ワザップ!フォーラム
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初投稿だからってちょっと妥協気味な訳だけど、ちゃんと真剣に書いているからご安心。
誤字や、脱字は御愛嬌だから生温かい目で見守ってもらえれば嬉しいかな。
多分、面白くないと思うから最初のトコで判断してスルー方向でお願いね。
感想は小説の感想スレへどうぞ。
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◇
普通、人には『飛ぶ』という概念は存在しない。
人は『落ちる』や『浮く』という概念しか存在しないものだ。
例え、人が空中へと飛んだとして、次に起きるのはただの落下。
それが人の宿命なのだろう、紛れもない事実だ。
もし、飛ぶことができる人間がいるとしたら。それは多分人間じゃない。
少し話を戻そう、そんなことを考えている僕は一体何がしたいんだろうか。
——そんなことを考えていた僕は今、空を切り、地面へと頭から落下した。
鈍い音と共に僕の身体は地面へと衝突し、全身に強烈な痛みが走った。
視界に深紅の液体が飛び散り、頭蓋骨が大きな音を立てて砕けたような気がした。
否、そうなったのだろう。
頭蓋骨骨折、脳震盪、それ以前に僕の身体はぐちゃぐちゃになっているだろうな。
死んだ、そう思った。死ぬと思ったから落ちた。
肢体から力が抜け、身体中から血の気が引いたようだった。
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即死じゃなかったのが果てしなく残念だけど、このまま放置されれば何れは死ぬ。
誰もここに来ないことを願うだけだ。
よく死ぬ時には、走馬灯が脳を過るらしいが、そんなことは起こらない。
少し期待外れだった。
僕の命も後僅か、微かに燃える命の灯もあと数秒で消えるだろう。
身体を這い回るような強烈な痛みと、妙な悪寒が如何にも生々しい。
でも、何か可笑しい。身体中の痛みが、何だか引いていくような気がする。
否、気のせいじゃない。痛みが段々と治まり、薄れていた意識も戻っていくような
味わったことの無い、えも言われぬ感覚が身体を駆け巡る。
力の抜けていた指も、今は少しだけ動かすことができる。
憶測だけで考えるのはあまり気が進まないし、
こんな如何にもSFファンタジーみたいなことがありえるはずが無いと思いたい。
鉄の味が広がった口を動かして、自嘲気味に一言呟いてみた。
「僕ってもしかして、人間じゃない?」
誰もいない虚空へと同意を求めた。
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◇
只今、五月上旬、暦上では立夏という夏が訪れる辺りの頃だ。
丁度、春休みが終わり、新クラス、新学校に馴染み始めるこの時期だが、
僕に限ってはこの上なく、面倒な時期だ。
毎年、例年通りクラスで浮き彫りになっている生徒を
友達に誘うグループが沸く頃だ。小学から中学まで毎年同じだ。
そして、それは高校になっても同じ、推測は現実となった。
高校入学しても、ここまで友達を作りたいと思うのだろうか。
僕にはそれが一ミリも理解できない、人と信頼関係や、友好関係などの構築の
意味が理解できない。
たった一人でだって何不便なことは無い、今までそうだったように、これからもそうしていきたいと思う。
そう一人が良い、それなのに何故——
ユウヒイン
「ねぇ、夕日院君」
——声をかけてくるのだろうか。
鈴のような声に、僕は視線を窓から声の主へと合わせた。そこには一人の少女。
小柄な身体と、栗色の髪が特徴的な彼女は多分、僕の隣の席に居る人だろう。
名前なんて覚える気は無い、馴れ合いなんてする気も無いし、
一人で居たいから。でも何でだろう。
「なんだい?」
返事してしまうんだろう。それは多分彼女のせいだ。
小柄なのと栗色の髪が特徴と言ったのに、一つ追加内容が増えたようだ。
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彼女は可愛い。しかもかなり、だ。美女というよりは美少女に近い。
雪のように白い肌に、栗色の瞳、形の良い眉に、色のいい唇。
何処かあどけなさの残る顔つきは、見た人を恋に落とす位の可愛さ。
だと、僕は主張する。憶測だが、熱狂的なファンが
存在しそうなレベルに達している。
なのに、彼女には大凡、友達と呼べるものが存在しない。
僕の見解では、女子からは嫌われているようだ。
理由は解らないが、何か事情があるらしい。
否、そんなことは円周率並にどうでもいい。
多分、僕が彼女の問いにだけ応答してしまうのは、彼女が可愛いからなのだろう。
「また一人で居るの?昼休みなんだから、誰かと机並べて、
一緒にご飯食べたらいいのに」
また彼女が口を開いた。綺麗な微笑みと共に。
「そんなの僕の勝手だろ、一人がいいんだ」
「なら、私と一緒に食べよ。私、今一人だし、
まだ食べてないし。持ってくるわね」
「おい!ちょっと……」
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返事をする前に、彼女は僕の返事を肯定と受け取ったらしく、
踵を返し、弁当があるであろう、ロッカーまで小走りで走って行った。
取り残された自分は虚しさだけが残り、渋々、鞄から弁当を取り出した。
彼女が帰ってくると、机を向かい合わせにして、弁当の蓋を開いた。
殺風景すぎる弁当は、絵に描いたような、ご飯の上の梅干しと、
卵焼き、唐揚げという定番だった。
対して彼女は、まるで御節のような重箱に入れても批判は無いと思うくらい。
むしろ、重箱に入れた方がいいと思う位の出来だ。
カラフルに彩られた中身は、もはや神の領域と言っても過言ではない程、
自分との歴然の差、多分三〇倍程の腕前だろうか。
考えてるだけで、自分のレベルが如何に低いかと思い知らせれる。
「あら、どうしたの?もしかして、料理スキルの歴然の差に
引け目を感じたとか?」
図星だった。かなり痛い所を突かれてしまった。
「男が料理上手くなくなっていいだろ?
昼食は殆ど、インスタントで済ませてるし、料理なんてあんまり必要ないだろ。
ていうか、お前は自分自身で、料理が上手いと言っているだぞ」
「ということはその弁当は毎朝、夕日院君が作っているわけね。
因みに私は料理が上手いわよ。神々しい程にね」
ユウミ ヒナノ
どうやら、彼女——悠美 陽菜野は、自意識過剰らしい。
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「これでも、僕は料理は家族から上手い方だって評価されているんだぞ」
「そうなのね。じゃあ、お手並み拝見といきましょうか」
彼女は徐に僕の弁当箱へと箸を伸ばし、流れるような動作で卵焼きを掴んで
口へと運んだ。
たった、二秒くらいだったが、僕は何も手を出せず、呆けていた。
眉を寄せ、どうやら僕の卵焼きの味を確かめているらしい。
数秒後、飲み込んだ卵焼きの感想を教えてくれた。
「な、中々やるわね、でも、わ、私の作ったものの方が美味しいわよ」
「焦っているところから見ると、お前自分のほうが負けたと思っているんだな」
「そんなわけあると思う?高が、夕日院君が私に勝てるとでも?」
「何だそのあからさまに人を見下した言い方は」
「だってそうでしょ?夕日院君は私には、日本海溝と、成層圏並の
力量の差があるのよ。もしかして、気付いていなかった?」
悠美に友達が居ない理由が今、理解出来た。
外見の可愛さとは裏腹に、内面的問題が存在するからだと、推測した。
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彼女の特徴に付け加える情報が、また増えたみたいだ。
落胆して、肩を落としている僕には目もくれず、
食事に専念している悠美を一瞥して、僕も食事に専念することにした。
因みに僕には、二歳年下の妹がいるが、
弁当など作ってくれる筈も無く、
虚しくも、毎朝二つの弁当を僕が作る羽目になる。
なんていうか、悲愴だな、僕は。
荒野に咲く一輪の花のような気分だ。
「貴方の場合は、荒野に転がる一つの屍じゃないかしらね」
「それってもう悲愴じゃないじゃん!!僕ってそんなにお粗末な存在だったんだ。
ていうか、何でお前は僕の考えていることを読めるんだ!?」
当然なる疑問だった。
「貴方の存在なんて儚げなものよ、美しくも何ともないわ。
私より思考能力が格段に低い貴方の行動パターンや、
思考パターンぐらい、簡単に読むことができるわよ」
「超人かよ、お前は」
どうやら、こいつは超人らしい。
まぁ、僕が言える立場じゃないけど。
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「超人?そんな下のランクじゃないわよ。神よ」
「今度はまさかの神様発言ですか。
お前は人間の枠に収まりきらず、一線を越えちゃったわけか」
「まぁ、嘘だけど」
「やっぱり、嘘なのか」
嘘だった。ていうか、想像通りだった。
「貴方は私を信頼していないのね」
「僕は誰も信用しない。僕は誰とも友達みたいな、
馴れ合いとかの関係を構築する気は無い」
「随分と冷たいこと言うのね」
これは本当だ。この僕の経験上、そんな関係を作ったとして、
最終的には裏切られる。当然の結果だろうな。
例外だって居るかもしれない
裏切らない奴だって居るかもしれない。
でも、それは超少数派の意見であって、
世界に一握りも居ない人種のことだ。
僕は、今までの短い人生で、考えたのはやはりそれだった。
誰とも関係を持たなければ、自分への反動も無くなる。
この街では、この様な思考を持った人間は、大勢居ることだろう。
なぜなら、この街で、生き残る方法はそれだけだからだ。
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自分は一体何を考えているのだろう、なんて自問自答しつつ、
弁当を処理するように食べた。
無言という状況が、居心地悪くて、僕から言葉を紡いだ。
「それでさ、最終的にお前は僕に何か、用があるのか?」
「あると言えばある、無いと言えば無い」
実に曖昧な返答だ。生返事みたいなのに似ている。
「実は、相談事があるのよ、貴方に」
ちゃんと用があるじゃないか、と言いたかったが、
口に出すと、また罵詈雑言で罵られるので、言葉を飲み込んだ。
「私の父を救って欲しいの」
「は?」
呆れたのか、驚いたのか、自分でも意味の分からない溜め息をついた。
そんなイマドキのドラマみたいな展開は必要無いなんて、考えもしてみる。
「私の父は、この街のヤクザの一味に誘拐されたの。
どうやら、身代金目当てだったみたいね」
「でもさ、そういう身代金目当ての誘拐ってさ、
普通はさ、娘とか、息子とかが誘拐されるんじゃないのか?」
「それは多分、私の最強っぷりを知って、標的を変更したんじゃないかしら」
やはり、こいつは自意識過剰なのか?否、誇大妄想なだけか。
「それも嘘だけど、理由は分からないわ」
「お前はさっきからそればっかりだな。
ていうかさ、何で警察には相談しないわけ?それは、お決まりの理由か?」
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「お決まりの理由?」
「ほら、よくドラマとかである『警察にチクッてみろ、こいつを殺すぞ』みたいな理由か?」
「まぁ、簡略的に言うと、それに近いわね」
「そうなのか。だけどさ、それをなんで僕なんかに相談したんだ?
僕なんか、何の役にも立ちはしないぞ」
「役に立たない訳はない」
「なんでさ、こんな僕みたいな、平凡の代表みたいな僕にさ」
彼女は、僕がそう言うと予測していたように、
携帯を取り出して、弄りだした。
探していたものがあったらしく、彼女はあるページを僕に見せた。
そのページには、『都市伝説』というものが書かれれいた。
これは、所謂、噂みたいなものだ。都市であった、目撃情報とかから、
架空の団体や、人や、怪奇現象とかのいわば伝説のようなものだった。
でも、この街においては、その話は実在の話と化す。
この街は特別だ、ここに住む人も、ここの暮らしも。
ページに書かれていた内容は『不死身の男』そういう見出しで書いてあった。
少しだけ驚いた、その情報は正しく僕のことだ。
「これ、貴方でしょ?」
「違うけど、何でそう思うんだ?」
確かにこれは僕だが、易々と赤の他人に教えられる個人情報じゃない。
これは親にだって隠していることだ。今まで誰一人にも教えたことはない。
「惚けないで。私は見たから」
正直見られた、というのは心外だった。
本当に死なないのかを試すために、僕は何度か自殺している。
でも、それは全て未遂で終わったけど。
動揺しているのを、顔で出さないように返事を返した。
「何時、何処で?」
「丁度、一ヶ月前ぐらい、この近くの廃ビルで、飛び降りたでしょ」
驚愕した。本当に見られていた。確かに僕は、一ヶ月前、飛び降り自殺をした。
これも未遂だけど。ていうか未遂にしかならないし。
僕は暫し、沈黙した。ここまで正確に知られていては、
嘘を突き通すことも難しい。こんな、初対面に等しい奴に、
大事な秘密を教えてしまってもいいのだろうか。
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永遠の半分ぐらいの時間を、長期思考時間に割いて、出た答えはこうだった。
「確かに飛び降りた。でも、見られていたのか。
ちゃんと周囲を確認して、万全な状態で落ちた筈だったんだけどな」
「普通に道を歩いてだけなのに、見つけられなかったの?
貴方の目は節穴?それとも、馬鹿なだけなの?」
「さっきから思ってたが、お前は一言何か多いんだよ」
拳を握って、怒りを表現しつつ、悠美を睨みつける。
当の本人は、平然と、冷淡な口調で喋りだす。
「それで、夕日院君は協力してくれるの?
無論、夕日院君には、拒否権は存在しないわ」
「無論じゃねぇよ!強要させる気か!」
「何言ってるの、それ以外何があると?」
妖艶に微笑んだ彼女は、僕を罵倒することしか考えていない様だ。
この女は、僕の推測的にサドだな。いや、絶対。
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肺に溜まった胸糞悪い、重い空気を吐き出すように、
一度深呼吸をして、言葉を紡ぐ。
「でさ、何で僕が必要なんだ?はっきり言って、僕が行ったとしても、
戦力には、到底ならないし、役にも立たないぞ」
当然の疑問だ。僕一人が、ヤクザの一味に飛び込んで行ったとして、
何も変わらない。人質が一人、増えるだけだ。
なのに何故だ?こいつには他の理由があるのか?
僕を連れて来いとか、そういう条件があるとかじゃないだろうな。
「ただ向こうに殴り込みに行かせて、フルボッコされてる間に、
私がお父さんを救出する、という手順だけど。
どうせ、どれだけ殴られても、蹴られても、悪ければ銃で撃たれても、
最終的には死なないんだから良いんじゃない?」
こいつは俺を殺す気らしい。まぁ、死なないけどさ。
幾ら死なないって言っても、痛いモノは痛いんだぞ。
腕とか切断されても、ちゃんと切り口から接着できるし、
傷の治りが、常人の数倍程だけど、骨折したら、治るのに最低でも、
三日は掛かるんだぞ。そこんとこ理解しろ。
なんて、言うことも出来ず、口の中だけで呟いた。
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物騒なこのご時世、自分の身を守るだけでも一苦労だ。
人間ではないと思われる僕は、はっきり言って死ぬ心配は必要ないが、
監禁とかされると結構痛いんだよな。
「まぁ、しなないってのは本当だけど、結構曖昧なものなんだぞ」
「曖昧?どういう意味で?」
「不死身ってあるだろ。あれは結構曖昧で、よく分からないとこが多いんだよ。
もし、宇宙に放り出されたら、身体中にかかる圧力がなくなって、
身体が保てなくなる、っていう説があるけどさ、
不死身だったらどうなるんだ?って話だ」
喋りつつ弁当を片づけながら言葉を続けた。
「それとか、溶岩の中に放りこまれたりしたらどうなるのか。
そういうところが曖昧なんだ。まだ自分自身でも解明できてない。
というか試す気が無い。もしものことがあったら怖いからな」
又は、試してみたいと思うが、そう簡単にできることじゃない。
宇宙なんてそうそう行ける場所では無いし、溶岩なんてそうそうある場所も少ない。
世界には存在しないものなのだから、前例が無いのも無理はない。
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「まぁ、そんなくだらない話はさて置き、頼むわよ。
貴方だけが頼りなんだから」
「今思ったが別に僕じゃなくても大丈夫じゃないか?
ここに住む人間は特別なやつが多いから、俺より役に立つやつなんか
まだまだいるだろ」
「身近にいるんだから、探す手間が省けるじゃない。
それじゃ頼んだわよ」
言い終わると同時、まるで狙ったように重たいチャイムが鳴り響いた。
彼女は踵を返して自分の席に戻って、鞄の中に弁当を入れた。
深い落胆の溜め息を吐いて、此方も弁当を仕舞う。
椅子に深く座りなおして、授業に備えた。