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※推敲していない故、作中に漢字の誤変換がございます※
主人公(俺≠作者)と学校の身近なお話。
○登場人物
>>田中家
┏田中蒼介(俺)/♂
┃→高1で次男。暇神。
┃
┣田中碧太/♂
┃→高3で長男。運動神。
┃
┣田中青広/♂
┃→中2で三男。遊び神。
┃
┣田中藍/♀
┃→高2で長女。勉強神。
┃
┣田中茜/♀
┃→中3で次女。恋愛神。
┃
┣田中橙/♀
┃→中1で三女。道徳神。
┃
┣父さん/♂
┃→家族思い。公務員パパ。
┃
┣母さん/♀
┃→ギャグの塊。主婦ママ。
┃
┗ドッキー/♂
→飼い犬
悶絶するほどの黒歴史を抱えています?! -
♯1>>朝
温かく柔らかい布に体を包まれ、少し寒さを覚えると俺は目を覚ます。
窓からは新しい日を告げる透明な朝日が漏れ、顔を照らす。
起きたくない。
心地よい。
全身で陽の暖かさを感じようと布団をどかせば、再びの睡魔により俺は沈む。
すると、いつもの様に階段をどたどたと上がる音があるんだ。
ガチャッ
ドアが開いた。
「起きろー!朝食抜きにするぞボケ。」
?!
ママの一言で飛び上がり、裸足のまま3階から2階のリビングへ。
ちなみにうちんち3階建てだからな。
いつものこと。
そして食卓へ向かうと、ご飯を食べているのは父さんだけだ。
「おはよう。みんなもう学校に行ったからお前だけだぞ。」
うちは部活やら朝勉やらでみんな早い。
高校入学したての俺には関係ないな。
しかし高校ってあれだよな。
女の子はおしゃれしだして魅力有るし、男はいっちょ前に髪整えて‥‥
高校に入ったんだなと、全身で感じるよ。
食パンをかじったら、足早に家を後にする。
続けて父さんも出勤するようだ。
‥‥バターが足りなかったか?
そうして校門が閉まるギリギリに、俺は登校する。
これがいつもの朝だ。
悶絶するほどの黒歴史を抱えています?! -
♯2>>藍
夕方、家に帰ると鼻を擽る芳ばしい香りがする。
姉貴が夕飯の支度をしてるらしい。
一週間に一度、家事の全てを兄弟でやる日がある。それが丁度今日なのだ。
「蒼ちゃーん、ちょっと棚からトマト缶取って頂戴な。」
お、今日はミートスパゲティか?
高鳴る胸を押さえながら、制服も着替えずに台所へ駆け込む。
「蒼ちゃーん、冷蔵庫からイカ墨取って頂戴な。」
‥‥ん?
あれ、トマト缶取ってイカ墨?
どっちだよ、どっちなんだよ姉貴。さっぱり意味が分からないよ。
仕方なく冷蔵庫から取ろうとする
と
何と手に取ったのは、よく冷えた墨汁だった。
「‥‥え? 何でこんなの入ってんだ‥‥?」
すると鍋の前の姉貴が震え出す。
「っ、っ、っはっはっはっっ、まんまと騙されたね! っふふふ、『‥‥え? 何でこんなの入ってんだ‥‥?』だって、ははっ、ふふふ‥‥‥。」
って、イカ墨無いのかよ!
じゃぁ夕食ミートソースじゃん!
普通じゃん!
‥‥いやそこじゃねぇよ!
ふざけんなよ!
非常にモヤモヤしながら速い足取りで退出する。
「あっ、蒼ちゃーん?」
「今度は何だよ、」
「前川文具店で墨汁買ってきて!」
しょうがないからガン無視して部屋に戻った。
三階までスリッパで昇るのってキツいな。うん。
こいつの名前は、藍って言うんだ。
憎たらしいほど頭良くて、家事もこなす。ただ、何といっても行動が読めなくて、何かしら無理矢理面白い方向に持ってこうとする。
面白くて良い姉だと思うだろ?
ただ面倒なだけ。
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♯3>>碧太
突然だけど、俺は走るのが好きだ。
他の誰を相手にしなくても済むし、余計な感情もじゃましない。
ただ柔らかい土を蹴りながら全身で空気に触れ、体を伸び伸びできるのが最高に気持ちよい。
ただうちの兄貴は違う。
兄は十種競技という、二日に分けてあらゆる競技で争う、謂わばユーティリティプレーヤーっぷりを披露する選手なんだ。
毎日遅くまで走り込んだり筋トレ。...お前受験生なはずなんだけど。
まぁスポーツ推薦なるものを狙っているらしいから何も言えないけど、まったく気楽なもんだ。
昔から運動能力に長けてたから努力しなくても良いんじゃないかって‥‥‥
ガチャッ
「蒼〜、筋トレ手伝って。」
「おっ、おぅ。」
と、こんな感じに毎晩付き合ってんだけどまぁ、長い長い。
こっちまで疲れちまうんだ。
暑苦しいこと、男同士で向かい合ってやるって気が引けないか?
いや、向こうはまじめだから良いんだけど。寝たいよ兄ちゃん。
「あら、またやってるのね。手伝おっか?」
母乱入。
「いや、これシベリア式のストレッチだから蒼にしか無理。」
意味不明。
「あらそぅ、じゃぁ蒼さぁ夕飯の支度手伝ってよ!」
話聞いてたか?
「おい行って来いよ、母ちゃんお困りだぜ。」
良いのかよ。
「いやっ、だって支度の手伝いくらい茜か橙にやらせれば良いだろ。見りゃわかるでしょ、ほら忙しいの。」
俺は抵抗した。
母と台所に立てば、俺はたちまち奴隷へと身分を変える。
「じゃぁ俺町一周してくるから、手伝っとけよ〜。」
適当なこと行って場を離れるな! おぃっ、あ、行っちまったか。はぁ。
夕飯が終わった。
「おい、蒼。後で町をランニングしに行こうぜ〜。」
もう勘弁して下さい。
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♯3>>茜
俺は夜遅くまでゲームをしていた。
兄弟は4つの部屋に分かれていて、兄貴、俺・青広、姉貴、茜・橙の振り分けになっている。
だから、いつも青広が迷惑そうに俺の上で寝ようとするわけ。二段ベッドのな。
ただ隣の妹たちの部屋からも声がする。
茜がボーイフレンドと電話してるみたいだ。
「それでね‥‥、うん‥‥、‥‥だから。‥‥はい、じゃぁね。」
これも毎晩のように電話が来る。
俺も少しは寝る弟のことを気遣って、毎晩電話してたらうるさいだろうと乗り込んでやった。
「だって片岡くんが話したいって言うから‥‥。」
茜は言う。
うちの妹は男子とやたら仲が良いから、こうやって毎晩電話が来る‥‥らしい。
「蒼兄も早く寝なよ、静かにしてるからさ。」
お前も寝ろよな。
「分かった、明日からみんな説得するから。ね、ごめんよ!」
みんな?
片岡とか言うやつ以外にもたくさん居るのかよ‥‥。
俺は自室に戻った。
さすがにゲームやめてその日は寝た。
明くる夜、確かに隣は静かになっていた。
明日は土曜日だからゆっくり寝れるなぁ、と考えていると、廊下で茜と父親の口論が聞こえた。一階からか?
「だ〜か〜ら、良いじゃん明日土曜日じゃん!」
茜どっか泊まり行くのか?
「許さん! 我が娘を自宅に呼び込んで泊まりだと?! 何されるか分からんぞ! バカ!」
父親が珍しく気を立てている。
「大丈夫だよ! 片岡君そんな人じゃないから! イケメンだよ!」
どうやらBFの家に泊まりに行くのを止められているらしい。
うちの妹もませたもんだ。
すると別の足音が聞こえた。
「父さん、茜ももう子供じゃないんだから、許して上げなさいな。」
姉貴か。
いや、あいつが割り込んだら話がまた複雑になって面倒に‥‥。
しばらく口論が続いた。
すると、
「分かった、父ちゃんお前を信じる。ただ、何かあったら電話しろよ。分かったな?」
「あいあい、分かったから早く解放して下さい。」
茜は綺麗に着飾り、その場を後にした。
「あいつも大きくなったなぁ、もうチビじゃねんだな。父さん悲しい。」
親の気持ちは分からん。
「そうねー。私も子供がいつまでも小さいままだなんて信じてるもん、まだ。怖いわぁ。」
‥‥‥ん?
「おい、茜。お前子供居るのか?」
空気が凍り付いた。
「バカね冗談よ!面白すぎ父さん!」
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♯5>>青広
弟は俺ほどではないが、暇を持て余している。
昨日は友人とボウリングに、一昨日はカラオケ、先週は海に行ったらしい。
ただ、あいつはバイトをしているから、まぁうちの知り合いの所で。お金があるわけ。
「兄貴ー、今度登山に行かない?」
昨日言われた言葉。
確かに今日は土曜日だが、兄弟二人で登山とはなかなか面白いもの。勿論断ったけど。
お前さんは例の友人連れて、山でも何でも行ってろって言ってやった。
「明日部活あったわー、ごめん誘ったりして。結局行けんわー。」
少々ボケてる部分もあるみたい。
一週間すると、家族でラウワンに行くことに。
8人もいるから家族だけでもなかなか面白い。
そんな中、俺はテニスで弟とペアを組み、父と兄貴のペアと戦った。
まぁ青介は前衛でバンバンボール返すから、俺には出番が無いほどな訳よ。快勝。
親父が言った。
「お前ほんと何でもできるな、こっちには碧太がいるってのになぁ。」
少し悔しがってるみたいだ、子供みたいに。
「まぁ専門は陸上だからきちぃなぁ。」
兄貴は言う。
確かにラケット競技って、普段さわらない人にはなかなかキツいもんだよな。どれくらいの距離で球に当たるかもなかなか慣れないと分からないし、まず感触に違和感感じるし。
青介は言う。
「経験が違うからねっ、テニス楽しいよ、ホントハマっちゃうね。」
こいつテニス部じゃないけど、こういう所来まくってるからノウハウ熟知してる。
うちの家族は変人ばかりです。
このあと俺らは時間あるからカラオケ行った。
家族でカラオケなんて面白いよな、バイト店員に微笑まれたよ。
「太田裕美の赤いハイヒール、歌いまーす。」
母ちゃん、頼むから皆が分かるようなのにして。。。
「ブルーハーツの人にやさしく歌うぜ!」
青介の声は虹色だ。
どんな声でも軽やかに歌い上げてしまう。
茜とデュエットもするし。
「美しく〜高く〜飛べ、誇り取り戻すために〜!」
またこの二人は声がきれいだから惚れるよ、マジで。
結局青介が一番歌がうまい。
羨ましい、合コンとか向いてるよな。
ただコイツには弱点があるんだ。
そう、勉強が苦手なんだ。しばしば姉貴に教えて貰ってる、中学レベルの問題なんて簡単なのによ。
取り分け体育が得意なのは言うまでもないよな。
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♯6>>橙
妹の名前は“とう”と読む。
うちの家族は争いごとがとても少なく、もし起こったとしても大きくはならない。
なぜかというと橙がいるからだ。
こいつは物事の善悪を判断して、何より人を諫めるのが抜群に上手い。
そして、その言に従おうとさせる独特のオーラがある。参ったもんだ。
学校でもその力を存分に発揮しているらしい。
♯「おいっ、○○! てめぇコンビニで酒買ってこい!」
♭「いや...その、む、無理...」
♯「あ?! 聞こえねぇぞ?? おら言ってみろやおい」
━━ちょっと、そういうの良くないって、怯えてるよ。
♯「っ、しょうがねぇな、おい○○、今回は見逃してやるからな、くそ。」
♭「あ、ありがとう。ごめんね、わ、わざわざ...」
━━いいのいいの、あんなのに屈しちゃダメだよ。もっとしっかりしなきゃ。
妹はわりかし端正だから、なかなか刃向かいはしないみたいだ。
だから家族で揉め事があっても、大抵は一日で収まってしまう。なんたる力の持ち主よ。
するとドアをノックする音が聞こえた。
「兄ちゃん、あたしの靴下片方知らない?」
おぅ、分からないなぁ。
「じゃぁ見たら教えて頂戴ね、オレンジのやつだから。」
はいはい。
んー、いつも世話になっているから、こういう時は何か申し訳なくなるな。
たまにはどっかに連れていくべきだな、‥‥収入無いから親父辺りが。
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♯7>>イトー○ーカドー
おす、GWも近くなり、俺ら家族は鳩の店に来てる。
うちの近くの鳩の店は、品ぞろえが凄く豊富で、あらゆる種類の日用雑貨やレジャー用品が手にはいるんだ。
まぁ寒いから父の運転で来てるけどね。
GWに万座に行くことになって、急だけど買い物。
「あなた、今日は余計な物は見ないで必要なのだけお願いね。碧太、付いてあげて。」
母は、意外とこういうときはしっかりしている。
俺は弟と荷物係だから、取り敢えずフードコートで席取りをすることに。
暇だなぁ暇だなぁ、と、綺麗に磨かれた机の上で弟と話をしていると、仕切の向こうから姉貴が手招きする。
「ちょぃ手伝って頂戴。」
少し早いが、取り敢えず溜の食材を買ってきたらしい。
レジ台までついて行き荷物を持ってきたら、重い腰をそのまま椅子に預けた。
「ちょっと待って、母さん手伝ってあげな。」
えっ、また俺か?
「あんた何もやってないでしょ、頼んだからね。」
え、姉貴は?
「‥‥休憩、」
そう言うと、賺さず俺の椅子を奪い弟と話し始めた。
しょうがないけど。
母の所へ行くと、茜も一緒にいた。
「お、兄貴ィ、こっちこっち。」
意外と多いもんだ。
まぁ旅行で帰ってきたら買い物なんて行きたくないだろうな。
「あたし橙を手伝ってくるね、これ持ってっといてね。」
母と他愛のない話をしながら、フードコートに戻る。
これ頼むぞ、と弟に荷物を任せて、呼ばれるであろう下の階のファッションコートに足を運んだ。
入ってみると、籠に甚平やバスタオルを沢山入れて橙と茜が待っていた。
「これは手伝うよー。」
と橙、さすが。
だけど、こいつの細い体に流石にこの負担は強いだろう、と手を貸してやった。
鹿沢口の辺りにも旅館があるらしく、万座のついでに寄るらしい。
荷物は多くなった。
鳩の店を荷物多くに出ると、日がやや傾いていた。
車で帰るとドッキーが腹を空かして待っていた。
すまん。
そうだな、旅行の話はもっと写実的に書こうか。
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♯8>>家族旅行
想い瞼の微かな隙間から、柔らかい早暁の陰がちらつく。
皮膚で布団の暖かさと春つとめての涼しさを感じると、俺の交感神経が刺激されて、ふと目が覚めた。
ベッドの下からは何やらこそこそと音が聞こえる。俺よりも早く起きた弟が支度をしてるようだ。
‥‥支度?
そうか、今日は家族で経つんだったな。まぁ涼しいから海じゃなくて山に行こう、温泉に入ろうという話になったわけで。
不意にドアが開いた。
「おいお前等、そろそろ起きな。母さんが飯作ってるから。」
兄貴だ。
開けたドアからほんのり鼻を撫でる白米の匂い。
朝に似つかわしい。
そっと窓のバインダーの紐に手を伸ばし、重たい右腕でするりと引っ張った。
窓からの漏れ日で一気に体が起きた。
体を起こしてベッドから降りると、梯子下に綺麗に荷物がまとめてあった。
「揃えておいたからね、行くときになったら廊下に出しな。」
青広は言葉を残すと、足早に朝の食卓へと消えていった。
俺も急がないとな。
机に並べられたスープを一口。口の中に暖かい味噌の味が広がる。
少しずつプレートの上の生姜焼きを取りながら、ダイニングの母に質問を飛ばした。
「そうね、あと1時間したら出て行こうかしら。ゆっくり味わって良いからね。」
そう言われて肩の力を抜くと、何だか体が落ち着いたみたいだ。
台所では既に食事をすませた姉貴が、水回りの掃除をしていた、手伝いながら。
父さんは新聞を読みながらテレビ、橙は軽く棚や桟の埃を吹いている。清々しい朝だ。
少し気遣って早めに眩しい階段を抜けて部屋に戻ると、自分のと後から皆の分の荷物を出してやった。電車だからキャリーバッグなんだ。
私鉄で上野まで行き、万座・鹿沢口行きの特急に乗った。見た目より中は広いようで、椅子もゆったりできた。
外の町並みも、郊外に出ると寂しさを増してくる。右をみれば荘厳な赤城山が見えたし、足下には緑の柔らかい田園地帯が広がっていた。
1時間少しで高崎に着いた。少し曇ってきたので、景色が楽しめないのもしょうがなく頬を膨らませる。
涼しい車内で長らく揺られ、父親とも何気ない会話を交わしていると、とうとう終着地に。着いて初めての香りが顔をつついた。周りを見渡せば赤みがかった木々に緑色の山が威張っている。
初めてなんだよなここ。有り難う父さん。
視線を送ると、父さんは優しく微笑んでくれた。
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♯9>>夢の予感、山。
「ちょっと虫除け塗ってくから、先行っててー。」
茜と橙に母が付いて、俺たちは先に行った。
宿へは18時に着けば良いらしい。
今はまだ昼にもなっていない時間なので、適当にハイキングをすることになった。
「おい、向こうに荷物を預かってくれる店があるらしい、ちょっと皆呼んでくれねぇか、蒼介。」
俺は来た道を戻ると、三人の荷物を店に預けさせた。
手元が軽くなったので、少しは余裕に山を散策できるだろう。
山根はまだ低い位置の太陽のせいで、横から照らされていた。風が吹く度に都会人の鼻になれないような、土の匂いが染み渡る。
山に来たんだな、そうかんじさせた。
山道は舗装こそされていないものの、砂利などは少なくて歩きにくくはなかった。
暫く歩くと、峰の定食屋があった。
「ここで食事にしよう。」
父の言葉で我々は腰を休めた。
出てくる料理はどれもスタミナを付けるような、カロリーの多いものばかりのようだ。
姉貴が妹たちのを手伝う一方、兄貴と俺と青広で誰が一番食べれるかを競った。今思うと腹痛めるだけだったなぁと。
午後、食事休みを取ってから出ることになった。
店には家族用のラウンジがあったので、皆そこで一息着くことに。
慣れない山道で足が重くなっていたせいか、俺は少しの間眠ってしまった。
───nessun
──dorma...
─────ネェ、アオスケクン──
ん? 何か声が聞こえる‥‥
──アソボ、ヨルマタアイマショ...
俺はふと目覚めた。
皆もう出る支度は終わっているらしく、俺だけがぐうたら寝ていたらしい。
「おぃおぃ、まだぐっすり寝る時間じゃないだろ。何やってんだぁ、お前。」
兄貴にどやされた。
うんまぁ、何となく心地よかったしな、しょうがない。
食後はルートが2つに分かれた山道を下山することに。
父・俺・橙・茜と、母・兄貴・姉貴・青介の2組に分かれて、それぞれなだらかな道と急な道を進むことに。
こっちは妹たちが居るから勿論緩い方ね。
歩いていると、ふと、先ほどのことを思い出した。
「ん、なぁに兄ちゃん。」
茜にさっきの夢のことを教えた。
「ありゃりゃ、蒼兄がファンシーな事言うなんて、こりゃ遭難するかもしれないわね‥‥。」
それって酷くないか。
「ん、まぁでもさ‥‥。実は私も同じような夢見たの。」
俺は驚いた。
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♯10>>'暗闇を楽しんで。
「いや、あのね。兄貴が冗談で言ってるんじゃなかったら‥‥だけど。」
そ、そうか。
まぁ、人と夢が重なるなんて、たまにはある話かも知れないな...
「でね、その夢の中でこう聞こえたの。『誰も寝てはならぬ』って。」
ん?
そう言えば俺も同じ様な言葉を‥‥
半刻歩くと、家族皆で合流し、そこから旅館を目指すことに。
あまり遠くはないのだが、周囲の豊かな自然が我々の眺望を固めるものだから、少しばかり退屈に感じてしまった。
「ほれ、あれがそうだぞ。」
背の低い草木の茂る奥に、似つかわしくないほど真新しい旅館が建っていた。
大きなガラスの扉をくぐり、ふかふかとしたメインフロアの絨毯を踏み歩いていくと、すぐにフロントがある。
「予約の者です。番号はA-005、田中です。」
父さんは慣れた手つきでルームキーを受け取ると、中には広々とした部屋が広がっていた。
「一番広い間を入れても5部屋ある。まぁ、のびのびと過ごしなさい。」
カッコいいぜ父さん、こんな旅館贅沢すぎる‥‥。
「遠慮しないで、自由に使って良いからね。汚しちゃダメよ?」
「分かってるって母さん、俺らもうガキじゃねんだから。」
兄貴が言った。
畳の匂いってなんか、こう落ち着くよな。机をどかして、こう、すぐにでも横になりたい‥‥‥
「兄ちゃん、だらだらしてねぇで整理するの手伝ってよ。兄ちゃんの荷物邪魔なんだけど。」
そだな整理するか。
10畳の和室を俺ら3兄弟、12畳の洋室を3姉妹、両親は6畳の和室に寝るらしい。
余しすぎだし、ちょっと広すぎる気もするが‥‥まぁ快適で良いな。
窓の外も暗くなってきて、俺たちは体の疲れから体を流すことに。
男湯は山吹の湯と言って、少し狭いが露天になっている。夜の涼しい風が、熱せられた逞しい体によく滲みる‥‥‥。
ちなみに女湯の方は楓の湯って言って、残念ながらこちらは地下。景色は全く楽しめないらしいんだな。広いけど。
布団に潜っていると、何やら頭がぼぅっとしてきた。
疲れすぎたかな、今日はゆっくり休もう。
──g od i ht.. enj y y ur ark ess...
‥‥
‥‥‥‥やっぱ何か聞こえる、おかしい、おかしい、、、
分かってはいた。
しかし、俺は強い睡魔に負けて落ちてしまった。
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♯11>>もう一つの旅
── ゃん ‥‥
─兄ち‥ん‥‥
、、‥‥起きてっ、兄ちゃん!
俺は暗闇の中、ふと自分の声を聞いて目覚めた。
そこには茜がいる。
いる。いると言っても、どこにいるのか。周りは塗りつぶされた黒のよう。何も見えない。
すると、いきなり目の前に目を刺すような灯火が。
「ほれ、起きて。ちょっとヤバいよ、兄ちゃん。」
そう言われて目を動かすと、辺りは一面林だった。
どこだろうか、木々の隙間からビルが見える。
「おかしくない? 多分私たち今寝てるんだよ? 夢だよね?」
あぁ、そう言われるとそうだな。そうか、これは夢だ。
「私、これ自分の夢だと思うの。それに都合良さげにこの明かりよ? 何かおかしくない?」
いや、これは俺の夢だな。何せ俺が感じてるんだから、間違いない。
「いや、そんな事どうでも良いけど、何かおかしいの。さっきから物音一つ聞こえないの。」
‥‥確かに耳を澄ませても、雑踏はおろか虫の音もしない。耳鳴りだけ。
「しかもおかしいのよ、意識して起きようとしても起きられないの。何か縛られたみたいで。」
ん、確かに‥‥意識的に体を起こそうとしても、精神世界に全てが‥‥。
『オキヅキニナリマシタカ、コンニチハ、アオスケクン、アカネサン。』
静寂を破るように、空から声が聞こえた。
『ハジメマシテ、ワタクシ“ユメコノミ”ト申シマス。突然デスガ、貴方達はスグにハ目を覚ましまセン。この夢ノ中でさまよい続けルノです。』
少しずつ聞こえやすくなってきた。
‥‥ゆめこのみ?
何者だ?
「ねぇ兄ちゃん、なんかやばいよ。怖いよ。」
落ち着け、まず何が起きてるか把握するんだ。
『今から私の言うものをここへ持ってきてほしいのです。それができれば、貴方を夢の世界から解放しましょう‥‥。』
なに、またロマンチックな事言ってるんだこいつは。
あー、悪い夢なんだな、頭おかしくなったみたいだ。
「兄ちゃん、一人で勝手に答えを模索しないでっ。おかしいよ、私も夢見てるよね、絶対にこれ。」
どういうことだ?
ここは俺の精神世界じゃないのか?
『蒼介くん、ご心配なく。私は夢の神、貴方のご兄弟も遊びに来ていますよ。』
‥‥‥なんだと?
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♯12>>あるく
どういう事だ?
言っている意味が分からん。
『私の想像した夢世界に、貴方のご兄弟を招待しました。貴方達には少しばかりのゲームを‥‥』
「ちょっと! 何だか分からないけど起こしてちょうだいよ! 折角ゆっくりできると思って、この夜を楽しみにしてたのに‥‥。」
横で茜が叫んだ。
まぁ夢だか神だか知らんが、暇だし付き合うとしようかな。
風もない、物音しない、匂いもない、灰色味がかった奇妙な世界だけど。
『よろしい、では貴方達は私の出す題をクリアしていって下さい。』
茜は横でため息をついた。
あいつが言うには、まずは練馬に向かえだそうだ。
そこに次の指示があるらしい。
しかし本当に不気味だ。
先ほど地下鉄の看板を見て気づいたが、ここは麻布十番らしい。練馬まではなかなかの距離だ。
まぁ車もなければ人もない。建物には入りたい放題だから楽しいと言っちゃ楽しいな。
「ねぇ、本当に従うつもり?」
横で何度か茜が不平を漏らすのだが、まぁ体は疲れないみたいだし、たまには遊ぼうと言い聞かせて静かにさせるのがやっとだ。
しかし二人で妹と歩くのは何年かぶりだ。普段は話さないような受験の話や中学の話を、長い道のりの中でちんたら語り合った。
西武池袋線沿線にたどり着き、練馬も近くなったところで茜が異変に気づいた。
「あれ、兄ちゃん‥‥。ここ電話使えるよ‥‥‥。」
何。
確かに電波が3つ出ている。もしや。
俺は迷わず兄貴に電話をかけた。呼び出し音はするのだが、反応がない。
恐らく気づいていないのだろう。
練馬の駅に着くと、改札に何かが貼ってあった。
“光が丘に向かってます。青広”
弟だ。
俺は茜と共に光が丘へと向かった。
「ねぇ、そろそろ休まない? 息は上がらないけど、気持ち疲れたよ。」
俺たちは生気のない公園のベンチでひとまず休むことに。
すると着信が来ているのに気付いた。
青広からだ。
「‘もしもし、今ケータイが使えることに気付いた。書き置き見た? 見えない何かに蒼兄と茜が来るって聞いたから...’」
内容は蒼広の状況が主だった。
一人で寂しい、兄貴を探している、光が丘にいるかも知れないと言う話だった。
弟は元気らしい。
俺達は気になっていた姉貴と橙の安否を確かめることに。
しかし二人とも繋がらなかった。どうも距離がかなり離れているらしい。
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♯13>>次の指示は...
連絡が取れないという事は仕方ない。
ぼんやりと薄い空を眺めて、この先どうするか思い悩んだ。
「ちょっと待って、ユメコノミは指示は練馬にある、って。確かそんなこと言ってたよね。」
茜が呟いた。
いや、それは青広に会わせるためだったのだろう。
それに進展無いなら帰りに寄れば良いしな。
光が丘のどこであろうか、あまりこの近辺には詳しくない。
灰色だと、同じ様な家が列を成して出迎えているようで、少し奇妙にも感じる。
「もう一回電話してみない? 多分もう出るでしょうよ。」
そうだな。
妹の提案で、携帯ですぐに呼び出しをしてみた。
意外と早く受話器が取れた。
「おっ、もしもし? 蒼兄? 今さ、日大光が丘病院の前。あ、いやそれは前のヤツか。まぁとにかく来てくれよ。」
話を聞いてすぐにコンビニに向かった。
電力はあるみたいだ、ガラスのドアを開いて地図を探った。仕方ないから万引き、許せ。
徒歩25分もすれば、すぐに病院に着いた。
すぐに、建物の脇に見慣れたヤツを見つけた。
弟と話してみると、どうやら俺と茜と同じ様子らしい。
寝てみるとそこは摩訶不思議なパラレルワールドだった。とか
「兎に角寂しかったよ。1日とは言え、さすがに街に放たれたんじゃ適わないよ。」
弟は少し汚れたジーンズをつまみながら話した。
それから姉貴達と連絡を取れないことを話した。弟も同じくコンタクトを試みたらしいが、やはり失敗したらしい。
どうしたものか。
取り敢えず、次の指示が来るまで病院のベッドで休むことにした。
「そうだな、病院のシャワールームでも借りようかな。」
それがあったか。
確かに長くあるいて少しばかりは汗もかいたし。
「でも着替えないよ、どうしよう。」
茜が縮こまった。
「いや、ここの備品を使えばよいだろう。どうせ人一人いないんだから。」
ここにまともな服はあるのか?
「まぁ緊急用に備えはあるでしょ。兄貴は白衣で十分だな。」
笑ってたので、ひっぱたいてやった。
茜はどうするのか、と顔を向けるとやや躊躇っていた。
すぐに閃いたように、
「あたし近くの学校探してみるよ、もうジャージで良いよ‥‥。」
そうだな、遠回しに拒否ってるんだな、医師の装飾。
兄弟は体を流し、ついでに衣服はやはり洗濯して、白衣を寝間着代わりにその夜もベッド寝た。
悶絶するほどの黒歴史を抱えています?! -
♯14>>ほのかな光明
朝、慣れないベッドから眠い目を擦り起き上がると、茜が携帯の画面をまじまじと見ていた。
どうしたのか、何か変わったことでもあったのか、と聞いてみると、
「いや、あのね‥‥姉ちゃんから着信が来てるの‥‥。」
俺は思わず携帯を奪い取ってしまった。
確かにそこには“6:45ー田中藍”の文字があった。
「近くにね、練馬第四中学校っていう学校があるの。私、ちょっと行ってくるね。着替えと毛布、あるだろうから。」
少し動揺しているようだった。
理由を尋ねてみると、残念ながらこちらから掛けたら繋がらない、との事だ。着信から一時間、もしかしたら姉貴は俺らの「圏外」に行ってしまったのかも知れない。
「蒼兄、おれ、ちょっと散策してくるよ。備蓄食糧もあまりないだろうから、探してくるのと情報集め。電波が届く範囲も調べたい。」
起きた青介はそう告げると、軽い荷物を持って茜と病院を後にした。
俺は残って病院の整理と調査。2階の広い部屋にベット・毛布・通信機器を運び込む。皆が見つかった場合に、ユメコノミとの情報交換の拠点にしたい。
そうそう説明してなかったな。
俺らはゲームを引き受けた以上は、クリアしないと現実世界に戻れないらしい。昨夜耳にした。
俺ら一応山に来てんだよな。忘れさせちゃうほどファンシーでアンビリーバボーだぜ。
院内を隈無く操作していると、とあることに気付いた。
スイッチを押しても付く部屋と付かない部屋がある。恐らくブレーカーか電源装置がいじってあるのだろうが、場所は堅固な鉄扉に守られていて入れないらしい。
地下に食料や飲料水などがあるが、頼れるのは携帯の光だけで非常に頼れない。
コンビニからパクった充電器も忙しそうだ。
半刻して、2階の俺らの拠点となりうる場所は整理が付いた。
取り敢えず、ユメコノミが行動を起こすまでは、残りの三人を探すのに手間をかけなければならない。
碧太や藍は兎も角、問題は橙だ。この孤独の中を一人で生きていくのは非常に困難であろう。
元々、物事は慇懃にこなす性格だから普通よりはマシだろうが、何せ女の子だ。それにこの世界に俺らだけがいるとはまだ限らない。
暴漢がいるかも知れない‥‥
色々考えていると、入り口の方で足音がした。
茜が帰ってきたのだと思い廊下に出てみると、そこには顔の青白い女が立っていた。
心臓が止まりかけた。
悶絶するほどの黒歴史を抱えています?! -
♯15>>眠れぬ夜
「オマエタチ‥‥ナニモノダ。ワガヤヲアラス、ユルサナイ‥‥」
陥没した大きな暗黒の瞳をこちらに向け、痩けた頬を力なく支えている顎が微かに動いた。
情けないことに、俺はその場に尻餅をついてしまった。
明らかにこの世のものではない、少なくとも魂を宿した人間すら掠らない有様だった。
また、また足音が聞こえた。
何も知らずにこの部屋へ向かってきたのだろう。茜は廊下の真ん中で気を失ってしまった。叫ぶ余裕も無かったのだろう。
奇妙な感覚だった。どうすることもできない。
「ナンダ‥‥ナニカシャベロ」
俺は取り敢えず、かすれた上擦り声で状況を説明した。
兄弟を捜している、帰る家がない、宿を貸して欲しいと‥‥。
「‥‥オマエ、シンジラレナイ。キョウハミノガス、デモツギナニカアッタラオボエテロ。」
力無く、しかしやや力んだ声の持ち主は、ゆっくりとその姿を消してしまった。
何だったのか、頭の中が整理されるまで、俺は床から腰を持ち上げられなかった。
茜をベッドに寝かせ、目が覚めるのを待っていると電話が鳴った。
青介からだ。
「おお、よし繋がった。俺は今新宿まで来たんだけど‥‥どうやら繋がるみたいだね。実は今、藍姉の携帯にも繋がるみたいで────」
どうやら新宿まで行くとかなり広範囲の電波が受けられるらしい。
ただ、逆に大雑把すぎて電波の出所が分からないんだとか。
「取り敢えず19時までには戻るよ。新宿のデパートの食料品と冷蔵庫かっさらってくわ。」
俺も手伝った方が良さそうだが‥‥。
18時半を回った辺りで、茜がようやく目を覚ました。
「あ、私‥‥そうか‥‥‥‥。‥‥‥。きゃっ」
俺は無理に思い出さないように諭した。
茜の話は明日や明後日聞いても差し障りはないだろうから。
「‥‥お腹空いたよ。私のバッグの中にカロリーメイト入ってたはず。取って。」
元気がないようなのが伺えた。
少しでもお腹を満たせるものを与えないと、疲れでしょうかが悪くなったら栄養失調にもなりかねない。
俺はインスタントのラーメンと青汁を飲みながら、雑記帳に現状を色々纏めていた。
すると頭の中に声が響いた。
「こんにちは。大変そうですね。」
ユメコノミか。
「私の次の指示を伝えます。まずは貴方のご兄弟に会うことですね。話はそれからです。」
今丁度やっている。
好都合だ。
悶絶するほどの黒歴史を抱えています?!