ワザップ!フォーラム
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長い間更新を放棄してしまって申し訳ございませんでした。
皆様からご好評を頂いた光とノスタルジアのリメイクにあたるこの作品ですが、今回は設定や伏線などを敢えて気にせずにゆっくりとやっていって、完結させたいと思います。
不定期に来るかもです。
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ただ広いだけの大海原の夜であった。月光が一人の旅人を照らす。旅人は広大な空間の中で、ただ一つだけ音を鳴らす小さなモーターボードの上で仰向けになって、それと顔を向き合わせていた。しかし、旅人がどんな思いを胸にして、この人間には汚すことのできない神聖なる星空を眺めていたのかは自分でもよく分からない。
旅人は僕だ。その旅人というのが僕なのだが、自分の感情を言語化する以前に、抽象的なイメージとしてすら捉えることができないのだ。一般的な人々ならば、この景色を見れば"切なさ"を感じるだろう。でも、今の僕の胸にある感情はその言葉だけで全く表現できるものではない。「切ない」という言葉の響き、或いは感情は僕も気に入っているが。
だから僕は考える。だが考えてみるに連れて、次第に星の光に照らされる自分の白い吐息に意識が移ってしまう。霜月、もとい、十一月夜の冷気のせいだ。
そんな時、僕の顔をもう一つの強い光が照らした。呆然としている中で突如として差し込んできたので驚いてしまったが、体を起こす様は自分でもびっくりするほどゆっくりと落ち着いたものになっていた。
「灯台だ」 ボートの向かっている前方を見た瞬間、僕は思わず声に出す。
ボートがまっすぐと灯台へと向かっているのが見えていた。この事が意味するのは、陸地への到達、かつ目的地への到達だ。灯台から僕の方へと光が眩しすぎるせいで、もう全体の形はシルエットとしてしか見えなかったが、それでも僕にははっきりと分かる。この灯台が岬に建てられていて、中世ヨーロッパを連想させる石造りで背の小さい塔だということを。その塔が古風なものだというのもはっきりと覚えているのだが、人によってはそれを廃墟だと思う人も出てくるだろう。実際、殆どそのようなものだが。
「やっとまた会えるね」、僕はまた呟いてしまった。僕の身体を照らす灯台の強い光は、僕の心を温めるには十分なほど力強かった。それは、赤ん坊が母親に優しく抱かれる時の安心感に似ているし、長らく離れていた恋人と強く抱き合う時の恍惚感にも似ている。
できればこのまま灯台の方へと行きたかったが、ごつごつとした崖を自力で登るなんて事は僕にできる筈が無かったので、僕は仕方なくこの島で唯一の町にある埠頭の方へと舵を取った。段々横に通り過ぎて行く灯台の光を寂しげに見送ってからやがて、埠頭についた僕はボートを固定したのちに町の方へと向かっていく。賑やかとは言えないものの、多数ある電光の集合体は、「これも悪くないかもね」と僕に思わせるには十分なほど綺麗だった。
不定期に来るかもです。