠を受け取り、中を確認すると頷いて、労いの言葉をかけながら報酬金が入った袋を出してくれた。
「・・・確かに。立派なウォーターリーパーだな。こいつらの食欲で雑草も害虫もきれいさっぱりだ。糞は上質な肥料になるしな。鼓膜が裂けそうになっただろう?お疲れさん、ゆっくり休んどいてくれ。」
報酬金を受け取ったギル達は、簡単な食事をとって休憩してから、ユグ・ドラシルの修練場に向かった。
そこには、ギル達の師匠—グレアが、ギルドの自主トレーニング用マネキンと戦っていた。剣を振りかざし、魔術を唱えて攻撃しようとするマネキン達をグレアは次々となぎ倒していく。またたく間にマネキン達は全て動かなくなった。既にギル達に気づいていた様子のグレアは、にっこりと笑いながら話しかけてきた。ギルとしては戦っている時と普段のギャップに未だ馴染めてないのだが。
ともあれ、ギルには剣術と魔術、クリフには体術、リリには召喚術を教えるほどの腕の持ち主であり、自慢の師匠だ。
最近は、ギルに関しては『ヨルムンガントとのコンビネーションの向上』、クリフには『体格に惑わされない戦い方の会得』、リリには『精霊や式神の知識を習得すること』を課題として課し、時折組み手や成果の報告などをしている。自分たちではあまり変化を感じていないのだが、グレアは『順調』と言っているのだ。
−しかし、今日はいつもとは一つだけ違った。嫌な奴、ハイマスが相棒のドラゴンと共に、グレアのトレーニングを見ていたのだ。こちらが嫌そうな顔をしていると、ハイマスもあからさまに不愉快そうな顔をした。
(やっぱ、気にくわねぇ!)
ギルは心の中で叫んだ。初対面の時も思ったが、明らかにこちらのことを見下しているのだ。面白いはずがないだろう。互いに睨み合っていると、グレアが何かの書類のような物を取り出し、ギル達に見せた。
「これは・・・依頼書?」
「そう、さっき父さんに君達に見せるように言われててね。クエスト名は『霧に隠れし珍獣』だよ。依頼主の所有地にある湖に、正体不明の生物がいるらしくてね。その詳細が分かるような写真が欲しいと、依頼への参加を募ることになったんだ。ちなみに、いつもの3人組に、ハイマス君を入れて受注して欲しいってさ。」
グレアの伝言に、彼を除く全員は一斉に言った。
「「「「・・・はぁっ!?」」」」
その様子にグレアは吹き出しながら、フォローしようとする。
「大丈夫、大丈夫。もしもの時のためについて行くからさ。」
正直、そこに反応した訳ではないのだが、これ以上反論しても得する事がないと割り切り、ギル達とハイマスは依頼を受けることにした。
数日後、依頼を受注したギル達とハイマスは、ソーマの馴染みだという漁師の家の近くの湖に到着した。距離的には半日で着く場所なのだが、霧が深いために延期となったのだ。
「よく来たな、チビ共!でも、まぁ歓迎するよ。俺は、スエルギってんだ。ようこそ、スターチ湖へ。」
いかにも漁師といったいでたちの大柄な男が、豪快に握手で迎えてくれた。さっそく仕事の話に移りたかったが、その前にスエルギが特に関係ないような話をし始め、大幅に時間を取られてしまった。
「・・・って事で、この湖で捕れた魚は新鮮なうちにユグ・ドラシルに運ばれるんだ。お前らも食ったはずだぜ?」
ようやく話が終わったが、既に日は傾き、本格的な調査は危険と判断し、翌日に回すことをクリフが提案したが、ハイマスが反論した。
「明日にする?何を言っているんだい、無駄な時間を取るだけだ。遊ぶ時間が欲しいなら、もっと上手い言い訳を考えてくれ。」
「何だと!!?」
ただ、安全のことを考えて提案しただけなのに、心ない事を言われ、クリフの声にも怒りが混じる。しかし、スエルギが助け船を出してくれた。
「いや、この兄ちゃんの言うとおりだ。この湖は意外と流れが複雑で、夜には霧も多い。命が惜しけりゃやめとくべきだ。」
「・・・分かりました。ただし、無駄な時間は極力省いていきますよ。」
さすがのハイマスも、地元に住む者の意見には反論できない様子だ。
「さて、色々あったが、今日のところは俺の家で休んでくれ。何もねぇが、飯と布団ぐらいは出せるからよ。」
「ふーっ、旨かった!」
「当たり前だろ?この湖で捕れた魚だぜ!」
夕食を終え、感想を言うギルにスエルギが胸を張って言った。そして、シャワーを借り、布団を用意してもらったギル達だったが、ハイマスの姿がどこにも見えない。
「あいつ、どこに行ったんだよ?ったく・・・」
「ギル、お前見てこいよ。」
「ええ?なんで!」
クリフの言葉に驚いた様子でギルは文句を言うが、クリフは布団にもぐり込みながら言った。
「だって、同じ救世主候補同士だろ?じゃ、よろしく。」
「ううーっ・・・」
ギルは不満げにクリフを探すことにした。
—続く—
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第25話「珍獣モケレンベ」
クリフに言われ、ギルは嫌々ハイマスを探しに出た。しかし、実際は探すまでもなかった。ハイマスは、相棒のドラゴンと共に湖の畔にいたのだ。
「・・・君か、何の用だい?」
「うっせーな。お前が勝手にいなくなるからだろが。」
ギルの言葉にハイマスは少し驚いた様子で返した。
「君如きに心配されるとは思わなかったよ。」
「心配なんてするか。ただ、お前がいないと、お前の分まで働かされるからな。それが嫌なだけだ。」
「・・・そうかい。ご心配なく、バイエンの身体を拭いてやってるだけさ。」
ギルの言葉にハイマスは返しながら、相棒のドラゴンの身体をタオルで拭いてやっていた。バイエンと呼ばれたドラゴンは、気持ちが良いのか、満足げに喉を鳴らしている。
「バイエン・・・?お前のドラゴンか。」
「そうさ、僕の唯一の相棒で、仲間さ。」
「何言ってんだよ、俺達も仲間だろ?」
「冗談はよしてくれ、君達と馴れ合う気はないよ。」
「別に俺だって馴れ合いたい訳じゃねぇよ。必要だと思うから、仲間だと思うだけさ。」
「?」
ハイマスはギルの言葉を聞いて、またしても驚いた顔をした。意味が分からないと、顔に出ている。
「友達になるつもりもねぇが、いざって時はお前と戦わないといけないだろうし、その時に役立たずでいたくねぇだけだ。」
「ふ、君も考えるんだね。」
「何だと?」
ハイマスの言葉にイラついたギルだったが、不思議とハイマスの言葉から嫌味は無くなっていた。
翌朝、ギル達は予定通り、湖の調査を開始する・・・はずだったのだが、湖は昨日よりも濃い霧が発生しており、まともに視界が利かない状態になっていた。
「これじゃ、調査っつってもな・・・。」
「しかし、こんな霧生まれて初めてだぜ。」
「え?」
スエルギの言葉にギルは聞き返した。よくは覚えていないが、スエルギは幼い頃から湖の周辺に住んでいて、湖には詳しいと言っていた。そんな彼が見た事もない状態になるというのは、ただ事ではない。その時、何かを考えていた様子のハイマスが、突然、バイエンに乗ると、武器にしているランスを構えた。
「お、おい、何する気だ?」
スエルギの言葉に、ハイマスは自信満々に言い放った。
「今からお見せしますよ、この霧を発生させ、謎の怪物の幻を生みだしている犯人をね!」
「幻だと?」
スエルギが言葉を発した瞬間、ハイマスはランスに内蔵されていたマイクロミサイルで湖面を撃った。数発のミサイルが次々と水面に着弾し、炸裂して水飛沫をあげる。
「何やってんだよ!?」
突然攻撃をおこなったハイマスにギルは尋ねるが、ハイマスは慌てた様子もなく返した。
「相手をおびき寄せるためさ。ほら・・・、来た!」
「「「「!!」」」」
すると、湖面が泡立ち、水飛沫と共に巨大な影が現れた。
「ギャオオオオオッ!」
「こいつは・・・蜃!?」
「蜃?」
現れたのは、鱗に覆われた巨体を持つ竜の様な生物だった。それを確認したハイマスは頷くと、説明し始めた。
「蜃というモンスターは、口から霧を吹き出し、幻を見せる事が出来るのさ。謎の怪物と言うのも、蜃自身か、幻だろう。」
「でも、この湖には蜃なんて生息してないぞ?」
ハイマスの言葉にスエルギが反論するが、ハイマスは自信満々に言った。
「恐らくは、どこかの物好きが飼っていたんでしょう。蜃は急激に成長しますから、手に負えなくなって逃がしたってところでしょう。珍しい話ではありませんよ。」
ハイマスが言い終わった直後、蜃は牙を剥いて空中にいるハイマスとバイエンに襲いかかった。それを易々とかわして、ハイマスがランスを構えた。
「こうなってしまっては、人を襲う癖がついてしまっています。倒すしかありません。いくぞ、バイエン!」
「ちょっと待てよ!いきなりか!?俺達も・・・」
ギル達も共闘しようと持ちかけるが、ハイマスは首を振って拒否し、1人で向かって行った。
最初は霧の中での戦いに苦戦していたハイマスだったが、やがて押し始め、ついに1人で蜃を倒してしまった。倒した蜃の死体の処理をユグ・ドラシルに依頼し、ハイマスはギル達に言った。
「これで問題は解決です。謎の怪物の正体—蜃はこの通り、倒しましたから。」
「あー・・・、うん、本当か?」
「ええ、勿論。」
ハイマスがそう言った瞬間—
—オオオオン・・・
「「「「!!」」」」
霧の向こうから、蜃の鳴き声とは違う声が聞こえてきたのだ。そして、霧の中に不思議な影が現れた。長い首の上にある頭にはいくつもの突起が生え、長い鼻まであるように見える。
「「「「謎の怪物!?」」」」
ギル達は同時に叫んだ。あの影が見えるという事は、蜃が正体ではなかったという事だ。そして、影は水音を立てながら徐々に近づいてくる。
「来るぞ!!」
ハイマスの声で、ギル達も構える。ところが、次の瞬間—
「あれ?何やってんの?」
聞き慣れた声—グレアの声が聞こえた。ふと見ると、霧が薄くなり、怪物の姿と、怪物の背に乗ったグレアが見えてきた。
「なんだ、ありゃ?」
怪物の姿を見て、クリフは思わず口に出した。その意見にギルも賛成である、何故なら・・・怪物の姿はあまりにも珍妙だったからだ。
まずはその巨体だ。四本の脚で支える全身は、茶色みがかった緑色の毛皮に覆われており、さながら苔の生えた小山だ。そして、毛の生えていない尾には、まるで蛇の様な模様がある。しかし、何よりも特徴的なのは、長い首についた頭部だ。頭頂部にはサイと水牛の様な角が生え、ゾウの様な牙と長い鼻を生やしている。目は意外に小さく、ビー玉のようだ。竜とも獣ともつかない姿は、神が戯れに創ったものとすら思ってしまうほどだ。怪物の背のグレアは、怪物の首を撫でてやりながら説明してくれた。
「このモンスターは、モケレンベ。ここよりも上流の密林地帯に生息しているんだけど、先月の大雨で流されて来たんだろうね。安心してよ、草食だし、割と大人しいんだ。」
そう言うと、グレアは手にしていた水草をモケレンベに与えた。モケレンベは、鼻で水草を受け取ると、嬉しそうにムシャムシャと食べている。どうやら、本当に害は無さそうだ。
結局、その後、モケレンベはスエルギが世話をしてやる事になり、結果はどうあれ、一応依頼は達成となった。
「なぁ、どうしてモケレンベと一緒にいたんだ?」
帰り道でギルはグレアに尋ねた。するとグレアは、苦笑しながら、
「いやぁ、実は先に出て調査してたんだけど、途中で珍しいキノコがあって、集めてる内に出くわしたんだ。」
「・・・ああ、そう。」
いささか脱力しつつ、ギル達は帰路を進んだ。
—続く—
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第26話「破壊の夢」
「いきなり呼び寄せて、何の用じゃ?」
中央酒場のソーマの部屋に入るなり、サーフェンは尋ねた。書類に目も通さず、ひどく深刻そうな顔をしたソーマが要件を話し始めた。
「実はな、先日の連絡会で、治安維持局で保護している破壊の巫女をこちらで受け入れる算段がようやく整ったのだ。ギル達やグレアに行かせるつもりではあるが、お前にも同行してもらいたい。」
「同行するのは構わん。しかし、連絡会が最後にあったのは2週間も前の事じゃろうが、そんなに時間をかけた連中の事を信用できるのか?」
「お前の言いたい事も分かるさ。連中が破壊の巫女を渡したがっていないのは百も承知だ。だが、このところの連中の動きは、あの時を思い出させてな。不安でしょうがねぇんだ。」
ソーマの言葉を聞き、サーフェンは静かに頷いて言った。
「うむ、確かに。証拠はないが、あの時感じた感覚に近い物をわしも感じておる。そして、危惧しておるのは、50年前の惨劇の再来じゃ。」
「例え、何があろうとも、それだけは絶対避けねばならない。あんな思いはもうごめんだ!」
「うむ。いつ頃になるのじゃ?」
「一応は明後日にここを出発する様になるな。だが、気をつけろよ。連中がどんな嫌がらせをしてくるか、見当がつかん。」
「フッ、心配は無用じゃ。わしは仮にも世界最高ランクの賢者じゃ。」
ソーマの言葉に対し、サーフェンは不敵に応じた。
一方のギル達は、比較的危険性の低いモンスターの討伐に赴いていた。討伐対象は、ホイールイグアナだ。背中から尾にかけて丈夫な角板に覆われており、丸まる事でタイヤの様に転がる事が出来る低ランクモンスターだ。特に危険なモンスターではないが、増えすぎて生態系を狂わせる恐れがあると判断された為に間引きという形で討伐依頼が来たのだ。
「いくぜ、ヨルムンガント!」
『おっしゃ!』
「『必殺!唖殴大衝(あおだいしょう)!!』」
「グエッ!」
ギルはヨルムンガントを棒状に形状変化させ、転がりながら飛びかかってきたホイールイグアナを殴りつけた。その瞬間、棒は勢い良く伸び、強烈な一撃となってホイールイグアナを吹き飛ばした。吹き飛ばされたホイールイグアナは、地面に叩きつけられ動かなくなった。
「ふぅ・・・」
一息つきながら周囲を見ると、クリフもグレア仕込みの体術と短槍でホイールイグアナを倒した所だ。リリもまだ強い精霊を持っていないものも、サンダーバードで何匹か倒している。その後も特に何事もなく、決められた数のホイールイグアナを討伐し、ギル達はユグ・ドラシルに帰還した。
—ギルは歩いていた。今何処にいるか、何のために歩いているのかは全く分からない。だが、自然と引き寄せられるように前へ進む。周囲は生き物の気配一つなく、静寂に包まれている。そして、辺りは一面焼け野原で、瓦礫や破壊されかけの建物が見える。しばらく歩いていくと、辺りは瓦礫の山であるのに、不思議と無傷の神殿らしき建造物が見えてきた。
中に入ると、祭壇の様な物があり、その上に何かしらの模様を書かれた少女が寝かされている。祭壇の周りには所々錆ついてよく見えないが、ドラゴンをかたどった銅像が置かれている。少し辺りを見渡して、特に変わった物もないので、少女に視線を移すと、突然少女は目を開き、次の瞬間—景色は一変した。
先程まで確かに無傷で残っていたはずの神殿は完全に破壊され、辛うじて祭壇のみが残っている。ギルはその祭壇の前にいた。自体が呑み込めず、戸惑うギルの背中に何者かの視線が突き刺さった。強烈な殺気に戦慄しながら振りかえるとそこには—
「グォアアアアアアアッ!!!!」
獣とも竜ともつかない不気味な影の様な怪物が頭上からギルの事を見ていた。慌ててヨルムンガントを抜こうとするが、ヨルムンガントがない。完全に抵抗の手段を失ったギル目掛けて怪物が熱線を放つ。高温のエネルギーの塊がギルの身体を焼き尽していく。
「・・・ハッ!?」
そこでギルは夢から覚めた。夢を見る事はあるが、こんな夢は初めてだ。嫌な汗をかいた身体をタオルで拭いていると、クリフやリリの寝息が聞こえた。まだ、夜は長そうだ。寝直そうと思ったが、ギルは夢の事が気になって寝付けなかった。
「どうしたのよ、眠そうじゃない。」
「おめーも眠そうじゃん。」
翌朝、中央酒場で眠い目を擦りながら朝食をとっていると、ザルパとイヅチがあくびしながら話しかけてきた。ギルの言葉に対し、ザルパは頷きながら返した。
「そうなのよ。変な夢見ちゃって眠れなくなったのよ!」
「そうッす・・・。」
それを聞いて、ギルはまさかと思いつつ聞いた。
「その夢って、神殿と女の子が出て、黒い怪物も出なかったか?」
「そうよ!何で知ってるの?もしかして・・・」
驚いた様子のザルパとイヅチに対し、ギルは頷いた。
「多分同じ夢を見たんだと思うぜ。」
すると、疲れた様子の声が聞こえてきた。
「・・・だったら、僕達も同じ夢を見ているよ。」
「ふぁ〜・・・、眠たいよぅ。」
ハイマスとユぺルだ。彼らの様子からして、彼らも同じ夢を見たのだろう。
「俺達の共通点って言えば、一つしかないよなぁ・・・。」
ギルがそう言ったのとほぼ同時に、マンジがギル達の元にやってきた。
「盛り上がっている所悪いが、親父さんが呼んでいる。行ってくれ。」
「俺達を?」
どうやら、ギル、クリフ、リリが呼ばれているらしい。理由は分からないが、とりあえずギル達はソーマの部屋に向かう事にした。
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第27話「治安維持局東方第23支部」
「ソーマさん、来たぞ。」
「おぅ、入ってくれ。」
マンジに言われ、ソーマの部屋にやってきたギル達は、ソーマの返事を聞いて中に入った。
「あれ?サーフェンさん?」
「うむ、久しいな。しばらく見ぬうちに少しはマシな顔になったではないか。」
部屋には既に、ギル達をユグ・ドラシルに導いた賢者—アドリア・サーフェンと、グレア、ヴェノン、アルバートの3人の八剣聖がいた。
「一体何の用なんだ?これだけの人が揃ってるのに。」
「まぁ、いいから座りな。」
クリフの問いかけに対し、ソーマは空いている椅子に座るように促した。ギル達が座るのを待ってからソーマは用件を話し始めた。
「突然だが、治安維持局東方第23支部ってとこに皆で行ってもらいたい。」
本当に突然に聞いた事の無いような場所を出され、混乱するギル達にソーマは詳しく教えてくれた。
「そこから女の子を一人引き取る事になってな。本当は3人だけに頼みたかったが、何が起こるか分からんからこのメンバーで行って欲しいと思ったんだ。」
「何が起こるか分からないなら、俺達は足手まといになるんじゃないか?」
「いや、それでも救世主候補のうちの誰かに行ってもらいたいと思ってるんだ。そんでもって、サーフェンとも面識のあるお前らに決めたって訳だ。」
「そう言うこった、よろしくな!」
ソーマの話が終わると同時にヴェノンがにこやかに言った。
「目的地までは少々遠いから、一応荷造りはしっかししといてくれ。出発は明日だ。一応、依頼として扱うから、報酬も出すぞ。」
「本当か!?」
色々と分からない事はあるが、報酬が出ると聞いただけで、ギル達はこの話を受ける気になっていた。
一方、治安維持局東方第23支部—
—ガシャアアン・・・
ここは、支部内の地下牢、治安維持局の職員と思われる男が、牢の鍵を開けて中に入った。そこには、怯えた顔の少女が座りこんでいる。
「・・・お前が悪いんだ、お前を何とかしないと、俺達があぶねぇ・・・」
そう言いながら、男は腰から警棒を抜いて少女に詰め寄った。
「やっと着いたな。」
「途中で大雨にあって、足止めを喰らったからな〜。」
「しかし・・・、何やら様子がおかしいぞ。」
ようやく治安維持局東方第23支部に到着したギル達だったが、支部の建物からは人の気配が感じられない。
「ちゃんとアポは取っているはずだけどね。」
「こうしていてもしょうがない。中に入ろうぜ。」
そう言うと、ヴェノンは勝手にずかずかと建物の中に入っていってしまった。グレア達も苦笑しながら続いたので、ギル達も中に入る事にした。
「しっかし、どうなってんだ?人っ子一人いねぇぞ。」
「・・・とはいっても」
しばらく進んでからヴェノンとアルバートは目配せをして、何もない所を攻撃した。
「「グッ!?」」
「「「!」」」
すると、何かを殴ったような音と共に、戦闘服らしき物を着た二人の男が現れた。ヴェノンとアルバートの攻撃をもろに受けたらしく、立つ事が出来ず、うずくまっている。
「光学迷彩か、随分とちんけな方法じゃな。」
「おい、てめえら、何のつもりだ!?」
ヴェノンが二人の男の胸倉を掴んで、軽々と持ち上げて問うと、息苦しそうにしながらも、2人の男は吐き捨てるように言った。
「貴様らが如き蛮族に教える義理はない!」
「殺すなら殺せ!」
その様子を見てサーフェンは溜め息をつきながらヴェノンに言った。
「もう良い。こ奴らに聴いても答えは来ぬ。追ってこれぬように気絶させておけ。」
「あいよ。」
ヴェノンは頷くと、2人の男の頭と頭をぶつけて気絶させた。男達を縄で縛って床に転がすと、サーフェンが険しい顔をして言った。
「やはりおかしい。ここからは用心して先へ進むぞ。」
サーフェンの言葉に全員が頷き、先へ進むと、大広間らしき場所に出た。しかし、明りは付いてなく部屋は薄暗い。すると—
「止まれ!!」
男の声と共に部屋の明かりがついた。そこには武装し、こちらに銃を向ける治安維持局の職員達がいた。戸惑うギル達だが、アルバートは落ち着いた様子で言った。
「そちらこそ、銃をおろしてはいただけませんか。こちらも勝手に入った否がありますが、そちらもアポを取って来た相手に対し、失礼ではありませんか。」
しかし、男は鼻息も荒く言い放った。
「貴様らのアポなど知らん!帰れ!帰らねば・・・排除する!」
言い終わるが否や、男は職員達に指示を出し、銃撃を開始した。思わず身をすくめるギル達だったが、なにやら赤色の光の板の様な物に守られて無事だ。
「話し合いにすらならんようじゃの。わしは小僧共を守らねばならん。奴らの相手は頼むぞ。」
「はい、ギル達を頼みます!」
「おう、やってやんぜ!」
「やれやれ。」
サーフェンの声を聞き、グレア、ヴェノン、アルバートはそれぞれの武器を抜いて職員達に向かって行った。
「まぁ、こんなところじゃろう。」
数分後、サーフェンはギル達を守っていた結界を解除して呟いた。既に数10人はいた職員達は、3人の八剣聖に完膚なきまでに叩きのめされていた。
「さぁ、何で攻撃してきたのか、吐いてもらおうか!?」
ヴェノンが僅かに意識のある職員の胸倉を掴んで揺さぶると、職員はせせら笑いながら言った。
「き、貴様らの思い通りには・・・させん!」
職員が言い終わると、振動と共に何かが歩いてくるような音が聞こえ始めた。
—ガション、ガション・・・
「おいおい、マジかよ?」
ヴェノンは音の方を見て、呆れた様子で言った。グレアも嫌気がさした様子で呟いた。
「トリ・バテリー・・・」
—続く—
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第28話「牢の中の少女」
「トリ・バテリー・・・」
建物の奥から歩いて来たのは、長大な3本の脚を持ったマシンだった。そのほとんどが脚と言え、胴体は脚をまとめるくらいにしか機能していないのではないかと感じる。
マシンはギル達を庇うように戦闘に立つグレア含む八剣聖の3人の前で立ち止まると、無機質な機械音で言った。
「標的確認、コレヨリ排除スル。」
「「「!!」」」
直後、胴体部分の砲門から、強烈なビームが発射された。狙いは—ギル達だ。しかし、ビームがギル達を守るためにサーフェンが張った結界に当たる前に、グレアが剣でビームを拡散させ、ギル達やサーフェンを守った。
「サーフェンさん、ギル達を連れて先へ向かってください。ここは僕達が引き受けます!」
「ぶちかましてやるぜ!」
「私は、しがない学者だよ?」
グレアの言葉に、やる気満々のヴェノンとどこか乗り気でないアルバートが応じる。
「すまんな。」
「大丈夫ですよ。」
サーフェンの言葉にグレアが応じた直後、3人はトリ・バテリーに向かって一斉に走り出す。3人の動きに対し、トリ・バテリーは脚に内蔵しているミサイルを撃ち出すが、3人はことごとくかわし、撃ち落としていく。
「いくぜ、リス助!!」
ヴェノンが疾走しながら呟く。すると、彼の懐から黒い毛皮のリスの様な生き物が顔を出した。ヴェノンは勢い良く飛びあがると、腕を振りかぶり、トリ・バテリーの脚に拳を叩きつけた。
「行っくぜぇ!重力拳!!」
拳を叩きつけられた部位は大きく軋み、亀裂が入り陥没する。強烈な打撃に巨大なトリ・バテリーがよろめく。
「すげぇ・・・!」
思わず声をあげるギルに対し、サーフェンが忠告を促す。
「いいから、先を急ぐぞ。」
「あ、ああ!」
我に返り急いでサーフェン達に追いつこうとするギルの耳には、自分達に攻撃が及ばぬように戦うグレア達の戦いの音が聞こえた。
「到底、世界の行く末を左右する人物がいる場所とは思えんな。無論、仮にも友好関係を結んでいる相手に託す者を置いていく場所とは言い難いな。」
サーフェンがそう言うのも当然だ。そこは、地下牢だった。暗くじめじめしており、お世辞にも清潔とは言い難い。そして、かすかに漂うのは、鉄錆の匂い・・・
「これは・・・血の匂い?」
「・・・まだ、真新しい物じゃな。」
ほとんどの地下牢がからであったが、一つ一つ確認していくと、一番奥の牢屋の隅に彼女はいた。
「・・・うっ」
彼女を見た瞬間、ギルは軽く吐き気を催した。少女は全身打撲の跡だらけで、ボロボロの服で倒れていたのだ。生きているが、息も絶え絶えだ。
「・・・貴様らァ・・・、何をしに来たァ?この悪魔をどうするつもりだァァ?」
その声に反応し、声のした方を見ると、治安維持局の職員と思われる男が立っていた。だが、様子がおかしい。視線が定まらず、目は血走り、息が荒い。そして、男の手には血のついた警棒が握られていた。
「どうやら、こやつがやったようじゃな。」
「・・・こいつ!」
ギルは、目の前の男を睨みつけた。何も少女に同情しただけではない、自分達を認めず暴力をふるってきた大人達の姿と重なったからだ。
「出ていけぇぇ!!」
完全に気の触れた様子の男が警棒を振りかぶり襲いかかってきた。それに対し、ギルは感情のまま走りつつヨルムンガントを抜いて、脳裏に浮かんだ技名を口に出していた。
「『締変鞭(シマヘビ)!!』」
ヨルムンガントは鞭となり、蛇行し伸びながら男を拘束していく。
「うぐぐっ!」
必死に振りほどこうとする男だが、全く効果がない。そして、ギルはそのまま男を床に叩きつけた。衝撃で男は動かなくなったが、うわ言のように呟いていた。
「あいつは・・・悪魔だ・・・。解き放っては・・・、やらなければ・・・俺達が・・・」
そんな男に対し、サーフェンは冷たい視線を送り、溜め息をついてギル達に言った。
「おそらく、この娘が引き取る予定の少女じゃ。応急処置をするから、慎重に運べ。」
その後、応急処置を施した少女を慎重に連れて入口へと向かうと、既にグレア達の戦いは決していた。
「お?どうだったよ?」
「全く、人に対して配備する機体じゃないだろう。」
話しかけてくるヴェノンとアルバートに少女を見せると、2人とも表情を微かに曇らせた。
「どうやら、こ奴らはこの少女をいたぶっていたようじゃ。とりあえず、縛って治安維持局の本部に連絡しておけ。」
「・・・ええ、分かりました。」
グレアは怒りを抑えつつ、サーフェンの言葉に対して頷いた。
(・・・何か、コイツ・・・変な感じがする。初めて会ったんじゃないっていうか・・・。)
グレア達が先程まで暴れていた治安維持局の職員を縛る間、ギルは不思議な感覚に戸惑っていた。
—続く—
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第29話「黒の魔女」
「では、彼らを治安維持局本部の拘置所へ連行します。」
「うむ。」
襲いかかってきた職員達を倒した後、どこで知ったのか、治安維持局本部から輸送車と部隊が到着し、職員達を乗せて連れて行こうとしていた。
「あからさまな証拠隠滅だな。」
「言い方は悪いけどね。」
その様子を見てヴェノンとアルバートが小声で言った。
「何やってんだ、ギル。」
「あ、いや、なんでもない。」
輸送車が走り去った後、連れてきた少女の顔を見ていたギルは反射的に答えた。別に彼女に気がある訳ではない、だが、彼女とは初めて会った気がしないのに思い出せずに考え込んでいただけだ。
「てか、この子って誰なの?」
「悪魔とか言われたよな?」
「まぁ、そのうちに分かる。・・・帰るぞ。」
クリフとリリの問いにサーフェンが短く答えた直後—
「悪魔って言うなら、あの虫けら共の方じゃないの?」
女の楽しげな声がした瞬間、走り出した輸送車が大爆発した。離れたギル達にまで衝撃が伝わるほどの爆発だった。
「その声は・・・、黒の魔女・・・!」
「大正解♪」
グレアが見た方向を見ると、黒い鎧を纏った大男と、彼が片手に持つ椅子に座った黒い服の女がいた。
「グレア坊や、アタシの愛しのソーマは元気かしら〜?」
「父さんは、あなたのものじゃない!」
「あらぁ?いかにも自分のものと言いたげね。」
「輸送車を爆破したのは、あなたでしょう?」
「ええ、生きててもしょうがないでしょ。あんな屑共。」
「なぁ、何なんだよ、黒の魔女って。」
「うむ、かつてはソーマと共に戦った戦友であり、現在はテロリストとなっているエルフじゃ。」
サーフェンがギルの問いに答えている最中も、グレアと黒の魔女は会話を続けている。
「・・・それにしても、さすがはソーマね。破壊の巫女を迎えに行く役に、救世主候補をチョイスするなんて。さすがだわァ♪ところで、今いる救世主候補の坊やと、破壊の巫女を見せてくれないかしら?」
「お断りします!」
黒の魔女の言葉に対し、珍しく感情的になっているグレアが答えると、先程まで薄ら笑いすら浮かべていた黒の魔女の表情が冷たくなった。
「あっそ、ならいいわ。ブラックキッド、カノープス、八剣聖の坊や達と適当に遊んで差し上げなさい♪」
黒の魔女が言い終わった途端、ヴェノンが派手に吹っ飛んだ。
「んがっ!?」
「ヴェン!」
素早く反応し、武器を抜こうとしたアルバートの耳に不気味な音が聞こえた。
「カタカタカタ・・・」
「ハッ!」
音に反応し、アルバートはその場から横っ跳びで離れる。すると、先程までアルバートが立っていた場所にビームが着弾した。
「あててて・・・」
「大丈夫かい、ヴェン。」
「問題ねーよ。だが・・・」
「うん、少々負が悪いかもね。」
起き上がったヴェノンにアルバートが駆け寄り、2人が背中合わせに立ち、構える。
ヴェノンの前には一時的に姿を見せた忍者服の少年が、アルバートの前にはスーツ姿の人形らしき物が立っていた。
「マンマルとNSのハーフ—消失の黒豹ブラックキッドと、ヒットマンのサイボーグ—カノープスか・・・。」
それを見て、グレアは素早くギル達に結界を張った。
「・・・これでいい。ギル達はこの結界から出ないでね!待ってろ、2人とも。今行く!」
2人に加勢しようとしたグレアに黒の魔女が言った。
「あの子達を守ろうとしているのは感心だわ。でも、あなたの相手はこの子よ。黒竜騎士!(ブラック・ドラグーン)」
「・・・御意。」
「!」
黒の魔女の指示に反応した黒甲冑の大男は、一瞬でグレアの前に移動し斬り付けた。
「クッ!」
たちまち激しい切り合いとなるが、双方一歩も引けを取らない。グレアは分かるが、黒甲冑の大男の動きやパワーは尋常ではない。事実、純粋な力押しではグレアが僅かに押されている。
「グレアが押されてる?」
「ウソだろ?」
ギルとクリフの言葉に、サーフェンが応じた。
「押されてもおかしくはない。あやつは、黒の魔女が使役している世界最強クラスの式神—黒竜騎士じゃ。その戦闘能力は、八剣聖と変わらんほどじゃ!」
突如として始まった戦いであったが、完全にペースは黒の魔女側が握っていた。圧倒的なパワーを持つヴェノンも、姿を消せるNSの血を引くブラックキッドには、思うように攻撃が当てらない。アルバートも懐にしのばせていた銃剣で応戦するが、カノープスに内蔵されている対竜用平気の数々に苦戦を強いられていた。そして、グレアは・・・
「ハァァッ!!」
「・・・!」
黒竜騎士との激しい戦いで消耗しつつあった。追い打ちをかけるように黒竜騎士が口から熱線を放つが、グレアは剣を使って拡散させて辛うじてしのいでいる。
「このっ!・・・うべっ!」
渾身のパンチがまたも空振りしたヴェノンの顔にブラックキッドの蹴りがきれいに入った。
「カタカタ・・・」
「おっとぉ!危ない危ない。内蔵兵器の性能が尋常じゃないね。」
アルバートもカノープスの攻撃に、受けの一手になっている。
そして、グレアは黒竜騎士と激しい戦いを繰り広げていた。
「爆龍閃!!」
「・・・!」
爆発を起こす魔力を帯びた斬撃を黒竜騎士は容易く受け止め、反撃の熱線を放つ。何とか熱線をしのいだグレアだが、状況からしては、圧倒的に有利なのは、黒の魔女側だ。しかし—
「あーあ、飽きてきちゃったなぁ。帰ろーっと。行くわよ〜♪」
黒の魔女の意外な発言に、黒竜騎士、ブラックキッド、カノープスは、あっさりと頷いた。
「・・・御意。」
「ラジャ。」
「カタタ・・・」
退こうとする黒の魔女達にヴェノンは、声をあげた。
「逃げるのか!」
「分かってないわねぇ。アタシはあんた達を殺さない。ソーマに嫌われちゃうから♪今日の所は大人の対応で帰ってあげるわ。せいぜいその子を守ってあげる事ね。」
ヴェノンの言葉に答えてから、黒の魔女は両手から霧の様な物を出し始め、霧と共に姿を消した。
完全に黒の魔女が去ったのを確認してから、グレアは結界を解除し、その場に座り込んだ。ヴェノンやアルバートも息を切らせている。
「・・・まったく、揃いも揃ってだらしない。」
「・・・かもしれませんね。」
「無茶言うぜ!相手は黒の魔女だぜ?」
「といっても、手下にあしらわれた感じだけどね。」
サーフェンの言葉にグレア達は各々応じている。結局、少し休んだ後、ギル達はユグ・ドラシルへの帰路を急いだ。
—続く—
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第30話「新たな・・・仲間?」
「つーか、何でこうなってんだよ!」
ギルは中央酒場のテーブルの一つでわめいた。その様子を見て何人かのユグ・ドラシルの隊員達がこちらを見るが、すぐに自分の用事に戻っていく。
「しょうがないじゃないの。その子、怪我してるんでしょう?」
「うう〜っ」
ザルパのもっともな一言に、ギルは反論できず唸った。
事の発端は数分前にさかのぼる。無事にユグ・ドラシルに帰還したギル達だったが、少女は直ちに医務室へ運ばれ、様子を見たいと言っても許してもらえなかったのだ。
そして・・・、ふてくされて中央酒場に戻ったところ、ザルパ達に出くわし、今に至る。ギルは黒の魔女の言葉が気になっていた。それを何気なく呟いた。
「・・・そういや、黒の魔女って奴、あの子を破壊の巫女って呼んでたな。」
すると、途端にザルパ達は顔色を変えた。
「破壊の巫女?それって本当なの?」
「あ、ああ。そう言ってたぜ。でも、どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたもないわよ!破壊の巫女はあたし達—救世主候補とも深いつながりがあるのよ?」
血相を変えて言うザルパに、ギルは尋ねた。
「どういう風に?」
「あたし達の使命と大きく関わってるらしいの。」
「ふーん。」
ギルは相槌を打ちながら、夢で見た少女の事を思い出していた。
「身体はちゃんと治療はしたがな、心の傷は塞がってないぞ。相当怯えてるから気をつけろよ。」
「ああ、分かってるさ。」
ブランゴの注意に答えると、ソーマはある病室の扉を開けた。なかでは1人の少女がベッドに寝かされていた。体中の包帯が怪我の酷さを感じさせる。命にこそ別状はなかったが、手ひどい暴行を受けたのは明白だ。病室にソーマが入ると、起きていたのか、少女は飛び起き、怯えた目でこちらを見てくる。日常的に大人の男に暴行を受けていたのだ、恐怖心を持たない方がおかしい。それでも、ソーマは笑顔でゆっくりと近づいていく。少女はベッドから降り、少しずつ後ずさる。それでも、ソーマはゆっくりと近づいていく。
やがて壁に追い詰められた少女をソーマは優しく抱きよせた。しかし、少女は恐怖心からか喚きながら暴れ、ソーマの腕に反射的に噛みついた。
「・・・・・・。」
「・・・?」
それでもソーマは少女を抱きしめたままで止まっている。その様子に少女は不思議そうにソーマの声をうかがうと、ソーマが震える声で言った。
「すまねぇ・・・。俺がもっと早く来てやれば、こんな酷い思いはしなかったよな。お前が悪いんじゃないのにな・・・。許してくれなんて言えないし、言うつもりもねぇ。だが、お前の為に泣く奴がいる事も分かってくれ。世界の全てがお前を否定するなんて事はない事だけは分かってくれ・・・。」
「・・・・・・!!」
ソーマの言葉を聞き、少女はソーマの腕をかむのを止め、ソーマに抱きつきながら泣き始めた。ソーマは少女が泣き疲れて眠るまで、優しく抱きしめ続けていた。
翌日、救世主候補の面々は、ソーマの部屋に呼ばれた。
「一体、何の用なんだろうね。」
「さぁ。」
「あー、たりぃー。」
各々が自分の思いを言いながら、ソーマの部屋の前にやってきた。
ザルパが元気良くノックして、中にいるであろうソーマに話しかけた。
「ソーマさん、皆で来ましたよ。入っていいですか?」
「おぅ、来たか。入れ入れ!」
ソーマの返事を聞き、救世主候補達はソーマの部屋に入った。
「ちょっと狭いかも知れねぇが、勘弁な。ぼちぼち救世主候補同士の交流を深めたいと思ったのと、紹介したい奴がいるもんでな。」
用件を言うソーマの後ろには、彼に隠れるようにして、1人の少女がいる。その少女に見覚えがあったギルは声をかけた。
「あ、お前・・・!」
しかし、少女は驚いたのか、ソーマの後ろに隠れてしまった。
「ちょっと、何怖がらせてんのよ!!」
「違うって!!」
ザルパがギルに怒るが、ギルは必死に弁明している。ソーマは笑いながら事情を教えてくれた。
「悪いな。この子はここに来る前に怖い思いをしたんだ。なるべく優しく接してやってくれな。名前はバンリ。一応、破壊の巫女だけど、そこは気にすんな。」
ソーマの言葉にその場の全員が愕然とした。
『そこは気にすんなって言われても・・・』
ボロネジが至極もっともなつっこみをしたが、ソーマは平然としている。
「まぁ、普通の女の子だよ。とりあえず、バンリへの自己紹介も兼ねて、互いに自己紹介しときな。」
どこか理解しかねる所を残しつつも、救世主候補達はバンリの前で互いに自己紹介をした。
「あと、明日の夜から、バンリにはお前らの部屋に泊まってもらうからな。交流を深めるためだから、変な事したらぶっ飛ばすぞ。」
「にこやかに言う事じゃないですよね?」
ソーマの言葉にハイマスは溜め息をつきながらつっこみを入れた。
「ところでよぉ、バンリってのは、あんたの隠し子か?」
「違う!!」
ヴリィの失礼な質問にソーマは全力で否定した。
その後、その場は解散となったが、何人かはソーマの部屋に残っていた。
「・・・聞きたい事は分かる。夢の事だろ?」
「知ってたんですか?」
ハイマスの言葉にソーマは頷きながら続けた。
「ああ、可能性として認識してただけだがな。お前らが見たであろう夢は、一つの未来。俺達が、世界が破滅した後の世界だ。しかし、それを避ける事も可能だ。深く考えなくてもいい。」
どうやら、ソーマは夢の事までお見通しだったようだ。少し悩みが解決し、ギルは少しホッとした。こうして、ギル達救世主候補に新たな仲間が加わったのであった。
—続く—
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第31話「それぞれの夜」
破壊の巫女ことバンリがユグ・ドラシルにやって来て数日が経った。最初こそ怯えていたバンリであったが、徐々にユグ・ドラシルに馴染んできたようだ。また、ソーマが試しに歌わせてみた歌が思いのほか好評で、中央酒場でちょっとした有名人になっている。そして、ソーマが言っていた通り、バンリが救世主候補の部屋に泊まっていく事になった。
「前にも言ったと思うが、バンリに変な事したら、本気でぶっ飛ばすからな。」
「「「・・・・・・」」」
笑顔でそう言うソーマに救世主候補達は苦笑しながら頷くしかなかった。
1日目—ハイマス
「巫女様はベッドで寝てください。私は布団で寝ますから。」
「巫女様?僕、巫女様じゃないよ?」
「いえ、そう呼ばせて頂きます。それでは、おやすみなさい。」
「・・・・・・」
反論しようとしたが、ハイマスに言い負かされたバンリは、黙ってベッドに入ったが、少し経ってから起き出して、おずおずとハイマスに話しかけた。
「あの・・・眠れないから、お話してもらえないかな?」
「お話・・・?・・・少しだけですよ。」
「うん!」
ハイマスは溜め息をつきながら応じ、バンリは笑顔で頷いた。
2日目—ユぺル&ボロネジ
「本当に布団でいいの?ボロネジ。」
『ああ、いいぜ。俺達の種族は地面に近い方が落ち着くし。』
同じ、カムルの弟子となっているユぺルとボロネジは、普段2段ベッドで寝ているのだが、今夜ばかりはボロネジが布団で寝る事になっていた。
『なぁ、一応聞くけど、バンリは俺の事を見ても驚かないのか?見慣れてない奴は大体驚くんだけど。』
3人が横になった後、ボロネジが何気なくバンリに尋ねると、バンリは首を傾げながら答えた。
「ううん、驚いてないよ。何で?」
『いや、やっぱいいや。』
「フフッ」
バンリの言葉にボロネジは嬉しそうに答え、ユぺルも笑った。
3日目—ザルパ&クラリス
「いい?これからの時代は、女の子も強くなくちゃ駄目よ!男の子にでかい顔させてちゃ駄目!」
「クラリスってさ、いつも同じ話してるよね?」
ザルパの指摘に、クラリスはむきになって応じた。
「う、うるさいわね!いいでしょ!大切な話なんだから!」
「・・・バンリ?・・・寝ちゃってるし。」
ザルパとクラリスの話が退屈だったのか、単純に疲れていたのかは定かではないが、バンリは話の途中で寝てしまっていた。
「・・・寝ようか?」
「そうしましょう。」
ザルパとクラリスは互いに苦笑し、眠りについた。
4日目—ヴリィ&センケイ
「・・・ヴリィ、君のやる事にケチをつけるつもりはないけど、それはヤバくない?」
「あ?何がだよ?」
センケイの言葉に、ヴリィは意味が分からない様子で再びその行動を再開した。センケイがその行動があぶないと思うのも無理はない。ヴリィは嫌がるバンリを抑えつつ、バンリの匂いを嗅いでいるのだ。行動としては、マンマルであるヴリィからすれば、よく知らない相手にする行動で、おかしいものではないのだが、傍から見ればバンリがヴリィに襲われているようにしか見えない。
「・・・お前ってさ。」
「?」
ヴリィの言葉にバンリは頬を赤らめながらも聞き耳を立てる。
「お前ってさ、甘いってーか、良い匂いしてるな。」
ヴリィはそれだけ言うと、再びバンリの首筋に顔をうずめるようにして匂いを嗅ぐ。最初こそ弱弱しく抵抗していたバンリであったが、やがて、匂いを嗅ぐ以上の事はしないと判断し、抵抗を止めて眠りについた。
「明日怒られても知らないよ〜」
「知るかよ。」
センケイの言葉にヴリィはぶっきらぼうに答え、バンリを優しく抱きよせて眠りについた。
5日目—ライア
「ねぇ、バンリ・・・」
「?」
「明日、一緒にルカのお見舞い行ってくれないかな?」
寝床にもぐりこみ、横になった所でライアが切りだした話にバンリは笑顔で答えた。
「うん。」
「・・・!ありがとう。」
ライアはバンリの答えに笑顔になり、2人はそのまま安らかな眠りに落ちていった。
6日目—ザイア
「あまり何を考えてるか分からないけどよ、仲良くしてやってくれな。」
ハコウの頼みにバンリは頷き、ザイアの隣の布団の中に入った。バンリがいくら話しかけても、ザイアは反応しなかったが、翌朝、ハコウはザイアが夢を見たと言っていたらしい。
7日目—ミルディ
「カイユも一緒に寝るのよ。いいかな?」
ミルディの問いにバンリは軽く頷いた。やがて、バンリが先に寝てしまった後、ミルディはカイユに話しかけた。
「カイユ、起きてる?」
「ええ、なんでしょうか?」
「私、バンリと友達になれるかな?」
ミルディの言葉にカイユはしっかりと答えた。
「ええ、きっと良い友達になれるでしょう。何も心配される事はありません。」
「うん、ありがとう。」
8日目—ギル
「僕を助けてくれたのは、ギル達なんでしょ?ありがとう。」
「あ、ああ、まぁ一応な。」
クリフとリリと共にバンリを迎え入れ、眠りについたギルにいきなりバンリが話しかけてきたので、ギルは内心驚きながら応じた。クリフが冷やかすように言うと、ギルは顔を赤らめながら返した。
「なんだよ、いい感じになってるな。」
「うるさいな!」
その声にバンリがきょとんとしたので、なんでもないよと、ギルは笑いかけて眠りについた。時折、クリフやリリが笑いをこらえる声が聞こえたが、気にせず眠りについた。不思議とその夜は今までになくよく眠れたギルなのであった。
—続く—
ポケモソ、MH好きのどこにでもいるゲーム好きです
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キャラ紹介 その2
ハーク・バイアス
世界永久指名手配犯のテロリスト。裏社会の人間が利用するネットワークの元締めでもある。毒の使い手の様で毒蟲を戦闘に用いる。
ライア
救世主候補の一人で、サトリの少女。同じ師匠の救世主候補のルカが目覚めるまでお見舞いを続けている。
ルカ
救世主候補の少年。人種は不明で、ユグ・ドラシルに着く前にライアと共に敵モンスターの襲撃を受け、重傷を負い、昏睡状態に陥っている。実力に関しては不明。
ベティ
ブランゴの専属ナース。ブランゴとは「腐れ縁の仲」だとか。
クラリス
ウラノスの中から選抜されたエリートであり、救世主候補の一人。メカ作りにこだわりがある様子。
ボロネジ
アンダーグラウンドの少年で、救世主候補。手先が器用なせいか、クラリスのメカ作りに付き合う事が多いようだ。
カルバ・ヤナイ
十魔人の一人で、サトリの老人。ソーマよりも100年以上生きており、ソーマを「ちゃん」付けで呼んでいる。ソーマとはかなり親交がある様子。
シュテン・ゲンカート
シュラ族の男で、十魔人の一角。シュラ族族長も兼ねており、ソーマに対し頻繁に決闘を挑んでいるようだ。戦いを好み、話し合いは苦手な様子。
セグマ・ルーザス
治安維持局総帥であり、十魔人の一人。話し合いの場では、まとめ役を務めているようだ。
タルマ・ホーツ
十魔人であるセルキーの女。連絡会中に喫煙していた所を見ると、ヘビースモーカーのようだ。
ジオラール・ライトニングシュタイン
スパーキーのサイボーグの男で、十魔人の一角。スパーキーの中でも大柄である。
クラド・バミアン
タイタニアの代表であり、十魔人の男。ソーマとはかなり親交があるようで、ソーマを弁護する様なそぶりを見せる。
イクリム・スレル
わずか10歳にして十魔人となったウラノスの少年。少年ながら、既にいくつかの企業の取締役である。
イシュタ・ルテール
ヴァルキュリエの代表で、十魔人の女性。同じ十魔人のタルマとは仲が良い様子。
スエルギ
ユグ・ドラシルにほど近い湖—スターチ湖で漁師をしている男。上流から流されて来たモケレンベの世話をする事になり、そこそこ上手くいっているようだ。
バイエン
ハイマスの相棒のドラゴン。ハイマスとは幼い頃から共に成長してきたので強い絆がある。
黒の魔女
かつてはソーマの戦友であったエルフの女性で、現在はテロリストとして追われている。強力な式神—黒竜騎士(ブラックドラグーン)を連れているが、自身の戦闘能力も高いらしい。ソーマに好意を持っている様子。
ブラックキッド
マンマルとNSのハーフの少年。黒豹に変身でき、姿も自在に消せる。黒の魔女に従う戦士の一人。
カノープス
黒の魔女に従う戦士の一人で、ヒットマンのサイボーグ。全身に強力な兵器を内蔵している。
黒竜騎士(ブラックドラグーン)
黒の魔女が使役している式神。八剣聖に匹敵する、あるいはそれ以上の戦闘能力を持つ。
バンリ
通称「破壊の巫女」。連絡会の中で、治安維持局の支部からユグ・ドラシルに引き取られた。「悪魔の様な女」と呼ばれ、治安維持局の職員から暴行を受けていたようだ。
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第32話「動き出す陰謀」
ここは、東方大陸の山岳地帯—そこでは2人の人間と強大な存在とが戦っていた。
「くそっ、これじゃ今日は帰れそうにないな。」
「ええ、明日の約束は我慢してもらいましょう。」
極限まで張り詰めた緊張をほぐすために互いにとりとめもない言葉を出す。そうでもしないと、まともではいられないからだ。
『ゴアアァァァァァァァッ!!!!』
目の前にいる獣が吼えるだけで、暴風雨が起こり、熱風が吹き荒れ、吹雪がうなりをあげ、稲妻が光り、地面が揺れる。
「遅くなっても、ちゃんと帰らないとな。ファナが待ってる!」
「ええ、あの子寂しがり屋だから。」
「行くぞ!」
「ええ!」
そして、満身創痍の男女は、唸り声をあげて襲いかかるモンスターに立ち向かって行った。
「ハッ!・・・また、この夢・・・。」
悪夢から醒め、ベッドから飛び起きた女性は、嫌な汗をかいた体をシャワーで流し、きっちりとしたスーツと白衣を纏い、いつものように職場に向かった。
「おはようございます、主任。」
「おはよう。彼らの様子はどう?」
「良好ですよ。これなら経営陣も納得するかと。」
「・・・」
部下の言葉に女性は、不機嫌そうな顔をした。すると、それに気付いた部下はそれとなく話題を逸らした。
「そうそう、昼過ぎから治安維持局の幹部の方がみられるそうですよ。」
「私達の部署に関係あるのかしら?」
「さぁ、どうでしょう?」
とりあえず、女性は自分の部署へと向かい、仕事を始めた。
「ジェラヴィー君、どういう事なのか、もう一度言ってくれたまえ。」
「だから、何度も申し上げているじゃありませんか!ユグ・ドラシルを直ちに強制的に統治しないといけないと!」
その頃、治安維持局本部の議会では、1人の幹部が熱弁をふるっていた。
「そもそも、救世主候補全員と破壊の巫女までもが、民間のギルドに属しているのです!この状況は治安維持の観点から危険があります!」
「具体的にどこが危険なのかね?」
「分からないのですか!?ユグ・ドラシルの総隊長ソーマ・グランバーは、犯罪者でも平気で仲間に引き入れています。いつ彼らが世界に牙をむくか分からないのですよ!!」
「とはいえ、引き入れられた犯罪者が更生しているのも事実だろう?」
熱弁をふるう男—ジェラヴィーに、別の幹部が眉をひそめながら言うと、ジェラヴィーは、信じられないといった顔で続けた。
「全てが更生するとは思えません!それに事実上、ユグ・ドラシルを支配しているのはソーマ、彼の一声で全てが決まる独裁状態です!!おまけに八剣聖の内、3名が在籍しているなど、一ギルドでありながら必要以上の戦力を持っています!これは戦争を起こす意志があるとしか思えません!皆さん、手遅れにならないうちに、賢明な判断を!!」
ジェラヴィーの話が終わった後、幹部や部隊長達はそれぞれどうしたものかと話し始め、やがて総帥のセグマに意見を求めた。
「私としては、ユグ・ドラシル特別監察官として、ジェラヴィー君を任命し、一任したい。皆はどう思うだろうか。」
セグマの言葉を聞き、その場はまたしてもざわめくが、やがて全員が首を縦に振り、賛成の意を示した。
「では、ジェラヴィー君、頼んだよ。必要な人材や物資はいくらでも都合しよう。」
「はい!!」
セグマから任命を受け、ジェラヴィーはほくそ笑みながら頷いた。
「なんだい?久しぶりに電話をかけてきたと思ったら。」
『いいから聞いてくれ、兄さん。あんまり親父に派手な動きをしないように言ってくれ。治安維持局の中には、ユグ・ドラシルを潰したくてうずうずしてる幹部もいるんだ!』
「とは言ってもなァ・・・」
そう言うとアルバートは頭を掻きながら電話を続けた。
「今更父上はあぶないからと言ってユグ・ドラシルを捨てる事はないし、私達の事も捨てはしないだろう。いくら言っても聞きはしないよ。」
『・・・ならせめて、兄さん達でしっかり押さえてくれよ。俺も故郷を攻撃する羽目にはなりたくないからな。』
「心得ておくよ、グスタフ。それじゃ。」
『ああ・・・。』
弟であるグスタフ・デインとの電話を終えたアルバートは、軽く溜め息をついた。戦争する意思がないというのに、危険だと攻撃される脅威に晒されるなど、理不尽ではないかと思ったのだ。ともかく、この話はソーマにも聞かせねばならないだろう。その時—付けておいたテレビに緊急速報が入った。
『臨時ニュースです!先程、南方大陸東部にて大規模な地震が発生し、東部の都市は壊滅的な打撃を受けた模様です。繰り返します・・・』
「何て事だ・・・」
そう言うが早いか、アルバートは中央酒場に向かって走り出していた。
—続く—
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第33話「地下都市へ」
「マンジ!」
「アルバートか、間もなく親父さんの話が始まるぞ。」
緊急速報を観て、中央酒場に駆け込んだアルバートは、マンジと言葉を交わした。既に中央酒場には、多くの隊員が詰めかけ、ソーマの話を待っていた。間もなく、忙しい様子でソーマがやって来て、話し始めた。
「まず、今回の震災には、うちの隊員や関係者は巻き込まれていない、それだけは言っとくぞ。そして、ギルドをあげて被災地の支援に回ろうと思う。既にギルドマスターには話を通し、許可も貰っている。お前らに不自由な思いはさせんし、俺も出る。少なくとも、治安維持局の支援が行き渡るまで続けるつもりだ。余力のある者は力を貸して欲しい!以上だ。」
ソーマの話が終わり、ソーマについていく者は準備を始め、ギルドに残る者はいつも通りの行動に移っていく。
「マンジはどうするんだい?」
「愚問だな。俺はここに残って、ここを守る使命がある。」
アルバートの問いに、マンジは迷う事なく答えた。すると、人混みからグレアが出て来て、声をかけてきた。
「や、アルバートさん、マンジさん。」
「グレアか。お前はどうするんだ?」
「ギル達を連れて出来るだけの事はしたいと思います。」
グレアの言葉にマンジは、首を捻りながら返した。
「しかし・・・大丈夫か?」
「ご心配なく、最優先で彼らの身は守ります。」
「なら、いいが・・・。行くのは良いが、ルピの部隊が先発だからな。」
「彼女の部隊がですか・・・、僕らが行く頃には基礎は固まってそうですね。」
「ああ。後、極力悪い方に目立たぬようにしろよ。」
「心得ます。」
「・・・と言う訳で、僕と一緒に南方大陸の支援に行ってくれないかな?」
ギル達を呼び出したグレアは申し訳なさそうに話を切り出した。ギル達も震災の事は知り、予想していたので、半ば嫌々ながらも了承した。それを見たグレアは頷きながら、話を続けた。
「あと、今回はチーム・イクスと、ボロネジとクラリス、バンリも加えた計10人での行動になるから、よろしくね。」
「チーム・イクスは分かるけど、どうしてボロネジとクラリス、バンリと行動するんだ?」
クリフが疑問を口にすると、ボロネジが答えてくれた。
『南方大陸は・・・、俺の、アンダーグラウンドの故郷だからだ。』
「私は、優秀な技術者として行くのよ!当然じゃない。」
「バンリについては、父さんに頼まれたからなんだ。」
「ふーん・・・。」
こうして、ギル達は1週間後に南方大陸の被災地支援に行く事になった。
1週間後、ギル達は予定通り、南方大陸に赴く事になった。移動手段は、他の支援組と共に船による海路の移動となった。3日ほど船に揺られ、南方大陸の港町—ストゥーラに着いた。ギル達が向かう事になったのは、アンダーグラウンド達が地下に構えている主要都市—アヴェルストスだ。ンバックとボロネジがそこまで案内してくれる事になり、ギル達は地下都市へと向かった。
「すげぇトンネルだな・・・。」
『ここは、アンダーグラウンド族が力を合わせて掘った200年以上も前の通路だ。』
『ここまで来れば、あと少しだぞ。』
慣れない地下道をライトで照らしつつ進む。地下道とは言っても、充分な広さと高さが確保され、換気システムもしっかりしている。しばらく進むと、銀色に輝く円盤状の物が壁に埋まっているのが見えてきた。
「なぁ、あれって何だ?」
ギルの質問にンバックが答えた。
『俺達、アンダーグラウンドのご先祖様が乗ってた船らしい。俺も詳しくは知らんけどな。』
「全然船には見えないな。」
「うん。」
ギルの言葉にバンリが頷いた。所々で休憩をはさみつつ、ようやくアヴェルストスに到着した。さすがに地下にある為に全くの無傷とはいかなかったようだが、被害は思いのほか軽微に思える。とはいえ、何もしない訳にもいかないので、瓦礫を撤去したり、ライフラインの立て直しを手伝う事にした。バンリやリリ達は、炊き出しや子守をしている。
結局、ギル達の作業は数日間続き、その後にやってきた治安維持局の部隊に引き継ぐ事になった。そして、ンバックとボロネジの申し出もあり、アンダーグラウンドの女王と謁見する事になった。
「でっけぇ!あれも船なのか?」
『らしいな。よく聞かされたよ。』
女王と謁見する事になった場所は、女王の家であり、先祖が乗ってきたという銀色の円盤状の船だ。事情を説明し、中に案内され、大広間に案内された。やがて、女王らしきドレスに身を包んだ大柄なアンダーグラウンドがやってきて、椅子に腰かけると話し始めた。
『この度は、我らの都市の復興に尽力してくださり、感謝いたします。どんなに危険があろうと、我らにとってここは故郷であり、聖地なのです。あと、我らの代表—ボロネジの事をこれからもよろしくお願いします。』
その後、ギル達は女王から感謝の品を渡され、今度は地上に向けて出発する事にした。再び時間をかけてトンネルを通り抜け、無事にストゥーラに着いたギル達は、その後も他の場所で復帰に尽力した。その後、2週間ほどで、完全に治安維持局の支援部隊が揃い、ユグ・ドラシルの隊員やソーマ達は続々とギルドに帰って行ったのであった。
—続く—
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第34話「破壊の鼓動」
「あ〜、ったく、あのおっさん!俺らの事をこき使いやがって!!」
ユグ・ドラシルの宿舎棟に帰ってきたヴリィは、苛立ち交じりに言った。先程まで、被災地の支援に向かったヴェノンに随伴していたのだ。
「ねぇ、ヴリィ。」
「あ?」
センケイが話しかけてきたので、ヴリィが聞き返すと、センケイは思いもしない事を言った。
「ヴリィって最近変わったよね。」
「・・・そーか?」
「何というか、角が取れてきたよ。」
「は?」
「そーだね。頭が残念なヴリィには難しいよね。」
「おい。」
センケイの失礼な一言につっこんだが、本人はけろっとして話を続ける。
「今回みたいに被災地支援とか、他の奴と仲良くしたり、あんな風に女の子に興味を持つなんて、以前の君じゃ考えられないよ。」
確かに、言われてみればそうだ。自分やセンケイは、戦争孤児であり、たまたま戦闘能力が認められて少年兵として各地で戦っていた。とはいえ、それは俗に言うゲリラであったり、テロリストであったりするのであろうが。その頃は、信頼できるというか、心を許せる相手はセンケイだけだった。口では言えないが、信頼できる相棒だ。そして、そういう相手は1人だけでいいと思っていた。
しかし、今は違う・・・気がする。かなりいい加減ではあるが、師匠がいて、仲間というか同じ使命を持った者たちがいる。そして、あの少女—バンリがいる。その状況が不思議と嫌いにはなれないのだ。それが変わった事なら、そうなのかもしれない。
「ふーん・・・。」
適当に返したヴリィだったが、不思議と悪い気はしなかった。
『こちらグレア、異常は無い?』
「ああ、ないぜ。」
通信機から聞こえたグレアの声にギルは答えた。通信機の音以外は、川のせせらぎと鳥の鳴き声しか聞こえない。ここは、東方大陸の山岳地帯のとある清流。ギル達はソーマからの依頼を受けてここにきたのだ。話は数時間前にさかのぼる。
「今回任せたい依頼は、密猟者退治だ。治安維持局とうちの共同で守っている自然保護区があってな。そこに生息している飛竜—出日ノ萌エ木神が狙われているらしい。今回もグレアとバンリに同行してもらうからな。気をつけてな、よろしく。」
出日ノ萌エ木神(イズヒノモエギノカミ)は、東方大陸固有の美しい飛竜であり、昔から観賞や鱗目当ての乱獲が絶えず、現在は手厚く保護されているモンスターだ。比較的危険な依頼ではあるが、グレアが同行する事で受注が可能となったのだ。
とはいえ、出日ノ萌エ木神の棲む清流で待ち伏せているが、密猟者はなかなか現れない。あまりにもおだやかすぎて眠たくなってきてしまうほどだ。しかし、突然近くにいたリリが声をあげた。
「あ、あれ・・・」
「リリ、どうした?」
リリの指さす方を見ると、そこには黒マントと牙の生えた仮面を纏いし、闇の精霊—ナイトデッドが宙に浮いていた。すると、クリフが川を指さして叫んだ。
「おい、川が濁ってきてるぞ!!」
「え!?」
確かにクリフの言うとおり、清らかな水をたたえていた川は、上流から流れてきた紫色のもやで濁り始めていた。すぐさまグレアに連絡するとグレアは、
『分かった。僕は上流に向かうよ。そこでじっとしててね。』
通信を終えた直後—
「キュオオオオオッ!!!!」
水面から翡翠色の鱗に包まれた竜が飛び出してきた。
「出日ノ萌エ木神!!?」
清らかな水を好む性質を持つ出日ノ萌エ木神が、濁りに怒って飛び出してきたのだろう。みるみるうちに翡翠色の鱗は、怒りで赤く染まっていく。そして、出日ノ萌エ木神の瞳は、草むらに隠れていたギル達を捉えた。
「「「!!」」」
次の瞬間、出日ノ萌エ木神が長い首をもたげ、口から鮮やかな青色の炎を吹き出した。炎はまっすぐにギル達に襲いかかる。
「ヨルムンガント!」
『任せな!!』
ギルはとっさにヨルムンガントを盾に変えて炎を防いだ。しかし、出日ノ萌エ木神は今度は、長大な体をしならせて、突っ込んできた。いくら盾でも防ぎきれない、だが、その突撃がギル達に当たる事は無かった。ギル達と出日ノ萌エ木神の間にナイトデッドが割り込み、黒い触手のような物を繰り出し、出日ノ萌エ木神を絡めとったのだ。必死にもがく出日ノ萌エ木神を更に触手で縛り、完全に覆いつくしてしまった。ピクリとも動かなくなった出日ノ萌エ木神を地面に下ろすと、ナイトデッドは、マントを翻して消えてしまった。
「何だったんだ、あいつ・・・」
思わずクリフはそう言った。
「・・・さて、教えてくれないかな?川を汚したのは君達だよね?」
「な、何の話だ?」
一方その頃、上流に向かったグレアは、密猟者と思われる2人組を見つけ、銃を向けてきた2人を倒してしまっていた。しかし、密猟者はグレアの質問に対し、首を傾げている。
「嘘はつかない方が身のためだよ。」
「嘘じゃない!本当だ!!」
「・・・・・・。」
それを聞いて考え込むグレアを見て、密猟者は後ずさりしながら言った。
「じゃ、じゃあ、俺達はこの辺で・・・」
—ガン、ゴン
「・・・どうやら、その様子では事件の黒幕に一杯喰わされたらしいな。」
「シンギか。君が保護区の見回りなんて珍しいね。」
グレアが逃げようとした密猟者を殴って気絶させ、縛ったところで、治安維持局の制服を纏った青年が歩いてきた。
「それは心外だな。私にはマンマルの血も流れている事は、同じ八剣聖の君なら知っているだろう。」
「そうだね。霊獣である麒麟の君にとって、見過ごす事が出来ない事案だもんね。・・・・・・シンギ、気付いているかい?」
「勿論だとも。黒幕、あるいはその手の者だろうね。」
—フシューッ、ズン・・・
機械音と共に2つの巨体が気の影から現れた。黒を基調としたボディー、小さな頭部に一つだけある煌々と光る赤い目、唸る人工筋肉・・・その正体は—
「サイバーデビル・・・。」
「それも2体か。とても森の中でお目にかかれる相手ではないな。」
「まったく、とりあえずは、放っておける相手でも無いね。準備はいいかい?」
「愚問だな。」
武器を抜いた2人は、2体のサイバーデビルに向かって行った。
ナイトデッドが去った後、突如地面から何かの機械が生えてきて、光を放ったかと思ったら、そこには白衣を着た眼鏡の男が立っていた。
「あんたは何者なんだ!?」
「紹介が遅れました。私は、ヒルト・セルゲイ、科学者です。破壊の巫女を私に預けてはくださりませんか?」
「!?」
「ふざけんな!バンリは俺らの連れだ!出来る訳ねぇだろ!!」
ヒルトの言葉にクリフが返すと、ヒルトは溜め息をつきながら言った。
「やれやれですね・・・。この手は使いたくなかったのですが。」
—パァン・・・
「・・・・・・え・・・?」
「「「バンリ!!」」」
次の瞬間、ヒルトが手にした銃から放たれた銃弾が、バンリの腹を貫いた。血を流して倒れたバンリに、ギル達は駆け寄る。バンリは、生きてはいるが、出血が止まらず、息も絶え絶えだ。
「てめぇ!何しやがる!!」
頭に血がのぼったギルはヨルムンガントをハンマーに変化させてヒルトを殴りつけるが、そのハンマーはバリアに阻まれヒルトには届かない。
「クソッ!」
歯噛みするギル達の耳に何かが聞こえた。
—ドクン、ドクン・・・
「クックックッ、あなた達にも聞こえるでしょう?破壊の鼓動が。」
「破壊の鼓動!?」
—次の瞬間、バンリの身体が浮き上がった。
—続く—
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第35話「神喰い」
—ドクン、ドクン
「「「バンリ!!」」」
ヒルト・セルゲイに撃たれたバンリは、突如として不気味な鼓動と共に浮き上がった。しかし、様子がおかしい。
「血が・・・黒い!?」
そう、撃たれたバンリの腹の穴から流れる血が、ありえないほど黒いのだ。更にその血が生き物のように動いているのだ。そして、流れ出した血が逆流を始めた。
「何っ!?」
クリフが絶句するなか、逆流した血はバンリの身体を覆い、その姿を異形の者へ変えていく。そして—
『ギャオオオオオオオッッ!!!!』
バンリは影のような皮膚に覆われた黒い竜のような怪物に姿を変えた。怪物の雄叫びが、大気を、大地を、全てを振動させる。
「お前は・・・あの時の夢に出てきた・・・」
「・・・! ギルッ!!!」
怪物の事を思い出していたギルは、いきなり、クリフに押し倒された。次の瞬間、2人の頭上を強烈な熱線が通り過ぎていった。狙いは・・・
「おやおや、私ですか。それはそうでしょうね。」
ヒルトはバリアを張って、熱線を受け止めた。しかし、桁違いのエネルギーが込められた熱線は、バリアの限界を易々と突破した。
「フフフ・・・、さすがは神喰い。」
バリアを突破した熱線はヒルトを地面の機械ごと焼き尽くした。
「無事に覚醒しましたね・・・あと少し・・・」
ヒルトは不気味な言葉を残して消えていった。
「ギャオオッ!!」
自分に危害を加えた不届き者を消し去った怪物は、ギル達に向き直った。
「バンリ、俺達だ!分かるだろ!?」
『ギャオオオオオ!』
必死に説得しようとするギルだが、怪物とその中にいるであろうバンリは何の反応も示さない。ギル達に襲いかかろうと、怪物が一歩を踏み出した瞬間—
「動くな!」
「君は・・・バンリなのか・・・?」
『ギャオ?』
そこへ、別行動をしていたグレアと、治安維持局の制服を着た男が現れた。2人を見て、初めて怪物が興味を示した。
「それにしても・・・、何だあいつは・・・。何も感じない、心も感情も、あるのは『破壊衝動』だけだ。」
「・・・来るよ!」
『ギャオオオオオオッ!!』
怪物は、今度は両腕にエネルギーを集め、グレア達に殴りかかった。グレアと治安維持局の男—シンギは、素早くこれをかわしていく。シンギが応戦しようと武器を抜こうとするのをグレアが止めた。
「待ってくれ!あの中には、おそらく破壊の巫女が・・・」
「・・・クッ!傷つける訳にはいかない・・・か!」
すると、グレアは素早く詠唱して、怪物の中にいるであろうバンリに言った。
「少し痺れるかもしれないけど、ごめんよ!サンダーバード!!」
「ピキーーーーッ!!!」
グレアの手によって召喚された巨大なサンダーバードは、電撃を纏い、高速で怪物に突撃した。
『ギャオオオオ!』
「感電させる気か。・・・!」
「何!?」
しかし、怪物はまるでこたえた様子もなく、サンダーバードを掴むと、そのまま地面に叩きつけた。
「ピキー・・・」
その一撃でサンダーバードは、元の姿に戻り消えてしまった。
「あのサイズのサンダーバードを一撃か・・・」
「並みの精霊では手も足も出ないか。」
『ギャオオオッ!!!』
サンダーバードを易々と消滅させた怪物は、再びグレア達に襲いかかった。
「まったく・・・手に負えないな・・・」
「せめて、破壊の巫女と分離出来れば・・・!」
戦いが始まって10分後、2対1とはいえ、思うように攻撃できないグレアとシンギは押されていた。その時—クリフの服のポケットから飛び出した。
「あれは・・・紙の人形?」
それはリリの言葉通り、紙を切り抜いて作った人形だ。飛び出した人形は、聞き慣れた声で喋りだした。
『まさか、これを使う事になるとはな。皆、大丈夫か?』
「「「ソーマさん!?」」」
『おぅ、ちょっと待ってな。』
人形はそう言うと光を放ち姿を変えていく。そして、人形はソーマの姿になった。
「これって・・・、どういう事だ?」
「悪いな、ギル。時間がないから後でな。バンリ、少し我慢してくれよ。」
『ギャオオオオオオッ!!!』
新たに現れたソーマに対し、怪物はいきなり熱線を放った。しかし、ソーマは避けようとしない。
「精霊防盾—ニーベルング。」
ソーマは熱線をリング状の結界で受け止めた。しかし、熱線の威力に結界は押されている。しかし—
「結界ってのはな、防ぐだけが能じゃないのさ。」
ソーマは不敵に言い放つと、結界の角度を変え、熱線を逸らした。
「・・・すげぇ・・・!」
難なく熱線をしのいだソーマにギルが感心しているうちに、ソーマは次の行動に移っていた。
「ニーベルング、サンド!」
熱線をしのいだ結界が2枚現れ、怪物を挟みこんだ。
『ギャオオオ、ギャオオオ!!』
結界に挟まれもがく怪物に対し、ソーマは次の呪文を詠唱した。
「シール・ド・グリモア!!」
詠唱と同時にソーマの手から放たれたまばゆい光が紐のようになり、結界ごと怪物を包み込んだ。
『ギャオオオオオオオオオオッッ!!!!』
光の紐に包まれた怪物は、黒い血のようになり、バンリから剥がれた。
「今だ!あの黒い液体に全力でぶちかませ!!」
「分かった!」
「・・・ああ!」
ソーマの言葉にグレアとシンギは頷き、同時に黒い液体に攻撃した。
「リジェクトスライス!!」
「天界斬!!」
『ギャオオオ・・・』
2人の渾身の一撃を受けた黒い液体は悲鳴をあげながら蒸発するように消えてしまった。同時にソーマが結界を解き、倒れこむバンリを受け止めた。
「ソーマ!」
「大丈夫そうだな。クリフ、悪いがバンリを頼む。もう平気だから。」
駆け寄るギルの頭を撫でながら、ソーマは抱き止めたバンリをクリフに渡した。
「助かりました。ソーマ殿・・・。一体あれは・・・」
「シンギか、すまないな。今回は時間がない、あとで手紙で説明する。」
シンギにそう言うと同時に、ソーマは元の紙人形に戻った。
—続く—
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第36話「愛と憎しみと」
「父さん・・・、教えてよ。バンリの事、僕もギル達に教えないといけないし。」
その後、依頼を中断してユグ・ドラシルに帰ったギル達は、バンリを医務室に預けた後、それぞれの部屋で待機となっていた。しかし、グレアはソーマの部屋で、ソーマに問いかけていた。
「それを説明するには、破滅の運命が神々の戦争である事を教えんとな。」
「神々の戦争?」
「そう—この世界が誕生した時から何度も行われている戦争だ。創生の神と破壊の神が『理』をかけて戦っている。その戦いの中で、双方にとっての脅威となる存在—それが神喰い。神殺しの力だ。そして、破壊の巫女が破壊するものは『神』だ。ここまで言えば分かるだろう?」
「・・・まさか・・・!」
ソーマの話からグレアはある仮説に行き当たり、顔を青ざめた。ソーマは頷き続けた。
「そう、破壊の巫女とは神喰いを封じ込めた人間の事だ。いわば、神々の戦争にとって切り札とも言える存在だ。今回の襲撃も敵側の干渉と考えていいだろう。しかし、バンリはまだその力をコントロールできていない。あの暴走もそれによるものだ。」
「どうにか出来ないのですか、彼女と神喰いを分離する事は出来るのでしょう?」
グレアの言葉に、ソーマは首を横に振った。
「今回は一時的に引っぺがして封印しただけだ。じきに封印は解け、バンリの魂の奥底に神喰いは戻るだろう。無理に分離させようとすると、バンリは・・・死ぬ。神喰いと破壊の巫女が完全に分離する時は、戦争が決着してからだ。」
「そんな・・・」
「俺達に出来る事は、ただ一つ。戦争を創生の神の勝利で終わらせ、その時までバンリを守り抜く事だけだ。」
ソーマの部屋を出たグレアはそのままギル達の部屋へと向かった。ソーマから聞いた話の全てをしてやる事は出来ない、だが、何も知らずに苦しませる事だけはさせたくなかったのだ。グレアは言葉を選びながらソーマから聞いた話の一部をギル達に話して聞かせた。ギル達は驚いていたものの、最後まで聞いてくれた。
「じゃあ、バンリは俺達の事を攻撃したくてしたんじゃないんだな?」
「うん。神喰いの破壊衝動に負けてしまっただけだよ。彼女自身も辛かったと思う。」
話の後、ギル達は医務室へ向かった。グレアから間もなく治療が完了するはずとの情報を得たからだ。急いで医務室に向かうと、既に他の救世主候補達が集まり、お見舞いに来ていた。
まるでギル達が着くのを待っていたかのようなタイミングで、医務室の扉が開き、ブランゴが姿を見せた。
「・・・おそろいか?安静にしとかにゃならんが、話は出来る。話したいなら話してきな。」
ブランゴの言葉に頷き、病室の扉を開けようとすると、中からバンリの声が聞こえた。
「開けないで!!皆と一緒にいたら、皆の事を殺しちゃう・・・」
「バンリ・・・」
その言葉に、ザルパはやりきれない顔をする。しかし、この言葉にまるで動じていない者もいた。ヴリィだ。
「バンリ、入んぞ。」
「ダメ!開けないで・・・!」
バンリの制止の声も完全無視してヴリィは扉を開けて部屋に入った。そのままバンリが寝ているベッドまで近づくと、嫌がるバンリを抑えつけて匂いを嗅ぎ始めた。
「・・・って何やってんのよ!!!」
その様子にたまらずザルパがつっこみを入れた。しかし、ヴリィは
「うっせぇ。本当に大丈夫か、確認してんだ!」
その様子に場は少し和んだが、バンリは涙声で言った。
「だって・・・、また暴走しちゃうかもしれないんだよ。皆の事も忘れちゃうかもしれないんだよ?」
「でも、俺達は死ぬつもりもないし、忘れるつもりもないぜ。」
「!」
バンリはギルの言葉を聞いて、驚いた様子を見せ、何かが切れたように泣き始めた。救世主候補達は、泣き続けるバンリを見守っていた。
「ようこそいらっしゃいました。ファナ主任。さっそくこちらにどうぞ。」
「はい。」
ここは治安維持局直轄のとある研究施設。そこに白衣の女性—ファナを招いたのは、バンリを撃った男—ヒルト・セルゲイだ。先を案内するヒルトに続き、ファナと付き人が続く。一行は、とある研究室に入った。照明は付いておらず、中は薄暗い。
「まずは、ご覧下さい。先日、南方大陸で発掘されたものです。」
ヒルトがそう言いながら右腕を上げると、照明が付き、部屋に置かれていた物を照らし出す。それを見て、ファナは驚いた様子で言った。
「これは・・・TRML(トレモル)!しかも、ほぼ完全な・・・」
「そう、超古代兵器TRML。古代人たちの切り札であり、彼らの滅亡の一因となった最強最悪の機動兵器です。私は、治安維持局幹部のジェラヴィー氏から援助を受け、この機体を解析、改良して量産する事に成功しました。そして、ジェラヴィー氏の最終目的は、私のTRML軍団とあなたの改造人間達で手を組み、治安を乱す不安因子—ユグ・ドラシルを討つ事です。」
「治安維持局とユグ・ドラシルは不可侵条約を結んでいないのですか?」
ファナの問いに、ヒルトは肩をすくめながら言った。
「ええ、しかし、あちら側はそのような事は忘れているでしょう。先日、私の部下がユグ・ドラシルで製造されたと思われる新種のモンスターの存在を発見しました。おそらく、こちらと戦う構えでしょう。表向きには平和を歌い、こちらを信用させていたのです。もはや、不可侵条約など意味がありません。黒幕は、事実上のギルドマスター、ソーマに違いありません。」
ヒルトの言葉に、ファナは怒りを滲ませて呟いた。
「・・・やはり、あの男が・・・!!」
「ジェラヴィー氏は、平和のために共に戦ってくださる方を探しています。そして、私は兼ねてから研究内容に注目しており、平和を愛し、ソーマの悪事を知るあなたを注目しておりました。今すぐにとは言いませんが、世界の為にどうすべきかを考えてください。」
ヒルトの話を聞き、ファナは迷わず、答えた。
「ええ、共に戦いましょう。」
(私は、あの男を、ソーマを決して許さない・・・!)
ファナの心の内が分かったのか、ヒルトは笑みを浮かべながら頷いて言った。
「では、近い内にジェラヴィー氏と会う機会を作りましょう。全てはその時に。」
—続く—
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